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最高の“道”を求めて旅をする。ラントリップが地域と人をつなぐ未来(株式会社ラントリップ・大森英一郎さん)

2016.03.17 

日本中、どんなに遠い地域であっても、そこにマラソン大会があるのなら飛んでいくのがランナーというもの。はてはホノルル、NYと、どこまでも広がるランナーの旅。

「ラントリップ」ってそういうこと? いえいえ、そんな単純な話ではありません。大会や、記録をこえて、地域の最高の道を楽しむ。そこで出会う人と文化を愛するためのサービスです!

今回は、そんな「ラントリップ」を生み出した大森英一郎さんにお話をうかがいました。 大森さん

株式会社ラントリップ・大森 英一郎さん

つくりたいのは、いい道を求めて旅をするというライフスタイル

- 10年後に向けて、どんな未来をつくりたいですか?

 

ラントリップというカルチャーを広げたいですね。サーファーの方がいい波を求めて世界中旅するサーフトリップというカルチャーは既にあるんですけど、そのランナー版を普及させたい。一つの地域にとらわれずに、いい道を求めて旅をするっていうライフスタイルを普及させたいんです。

ランナーも、マラソン大会をきっかけに世界中を移動する文化はあるんですよ。ただ、僕は大会での記録や順位といった部分にとらわれずに、シンプルにランニングを楽しみながらいい道を求めて旅をするカルチャーを生み出したくて、最終的にはローカルランナーと他の土地のランナーをつなぐことをしていきたいと思ってます。

 

- いい道を求めて旅をする人が普通に身近にいる未来がきたら、ランニングにとどまらず旅という概念そのものが変わっちゃいそうですね。大森さんは、そうやって地域と訪問者のランナーさんをつなげた先に、どんなことが起こると思っていますか?

 

何が起きるかな。とにかく、すごい楽しいと思うんですよ〜(笑)。

 

- 間違いなく楽しいと思います(笑)。この「楽しい」という感覚、なぜか仕事の場面においては「ダメなこと」に分類されちゃう傾向があると思ってます。でも、「楽しい」こそ何かを生み出す一番のモチベーションになるのだと思っていて。大森さんは、どんな「楽しい」をつないでラントリップを思いついたのですか?

 

前は地域活性の仕事をしていたんですよ。その経験から、道が人を呼ぶためのコンテンツになるって地域にとって単純に嬉しいことなんじゃないかなって思ったんです。 あとは、ラントリップを立ち上げていくなかで、実際に自分が知らない土地に行って走るときは必ずその土地のランナーさんを紹介してもらって一緒に走るんですけど、その人が有名か無名かは全然関係なくて、その人の自慢の道を教えてもらって一緒に走ると、すごく楽しいんですよ!

なんでこの道がいいのかとか、普段はこんなこと考えてここを走ってますとか、この道にはこんな歴史があるんだとかを教えてもらったり、走りながら「あの店がおいしいんだよ」とかって会話を交わすと、すっかりその街を昔から知っていたかのような気になるんです。本当は、教えてくれるその人も初対面なんですけどね(笑)。そういうコミュニケーションが世界中で起きたら、ちょっと楽しいんじゃないかなって。 サンセットパームライン

東京都大島町のサンセットパームライン

道さえあれば、どんな場所も旅先になる

- 地域を元気にするお仕事をしていて、地域の人たちの笑顔が大好きになっちゃったんですね。

 

そうかもしれないですね。ガイドブックに載っていないその街の道や魅力って、やっぱりその土地の人しか知らないし、それこそバスや車ではさっと通り過ぎてしまうような場所だったりするんですよ。だから、そこをその土地の人と一緒に走ることで知ることができるんじゃないかなと思ってます。

 

- いきなりぶっ飛んだ想像で恐縮ですが、その土地を知ることは、その土地に住む人を好きになったり大事に思ったりすることにつながりますよね。それが日本中で起こっても嬉しいですが、世界中で広がったら戦争なんてなくなりますね。

 

でしょ?(笑) そう思います、本当に。2020年にはオリンピックがあって、スポーツ好きの訪日外国人の方が増えるわけですよね。例えば僕は神奈川県横須賀市に住んでるんですけど、ガイドブックになんか載ってないけどすごくいい道があって、もしかしたらラントリップを通じて東京ではなくて神奈川の横須賀に泊まるかもしれないし、僕と一緒に走るかもしれない。

つまりは、道さえあればどんな地方でも人を呼べる可能性があるし、外国人の方にとっても本質的な日本の魅力に出会える機会を提供できるんじゃないかなって思っています。 神奈川県横須賀市

横須賀市の「まぼちょく」コース。温泉もあって、ランナーは再入場可です

- 文化の違いなんてもろともしない、コミュニケーションの可能性ですね。

 

そうですね。あとは、僕もランナー現役時代は数字命だったんですけど、走っていて全然楽しくなくって。楽しくなったのは、現役を引退してからでした。市民ランナーの方と触れ合っていて、走ることがすごく楽しくなってきたんですよね。

実際、記録が伸びないとか、誰々より早く走れないとか、すごく悩んでらっしゃる方もいらっしゃいます。それこそ、怪我して、でも記録を更新するために無理して走って、怪我が全然治らない方、うつになるくらい自分を追い込んでしまっている方って本当にいらっしゃるんです。それは、とても不幸なことだと思っていて。数字を追いかける楽しみ方もあって当然なのですが、ランニングは生涯スポーツとして楽しめると思うので、数字以外のモチベーションもあるんだということを伝えていきたいと思っています。

地域が元気になれば嬉しいし、いろんな土地の人たち同士のコミュニケーションのきっかけになれば嬉しいし、走ることに数字以外の楽しみを感じてくれたら嬉しい。大きくこの3つが伝わればという想いから、「ラントリップ」っていうカルチャーを広げていきたいと感じてます。

最初の壁は「アイディアはあるけど、どう実現すればいいの?」

- そうやって広めていったら、走るということが競技としてよりはライフスタイルになっていきそうですね。

 

そう、スポーツとか持久走じゃなくて、ライフスタイルにしたい。

 

- 素敵です。今回の事業化のときに、ぶつかった壁はありましたか?

 

もう壁しかないんですけど、今も壁しかないですけど(笑)。

 

- えええ〜そうですか? なんだか順調そうですが…。

 

いやーーー、壁ばっかでした。なので、何が壁だったかって言われると全部壁だったんですけど(笑)。そもそも僕はインターネットの仕事をしたことがなかったし、それこそ最初は「アイデアはあるけれど、これはどうやって実現したらいいの?」っていう状態で。そこがまずはじめの壁でしたね。

 

- 自分はその技術を持っていないし、体験したこともなかったから落とし込む方法が想像つかなかったんですね。

 

こういうサービスがあったらいいなっていうのはなんとなく想像できますけど、それってどうやるのか、誰に相談したらいいかっていうことがまずわからなかったんです。ウェブエンジニアとかデザイナーという存在も何となくしかわからなかったし、SEとプログラマーはどう違うの?みたいな状態だったんですよね。

 

- その状態から、どうやって始められたんですか?

 

とにかく人に話しまくってました。こういうことやりたい、こういうことやりたい、こういうことやりたい……(笑)。

 

- もう人を選ばず(笑)。

 

はい。とにかく伝えて、誰か紹介してくださいってずっと話してました(笑)。あるときウェブ業界にいらっしゃる方に相談をしたら、エンジニアがいるとよさそうだよっていうことを教えてもらって。「紹介してくださいーー!!」って飛びつきましたね。

最初相談してた方はSEをされてたんですけど、ウェブサイト作れそうだなと思っていたら、信号のシステムに携わってる方で全然違った、みたいなこともありました(笑)。今思えば笑い話なんですけど、そんなこともわかんなかった。 シンガポールのコース

シンガポールでは夜中のマリーナベイをぐるっと周るコースを紹介

どんどん言って、本気で動く

- 人の助けを求めて縁を紡いで、ちょっとずつ形になってきたんですね。

 

そうですね。今も、足りないリソースは人に話しまくって、助けてもらっている感じです。

 

- すごいですね。きっとご人徳があるから、みんな助けたくなっちゃうんですね。

 

いやいやいや、頼りないからだと思うんですけど。

 

- いやいやいや、でも頼れるって大事ですもんね。例えば、いま目の前に10人くらいに自分のアイディアを相談しだしたあたりの大森さんがいたら、どういうアドバイスをされますか?

 

そのまま人にアイデアを話しまくるといいって僕は言うと思いますね。隠す人もいるんですよ、これは自分のアイディアだから温めておきたいみたいな。でも、どんどん言った方がいいと思いますね。あと本気で動けと言います。できたらいいなと思っていると一生できないので、本気で動くっていうところがけっこう大事かなと思いますね。やるかやらないかだけかなって。

 

- 決まった道なんてないですから、手探りでやるしかないですもんね。

 

本当にそうですね。当時の自分に今思い描いてる未来を生み出せるかっていうと無理だと思うし、今の自分にもできないんですけど、たぶんやっていくうちにできる人たちが集まってきてくれるんで、できるんだろうなって思います。

 

- 仲間集めはとても大事ということですね。

 

めちゃくちゃ重要ですね。そう考えると、壁は仲間集めだったって一言でまとめられますね。

 

- 仲間集め自体で苦労されたことはありますか? 自然に集まってきて、その人たちと基本的には馬が合ってうまくいって、広がっていったという感じですか?

 

相手には、自分のやりたいことに本当に共感してくれているかっていうところと、この活動がその人のやりたい未来としっかり一致しているかというところを重要視しています。

僕はけっこう慎重なので、会って「よし、やろうぜ!」みたいな感じではなくて、つかず離れずつき合いつつ、本当にこの人と一緒にやりたいと思ったら強く引き込む感じですかね。バンバン仲間を連れてこれるタイプの方もいらっしゃるので、それもすごいなと思いますが、僕はそんなタイプです。

いくつかの一生懸命がかけ合わされば最高!

- 最後に、自分も将来なにかチャレンジしたいと思っている方に向けてメッセージをお願いします!

 

やりたいことをみつけたいタイプの方にお伝えできることとしては、まず目の前のことを一生懸命やるっていことが本当に大事だと思っています。僕も20歳のときからラントリップやりたかったわけじゃないし、そもそも起業したかったわけでもない。目の前のことを一生懸命やるなかで起業したくなってきて、つくりたい未来が生まれてきたタイプです。

ただこれには一つポイントがあって、おそらく複数やった方がいいんですよね。複数やっていくと、かけ合わせで誰もやってなくて自分にしかできないことができたりする。

 

- 「かけ合わせ」作戦、ワクワクしますね! やりたいことを一つに決められなくて悩んでいる方にも朗報です(笑)。

 

全然一つにしぼらなくていいと思いますよ! おそらく興味があることは全部やった方がよくて、僕の場合は地域活性とランニングを両方一生懸命やったら、それぞれの課題がつながったっていう話だったりするので。若いうちはあまり損得考えずに、やりたくて求められていることだったら、それは全部やった方がいいんじゃないかなって思います。

一方でやりたいことがみえている人であれば、それはやった方がいいと思いますよ。やれない理由って挙げればめちゃくちゃあるんですけど、それこそ僕も未だにやれない理由なんてめちゃくちゃあるんですけど(笑)。でも、やりたいと思っている本人が不安に思っていると仲間って絶対にできなくて、絶対できるってハッタリかましてると、共感してくれる人がいろいろと集まってくるんだなっていうのを学びました。

 

- 巻き込む力は重要ですよね。なんですかね、本気度合いなんですかね。

 

と、思いますね。能力とかではないと思います。最後まで本気で言い続けられるか、みたいな。

 

- それが本当に自分の望みだったら、無理しなくとも自然に巻き込めちゃうのかもしれないですね。

 

そうですね。失敗して苦しいかもしれないですけど、よく考えると別に自分のことなんてあんまりみんな見ていないんですよね。もしかしたら、来年には会社潰れてるかもしれないけど(笑)、それでもやらないで後悔するよりは全然いいですね。

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。