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#経営・組織論

組織は「内と外」があるけれど、チームは境界をのばしていける。西條剛央さんと考える、チームをつくる秘訣【その2】

2016.07.04 

第1回目(記事はこちら)では、いま私たちが生きる社会の「組織」の成り立ちを、『進撃の巨人』のストーリーになぞらえて歴史からひもといていきました。続く第2回目では、新しい働き方を探す人たちにとっての社会起業家という存在、そしてインターネットが成熟した社会での「チーム」のあり方に秘められた社会を変える大きなパワーについて語っていきます。

西條さんは現在、「ふんばろう」の経験を基に被災地支援のプラットフォーム「スマートサプライ」を構築、熊本地震においても導入されています。くまモンの生みの親・小山薫堂さんとの対談記事はこちらから>>熊本地震で考える「募金の生きた使いみち」【小山薫堂×西條剛央】

眠れるパワーに火をつける「起業家」たち

西條さん

早稲田大学客員准教授・哲学者の西條剛央さん

西條剛央西條

新しい価値観には気づいたけれど、どうしたらいいのかわからないという状況を生きているひとが、やはり心の病などに罹ってしまうことがあると思うんです。今のままではいけないのはわかっているんだけれど、この仕事を手放して生きていけるんだろうかという不安。次に飛び移ることができる石があれば飛び移るんだけど、それが見えない。

まるであたりが霧に包まれているような状況で。そのような状況のなかでも、勇気があるひとは「えいっ」とまず飛んだあとに石を見つけて、「やっぱりあったじゃないか」って言うこともできるんですが。

宮城治男宮城
その意味では、『チームの力』には「自分で地面は作れるということに、みんなが気づいたらいいよね」という話を書いていただいているなと思っていて。みんな「地面がない」って思っているんだけれど、自分で「そこに地面がある」と決めれば、じつは「ある」。
西條剛央西條
あるいは、「飛び移る石がないなら、船を作ろうよ」というか。
宮城治男宮城
そうですね。おそらく社会起業家たちも、霧の中で「船を作ろう」と能動的になれる人たちなんだと思います。逆に、とてもセンスは進化してる、気づいてしまった一方で、能動的に表現するすべのない人たちが、動き出すきっかけも持てずに引きこもってしまったり、心の病になってしまっていたりする。
西條剛央西條

企業内の組織人としても社会課題に意欲的な人は、「ふんばろう」のようなボランティア組織に参加しにきてくださるんですよ。要するに、自分の生業は別にあるけれど、ほんとうにやりたいことはここで満たす。そうした複数の所属性みたいなところで、自分のアイデンティティーを分散させて満たしていて。

「ふんばろう」がボランティアの人たちにお金を払う必要がなかったのは、ちゃんと働き口をもっている人たちが集まっていたからなんですよね。復興支援はやりたいからやっているのであって、お金を求めていない。しかも本業で成果を上げている人たちだから、すごく力がある。

宮城治男宮城

そうなんですよね。わたしが思っているのは、そうした人々の眠れるエネルギーが、本当に計り知れないということ。社会起業家たちは、その計り知れないパワーにスイッチを入れていく。人々の先導として、先陣を切っていく役割を担っている。けれど実際に本当に大きなパワーをもっているのは、その眠れる人たちなんじゃないか。

別で本業をもっていて、実は眠れる力をたくさん抱えているひとたちが、もう山のように、埋蔵金みたいに日本中にいる。社会起業家たちは、自分一人でその事業をやりとげる人というよりは、眠れる人々を着火させていく人なんだと思っています。

西條剛央西條
そうして広がっていく火はほんとうに、大きな力になりますよね。

チームがタッグを組むと戦力が2倍になるのが、インターネット成熟社会

西條剛央西條
ETIC.のことは以前から知ってはいたのですが、ETIC.出身で、日本初のエシカルジュエリー「HASUNA」を起業された白木夏子さんからご紹介いただくまで、直接お会いするご縁はなかったんですよね。
宮城治男宮城
これまでご縁がなかったことのほうが、かなり不思議ですよね。相当近いところにいたのに。
西條剛央西條

そういうことって結構あります。このインターネットの時代、皆がつながっているように思えるけれど、実は意外とそうではなくて。僕のイメージだと、ネット社会が成熟することで、クラスターがはっきり分かれてきている。

だから、思想的には近しいところにいるんだけれど、両クラスターの間は意外とつながりがないということが起こる。でもこういう状況は逆にチャンスも含んでいると思っていて。そこがつながると、いきなり戦力が2倍になるんですよね。

双方とも眠れる人々に火をつける方法論を持っているし、しかも応援してくれる人もいる。今までは応援してくれる人を足し算で増やしていくしかなかったんだけれど、今は掛け算で繋がっていって、もっと人を増やしていくことができる。

革命を成功させるのは「つながり」

NPO法人ETIC.代表・宮城治男

NPO法人ETIC.代表理事・宮城治男

西條剛央西條
話は少し変わるんですが、マキャベリが面白いことを言っていて。なぜ、革命が成立しないのか。それは、革命の保守派は、全力で全員が既得権益を守ろうとするからだと。たとえば、僕らも自分のカバンを誰かに取られそうになったとしたら、絶対離さないじゃないですか(笑)。
鈴木敦子鈴木
離さないですね!(笑)。
西條剛央西條

でも、他人のカバンを持って逃げていく人を全力で追いかける人は、10人に1人くらいじゃないかと思うんですよね。それと同じで、「こんなことじゃだめだ」と思っていても革命を起こそうとする人は一部だから、どうしても保守派が強くなる。そうマキャベリは言うわけです。

けれどそのときに、「おかしい」と思っているひとたちが大きな志の部分でつながっていって、相互のコミュニティを何倍にもしていくことができたら。それは保守側とか既得権益側の勢力に対抗しうる唯一の可能性なんじゃないかと思っていて。

宮城治男宮城
『チームの力』にも書かれてありますけど、いいチームはきっと壁を越えていくし、必要な人とリソースをつなげていく、あるいは引き寄せていく力があると思うんですね。だからいいチームになればなるほど、そのことそのものが、インパクトの最大化にすごく大きな影響を与える。
西條剛央西條
そうですね。組織には「内と外」があるけれど、チームは趣旨に賛同してくれる人がいれば、境界をどこまでも伸ばせていける。それが、チームの強さですね。

チームの“ゆるさ”が最大のポイント

宮城治男宮城

チームを構成するということは、ある種の主体性や意思決定の力、意志があってチームに参画するという前提がありますよね。そうした前提があるぶん、組織より構成員の主体性が強くなるということはあると思います。

従来の組織だと、やはりお金や目的に一定のたががはめられた状況で個人が参加することになりますよね。本人の持っているエネルギーを組織に合わせていく、依存や受け身で組織に属すことになる。それがチームの場合には、義務感とか強制からでなく、自分がやりたいから、面白いからという理由で意思決定をして、参加していくことができる。そういう関係性、ある種の「ゆるさ」ということが、結果的にインパクトを最大化していく時代なのかなと感じていて。

西條剛央西條
そうですね。たとえば「ふんばろうネパール」は登山家の栗城さんとつながってやっているんですが、それもすごく面白い成り立ち方をしていて。最初にネパール地震後に現地に支援に行こうとされていた栗城さんに声をかけたところ、栗城さんもすぐに『人を助けるすんごい仕組み』(ダイヤモンド社)を読んでくださって「その仕組みをぜひ使わせてください」となり、ノウハウを共有していったんです。巨大災害ごとに共有されたノウハウから、世界中どこからでも支援できるスマートサプライというシステムができていっているんですよ。
宮城治男宮城
すごく面白い。
西條剛央西條

しかも、協力してくれる人が、協力してくれそうな人を良い意味で適当につなげていってくれるんです。たとえば、グローバル企業の幹部と知り合いだから、チームに入ってもらおう、とか。言語の翻訳もどうしようと悩んでいたら、じゃあ友達みんなに声をかけてみようと。それでもう7言語ほど、システムの環境を変えればその言語でみることができるシステムが短期間でできていって。

そうした成果も、みんなが趣旨に賛同してくれて生まれたものです。「素晴らしい」「それに協力したい」「それが実現するなら」って思ってもらえたら、どこに所属しているかなんて関係ないですよね。自分がここに所属しているということを、それぞれの人が自分の強みにするだけで。これまでの組織だと、人間である前に組織人だろうと縛ってくるけれど、それ本当は逆だろうって思うんですよね。

その組織に所属している人間が、組織をリソースとして活用していく。自分はこの肩書きを使ってこれができる、とか。そうなった方が、いい社会を作るという目的からすると、良いはずなんですよね。

『チームの力』のあとがきにも書きましたが、チームの「究極目的」とは何なのか? を問い直さないと、組織の利益の最大化が最上位になって、すべてが狂っていくんです。究極の目的と、そのつど目指した目標が入れ替わってしまうと、すべてがおかしくなってしまう。

永続企業という理念を掲げたときに、はたしてそれは永続を目的にするのか? または社会に貢献するために、社員の幸せや安心といったものに持続的に貢献しつづけるための方法として、永続性を掲げているのか。この一番大事な「違い」が、外から見ると「同じ」に見えるんですよね。すごく似ているから、この違いの区別がつかない。創始者はその区別がついていても、次の代、あるいはその次の代になると、徐々に区別がつかなくなっていく。

鈴木敦子鈴木
なんのために? がなくなっていくんですよね。「そう決まっているから」って、手段が目的になってしまう体制ができてしまうんですよね。そうするともう、体制を動かせない。

第3回はこちら>>人を育てるための「仕組み」は人を育てない? いいチームをつくる秘訣を、西條剛央さんと考えてみた【その3】

第1回目>>いいチームをつくる秘訣を、3.11で3000人とチームをつくった西條剛央さんと考えてみた【その1】

現在、西條さんは東日本大震災時に3000か所以上を継続的にサポートした仕組みから開発した「スマートサプライシステム」を、熊本支援プロジェクトに導入しています。2016年3月には、減災産業振興会主催の「第2回グッド減災賞」で最優秀グッド減災賞を受賞したスマートサプライ。熊本への支援にご関心のある方は、こちらから詳細をご覧ください。くまモンの生みの親、熊本出身の放送作家・脚本家の小山薫堂さんとの対談記事「熊本地震で考える「募金の生きた使いみち」 【小山薫堂×西條剛央】」はこちらから。ご著書『チームの力』はこちらから。
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桐田 敬介

哲学者・遊び研究者/よはく代表。1986年生まれ、埼玉県育ち。大学で哲学理論を作る一方で映画制作や演劇などを楽しみ、大学院では日本各地の面白く豊かで多様な学校を訪れ図画工作と造形的な遊びの研究を行う。現在はベンチャーで勤務しつつ遊びの研究を続けながら、哲学とアートを遊ぶワークショップを運営する団体「よはく」を主催している。