新卒でNPOに就職。数年前は中途で入職するスタッフが大半だったNPOですが、近年少しずつ新卒でNPOに入職される方も増えてきました。今回は2011年4月に認定NPO法人キーパーソン21に新卒入職された、下川原彩(しもがわら・あや)さんにお話を伺いました。
※認定NPO法人キーパーソン21は、「子どもたちに夢と職業意識を運びたい」を理念に2000年に設立。2001年に法人格取得。2013年に認定NPOに認定。国内の小中高校生を対象にキャリア教育プログラム「夢!自分!発見プログラム」を開発し、これまでに30,000人以上の子どもたちに実施。一人ひとりがもっている”わくわくエンジン®”を見つけ主体的に進路選択する力をつける教育に取り組んでいる団体です。
「人の役に立つ仕事」を模索して出会った「社会起業家」という生き方
荘司:さっそく新卒でNPO法人に入職された経緯を伺いたいのですが、いつ頃からNPO法人やソーシャルセクター(NPO/NGO、社会的企業を含む領域)に興味を持たれたのですか。
下川原:きっかけは大学2年生の夏ころです。大学に進学したものの「この勉強は社会でどう活かされるのだろう。」と授業と社会がつながるイメージを持てず、いっそのこと大学を辞めて、わかりやすく「人の役に立つ仕事」ができる看護師になろうか、などと悶々と考えていました。
荘司:ではそこからなぜ、ソーシャルセクターへ?
下川原:そんな時、深夜にやっていたNHKの「一期一会」という番組で、偶然「社会起業家」という言葉を耳にしました。「なんだこれは!」とピンときて、すぐさまインターネットで検索しました。すると、NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹さんが書かれた、『「社会を変える」を仕事にする』という本に出会いました。
荘司:ソーシャルセクターでは有名な本ですね。私も大好きな本です。
下川原:はい、そして翌日スグ本屋さんに買いに行き、夢中になって読み進めました。ただその時は、とても素敵だなあとは思いましたが、自分とは別次元の人という印象だったことも覚えています。
荘司:なるほど、それがNPO・ソーシャルセクターを知った瞬間だったのですね。そこから実際にNPOで活動し始めたのはいつ頃ですか?
下川原:そこからすぐ、大学2年生の秋頃ですね。
荘司:それは現在のキーパーソン21での活動ですか?
下川原:はい。それも不思議なご縁でして。当時大学の一般教養で社会学の授業を受けていたのですが、その授業の先生から紹介された方が、たまたま当時キーパーソン21の学生代表をしていた女性の先輩だったのです。
荘司:すごい出会いですね(笑)その先生はなぜ紹介したいと思ったんでしょう?
下川原:「ビビビ!」でしょうね。まずはその先輩と雰囲気が合いそう、という理由だったようです(笑)お話しを聞いてみたところ私が中学生の時に「あったらいいな」と思ったキャリア教育プログラムを提供している団体だと分かったのです。 NPOだからそこに行きたい!というより、活動の中身に共感して、それをやっているのがNPOだったという感じです。そこから事務局学生スタッフとして活動を始めました。
収入やキャリア、悩みに悩んで決めた、NPOへ新卒入職するということ
荘司:では活動を始めてから、NPOへの新卒就職を考えた契機について伺いたいのですが、最初からキーパーソン21へ新卒就職することを考えていたのですか?
下川原:いいえ、新卒でNPOに就職するとは、全く考えていませんでした(笑)2011年卒なので、2010年の就職活動時、当然一般企業の就職活動をしていましたし、実際企業からの内定も頂いていました。「自分が本当にやりたいことは、キーパーソン21のような活動かもしれない」と内心では気づいていたように思いますが、その時は、新卒でNPOで働くという選択肢は考えてもいませんでした。
荘司:そうなのですね。では、何がきっかけに?
下川原:大学4年の秋に、代表の朝山から「彩ちゃん、キーパーソンで働く可能性ってある?」と聞かれたことです。実際「モヤモヤした想いを抱えながら社会に出ていいのか」と悩んでいたので、「(働く)可能性はあります。」とだけ答え、数週間考える時間をいただきました。
数週間後、その時に出した答えは、「(キーパーソン21で)働きません。」という答えでした。一旦企業を経験してからNPOで働くという道があるのに、わざわざ新卒でキャリア的にも収入的にも未知なNPOに就職しなくてもいいかな、と考えたのです。
しかし、そんな決断をしたものの、卒業間際まで自分の将来への踏ん切りがつかずに悩み続けていました。「一人ひとりが、自分のエネルギーを注げるものを発見し、自分を活かしてイキイキ生きていける社会を実現すること」を目指してキーパーソン21で活動してきたのに、いざ自分が選ぼうとしている道と矛盾しているのではないか、と。
未知のキャリアへの不安や、本当に食べていけるのかという収入面の不安など、これまで悩んだことのないくらい悩みました。周りの友人からも、企業へ就職をしないのは勿体ないと言われました。でも、(時代の流れを考えて)このタイミングで(キーパーソン21で)働かないという選択をすることが私にとって勿体ないと考えたので、新卒でNPOへ就職する決断をしました。幸せの価値観は一人ひとり違いますから。
荘司:いままでの話からすると、入職されるまでの不安はかなりあったということでしょうか?
下川原:相当ありました。収入面キャリア面以外でも、学生時代から、目まぐるしいスピードで活動し、社会を変える現場を見てきたので、入職前は「あまりの忙しさで、結婚も出産も無理だろうな」なんて考えていました。それくらい大変だろうな、と学生ながらに感じていたのです。
ちなみに、今はそのような考えは全くないです。逆に小さい組織だからこそ融通がききやすいという面に気づきました。
荘司:ということは、以前山元圭太さんが書かれた「NPO・ソーシャルセクターに転職する時にぶつかる3つの壁」という記事にあるような、収入不安・貢献不安・キャリア不安は、すべてあったということですかね。
下川原:はい、すべてありました。ただそれはNPOだからというわけではないな、と思います。私はNPOという場所が、特別な組織ではないと考えています。
入職当時、一般的な企業に新卒で勤めて得られるお給料と比較すると、確かに金額は少なかったですが、社会(世界)の第一線で活躍する様々な社会人の方と出会い、お話しするチャンスと、豊富な人脈を得ることができるなど、今では自信をもって自分の選択は間違っていなかったと考えています。
お金を払えば簡単に色んなものが手に入る世の中ですが、お金で買えないものの代表例が自らの「経験」だと思います。その価値をどう捉えるかで、人生は変わっていきますよね。私は、たった一つの選択で何十倍、何百倍の価値(資産)を得ている、とすら思うようになりました。NPOは、最高にダイバーシティ(多様性)を体感できるクリエイティブな職場だと考えています。
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