ここ最近、NPO法人による新卒向け求人が増えてきています。そこで今回は、認定NPO法人カタリバ2011年に新卒で入社した横山和毅さんに、カタリバで働くまでの経緯や、働いてみた実感についてうかがいました。
カタリバは高校生向けキャリア学習プログラム「カタリ場」の実施や学習支援や心のケアを行う被災地の放課後学校「コラボ・スクール」を運営しているNPOです。
写真:カタリ場当日、運営責任者としてキャストをサポートする横山さん
気付いたらNPOに就職していた
小林:まずカタリバに就職した経緯を教えてください。
横山:社会的課題や教育に関心があったからカタリバに就職したというよりも、気付いたらカタリバに就職をしていて、そこが結果としてNPOだったのです。
もともと新聞記者になりたくて、新聞社を中心に就職活動を行っていたのですが、うまく行きませんでした。その後、学習塾を展開している企業に内定したのですが、「何か違う」と思い続けて結局辞退しました。
とはいえ、親には「うちには就職浪人させる余裕はない」と言われ、選択肢としてあるものは、バイトかインターンでした。そこでETIC.(エティック)でインターンを探したましたが、「これがやりたい!」という明確な目的意識がなかったので、「まずはやりたいことを探して欲しい」と言われてしまい、インターンには結びつきませんでした。
内定辞退後も就職活動はせず、この時期はカタリバのキャストとしての活動以外はほとんど家に引きこもっていました。 実はカタリバで働きたいと代表理事の今村久美に伝えたこともあったのですが、その時はまだカタリバは新卒採用を行っておらず、前例がないため断られてしまいました。 そうしているうちに東日本大震災が起きて、その後にカタリバの職員さんから「カタリバが新卒を募集を始める」という連絡が来て、3月22日に代表の今村久美と再び話をしてエントリーすることになりました。
小林:どのような経緯でカタリバはこの時新卒採用を始めたのですか?
横山:直接聞いたことはないですが、今村久美の直感だと思います(笑) 震災の直前にも企業から転職してきた職員が何人かいた状況で、あまり新卒を採るメリットって思いつかないんですよね。戦略とかじゃなくて、それでも何か予感のようなものを持っていたんだと思います。
想いは記者になりなかった時と何も変わらない
小林:カタリバに就職したいと考えるようになった経緯や、カタリバに共感した部分を教えてください。
横山:一番の想いは、記者を志望していた時とは変わらなく、社会的課題を社会に伝えていきたいと考えています。
記者を志望するようになったのは、高校生の時で、大学でも文学部に入って勉強をしていました。その中で大学の先生に勧められて裁判の傍聴をする機会がありました。裁判の傍聴をしていて、被告人は色々な要因に流されてしまって、犯罪を犯してしまっている人が多いということを強く思いました。
また薬物事件の裁判の傍聴をしていて、その被告人は2回目の薬物だったので、ほぼ実刑が出ることは確定していたのですが、傍聴席に家族の方もいて、実刑が確定して泣いていました。
この様子を見て、被告人の人にも家族がいて、またその人も苦しんでいることを知り、自分の知らない世界はまだまだたくさんあって、そこで苦しんでいる人もたくさんいることを知りました。
ネットで調べたら覚せい剤の取締は当時年間2万件あるとわかりました。その一人一人に家族や知り合いがいて苦しんでいる人がいるのに、そのことを気にしている人はほとんどいません。このような社会的課題を伝えていきたいと考えるようになりました。
カタリバでも高校生・キャリア学習という側面から見るだけではなく、学校や先生・地域を通して広く高校生を見るようにしています。教育は広くて、労働環境・地域色々な問題が組み合わさり、教育の問題ができています。カタリバが多く接触している「高校」というフィールドにも、たくさんの課題が眠っています。
小林:カタリバでも授業を通して、高校生の考えや将来の夢を言語化していくということがありますし、NPOには社会的課題を社会に伝えていくという役割があるので、記者としてやりたいと考えていたことと大きな違いはないのですね。
とにかくカタリバへの恩返しをしたかった
小林:最初にカタリバに就職したいと言った時に、前例がなく断られたという話がありましたが、スキルの面で不安はありませんでしたか?
横山:スキルについては、ないものはないで仕方がないので、あまり考えませんでした。とにかく今村久美とカタリバへの恩返しをしたいと、そのことだけを考えていました。 また、採用にはコストがかかっています。だから、「採用してよかった!」と言われるようにならないといけないと、常に考えていました。
カタリバのやりがいは、人の成長
小林:これまで実際にカタリバの職員としてやってきた仕事について教えてください。
横山:今はサブディレクターとして、キャリア学習プログラム「カタリ場」*の運営、キャスト(カタリバのボランティア)のマネジメントを中心に行っています。それ以外にも大学向け連携プログラムである入試広報支援**やカタリバの地方展開***に関する事業など様々な事業を行っています。 キャリア学習プログラム「カタリ場」を中心にやっていますが、その年によって、やっている仕事は変わっていっています。
*:学生など少し年上の先輩と体育館で車座になって対話することによって、高校生の心に“灯を灯す”ワークショップ形式の授業です。
**:オープンキャンパス学生スタッフへの対話型コミュニケーション研修やオープンキャンパス学生スタッフ組織のチームアップ研修を行っています。
***:カタリ場の授業は、認定NPO法人カタリバ以外の団体も全国各地で行っていて、その導入の支援を行っています。
写真:2009年の冬、大学3年生のからカタリバの活動に参加
小林:ボランティアとしてカタリバに関わることと、職員として働くことに違いはありますか?
横山:職員として働くようになって一番変わったことは、「カタリ場」を導入してくださった学校の先生とよく話すようになったことです。その高校にある課題、その課題の背景など色々なことをよりリアルに知るようになりました。 また行政や企業、色々な人と関わりながら仕事を進めるため、多くのステークホルダーと関わるようになりました。
小林:やりがいという点ではどうですか?
横山:職員として感じるやりがいは、人やキャストの成長を感じることができることです。カタリバに関わることで、キャストが変化し成長する姿を見ることができるし、カタリバの授業を受けた生徒がどんどん成長していく姿をみることができます。 学校・生徒にカタリバの価値がしっかりと届いたと思える時が、一番やりがいを感じる瞬間ですね。
オン・オフの区別なく働くことが出来ている
小林:NPOで働いて、いわゆる一般の企業で働いている人と違うな、と感じることはありますか?
横山:NPOで働いていると、まだまだNPOという存在が世の中において正しく理解されていないなと思うことがあります。例えば、親戚に説明したり、仕事で名刺交換をしたりするときに説明しにくいことがあります。 自分からすれば、一般の企業もNPOも大差ないと思っていたのですが、世間一般の人たちの認識はそうではないこともある、ということを強く感じています。
あと、これはNPOというよりもカタリバの組織文化かもしれないのですが、友達よりも僕は自由に働いているという実感があります。 他の人が会社の愚痴を言っていたり、学生の時はピュアだった人が、夢を諦めていたりする様子を見ているとちょっと悲しくなることがあります。僕は自由に働いているので、とても楽しんで仕事をすることができていると思いますね。
小林:楽しんで働くことができている要因は何だと思いますか?
横山:まずは、カタリバにいる人たちが面白いということです。もう一つは自分はルーティンが苦手なので、組織がどんどん進化していくことで、それに追いつくために自分も成長していく必要があるということが楽しいです。 ある意味、仕事とプライベートの区別がなく、公私混同で働いているという実感があるほど、カタリバという居場所自体が好きだし、働いていて楽しいです。ただ同時にこの居心地の良さに甘えていてはいけないと思っています。
組織の成長に追いつくためには自発性が求められます。これは組織として規模の小さいベンチャー企業などでも同じかもしれませんが、職員一人ひとりの成長が組織の成長にダイレクトに関わります。何も言われなくても自ら成長し、組織に貢献していくことが求められます。それはプレッシャーでもあり、やりがいでもあります。
写真:インタビューに答える横山さん
NPOで働きたい若者へのメッセージ
小林:今の若者には、NPOで働きたいと考えている人が多くいます。そういった人たちに向けて、新卒でNPOに飛び込んだ横山さんからメッセージをお願いします。
横山:NPOで働きたいと考えている人から相談を受けていつも聞くのが、「なぜ企業ではなく、NPOで働きたいと考えているのか」ということです。 企業もNPOも仕事に大差ありません。その中で、なぜNPOを選ぶのか、NPOで働くことを通して何を解決したいのかを考えて欲しいと思っています。
また、一般企業と比べて、NPOというファーストキャリアは、その後のキャリアにおいてどう評価されるのかまだまだわからないところがあります。そのリスクをどう考えるか、ということもあります。
でも、そういったことを考えた上での覚悟さえあれば、楽しい職場だと思います。カタリバに就職してよかったことは、未来を作っている可能性を感じることができ、たくさんの人が集まりそこで価値を作ることができることです。 僕の大学時代は社会人のロールモデルが少なかったため、新聞記者しか考えていませんでした。やりたいことがわからなくて、逃げ続けている時もありましたが、カタリバの周りには、それを考えるきっかけを与えてくれる人がたくさんいました。
小林:自分も一般企業とNPOは自分も根本的なところでは大差がないと思っていますが、ファーストキャリアとしての今後どのようになっていくのかということを考えると、まだ分からない部分が大きいと思います。 なので、NPO・一般企業と広く社会を見て、自分の想いと掛け合わせていくことが大切なことだと思いました。横山さん、貴重なお話ありがとうございました。
- カタリバは、キャリア学習プログラム「カタリ場」を高校に届けるためのボランティア・スタッフ(キャスト)を募集しています。詳細はこちらをご覧ください。
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