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「教育を変える、社会起業家の可能性」Teach for America創始者 ウェンディ・コップ氏 インタビュー

2016.01.12 563view 

前回の講演レポートに続いて、Teach for America(以下TFA) 創始者ウェンディ・コップ氏のインタビューをお届けします。

先駆者として未開拓の道に突き進むときには、一歩先に道なき道を開拓してきた先人たちの言葉に学ぶことが多くあるはずです。ここ10年、日本でも社会起業家が増えその活動も活発になってきましたが、社会起業先進国であるアメリカからの学びは今でも大きな影響力を持っています。

TFAは、教員免許の有無に関わらず、大学卒業後に新卒者を2年間アメリカ各地の教育困難地域にある公立学校に常勤講師として赴任させるプログラムを提供している団体です。グーグルやアップルなど大手企業を抜いて、2014年には全米文系学生が就職したい企業ランキング1位にも選出されました。設立から26年経った今では、世界34か国の組織と連携し、Teach For Allとして国に活動を広げています。

ウェンディ氏の先駆者としての苦労話、次代を担う社会起業家への想いなど、ETIC.代表の宮城治男がインタビューしました。

宮城によるウェンディ氏インタビュー

ETIC.代表 宮城治男、TFA創始者ウェンディ・コップ氏

学士論文からのスタート。卒業前に資金調達を決意

宮城: ウェンディさんは、「社会起業家」というキーワードを大事にされているとうかがっています。まずご自身の社会起業家としての原点からうかがえればと思います。最初から大規模な資金調達をされたということですが、事業をスタートする前から強い成功への確信をお持ちだったのですか?

ウェンディ: プリンストン大学を卒業するには学士論文を書かなければならないのですが、私は今の活動を学士論文のテーマとして選びました。そのために教育現場の状況を調査したりあらゆる角度から教育の問題について考えを深めるうちに、卒論執筆が終わるころには「この事業は何としても実現しなければ!」と確信していました。とはいえ、お金がなかったので、卒業する前になんとか資金調達しなければと思っていたんですね。そのうえ、自分の生活費のあてもなかったんです。

そのような中でフォーチュン誌に掲載されていた教育改革へのコミットメントを表明している企業を特集した記事を読み、そこで名前が挙がっていた企業をはじめ、いくつかの企業に連絡してみることにしました。デルタ航空など30社の最高経営責任者に手紙を書き、電話をしました。当時はまだE-mailがなかった時代です。

ウェンディ氏

その結果、驚くべきことに7人からお会いする機会をいただきました。そのうちの1人はビジネスの決定権のある方で、マンハッタンにある会社の会議室を夏の間貸してくれ、もう1人は2万6千ドルを寄付してくれたのです。それを夏の活動資金にして、卒業した後にはこのアイディアが実現できるかどうか試すため、できるだけ教育や資金援助関係の方々とたくさんお会いしました。

どこに行っても「それは良いアイディアだ」とみなが口を揃えてくれましたが、一方で大学生がこのような活動に参加してくれるのかについては懐疑的でもありました。学校や教育支援団体は、“自分のことしか考えられない若者”が低所得地域の学校の教師になりたがるなんて誰も信じてくれなかったのです。でも、だからこそそんな人たちにこれは実現できるのだと見せることができれば、他の人たちもついてきてくると思いました。思い返すと、とてもシンプルなことだったように思います。

4か月で2500人の応募者に500名の登録。しかし250万ドルの資金が足りなかった

ウェンディ: 新卒の仲間を見つけて、100校の大学に対して草の根の採用活動を始めました。ドアの下からひたすらチラシを入れて、4か月で2500人からの応募を集めることができました。それまで出会った人たちにも経過を報告して、このまま事業はうまくいくと思っていました。ただ、いざ2500人の応募者のなかから実際に500人を登録して6つの地域に派遣したいと思ったところ、それには250万ドルが必要でした。でも、肝心なその資金がなかったのです。

そのときはすでに3月で、6月には彼らに研修を受けさせなければなりませんでしたが、250万ドルのうち30万ドルしか手元にありませんでした。学校関連での手続きや準備はできていて、講師たちの研修を担ってくれるプロの教師たちもいる。でも、お金がない。これで実現できなかったら、本当に大失態です。そのような危機的状況において、当時オフィスを貸し出してくれた張本人である大物のビジネスパーソン、ロス・ペロー氏が最後の砦だと思っていました。彼は教育支援に積極的で、彼が支援してくれなければこの事業は実現できないだろうと思っていました。

私は、彼のオフィスから出ていくのをとにかく拒みました。こんなに根気強く頑張ったことはないというくらい(笑)。私たちが出て行かない状況に、彼は「150万ドルを集めたら、残りの50万ドルを寄付しよう」と言ってくれました。その瞬間、彼の言葉に感化される寄付者は増えるはずだと思い、これで事業は実現できると確信しましたね。そうやって活動が始まりました。

宮城: 最初からこの事業をやらなければ、あるいはやれるという信念をお持ちだったのですね。

ウェンディ: そうですね。とり憑かれたように実現しなければと思っていました。学生時代にも、ぼんやりとですがこういった活動をしてみたいという気持ちがありましたし、高所得地域と低所得地域の教育の質の差に加えて何千人もの教師不足という社会の現実もありました。うまくいかないのではと気持ちが揺れる瞬間もありましたが、事業をはじめた状況もタイミングも完璧だと感じていたので、自信がありました。

インタビューの様子

宮城: ここまでのやりとりだけでも、パワーというか、勇気を分けていただいたような気がします。

ウェンディ: ありがとうございます。でも、それが長い道のりの始まりでした。その後、ミッションを達成することがどれだけ大変なことなのか想像もついていませんでした。どう組織を維持し、成長させるのか、最初の500人の派遣からたくさんの学びを得ました。

卒業後すぐに社会的インパクトのある仕事ができる機会を提供

宮城: 今は世界中にネットワークを広げていらっしゃいます。例えば今の日本には、引きこもったり、心の病を抱えたり、豊さの中で迷いを抱えたような人たちも多くいますが、そういった国の教育や人材育成は今までのアプローチで良いのか、それともその国や地域によって違うアプローチが必要なのか。どのようにお考えですか。

ウェンディ: それぞれの子どもたちに合ったやり方にするべきだと思いますね。私たちの活動は、経済的に不利な立場に置かれている子どもたちに集中しすぎているとも思いますが、そういった豊かさの中で迷いを抱えた子どもたちの教育においても、変えるべき点は多くあると思います。今は、見方によっては限定した目的のために教育をしていると言える状況かもしれませんが、子どもたちのために、最大の成果は何か、本当に何が必要かを考えていくべきだと思っています。学術的成果も大事ですが、それぞれの個性や世界との触れ合いなど、全人的に考えなければなりません。そして、世界はその方向に向かっていると思います。

宮城: なぜそうした変革を担う優秀な人材が、ウォール・ストリートではなく、TFAの2年のプログラムに参加していると思いますか。

ウェンディ: いろいろな選択肢がある優秀な人材を講師として低所得地域で働くように促すのは、とてもチャレンジングなことです。ですが、そういった活動をやりたい人たちは一定数必ずいると思います。親や社会から経済的なプレッシャーがあって、なかなかできないだけです。

大学を卒業してすぐに、30人から100人もの子どもたちの人生と育成に関わって、大きな責任を背負いながらリーダーシップを身につけるチャンスは他にはないのではないかと思います。そういった意味で、TFJは卒業してすぐ社会的インパクトのある仕事ができる機会を提供しています。それと同時に、同じ価値観と志を持った仲間と出会うチャンスでもあります。教育分野ではなくても、社会を変えていく仲間になれるのです。

若者が壁を乗り越え、視野を広げていくことをサポートするのが大切だと思っています。2年間という期間はとても短いですが、この時間がすべてではありません。教育分野に残るにしても、別の道に進むにしても、TFAでの2年間を過ごすことがその後の人生をより豊かなものにします。今までに、TFAで教師をやって後悔したという人に出会ったことがありません。この時間は、子どもたちと自分への投資なのです。

パートナーシップを組む企業にもメリットを

宮城: TFAではインパクトの最大化のために、企業もうまく巻き込んでいると思います。どう工夫されているのか聞かせて頂けますか。

ウェンディ: TFA設立当初の経験から考えると、個人から繋がりを築いた方がやりやすいと思います。大きな組織ですと、お互いのニーズをすり合わせるのにとても大変です。社会起業家のアプローチと企業方針が合うかどうか確認しなければなりません。個人であれば、教育に対する価値観やアプローチの考え方が合えば、理解してもらいやすい。そのような状況で、TFJが多くの企業から支援を得られていることにはとても感動しました。

宮城: 企業がTFAの経験者を採用したり、TFAと協力したりするのは、社会貢献のためでしょうか。あるいは自社へのメリットも睨んだ戦略的な意図があるのでしょうか。

ウェンディ: 企業は、私たちとパートナーシップを組むことが社内に著しい変化をもたらしていることに気づくようになりました。数社が社内調査を実施したところ、会社に対して社員たちの印象が良くなったという結果が出ました。例えば、私たちとグローバルパートナーシップを結んでいるDHLは、8割の社員が会社を評価するようになり、社員たちが国内や海外のボランティアに参加するようになったのです。

企業がこのような社会活動をすることで、大きな投資ではありますが、社風が良くなり社員のやる気も上がるので、企業にとってもメリットがあります。人間は、誰しもが社会を変えたいと思っています。Teach for Allの組織に協力していただくことで、そのような願いを叶えることができます。

宮城: 日本ではそういった関係性がまだ成熟していないといえます。一緒に仕掛けられたらうれしいです。

ウェンディ: 私たちも企業とパートナーシップを成立させるためには、2〜3年はかかります。お互いのニーズを確認して、お互いにとって利益になるような関係性を築くのはとても時間がかかります。日本には大きな需要もあって、民間だけでなく公共部門からもサポートがあります。TFJのインパクトは、日本のリーダーたちが立ち上がって、自分たちの目標として頑張るかどうかにかかっているでしょう。教育改革は自らの命があるうちにできるはずです。そして改革を成し遂げるためには、優秀で教養がある未来のリーダーたちがこの目標に向かって精力的に頑張ってくれるかどうかが肝心です。TFJはそれのためのひとつの道でもあります。

インタビューの様子

たった1人の先駆者の存在が何100人の後進を生む

宮城: 私たちも、日本でもウェンディさんのようにチャレンジする人をどんどん増やしていきたいと思っています。教育の領域を含め、社会起業家を増やすために何が必要だと思いますか?

ウェンディ: 宮城さんも活動を通して気づいていらっしゃると思いますが、先駆者が果たす役割は、非常に大きいと思います。アメリカでもこの26年間、各地域で大きな変化がありました。そしてその変化の中には、必ずリーダーシップを発揮する先駆者がいます。

例えば、ロジャー・バニスター*が1954年に4分で1マイルを走り切る前は、誰もそんなことが可能だとは思っていませんでした。でも、彼が走った翌年には、何百人もの人が1マイルを4分で走るようになりました。そのような現象をこの仕事で毎日のように目にします。

低所得家庭の学生が集まる学校から大学進学者が出るなんて誰も信じてくれなくても、1人が進学すれば、その後何百人もそれに続きます。先駆者が必要なんです。そして、改革を広げてくれるリーダーたちの存在が重要です。その点においては、Teach For Japan(以下TFJ)は社会に貢献できるのではと思っています。リーダーたちや優秀な人材が集結し、組織に対しなぜこういうやり方なのかと声をあげたり、違うやり方でやってみようとお互いを支え合える。TFJを成長させることは、他の起業家を勇気づけることにもなり、多くの方々に子どもたちのために頑張りたいと思ってもらうこともできるのではないでしょうか。

来日し、福岡県でお会いした校長は、私たちの活動が日本の教育を変えると信じていると言ってくださいました。このように、TFJの活動で大切なことは、影響力のある人を味方につけることでもあると思っています。多くの人からノーと言われたりしますが、1人だけイエスを言ってくれればすごいことです。TFJ設立者の松田悠介さん*2は、この2年で協力者をたくさん見つけることができたと思います。あとは、立ち上がって、イエスと言ってくれる若者をたくさん見つけることです!

* ロジャー・バニスターは、イギリスの陸上選手。1954年5月6日、オックスフォード大学のトラックで1マイルを3分59秒4で走り、世界最短記録を打ち立てた。

多くの社会起業家、リーダーたちによる多角的な取り組みが改革の要

宮城: 日本では、教育を変えるには教師にならなければいけないと思われがちですが、なぜ社会起業家として教育を変えることが大事なのか、一言メッセージをいただけますか。

ウェンディ: 問題の解決策は一つだけではありません。子どもたちにパソコンをあげたり、先生を変えたり、教育システムやカリキュラムを変えても、ある一側面の課題解決に留まってしまいます。大切なのは、多角的に取り組むことです。

学校の基本的な構造を変えたり、初等教育の機会を平等に提供したり、子どもの栄養状態や社会サービスへのアクセスを改善することで学校のプレッシャーを軽くしたり、学校主体の課外活動の拡充、制度の改革など、たくさん変えなければならないことはあります。問題は、それをやってくれる人材です。歴史的にみても優秀な人材はいろいろな分野で活躍していますが、経済やテクノロジー、医療、法律面においては、子どもたちのために尽力している人はそれほどいません。それを変えたいと思っています。

未来の優秀なリーダーたちがこの目標のために立ち上がることが大切です。それが解決策の一番の要なのではないかと思います。もっとたくさんの先駆者、社会起業家にこの課題に取り組みたいと思ってもらいたい。 宮城さんは長年日本の社会起業家を支援していると思いますが、現状はいかがですか?

宮城: 日本でもここ10年で社会起業家の活動が活発化してきていると思います。ETIC.でこの領域をフォーカスし始めた2000年頃は、社会起業家という言葉を誰も知りませんでしたが、若者たちの働き方や生き方の選択肢になりつつあるといえます。ただ、関心は持っていても、実際にアクション移せている人はまだ氷山の一角に過ぎません。これから松田さんのような人材にどんどんチャンスを提供していきたいです。

ウェンディ: 先日訪問した福岡の学校では、喜ばしいことに100人の講師を派遣して欲しいと言っていただけたのですが、TFJには需要に応えるだけの人材が集まっていません。日本において社会起業家を受け入れる環境はできつつあるとは思いますが、人材が足りていないのではないかと感じました。これからも日本で社会企業たちの活動を応援していってください!

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この記事を書いたユーザー

Kristina Gan

Kristina Gan

1988年にフィリピンで生まれる。来日以降神奈川県横浜市在住。早稲田大学卒業後、テレビ局に就職。私立病院の国際部へ転職したが、書きたい!伝えたい!という思いを捨てきれず、4月から新聞記者に転職予定。 人生のモットーは、「一つでも多くの世界を見たい」。趣味は、何かと刺激的な国に行くこと。

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