数年前まではほとんど見かける機会のなかったNPO・ソーシャルビジネスの求人。ここ2-3年でNPOやソーシャルビジネスの事業ステージも上がってきたのか、人材募集の機会も少しずつ増えている印象があります。 しかし、採用の経験をつんでいるNPOはまだまだ多くありませんし、手探りで進めている団体がほとんどでしょう。
今回は、採用にお悩みを持つNPOやソーシャルビジネスの中の人に向けて、「5W1Hで考える採用戦略実践講座」(運営:NPO法人NPOサポートセンター)の内容をお届けしたいと思います! 講師:山元圭太さん(PubliCo代表) 経営コンサルティングファームで主に組織人事分野のコンサルタントとして、5年間勤務の後、2009年4月にかものはしプロジェクトに参画。日本事業統括ディレクターを務め、2014年夏に独立。現在は、株式会社PubliCo代表として、「公益組織」に対するコンサルティング、人材育成、情報発信、調査・研究を行っている。
NPOの採用はラクじゃない!
まず、NPO法人ETIC.が実施した、NPO・ソーシャルビジネスへの就業意識調査を紹介します。NPOで働いてみたいという意欲を持つ人は17%で、社会全体としての認知度はまだまだ少ない。まわりには社会起業家やソーシャルな活動をしている人たちも多いので、社会全体の関心が高いように勘違いしてしまいますが、NPOで働きたい人の母数は多くありません。
また、まわりの転職検討者にヒアリングしてみた結果、採用を考えているNPOにとってライバルが多くなっています。この5年でTABLE FOR TWO、クロスフィールズ、Teach For Japan、ETIC.など、応募を多数集める人気NPOも増えてきています。群雄割拠の時代になっている中で、自分たちの団体ではどうしたキャリア経験ができるか、価値をちゃんと伝えていかないと、採用がうまくいかなくなっています。
<NPO・ソーシャルビジネスに関する20代・30代の就業意識調査(n=1,024)>
5W1Hで考える採用戦略
今回は5W1Hをもとに、採用戦略の考え方を説明していきます。
WHY(何のために?):ミッションは何か?問題解決シナリオは明確か?成果(ソーシャルインパクト)を追及する覚悟があるか?
もし1つでも心の底からYESと言えないのであれば、採用をする段階ではないと思います。ミッションをちゃんと追及する覚悟もないのに、人材採用や資金調達だけがうまい団体は迷惑ですし、採用される人にとってもよくありません。
WHAT(何を採用するのか?):ミッション達成に向けて必要な「人的資源」は何か?フルタイム職員か?理事か?ボランティアやインターンか?
採用をする際、あれもこれもできるスーパーマンを求めてしまいがちですが、そんな人はなかなかいないわけです。でも、組織外に業務委託パートナーを置くこともできますし、パートタイム職員やボランティア・インターンにお願いすることもできる。どういう人的資源を増やすのか、本当に必要な人は職員なのかを考える必要があります。 たとえば、中長期的に理想とする組織図を書いてみてください。
「将来的には、このポジションに、○○さんに入ってもらいたい」というドリームチームを、外部の人材なども念頭において仮想で作ってみる。書いてみた理想の組織図と現在の組織図には、ギャップがあると思います。 そうした人材の課題を解決するには4つの施策がありますが、「外注」・「配置換え」・「育成」→「採用」の順番で検討していくべきです。
外部に仕事を外注して手伝ってもらうとか、内部の人材の配置変更・育成で、解決できることもあるかもしれません。採用は最後のハイリスクな手段です。どこまでいっても良い人を採用できるか・活躍してくれるか・定着してくれるかは分かりませんからね。
WHEN(いつ採用するのか?):ゴールから逆算し、「採用期間」は適切か?「適応期間」は適切か?「育成期間」は適切か?
また、採用には時間がかります。一般的には、告知1カ月、選考3カ月、退職等の入社準備2カ月と、採用で半年間。研修1カ月、組織に適応してもらうのに5カ月で、組織になじんで戦力になるのにさらに半年間。なので、採用戦略は本当は1年前位から考えないといけないのですが、スタッフがいきなり辞めることもありますし、いかに短期化するかを考える必要があります。
たとえば採用において、人材募集の告知をスムーズにするには、自団体の周囲に人的資源の生態系を作っておくことが大事だったりします。NPOで働くことや手伝うことに関心を持っている人の母体を普段から作っておくと、募集の際の声はかけやすい。
元インターンやプロボノとの繋がりも大事です。選考も、有休をとってもらって短期職場体験をしてもらったりすれば、ミスマッチが減るかもしれません。 また、育成においては、マニュアルをまとめたり入社研修をつくるなどして、仕組化しておくことも大事です。業務のレクチャーや、代表の講演などの動画を撮影して、「これを見ておいてね」と採用者に送り、採用側の負担を軽くするなども考えられます。適応時期には、ミニジョブローテーションを行っていろんな事業部を経験してもらったり、営業や講演会に参加させて現場を見てもらうことも大事でしょう。
WHO(誰を採用するのか?):ターゲットは明確か?
ターゲットを明確にするには、ペルソナマーケティングを行ってみるといいと思います。たとえば、採用したいペルソナ(架空の人物像)が外資系企業で働く30歳の人だったとしましょう。その場合、ハローワークに募集を出しても、大企業でバリバリ活躍しているような人は見ません。また、facebookで平日昼間に募集の投稿をしても、会社からは見られなかったりします。
ペルソナを明確にすることで、どういった打ち手をとったらいいかも明確になります。 ペルソナの作り方ですが、まず、仮説ペルソナを団体内で検討します。自分たちが本当に欲しい人材はどういう人で、何を考えている人なのか、どうして転職してくれるのか。
仮説を作った後は、その仮説と似た人に、実際にヒアリングに行きます。 ヒアリングや面接は、まずは現在から過去にさかのぼっていく形で聞いていきます。最初は、今の会社や職業を聞き、何をしてきたのか、何故そうしたのか・・・と質問を繰り返していく中で、本当に大事にしている価値観が見えてくる。その後に、未来について、今後どうしていきたいか、それを達成するためにどうしていくつもりかを尋ねます。
そうしてヒアリングを経てわかったことをもとに、仮説ペルソナのストーリーを作成・更新します。 また、ヒアリングはテストマーケティングの機会にもなります。「卒業生には会社やNPOを起業している人や、企業に転職して活躍している人もいる」という話は食いつきが良いから積極的に紹介しようとか、収入不安・キャリア不安・貢献不安の3つのボトルネック(関連記事:NPO・ソーシャルベンチャーに転職する時にぶつかる3つの壁)を打ち消せるようにしようなど、気づきがあるでしょう。
WHERE(どこから集めるのか?):ターゲットにアプローチできる「マーケット」はどこか?
ペルソナが作成できたら、彼らが沢山いそうなマーケットはどこかを考えていきます。例えば、職員のfacebookの友人かもしれないし、SVP東京や2枚目の名刺、サービスグラントなど中間支援団体コミュニティに顔を出している人はNPOへの関心もあるでしょう。外資系コンサル・青年海外協力隊・ボランティア系のOBコミュニティなども有効なマーケットになりうると思います。
いきなり求人を行うのではなく、これら5W1Hを整理してから、求人票を書いていくことが大事です。後編では、応募者集めや、面接・クロージングといった「HOW」についてもお話しますので、お楽しみに!
>>活躍する人材を見分けるために、確認することは?後編に続きます。
2016年9月現在、山元さんの株式会社PubliCoで、コンサルティング等人材募集中です!
NPO・ソーシャルベンチャーで働く 関連記事
あわせて読みたいオススメの記事
#経営・組織論
#経営・組織論
「NPO経営の本質」とは?カタリバ、フローレンス、ETIC.の事務局長による本音トーク
#経営・組織論
社会が変わるサービスが生まれるヒントは、「ダイバーシティ」にある〜マネックス証券「パートナー口座」のチャレンジ
#経営・組織論
#経営・組織論