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手触りのあるところから始まる。ネパール発オーガニックコスメブランドLalitpur(ラリトプール)代表・向田麻衣さん【前編】

2016.10.26 

いま、女性にとっての「働くこと」が、わたしたちの祖母・母親たちの時代よりはるかに自由な可能性に満ちてきています。けれども、その多様なあり方のなかに手強いテーマが待ち受けていることは変わっていないのかもしれません。

愛する人と家庭をつくる。子どもを産んで、母親になる。家族の転機で、慣れない場所に移り住む。そんなときに、鼻歌交じりに新しい環境へジャンプできる人もいれば、とまどって苦しんでしまう人もいるでしょう。

「彼女の仕事のつくり方」シリーズは、そんなライフスタイルの変化に女性が自分を合わせるのでも流されるのでもなく、自分が心地よい・楽しいと思う働く状況を「つくる」ことができるのではないかという思いから生まれてきました。自分らしい生き方をつくっている女性たちの世界観に触れることが、みなさんの自分らしい生き方をつくるヒントになれば嬉しいです。

第2回目は、ネパール産オーガニックコスメLalitpur(ラリトプール)代表の向田麻衣さん。高校生だった1999年に初めて訪れたネパール。失業率が40%を超えるネパールで身寄りのない若い女性が仕事を見つけることの難しさを知り、彼女たちが誇りを持ってたずさわれる仕事を創ろうとLalitpur(ラリトプール)を生み出した向田さん。彼女は、どのように仕事を創っていったのでしょうか?

向田さん

Lalitpur代表・向田麻衣さん

森の中の家で育ち、自然を観察して過ごした幼少時代

桐田: 今日はお時間いただきありがとうございます。このシリーズでは、まず皆さんの子どもの頃のお話をうかがうことからはじめているんです。向田さんがどんな女の子だったのか、昔のお話を聞かせていただけますか? 東北のご出身とうかがっていますが。

 

向田: はい、宮城県出身です。それも本当に田舎で、文字通り森の中に家があって、友だちの家まで徒歩で1時間以上かかるような場所で育ちました。だから、学校が終わると家に帰って1人で遊ばなきゃいけなくて。そんな状況だったので、自然をよく観察してました。土とかを見たり。

 

桐田: 土、ですか。

 

向田: そう、土を見たり、葉っぱを見たり、空を見たり、そういうことをやって……この話大丈夫ですか?(笑) 向田さん 桐田: すごく興味深いです! ぜひ続けてください(笑)。

 

向田: それならば(笑)。 そういえば、木で作った柵があったんですけど、その木の皮と本体の間に虫が穴を掘って歩いて、道ができていたんですよ。皮をはぐと道が出てくるんですけど、それが古文書の文字みたいになっていて。耳無し芳一が体に書いたみたいな文字のような、何かの呪文みたいな。「これはすごいな〜」って夢中になったりして。そういったものを観察していました。

 

桐田: 勝手ながら、Lalitpurの世界観に通じるものを感じてしまいます。プロダクトの美しさに、自然の美しさと通じるものがあるなあと感じていたんです。

 

向田: 自然に帰りたい、みたいなところがあるかもしれません。子どものときにそういった環境で育っているので、その方が落ち着くんです。

 

桐田: ネパールに渡航されたのはネパールでNGO活動を行う高津さんのご講演を聞かれてと伺っていましたが、ネパールの豊かな自然に惹かれた部分もあったのですか?

 

向田: いえ、ネパールに関しては特になかったです。そのときはまだ仙台にいたので、コンクリートジャングルに生きていて苦しいとかはなかった。高津さんがお話してくださった環境を見てみたいという単純な興味から、ネパール行きを決めました。

実際に行ってみると、たくさんの自然に囲まれた場所ではあるけれど、カトマンズではいわゆる途上国の都会の大変さがありました。下水が整っていないとか、掃除が行き届いていないとか、舗装されていないガタガタな道に人が密集していたり、古い車が走っているから排気ガスがすごいとか。だからネパールに行って自然を感じたかというと、そうでもないかもしれないですね。 向田さん

自分自身が、たのしいことを。

桐田: 実際にネパールでの事業を生み出すまで、大学・社会人時代とブランクがあったかと思うのですが、そのとき感じたネパールへの思いをずっと忘れずに持っていて、それを形にしたのがCoffret Projectだったのでしょうか?

 

向田: ネパールにはすごく関心があって、いつか関わる仕事をしたいなと思いつつも、なかなか動き出せなくって。高校生のときは何をするのが一番いいのか、自分の中で答えを出せなかったんです。何かすることによって迷惑がかかったり、気軽な気持ちで挑戦できないなと感じたので、距離を置いて、俯瞰していたというのと、いろいろ考えたときにできることの少なさをすごく感じて、私が今できる一番の貢献は私自身がたのしむことだと考えるようになりました。

そこから、私がたのしいときってどういう状態なんだろうと考えたときに、自分が幸せにしたい人たち……家族だったり、近しい友人だったり、そういう人たちが幸せである状態だなと思ったのですが、彼らは私が幸せなことをすごく喜んでくれるから、誰かを幸せにしようとすることじゃなくて、自分を幸せで満たすということを考えるようになって。そこからさらに戻るのですけど、そうして自分自身の幸せを求めていったときに、やっぱり親が幸せだといいな、友達が幸せだといいなと思うことに変わりはなくて、つまりそれは自分がハッピーだと幸せの輪が大きくなっていくということだと気づいたんです。 向田さん そうやって、ぜんぶ手で触って、食べて味をみて、確かめて、納得したことを丁寧に順番にやっていって、自分自身の幸福を求めていった結果、ネパールの女性たちに繋がったというだけ。

そうしていたら10年かかったのですけど、その間にフラメンコをやったり、社会学の研究室で古典を読みあさったり。音楽や脳科学や建築など、自分とは全く違う分野に進もうとしている友人たちとも出会えて、とても刺激をもらえたことも嬉しいですし。ネパールにもう一度行くまでの間に、いろんな経験をして、いろんな人と出会って、それが今の仕事に少なからず繋がっているかなと思います。

言葉にならないけれど、そこに眠っているものをすくい上げる。

桐田: Lalitpurの、経済的な支援に加えての女性の自尊心を回復させていくプロセスの誠実さに感銘を受けたのですが、今のお話はそういった事業のあり方に繋がる部分があるのでしょうか?

 

向田: いえ、このあり方はたまたま行き着いただけで、私は何も計算して動いてはいませんでした。大事なことは、そこで生きている人たちと話をして、話をした中でちょっとずつ立ち現れてきたことをすくい上げることだと思っていて。だから手触りがあるし、そこに温度があって、人の声があって、命があって、文化があって、すごく切実な実像がもうそこにある……確かなものがあるから。

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多分、お化粧であるとか、自尊心の回復の支援以外にもいろんな形があったと思うんですね。

たまたま私は、自分が出会った人たちとの会話の中で、そこが身近に感じられた。けれど、現場の人ときちんと話をしてニーズを聞くことは、本当はすごく難しいことで。なぜかというと、ほとんどの方の場合、自分で自分の欲求を言語化できることは稀だから。言語化できていないけれど、そこに眠っているものを私たちが感じたり、提案できるようになったりというのは高度な技術だと思っています。

私もできているとは思えないのですけど、そこに、できるだけ心を砕こうとは思っていて。 だから、どんな形でもいいと思っているんです。大事なことは、現場の人の潜在的なニーズにきちんと寄り添ったかどうかだと思うんです。手触りのあるところから始まっているか。何に対しても、「触って、手づかみして、むしゃむしゃ食べて」入っていけば、どんな形のものであっても変なことにはならないと思います。それが物質的な支援であってもビジネスであっても、小規模なプロジェクトであっても。そんな気がしています。 オフィスより オフィスより

受け入れることから始まる自由。今この瞬間、この自分で、何をするか。

桐田: 「まずは自分がたのしく、しあわせに」と思われたお話からも、向田さんはとても自然に自分自身である状態で、それは特別なことではなく皆ができることだと思われているのではないかと感じています。自分が自分でしかありえないからこその自由のヒントを、ぜひ読者の方にもお伝えしたいなと思っているんです。

 

向田: 全部受け入れるって、ただ思うだけかなあと思います。色々、どうしようもないですから(笑)。何かを頑張った先に自分を認められる状態になってしまうと条件つきの自己肯定になってしまうので、この瞬間、この自分で、何をするかということ、どう在るかということなのかなと。

これができるようになったら独立しようとか、色々準備すると思うんですけど、それすらも今この瞬間から始まるわけなので。今の自分は何ができているかとか、例えば日本人に生まれて日本語が母国語で、どんなことがすきで、どんなものをみてき、聴いて、食べて、こういう顔のこういう声のこういう体つきで、それら全部を受け入れて、今何ができるかを考えてスタートする、そういう気持ちでいると何でもできるんじゃないかなと思っています。 向田さん 桐田: 個人的には、それは幼いころはできていて、途中からできなくなって、少し大人になってからは年をとるごとに自由になっていくという感覚があります。

 

向田: そうですね。子どものときの方が自由ですよね。大人になるにつれて諦めたり、制限されたり、そういった中でだんだんギューと固まっていってしまったのかな。

 

桐田: そこからどのように殻を脱いで、自由になっていったんでしょうか?

 

向田: まだ途中にあるので、これからだと思うんです。どうしたら良いんでしょうね(笑)。

思ったら、やってみた方がいい。そうしたら、次が見えるから。

桐田: 身も蓋もないですが、おっしゃってくださったように「自由」ということを大事にして生きていくことなのでしょうか。その延長線上なのかは分かりませんが、高校生のころからのエピソードをうかがっていると向田さんの行動力は本当にすごいなと感じるんです。

 

向田: 行動力がすごいとよく言われるんですけど、本当に、意味が分からないんですよね。私の場合はたまたま遠くに出かけているだけで、皆だってご飯を食べにどこかへ行くじゃないですか? お腹が空いたからご飯食べようと同じように、行きたいからその国に行く。皆も行動しているのに、その行動力にただ気づいていないだけという感じがします。

 

桐田: なるほど、おもしろい考え方ですね。ただ、人によってはご飯を食べに行くことは日常で行動に移すハードルは低いけれど、遠く離れた見知らぬ土地に一人で行くことは難しく感じたりと、場所や目的が行動を制限したりすることがあると思うんです。そう考えると、やっぱり向田さんの行動力は特別だなって感じるんです。

 

向田: そうなんですね。確かに、「行動する」ことの方が「思う」ということよりも新鮮かもしれないとも思います。 向田さん 以前イベントにきてくださったメイクの仕事をしている女性から「私も同じことを考えていたので、実はすごく悔しかったんです」と言われて。「何でやらないんですか?」とお伝えしました。

やろうと思うことは一瞬でできるけれど、行動すると景色が実際に目の前に広がって、そこに人々の息づかいがあって、肌の温度があって、笑い声があって。その一連のできごとは、自分がやろうと思っていたときの想像をはるかに超える情報量です。そういうものを感じると、次のアイディアはより独創的なものになるわけですよ。

行動するということはすごくパワフルで、すごく神秘的なことだなと思うんです。思ったらやった方がいい、やったら次が見えるから、小さくてもやろうと思ったことをやればいいんじゃないかなと思います。一つやってみるとその素晴らしさに気づいて、もっとやりたいってなるんじゃないかなって思うから。

>中編、そして後編へと続きます。

 


向田さんは、社会起業塾イニシアチブ(以下”社会起業塾”)のOGです。社会起業塾は、セクターを越えた多様な人々の力を引き出しながら、課題解決を加速させていく変革の担い手(チェンジ・エージェント)としての社会起業家を支援、輩出する取り組みで、2002年にスタートしました。興味のある方は、ぜひチェックしてみてください!

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Lalitpur代表/向田麻衣

高校在学中にネパールを訪問し、女性の識字教育を行うNGOに参加。大学在学中は社会学者 小熊英二氏の研究室にて社会学を学ぶ。2008年8月よりトルコにて6ヶ月間のフィールドワークを行った後、2009年にCoffret Project(コフレ・プロジェクト)の活動を開始。 現在までに約5000点の化粧品をネパール、トルコ、インドネシア、フィリピンに届け、延べ1500人の女性達に化粧ワークショップを通じて女性が本来持っている自信や尊厳を取り戻すきっかけ作りを行う。 2010年からは活動の拠点をネパールに絞り、2012年は職業訓練を実施。2013年5月にネパール発のナチュラル化粧品ブランドLalitpur(ラリトプール)をスタートし、ネパールの人身売買被害者の女性の雇用創出と自尊心の回復に取り組んでいる。 エイボン女性年度賞受賞 ソトコト ロハスデザイン賞 ヒト部門 大賞受賞 第4回ユースリーダー賞 受賞 等

聞き手/DRIVEメディア編集部/桐田理恵

NPO法人ETIC. DRIVE編集部。1986年生まれ、茨城県育ち。大学時代は文芸の研究をしつつルワンダ人とのコミュニケーションを楽しみ、2011年より医学書専門出版社にて企画・編集職に就く。精神医学や在宅医療、緩和医療の書籍づくりを経て、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。

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鈴木 まり子

1988年生まれ。大学卒業後、出版社で4年間編集の仕事に携わり、小学生向けの書籍づくりなどを担当。2016年春から、フリーランスとして編集・執筆・企画の仕事をはじめる。三重県尾鷲市と東京都渋谷区の2拠点居住中。