2018年10月に日本経済団体連合会(以下、経団連)は、新卒予定者の就職・採用活動のルール「採用選考に関する指針」を2021年春入社から廃止すると発表しました。(参考記事)経団連は1997年に「新規学卒者の採用選考に関する企業の倫理憲章」を策定して以来(2013年に「採用選考に関する指針」と名称変更)採用活動の開始日程や公正な採用活動の徹底など、新卒採用を管理していました。
新卒予定者の就職・採用活動のルールが廃止されることで、新卒一括採用や終身雇用など、企業の採用・雇用形態の複線化・多様化が加速することが予想されています。
そのような中、2020年1月より、ロート製薬株式会社 [andBeyondカンパニーチーム]、電通若者研究部(電通ワカモン)、特定非営利活動法人アスヘノキボウ、一般社団法人アスバシ、andBeyondカンパニー、NPO法人ETIC.では「新しい働き方・就職活動を提案すべく、「働き方発明会議」を発足しました。公式ウェブサイトでは、2020年1月から3月の間に各団体で行う「働く」ことをテーマにしたイベントを集約しています。採用・雇用・キャリアの築き方に関する新しい選択肢の存在を提示し、意志を持つ個人や企業を応援する社会全体の意識変革を加速することを狙いに掲げています。
(参画団体・企業)
●一般社団法人アスバシ
●特別非営利活動法人アスヘノキボウ、VENTURE FOR JAPAN
●電通若者研究部(電通ワカモン)
●ロート製薬株式会社 [andBeyondカンパニーチーム]
●and Beyondカンパニー、NPO法人ETIC.
新しい「就職・キャリア」の形を提示する、各社の取り組み
今回は参画団体のメンバーたちによる取り組みの背景についての対談をお届けします。まずは、それぞれの自己紹介からはじめます。
「高卒就職」をアップデートする/一般社団法人アスバシ 毛受芳高氏
「"ライフシフト"のベストセラーに象徴されるように、令和においては、昭和の双六モデルが崩壊、キャリアがより一層マルチトラック化し、そのオーナーシップも個人に渡りつつあります。また、私は、これまで小・中・高・大のキャリア教育に20年以上取り組んできた経験から、若者を取り巻く情報インフラ等の環境変化を感じるとともに、早い段階で社会に羽ばたく"高卒"と呼ばれる若者たちに、VUCA時代を切り拓く大いな可能性を感じ、仕組みの側が変わらないことにも疑問を抱いてきました。本人自身が働いていく中で、本当に学ぶ意欲と準備ができたタイミンングで学ぶと選択肢があっても良いのではないか?と。
"高卒就職“は『一人一社』という戦時中に作られた慣行を始め旧態依然としたガチガチの昭和の仕組みのまま取り残されてきました。 そこで「高卒就職」をアップデートするために、私が代表を務める一般社団法人アスバシをはじめ、高卒採用に関わる複数の民間企業や非営利団体と共に、互いの得意どころを活かしあい、令和時代にふさわしい「高卒就職」を創り出そうと取り組んでいます。各団体の知見・事例を持ち寄りながら、「働く」「学ぶ」「生きる」の多様なかけ合わせが発揮される未来へむけて皆で検討を重ねています。
例えば、アスバシは、高校生へのインターンシップなどの体験教育を提供したり、高卒就職者向けの社員教育を提供したりして、”高卒社員”の能力を高める事業を進めています。”社会で働く”ことは、お金を稼ぐ手段だけでなく、人間性や社会性などの能力を高める機会でもあります。働くことは成長の場と捉えれば、大卒者とは異なるキャリアデザインと成長可能性があるのです。高卒採用の価値を高めることは、高校における進路指導のあり方が変わるだけでなく、もし家庭の経済状況が厳しく大学進学が難しくなった場合などにも、十分にポジティブな選択として就職を選択できるようになります。また、高卒就職人材のもつ多様な才能(タレント)が大事な社会資産としてより活かされることになるのです。」
>連携団体
NPO法人ETIC、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク、株式会社アッテミー、株式会社ジンジブ、株式会社ハッシャダイ
>連携団体による関連イベント 1月29日(水)13:00~(名古屋)、2/10(月)10:30~(名古屋)成長企業が実践する「高卒新人社員の育成術」セミナー(主催:一般社団法人アスバシ) 2月4日(火)19:00~(東京)若者の学歴格差に関する研究会「未来を生きる若者のために、大人が知る・考えるセミナーvol.3」(主催:一般社団法人 スクール・トゥ・ワーク)
中小企業の社長の右腕になるという新しいキャリア提案/VENTURE FOR JAPAN 小松洋介氏
「東日本大震災をきっかけにNPO法人アスヘノキボウを立ち上げ、宮城県女川町を中心に復興支援を始めました。震災後、たくさんの意欲的な若者がボランティアとして東北に訪れました。彼らはとても意欲的で、起業したいという学生も多くいました。しかし、就活の時期になると多くの学生が大企業を目指して就職していくのです。そこには“取り残されるのが怖い"という声が強くあり、大学生にとって新卒一括採用が唯一の選択肢のようになっている状況に違和感を持ちました。
そんな課題意識から立ち上げたのがVENTURE FOR JAPAN(以下VFJ)です。VFJでは、地方から社会を変えるようなスタートアップや中小企業と若者をマッチングして、若者は二年間経営者の右腕になるという取り組みです。その後、若者は起業したり自らの力で道を切り開きそれぞれの道を歩みます。地方のスタートアップや中小企業は世界を舞台に戦ってるケースが多く、大企業とはまた違った学びがあります。多様なキャリアの選択肢として広げていきたいと考えています。」
>現在二期生を募集中!くわしくはこちらをご覧ください。
学生と企業の新しい出会い方をデザインする/電通若者研究部(電通ワカモン) 西井美保子氏・用丸雅也氏
「電通ワカモンは、10年前に電通総研から立ち上がった社内横断型のバーチャル組織です。若者の消費行動やインサイトを掘り下げながら、高校生・大学生を中心に10-20代の若者の実態にとことん迫り、若者と社会がよりよい関係を築けるようなヒントを探るプランニング&クリエーティブユニットです。
近年では採用広報を起点とした若者とのコミュニケーションを改めて見直そうとしている企業が増えてきています。これまでは、ほとんどの若者と企業の接点は大学生の就職活動期間に集中していました。先述している通り、就職活動や採用活動における変革が加速度的に起こっている中で、インターンシップなどを通して採用に関する若者とのコミュニケーションを変えられないか?という企業からの要望が多く寄せられます。紋切り型の採用活動ではなく、新しい企業との関係値づくりが求められています。私たちは”若者からキャリアの未来をデザインする”をテーマに、企業と学生の出会い方にもっと多様性を生み出す仕掛けを目指して活動しています。」
>「失敗人財プロジェクトvol.1 失敗説明会」概要はこちらから(第一回目のイベントは終了)
新しい選択肢をヒラク!いま変わっていくチャンス!/ロート製薬株式会社 [andBeyondカンパニーチーム] 徳永達志氏
「ロート製薬は過去、新卒採用において、エントリーシートをやめて電話受付のみにしたり、面接をやめてみたり、常識の枠を取っ払った採用に挑戦してきました。また、一度退社しても、3年間はいつでも退社時と同等の条件で戻って来れるカムバック制度や、話題になった副業・兼業解禁、社内ダブルジョブ(手挙げ制兼業)などにより、社員のキャリアの多様性のチャレンジを推進してきました。
人生100年時代を迎え、より個の多様性を活かした、自分らしい生き方・働き方への変革が求められています。終身雇用・年功序列の日本の社会システムが綻びを見せる中、新しい社会システムの構築に向けて、企業も考えていかねばならない絶好のタイミングだと考えています。」
>2/18 「1億人のちがいをチカラに変えるHRミートアップ」開催!
意志ある挑戦を応援し合う文化をつくる/and Beyondカンパニー、NPO法人ETIC. 山内幸治・北川幸子
「and Beyondカンパニーは、2020年やSDGsを個人と組織のアントレプレナーシップを解放する契機とすべく立ち上げた、異業種の企業・団体による社会実験プロジェクトです。働き方発明会議は、キャリアに関する意志ある選択を自由に行える社会的雰囲気を醸成していけるよう、賛同企業・団体と連携し、より一層、自由に意志ある選択をできる人が増え、それを応援する人や企業を増やすことを目的に立ち上げました。」
このように企業やNPOなど様々なセクターが賛同して実現した本取り組み。社会的な動向から、若者の意識、10代にこそ必要な体験についてなど、それぞれの立場の考えをより深掘りしていきます。
働き方改革から、働き方「発明」の時代へ
山内/ETIC.「まずは社会的な動向として、様々な企業やメディアと連携する立場の電通さんから見て、採用や雇用、キャリアに関する昨今の流れはどのように捉えていますか?」
西井氏/電通ワカモン「最近、キャリアをテーマにした記事や番組企画の相談を各種メディアから受けることが増えている実感もありますし、社会的に注目されているテーマであることは間違いありません。大学生在学中に正社員として働き始めたり、高校生から起業する若者も増えつつあります。採用やキャリアを軸に多様なセクターが連携し合う今回の取り組みは、重要なことだと思います。
我々のチームで定点的に聴取している”若者まるわかり調査2019”では、「やりたくないことを我慢して続けるのはバカらしい」が78%という結果が出ました。一方で、「自分がやりたい・没頭できるる仕事であれば、時間に縛られずに働くべき」が76%。つまり、“石の上にも三年”という概念がなくなりつつあり、自分の意思に反する時間はナンセンスであるという考えが浸透しているとともに、多くの企業と若者の間では、働くことは自己成長につながるわくわくすることだというコミュニケーションがされていないということです。逆に、働くことにネガティブではない若者の層は、良い大人や企業に出会うチャンスがあった若者なのだと思います。高卒2.0のみなさんが推進しているような、10代のうちからインターンシップができることもとてもいいことだと感じます。」
用丸氏/電通ワカモン「企業と学生の出会い方に多様性を生み出す仕掛けとして、電通ワカモンでは昨年、一般的なアイデア発想型のインターンシップではなく、クラウドファンディングサービスを提供するCAMPFIREさんにご協力いただき、学生ひとりひとりが自らの"ほうっておけないこと"を解決するアイデア実現型のインターンシップを開催しました。年明けには、失敗人財プロジェクトを発足し、企業が一方的に学生に語りかける従来の合同説明会ではなく、学生と企業が互いに「挑戦したけれど失敗したこと」を語り合う「失敗説明会」を創りました。これらは共に、企業と学生の出会い方をデザインすることで就職の選択肢を増やす取り組みですが、働き方のデザインにも挑戦したいと考えています。学生のうちから企業で正社員として働いたっていい。複数の企業で働いてもいい。企業に勤めない働き方も多様化しています。結婚や子育てなど、キャリアに影響を及ぼす変数は、人生単位で多岐に渡るからこそ、これからは会社や組織に縛られず、自ら「働く」の形を創る時代。働き方は、ただ選ぶのではなく、一人ひとりが発明する時代に向かっていくと考えます。」
若者と企業の出会い方に変化を
山内/ETIC.「若者と企業の出会いのアップデートという点に関して、高校生をターゲットに活動を進めている毛受さんや、若者向けにダイレクトに新しい選択肢を提供している小松さんはどうお考えですか?」
毛受氏/一般社団法人アスバシ「大学生で良質なインターンに参加すればするほど、主体的に社会に関わることや働く面白さに気づく若者が多いです。そこにもっとはやく気づいてもらうため、高校にこそインターンシップが必要だと考えています。早い段階で社会との接点が増えれば、その先のキャリア形成はもっと自由になれると思うのです。
また、多くの高卒採用の求人票には作業内容だけが記載され、企業のビジョンやミッションが伝わりづらいものになっています。自分はその企業で何のために働き、どのような成長が見込めるのか?インターンシップや就職活動を通して、様々な企業と出会うなかで、企業をみる目や選択の価値観がつくられてきます。自己開拓していく高卒就職のルートが広がるだけでも、若者と企業の出会い方が変わるのではないかと思います。」
小松/VFJ「VFJでは、出る杭を社会に増やすような、飛び出したい若者向けの新しい選択肢をつくっています。それが、今進めている社長の右腕的ポジションと若者とのマッチングです。新卒一括採用を全否定しているわけではなく、横並びの就職活動に違和感を持つ若者たちの選択肢を増やしたいと考えています。ルールにおさまらなくていい、自由にやっちゃっていい。大学でさっそく事業を起こしてもいい。そういった流れを加速していきたいです。」
ひとりひとりが意志ある選択をできる社会へ
山内「とはいえリアルな声として、道を外すのは怖いという若者はまだ多い気もしています。大学に行かないことにも大手企業を選択肢から外すことにもまだ踏み切れない若者に対して、どのように新しい選択肢を提示できるかもポイントになりそうです。」
用丸氏/電通ワカモン「これまでの日本の就職活動は”就職”というより、あるひとつの会社に所属するための”就社”活動でした。それは就社が"正解"だったからですが、これからは"正解"のない時代。正解/不正解よりも、好き/好きじゃないの感覚を育むことで、自ら伸ばしたいスキル・職能を身につけ、本当の意味での"就職"に向かっていけるといいんじゃないかと思います。」
徳永氏/ロート製薬「世の中が変わっていくスピードは初めはゆっくりです。重い機関車のようなもの。今まで続けてきた一括採用をベースにしながらも、一括採用に加えてあくまでそれ以外の選択肢や可能性を開く必要があると感じています。仕事との新しい向き合い方や自由なキャリアの築き方が広がるためには、若者の意識や行動が変わることに頼るだけではなく、企業側もそれを受け止められるよう変わっていかねばならない、その両面があって加速していくのだと考えます。VentureForJapanのような魅力あるプログラム経験者を受け入れることなどから、始められることはたくさんあります。この取り組みが若者と企業両面の意識改革のきっかけにしたいと思っています。」
まとめ・2020年を、キャリアの形を変えるスタート地点に
多様なキャリア推進の議論が社会的に加速する一方で、具体的な選択肢の可能性についてはまだ広く社会に認知されていません。しかし、すでに一部の大企業やNPOでは、そんな多様なキャリアの受け皿になる取り組みが徐々に始まっています。
人生100年時代における「働く」ことの価値が見直されている今、次世代の社会を築くキャリア開発が盛り上がっています。ETIC./aBCカンパニーではこのキャンペーンを通して、多様なキャリアを後押しするムーブメントを社会に広く浸透させること、自由なキャリアを選択することを社会全体が応援しているムードを高めることを実現したいと考えています。
「働き方発明会議」公式サイトでは、少しでも多くの方々が一歩を踏み出す後押しとなるべく、賛同企業・団体のさまざまな取り組みやメッセージなどを掲載しています。また、本キャンペーンにご参画いただける団体・企業も引き続き募集中です。ご関心のある方は、ぜひこちらからお問い合わせください。
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