日本企業ではたらくビジネスパーソンが新興国の現地NGO/NPOへ赴任し、社会課題解決に取り組む「留職」プログラムを手がけるNPO法人クロスフィールズ。様々なメディアに取り上げられ、注目が集まる留職プログラムですが、その舞台裏では、どんな人たちが、どのような想いをもって働いているのでしょうか。今回は、共同創業者・代表理事である小沼大地さんと、プロジェクト・マネージャーの嶋原佳奈子さんに、日々のお仕事について伺いました。
会議室でのインタビュー風景:嶋原さん(左)と小沼さん(右)
最前線で留職をコーディネートする「プロジェクト・マネージャー」
石川:まず、クロスフィールズが提供している「留職」について伺ってもよろしいでしょうか。
小沼:海外に留まって学ぶという「留学」とは異なり、ミッションを携えて現地に留まり、職務にあたるのが「留職」です。具体的には、日本企業のビジネスパーソンを新興国のNPOやNGOに派遣し、本業で培ってきたスキルや所属企業のリソースを活かして現地の課題解決に貢献していただきます。そういった活動を通して、現地では課題解決が促進されますし、派遣企業は自社の人材を育成することができます。両者がWIN-WINになるような橋渡しをすることが、クロスフィールズの役割です。
石川:新スタッフを2名募集中とのことですが、どういった仕事内容になるのでしょうか。
小沼:2名とも、プロジェクト・マネージャーというポジションです。留職の最前線で、プログラムをはじめから終わりまでコーディネートするポジションになります。まず、どの国で、どんな体験をしたいのか、パートナー企業さんと参加者の方の希望を伺い、具体的な派遣先を検討します。検討の過程では受け入れ先団体の事務所や活動現場にも実際に訪問し、受け入れ先のリーダーと出したい成果や受け入れ体制についてじっくり話し合います。
石川:とても丁寧に現地組織とコミュニケーションをとっているのですね。
小沼:プロジェクトが成果を出すためには、私達が責任をもって派遣先の組織とビジョンを共有した上でプロジェクトの進め方を一緒に決めていくことが重要なので、そこはこだわりを持ってやっています。プロジェクト・マネージャーの仕事はこれだけではなく、派遣者の事前研修を実施し、派遣開始後も一定期間は現地に同行し、その後は日本からリモートで伴走します。さらに派遣者の帰国後も、留職で得たものを本業にどのように活かしていくかについて、事後研修を通じて一緒に考えます。このように、新興国の現地社会に貢献し、派遣者が実り多き体験をすることに、最初から最後まで深くコミットするのがプロジェクト・マネージャーの仕事です。
プロジェクト・マネージャーに必要なのは、価値を創造するプロ意識と、周囲をまきこむ情熱
石川:企業クライアントや現地とのやりとりを任され、かつ最初から最後まで派遣者に伴走する、やりがいと責任ある役割ですね。プロジェクト・マネージャーには、どういった方が適していますか?
小沼:2つ、重要だなと思っていることがあります。1つはプロフェッショナルであることです。クロスフィールズには、コンサルティングファームや総合商社などビジネスの世界で、プロフェッショナルとしての高い意識を持って仕事をしてきたスタッフが集まっています。「留職者・企業・NGOというどのステークホルダーに対しても、期待値を超える成果を出す姿勢を惜しまない」という高いプロ意識とコミットメントが、新しく加わる仲間にも求められます。もう1つはパッション、つまり情熱を持っているかどうかです。本気で課題解決に取り組む現地NGOの人たちと、同じ情熱を持って対話でき、企業や派遣者にその熱量を伝播させ、本気にさせられるような人が、プロジェクト・マネージャーに向いていると思います。
石川:細かいスキルよりも、まずはプロ意識や情熱・共感力といったマインドセットが大切だということですね。その他に、できればこんなスキルや経験があるとよい、というものはありますか?
小沼:ステークホルダーに価値を提供するためには、スキルも大切です。プロジェクト・マネージャーは新興国現地とのやりとりが多いので、一定の英語力は必要ですし、ビジネス経験という意味では、プロジェクト・マネジメントなどの実務経験がある方は活躍の機会が広がると思います。とはいえ、繰り返しになりますが、スキルよりも先にプロフェッショナリズムと情熱が最も重要です。スキルは後からついてくる部分もあると私たちは考えています。
新興国の現場で活動する嶋原さん(左から2人目)
自分が実現したい価値観に従い、総合商社からクロスフィールズへ転職
石川:では、現役のプロジェクト・マネージャーとして活躍されている嶋原さんにもお話も伺いたいと思います。クロスフィールズとの出会いは、何がきっかけだったのでしょうか?
嶋原:2012年の冬に日経新聞の記事を見て、クロスフィールズの存在を知りました。実際に転職したのは、今年の夏なので、1年くらい間があいています。当時は商社に勤めていたのですが、その仕事をひと段落させたかったし、まだ自分がやっていきたいことが煮詰まっていなかったので、しばらく考える時間をとりました。「自分が世の中に提供したい価値ってなんだろう」ということを突き詰めて考えた時に、クロスフィールズが社会に提供しているものが、自分がやっていきたいことに最も近いんじゃないかと思ったんです。
石川:他の転職活動はせず、クロスフィールズ一本だったのですね。
嶋原:私にとっては、「現状を維持するか、やりたいことをやるか」という二択でした。クロスフィールズのミッションや留職プログラムにとても共感していましたから。私自身、学生時代にケニアでボランティアをした時に、異文化の中で自分の価値観が揺さぶられる中で、「自分はこれをやりたい」、「自分の問題意識はこれだ」と強く感じた経験があります。その問題意識に引っ張られて、次へ次へと進んできた経験があるので、混沌とした新興国でチャレンジする経験を多くの人にもってもらえたらいいなと思っていました。そのような経験は、ビジネスパーソンにとって有益ですし、次の社会をひっぱっていく人には、特に必須になっていくんじゃないかなと思っています。
石川:そういった問題意識は、前の仕事でも感じていらっしゃったんですか。
嶋原:クロスフィールズに来る前は、4年ほど商社に勤めていました。仕事を通じて社会で実現したいことを胸に会社に入ってきても、日々の仕事と社会とのつながりが見えにくくなってしまい、自分の信念や情熱と目の前の仕事を切り離して考えるようになってしまうこともあると思います。こういった課題に対して、新しい機会を提供する仕事をしたいということは、以前から考えていました。留職を通して、派遣者が現地の人たちと課題解決に取り組む中で、心が揺さぶられるような経験ができるといいなと思っています。
石川:そういった想いの積み重ねがあって、有名企業でのいわゆる「輝かしいキャリア」を捨てて、クロスフィールズに飛び込んだんですね。
嶋原:私は、クロスフィールズも輝かしいキャリアだと思っています。所属する組織を前提とせず、自分が実現したい価値ってなんだろう、ということを突き詰めたら行き着いた場所がクロスフィールズだったので。一般的には「NPOで働いている」という話をすると、まだまだ「何をやっているのかわからない」と思われることもあるかもしれません。でも、自分が実現したいことにダイレクトに挑戦できるという意味で、NPOはとても魅力的です。だから、ビジネス経験がある人がキャリアの1つとしてNPOに携わるようにしていきたい。ロールモデルというと大げさですが、自分がそういった道のひとつを築けたらいいなと思っています。
ちょっと新幹線で地方に出張に行くように、新興国を飛びまわる日々
石川:クロスフィールズで実際にはたらいてみて、どんな感想を持たれましたか?
嶋原:入る前と入ってからの印象は大体一致していますが、想像以上にエキサイティングな職場でした。「出張が多い」とは応募要項にも書いてありましたし、それを希望していたのですが、本当に多いですね。入社した翌日にはもうインドにいて、先輩社員のコーディネートしたプロジェクトを横でみていました。クロスフィールズのスタッフは、ちょっと新幹線で出張するような感じで新興国に出かけていくので、以前よりさらに、海外が近くなったように感じます。
石川:どんな時に、やりがいや充実感を感じますか?
嶋原:派遣者に気づきがうまれる瞬間に立ち会えることですね。新興国の現場に派遣された方は、色々とショックを受けたり、困難に直面することがあります。普段の当たり前が通用しなくなるそんな環境下で、様々なことを感じ、深い変化がうまれる瞬間にやりがいを感じます。また、派遣先を探してプロジェクト設計する現地視察もエキサイティングです。現地の事情に不慣れな日本企業と、現地派遣先の橋渡しをするところに責任と、この仕事の醍醐味を感じます。現地の団体のリーダーに会って、「地域社会にこういうインパクトを出したいんだ」という熱意をじっくり受け止め、そこに派遣者を送ることで、現地にポジティブな変化を創出することに貢献できます。プロジェクト・マネージャーは、派遣者・現地双方の変化を間近で感じることができる、おいしい仕事だと思います。
石川:関わる全てのステークホルダーに喜んでもらえるということは、留職の大きな魅力だと思います。ちょっと話は変わりますが、クロスフィールズの職場はどんな雰囲気ですか?
大きな木の机を囲んでの、クロスフィールズの会議風景
プロフェッショナルが力を出し合い、プログラムを進化させていく
嶋原:いつもスタッフみんなで大きな机を囲んで仕事をしていますし、気軽に話し合う関係性ができているので、チームとしての一体感があると思います。カジュアルというと軽く聞こえるかもしれませんが、スタッフ同士の距離が近く、なんでも率直に話し合える環境です。また、個々のスタッフが高いプロ意識と多様なバックグラウンドを持ちながら、自分達がどのようなプログラムを設計すれば最も成果を出せるかを、真剣に考えている職場です。意思決定や業務の進め方にスピード感がありますね。
石川:入社翌日からインドにいって、先輩のケースを横目に見ながら学ぶというのも、素晴らしい仕組みですよね。社員が少ないベンチャーでは、往々にしてOJTという名のぶっつけ本番になりがちな中で、クロスフィールズではトレーニングがうまく仕組み化されているように思います。新しく入ってくる人も安心して活躍できそうですね。
嶋原:知識や経験の共有は、すごく工夫されていると思います。プロジェクト・マネージャーが伴走のプロセスで感じたことが直ぐにスタッフ間で共有され、次のプロジェクトに活きる仕組みができています。
小沼:留職プログラムには、伴走のための「虎の巻」のようなものがあり、形式知化できるものは全て書面に落としています。とはいえ、文章では伝えることができない大切なことがたくさんあるので、そういった暗黙知については、クロスフィールズの立ち上げ時から留職のコーディネートを担っている共同創業者の松島と現地に行くことで、伝承するようにしています。
石川:スタッフが増えても、留職の質が改善し続けるような工夫をされているんですね。やはり留職のニーズが増加していることが背景にあるのでしょうか?
小沼:今まさに、ぐっとプロジェクト数が増えていくタイミングにあります。いま現地では4つのプロジェクトが走っていますが、現在準備中のものが10程度あります。来年度は年間30プロジェクトくらい回していくことを目標としており、これから新しく入社してくるメンバーにも、そこを一緒に担ってもらえればと思っています。
石川:順調に、事業が成長していっていることが伺えます。最後に、クロスフィールズではたらくことに関心がある方に向けて、伝えておきたいメッセージはありますか?
小沼:今、クロスフィールズはすごく面白いステージにいると思っています。これまでは、留職の型をゼロからつくり、それを企業クライアントに受け入れていただく、ということを丁寧にやってきました。結果としていくつかのケースが積み上がり、成果を生み出す方法論と実績とが少しずつできています。その土台をフルに使いながら、更に新しい価値を提供できるような事業を一緒に創っていくことのできるチームメンバーを私達は求めています。そんな創業期のメンバーとして一緒に走っていくことが向いているな、と感じられる方には、クロスフィールズはベストな環境を提供できると思います。 留職を支えるプロジェクトマネージャーを募集しています。 NPO法人クロスフィールズ
<2017年追記>
嶋原さんは2017年現在、ペンシルバニア大学ウォートン校に留学してMBAを取得中。将来的には地元・沖縄に貢献する活動にコミットすることを考えているそうです。
求人・参考リンク
クロスフィールズの"プロジェクトマネージャー"について、現在活躍中の中山慎太郎さん・西川理菜さんに詳しくうかがったインタビューはこちらから。
>>企業人の挑戦に伴走し、新興国の社会課題解決にもコミットする。NPO法人クロスフィールズで働くということ
そして現在求人中の、クロスフィールズのお仕事はこちらから。
>>企業と社会課題の現場に橋をかけ、未来を切り拓く仕事です NPO法人クロスフィールズ
NPO法人クロスフィールズ 共同創業者・代表理事/小沼大地
一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。青年海外協力隊(中東シリア・環境教育)に参加後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。同社では人材育成領域を専門とし、国内外の小売・製薬業界を中心とした全社改革プロジェクトなどに携わる。2011年3月、NPO法人クロスフィールズ設立のため独立。世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shapers Community(GSC)に2011年より選出。
NPO法人クロスフィールズ プロジェクト・マネージャー/嶋原佳奈子
1985年生まれ。沖縄県今帰仁村出身。京都大学総合人間学部卒業。在学中に、フルコンタクト空手に没頭する傍ら、ケニアのマサイ人女性権利保護団体等でボランティア活動を行う。卒業後は伊藤忠商事に勤務し、携帯買取プログラム設計・運営や需給予測の業務に従事。4年間の勤務後、2013年7月よりNPO法人クロスフィールズにプロジェクトマネジャーとして参加。
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