どうしても解決したい課題がある。
自分のアイデアやスキルを事業にして社会に貢献したい。
そういった思いを抱いた時、どう一歩を踏み出せばいいのでしょうか。成功するためのステップやコツなどはあるのでしょうか。
こんな疑問を持ったときに注目したいのが、すでに実践した人たちが伝える経験談。
当メディアを運営しているNPO法人ETIC.(エティック)は、30年近くに渡り社会起業家の支援を続けてきました。その際にできた繋がりを元に、事業をつくる方々の取材を重ねています。今回は、今でも多くの方に読まれている記事から、いくつかをご紹介します。
特に、やりたいことがおぼろげに見えてきた方、それをカタチにするところで奮闘している方に参考になる記事を集めました。一つひとつ、大切な節目に合わせて参考になれば幸いです。
※各記事に掲載された方々の肩書は、掲載当時のものです。
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本当にやりたいことはいつ、どう決める?
まず、起業を決める理由やタイミングについて。そこには何か基準や優先順位はあるのでしょうか。
社会起業家として活躍する5名が語り合ったトークライブで、首都圏の子どもたちに自然体験の場などを提供する認定NPO法人夢職人の理事長、岩切 準さんはこう話しています。
僕は起業する気は全くありませんでした。でも、たまたま困っている当事者と出会う縁があり、「何とかしないといけない」と思い、そのうち事業の継続性や運営の仕組みを考えていくようになったんですね。経営などの知識は後から必要に応じてその都度勉強しました。
「◎◎を勉強したら起業します」みたいに言いながら、何年も過ぎている人がよくいますが、そういう人はこの先もきっとやらないだろうなと思います。
自閉症をもつ子どもと保護者を支援するNPO法人ADDSの共同代表、熊 仁美さんは、学生時代の経験が起業につながったと話します。
私は、学生セラピストとしてこの世界に入ったときに、目の前で言葉が話せなかった子が話せるようになったり、毎日変化があるこの仕事が、とっても楽しかったんですね。今も本当にこの仕事が大好きで、そういう仕事ができる場所がほかになかったから自分で起業しよう、と。手段として起業しただけで、最初にあったのは「この仕事が好きだ」という気持ちだけでした。
こうした言葉から、岩切さんと熊さんの場合は、目の前の人たちとの経験が、自身のやりたいこと、さらに起業につながったことがわかります。
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>> 「スタートアップに無駄なこと、大切なこと」社会起業家5名による、創業期についての本音トークより(1)
予防医療事業や在宅医療事業などを展開するケアプロ株式会社の川添高志さんは、高校生の時に起業を決めました。そのきっかけは家族との経験にありました。
父が大企業に勤めていて尊敬していたこともあり、将来自分は良い大学に行って、大企業に入って出世するというイメージを持っていたのですが、高校1年生のときに父がリストラにあってしまって。それを目の前にして、こんなにあっけなく成功イメージがくずれるんだと思うと同時に、じゃあ自分はどうしようかなといろいろ考えたんです。
その後、祖父の入院もあり高校3年生の時に医療分野での起業を志すようになったと川添さんは話します。
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>> 「すべての人に健康の気づきを与えたい」ケアプロ株式会社・川添高志さん
自身の体験が起業のきっかけとなる社会起業家は多いようです。あくまでも一つの例ですが、川添さんは医療分野での課題をどう経営的に解決するかを、アクションを重ねながら追求していきました。川添さんのように、問いをもってその答えをより突き詰めていくことも、自分の中の軸を強くしていく方法として参考になるのではないでしょうか。
事業を生み出すために必要なこととは?
株式会社OPERe(オペリ)の澤田優香さんは、2020年、スマートフォンを用いて看護師と患者がコミュニケーションを取れるツール「ちょいリク」を開発しました。
患者からのリクエストを看護師の代わりに24時間受け付け、適切なタイミングで支援できるように仕組み化したものですが、事業化まで特徴的だったのがそのスピード。病院へのユーザーヒアリングからプロトタイプ会議、修正、実証実験、レビューまでを2ヵ月という短期間で実現しました。
開発に関わった浜野製作所の山下さんはこう語ります。
通常の他プロジェクトなら半年以上かかる。大きな会社なら1年かかったでしょう。
スピード「感」ではなくスピード。危機「感」ではなく危機。実「感」ではなく実。感ではなく、実体を高速で追い続ける姿は凄い。
コロナという、人類の共通の敵であることに加えて澤田さんが医療現場を理解し、この状況をなんとか変えたいと思っていたから多くの人が協力をした、というよりしたくなる。
このプロジェクトの開発では、山下さんをはじめモノづくりの最前線で働くプロたちが力を惜しみなく出し合いました。その背景の一つには、コロナの影響で「医療業界に何かしたい」という関係人口が増えたことがありました。
「今、この課題解決がどうしても必要」。澤田さんの強い思いと行動力、さらに時代背景といった要素が周囲を動かし、驚異的なスピードへとつながったといえます。
また、澤田さんはこのプロジェクトでの自身の役割について次のように話しています。
技術を持っている “プロ”の人と医療現場の優先度の高い課題を積極的にマッチさせていくのも重要な役割であると認識しました。
実際にまわりの人と協働しながら事業化を進めるためには、課題の優先順位を見極め、人と課題をつないでいくコーディネーターとしての役割も重要になってくることがうかがえます。
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>> 元・看護師の起業家が、コロナ禍の過酷な医療現場を支える爆速プロジェクトを進められた理由とは?―OPERe澤田さんインタビュー
事業を立ち上げた後、最初のお客さんに出会うまで
事業をスタートさせた後は、世の中の人に知ってもらう段階に入るのではないでしょうか。しかし、すぐにうまくいくとは限らないようです。その場合、どうすればいいのでしょうか。
株式会社キズキの代表、安田祐輔さんは、2011年、不登校や中退経験者の方などを対象にした個別指導塾「キズキ共育塾」を始めました。しかし、当時、塾の生徒がまったく集まらなかったそうです。
半年たっても誰も来なくて、「自分がやりたかったことは、ほんとうは社会に求められていないのではないか」と思いはじめ、胃がキリキリする毎日で。人間ってそうなるとなんでもできるもので、ETIC.経由で大学生のインターンが来てくれたので、「大学生が塾をつくった」ということにして、メディアに電話をかけまくりました。取材をしてもらえませんかと。
新聞2社が取材をしてくれまして、そのおかげで最初のお客さんが数人来てくれた。そこでお話をじっくり聞き、どんなニーズがあるかを把握し、そこからブラッシュアップしていきました。一度お客さんができると、そこからニーズがわかるようになるので後はそんなに大変ではなかったです。お客さんとなる人たちにアプローチするには、WEBに力をいれればいいことがわかったので、サイトの内容をどんどん変えていきました。最初は恥を捨ててやることですね(笑)。
女性活躍推進コンサルティングなどを手掛けるスリール株式会社の堀江敦子さんは、設立当初の2010年、大学生が共働き家庭で子育て体験をする「ワーク・ライフ&インターン」を始めました。その際、次のようにお客さんを増やしていったそうです。
1年目は「身の回りから進めていく」スタイルで、知り合いの子どもの誕生会に行って紹介してもらったり、公園にいるお母さんに声をかけていったり、そんなことをしていました(笑)B to Cの場合は口コミで結構広がりますね。子育て家庭には、子どもを預けたいというニーズはもともとあるんですよ。
ただ、子どもを預けることに罪悪感がある方もとても多いです。その際に学生がインターンとしてお預かりに入ると、お兄さんお姉さんとの関わりが嬉しくて子ども達が喜んでくれます。受け入れてくれた家庭は、家族が増えていくように感じ、喜んでくれる。それが口コミで広がっていった、というのが最初のお客さんの広がり方ですね。
記事はこちら
>> 最初のお客さんはどんなヒト? 給料は? 人材の育成はどうしてる? 社会起業家のホンネとシッパイをぶっちゃけて聞いてみた②
事業を広げていくために大切なこと
創業期から成長期へと進む一歩として、継続的に効果を出していくためにどうすればいいのでしょうか。その事業を必要とする人たちに届けていくためには何か必要なことがあるのでしょうか。
2019年3月にスタートした「issues」は、有権者が政治課題を通して地元の政治家とつながり、直接やり取りしながら政策を実現していけるWEBサービスです。開発したのは、株式会社issuesの廣田達宣(ひろた たつのり)さん。
有権者が選挙以外でも政治活動に参加できるこのサービス。政治への新しい参加方法を作った廣田さんですが、「Webサービスとはいっても、やはりユーザーにとって政治に関わることへのハードルはまだまだ高い」とのこと。議員に今まで接したことがないという人が大半で、政治の話を避けてきた人も多いと思われる中、「サービスに触れてもらうのがハードルになっています」と語ります。
しかし、実際に政策が実現すると思える体験があると印象が大きく変わるとも。
ただ、一度使っていただくと、皆さんガラッと変わります。
ユーザーの方の要望に、直接地元の議員さんから『分かりました、その件、議会で提案してみます!』という声が届くと、『マジか!』と。さらにその1、2週間後に『こないだの要望を受けて、◯月◯日の議会で質問しました』と言われたり。『実際に議員さんって動いてくれるんだ』と、感動する方が多いですね。知っている方からしたら当たり前のことなんですが、普通の人にはその感覚がないので、すごく喜んでいただけます。
『issues』を使うと、有権者と議員が本当にまちと暮らしをよくしていきたいという純粋な気持ちでやり取りできると分かって、双方にすごく価値を感じていただけています。
そういう事例を少しでも多くつくっていくというのが、直近では一番注力しているところです。
この廣田さんの言葉から、事業やサービスに込めた廣田さんの思いや理想とするものが伝わってきます。
利用者たちがそれを実感できることで事業は効果を表し、信頼関係が育っていく。その一つひとつを丁寧に繰り返していくことで、さらに必要とする人たちに広く届いていく。そういった目に見えないコミュニケーションを大切にすることで、事業は確実に広がっていくのかもしれません。
記事はこちら
>> 投票でもデモでもない、新しい政治参加の仕方。テクノロジーで社会を変える「issues」の挑戦
成功する前に寄付するーー理想の社会を自分の手でつくるためにできること
この記事を読んでくださっているみなさんは、今、どんな事業を思い描いているでしょうか。どんな理想に向かって動こうとされているのでしょうか。
最後に、ビジネスの力で虐待の問題を解決しようとしている株式会社RASHISA(ラシサ)の岡本翔(おかもと しょう)さんの言葉をご紹介します。
いまは私たちの事業もまだまだ儲かっているとは言い難いんですが、「できるところから始めよう」という思いで、利益の1%を毎月、児童養護施設の支援をしているNPO法人チャイボラさんに寄付しています。
これからもRASHISAワークスを通じて、虐待で辛い思いをした方やその後遺症に苦しんでいる方に、『収入』と『社会との接続の場』をつくっていきたいです。
子どもの頃に受けた虐待の後遺症により心身の不調を抱え、働きづらさを感じている「虐待サバイバー」の方たちの働く場をつくる取り組みをしている岡本さん。創業から1年ほど経った頃から、こうした寄付の取り組みをはじめたとのこと。事業が成功してから寄付をするのではなく、始めから目指す未来に向かって社会のあり方を変えることを目指しながら事業を進め、できることを積み重ねていく方法は、新しい起業スタイルとして参考になりそうです。
記事はこちら
>> 「生きづらさ・働きづらさ」を仕組みで解決。虐待の後遺症に悩む方の働く場をつくる・RASHISA岡本翔さん
ここまでいろいろな分野で事業を展開している社会起業家の方たちの言葉をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。それぞれの記事は、その方たちのストーリーや考え方にも触れられる内容になっています。一つひとつの記事が先に進むための後押しになることを願っています。
社会課題を事業で解決したい方へ
NPO法人ETIC.(エティック)では、社会課題を解決するために事業を拡げたい起業家たちを支援する「社会起業塾」を2002年から行っています。これまで130名以上の社会起業家を輩出しており、現在、2021年度の塾生を募集中です(オフィシャル・パートナー:NEC / 花王(株) プログラム・パートナー:(株)電通 協力:IIHOE)。
大きな特徴は、第一線で活躍するメンターや企業パートナーたちが、事業の実現に向けて伴走すること。
解決したい課題のためにアイデアを温めてきた方、理想の社会をつくりたい方、すでに自分の思い描く世界に向けて動き出している方、ぜひ挑戦してみてください。
(エントリー締切:2021年6月23日(水)正午)
400文字のアイデアから社会を変えるコンテストも
日本最大級の若手起業家の登竜門といわれるスタートアップコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY 2021」(東京都主催、エティック運営)。「東京」を起点に世界を変えるため、アイデアを形にする若い起業家を多く輩出してきました。
特徴は、400文字のアイデアで応募し、審査を通過すれば日本を代表する起業家らをメンターに世界を変えるビジネスプランを作っていけること。アイデア段階・シード期に必要な知識やノウハウを伝授する実践的なビジネススクール、起業の仲間たちとのコミュニティ、また創業期を支えるメンバーらとの出会いの機会や創業資金などが提供されます。
この記事で紹介した株式会社OPEReの澤田優香さんは、「TOKYO STARTUP GATEWAY 2019」のファイナリストです。400字に込めた思いやアイデアが形になる、とてもユニークなこのコンテストに関心ある方はぜひ応募してみてください。
(エントリー締切:2021年7月4日(日) 23時59分)
その他、社会起業家の記事はこちら
>> 【特集】数多くの実績ある社会起業家を輩出—社会起業塾イニシアティブ
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