「社会の未来を組織の未来を切り拓くリーダーを創る」をミッションに掲げるNPO法人クロスフィールズ。2011年5月の創業以来、ビジネスパーソンを新興国のNPOへ派遣し、スキルを活かして現地の社会課題解決に挑むプログラム「留職」を展開。 これまでに15社、32 名のビジネスパーソンを5カ国(2014年7月時点)の社会課題解決の現場に派遣してきました。
その実績が評価され、2014年には日経ソーシャルイニシアチブ大賞・新人賞を受賞。さらに多くの人と組織からの共感を得ながら、急速に事業を拡大しています。
今回は、クロスフィールズの共同創業者である小沼大地さんと松島由佳さんにお時間をいただき、創業の経緯とふたりの個人史についてうかがいました。ふたりの原体験が交差したところに、多くの仲間が集って生まれたクロスフィールズ創業のストーリーを、副代表・松島さんへのインタビューからお送りします。
写真:クロスフィールズ共同創業者の松島由佳さんと、小沼大地さん
新興国を飛び回りながら、リーダーたちをつなげる仕事
石川:今日のテーマはクロスフィールズの創業ストーリーですが、まずは松島さんのお仕事についてうかがってもよいでしょうか。
松島:はい、今の仕事の内容は大きく2つで、クロスフィールズの経営に加え、留職事業の統括をしています。経営に関しては、代表の小沼と事業の今後を考えたり、組織づくりをしたり、という仕事。留職事業では、戦略企画に加え、日々のオペレーションもしています。具体的には、留職の導入が決まった企業に対してプログラムの企画・調整から、事前研修や派遣期間中の現地フォローなど、プログラムの始まりから終わりまでを担いつつ、チーム全体の統括をしています。
石川:すごく海外出張が多い仕事なんですよね。一年の3分の1くらいは途上国の現場にいるとか。留職のプロデュースという仕事の楽しさは、どんなところにありますか。夢中になる瞬間って、どんな時でしょう?
松島:たくさんありますが、まず思い浮かぶのは途上国のリーダーと仕事ができるということですね。私たちが入り込むどの地域にも、飛び抜けた発想力をもって、社会課題解決のための素晴らしい仕組みを生み出している人たちがいます。本当に熱くて、新しく何かを作り出す力を持った素敵な人たち。彼らと一緒にチームを組んで、課題解決に取り組む充実感は、この仕事ならではだと思います。
写真:インドにて電気メーカー・研究開発職の留職者に同行する松島さん。現地社会の課題解決と留職者の学びを最大化すべく、プロジェクトマネージャーとして留職者に伴走。
もうひとつは、現地へ派遣された日本のビジネスパーソンと、「自分は社会課題とどう向き合うか」、「なぜ仕事をしているのか」みたいなことを話している時です。留職中も帰国後も、こういった機会がたくさんあるのですが、その時の私の興奮たるや、それはもう。笑
途上国のリーダーも、志にあふれた日本のビジネスパーソンも、本当に熱くって素敵なんです。「こんなに想いにあふれた人たちをつなげないなんて、もったいない」といつも思ってしまいます。それをつないで社会課題解決に貢献すること、そして新たなリーダー育成を実現すること。それが留職という仕事の醍醐味ですね。
企業と現地NPO、両方に価値を生み出したい
石川:仕事、本当に楽しそうですね。日々の仕事の中で、松島さんがこだわっていることはありますか。
松島:私のこだわりは、導入企業と受入NPOの両方に価値を生み出すということです。企業からの派遣者には、現地で課題解決の現場にどっぷり浸かる中で、企業の枠を超えて社会課題に取り組むリーダーになってほしいと思いますし、彼らが受け入れNPOと一緒に起こしたアクションが、社会課題解決を少しでも前に進めるものであってほしい。双方に価値を提供することを常に意識しています。
石川:留職は、派遣者の成長だけをねらったものではなく、同時に現地の課題解決を進める仕組みになっていますね。とはいえ、日本企業への貢献と現地NPOへの貢献が、トレードオフになってしまうようなことはありませんか。
松島:創業以前は、それを不安に思っていたこともありました。留職を事業として進めることで、現地への貢献が二の次になってしまわないかな、と。でも3年間留職に取り組んできて、今は自信を持って課題解決と派遣者の成長は両立すると言えます。
写真:ゼロから作り上げた留職へのこだわりを熱く語る松島由佳さん。 クロスフィールズのオフィスにて。
石川:それはなぜですか?
松島:「派遣先NPOに貢献することなしに、派遣者の成長はない」ということが腑に落ちたんです。本当に何かインパクトを生み出すプロセスを経験しない限り、真のリーダーは育たないと。
現場の課題と向き合う中から、真のリーダーがうまれる
石川:どういった経験からそれを確信されたのでしょう。可能な範囲でお話いただけますか?
松島:少し前に、留職を受け入れたインドネシアの歴史ある医療NPOから、私たちあてに突然メールがきました。留職が終わってから半年くらい経っていたし、一体何だろう?と思って見てみると、「あなたたちのアクションが発展して、新しく政府と一緒にプロジェクトを始めることになったよ。本当にどうもありがとう。」というお礼のメールでした。それを読んだときは、「現地の課題解決に本当に貢献できたんだ!」と実感してすごく嬉しかったですね。
石川:それは心が震えますね。
松島:留職した方は、「医療の質が十分でない途上国で、1本の注射針の価値を見つめ直したい」との想いから社内公募を参加した医療メーカーの若手研究者でした。2ヶ月という限られた期間の中で、彼が取り組んだのは、「注射針刺し事故」とうい課題でした。派遣先のNPOが経営するクリニックでは、使用済み注射針の廃棄が徹底されておらず、針が看護師に刺さって、HIV/AIDSなどの感染症が発生するリスクがあったんです。
石川:途上国の現場に入り込んで初めて気づくような課題ですね。
写真:インドネシアの病院で実地調査に取り組む留職プログラム派遣者
松島:そこで彼は、プラスティック製容器への廃棄オペレーションや、使用後の針に安全キャップをはめる習慣を根付かせるための改善策を提案しました。実際にお店で安く材料を仕入れて実演したり、スタッフにトレーニングをしたり、単なる提案に終わらず、自らやってみせたんです。
石川:かなり現場に深く踏み込んでいますね。
松島:それだけにとどまらず、現地の注射器の品質にばらつきがあるという課題をみつけて「注射器の質のチェックシート」を作りました。この取り組みが、先ほどお話した政府とのプロジェクトに発展したんです。
石川:すごい成果だと思います。着実に現地に変化を生み出していますが、派遣された方は、その過程でどんなことを学んだのでしょうか。
松島:現地での学びを振り返る中で彼の口から出てきたのは、「課題から発想する精神」という言葉でした。留職先のNPOは、インドネシアの医療を良くするという大きな目的があって、そのために目の前の人たちに寄り添って事業を展開しています。
そんな現地の人たちと働く中で、彼は「自分の日本での仕事を振り返ってみると、本当の課題ではないものを掘り起こして取り組んだり、過去の事業の延長で物事を考えていたりしていたかもしれない」と気づいたそうです。課題と真剣に向き合うことが大切なんだと。
石川:全力で課題解決に取り組んだ人にしか得られない気づきですね。おそらく松島さんにも、留職という仕組みを信じていながらも、創業時には不安もあっただろうと思います。こうした事例が積み重なって、自分の創った仕組みに確信が持てた瞬間って、創業者にしか味わえない嬉しさがあるだろうと思います。
父が設立した病院を訪ね、カンボジアへ
石川:ついついお仕事の話が長くなってしまいましたが、ここからは、クロスフィールズ創業に至る松島さんのストーリーをお聞きしたいと思います。思いつくかぎり昔にさかのぼってお話ください。
松島:原体験といえる最初の出来事は、中学生の時にいったカンボジアでした。私の父は出版社に勤めるカメラマンだったのですが、NPO法ができた直後くらいに突然友人たちとカンボジアで病院をつくったんです。父と友人たちは手探りでNPO法人Friends Without A Border*1を立ち上げ、その病院を作りました。病院が開院したときに、家族でカンボジアに見に行って。
*1:認定NPO法人フレンズ・ウィズアウト・ア・ボーダーJAPANは、アジアの子どもたちの医療支援を行うNPO。アンコール小児病院の設立をはじめとして、教育・地域医療などさまざまなプログラムを通してアジアの医療の向上に貢献しています。
石川:ものすごく行動力のあるお父さんですね。初めてのカンボジアは、松島さんの人生にどんな影響を与えたのでしょう。
松島:現地の病院やそこで働く人たちをみて、とてもワクワクしました。今でもはっきり覚えていますが、使命感に燃えまくって働く姿がすごくかっこよかった。多感な中学生だった私は、「将来はこういう仕事をしたい!」と思ったんです。
写真:家族と訪れたカンボジアで、現地の人たちと。左端が中学生時代の松島さん。
松島:一方で父のNPOには、手作りならではのところがありました。例えば週末にみんなで集まって、会報をつくって切手を貼ったり。手伝ってくれる人を集めるのも大変だったのではないかと思います。 あとは、父は仕事を持ちながらNPOの活動をしていたのですが、そうしたNPOの活動に関わる素晴らしさや楽しさを友人に伝えられないもどかしさもありました。一度、友人にちょっと話したこともあったんですが、「NPOってなんだか怪しそう」とか言われてしまって。「NPOで働くって素晴らしい」って思いながらも、それが十分に伝わっていない勿体無さを感じていたというか、もやもや感がありました。
石川:世間におけるNPOの認知度は、今よりずっと低かったんでしょうね。
松島:私は、それがすごく悔しかったんだと思います。カンボジアで出会った人たちは、みんなキラキラしながら良い仕事をしていたのに、日本では全く社会的に認知されていません。だから、リソースが集まりにくい。もっと事業の良さや面白さが伝わって、人やお金が集まったら、どれほど事業が広がっていくだろう。そんなことをずっと思っていました。このころから、「NPOで働いていると、胸を張って言えるような社会にしたい」と思うようになったんだと思います。
石川:クロスフィールズ創業につながる問題意識は、中学生の頃から既にあったんですね。
>>松島由佳さんインタビュー「自分が取り組むべき課題に100%向き合っていこうと決めた」に続きます。
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