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大切なのは、「自分らしくあること」。社会課題を解決するためになぜ「オーセンティック・リーダーシップ」が重要なのか?【連載:「ビジネス×ソーシャル」の協働 第2回】

2018.11.29 633view 

「社会課題を解決しよう」、「新しい社会を創ろう」とする社会起業家にとって、「リーダーシップ」は最も重要なテーマの一つ。では、社会を変えることを実現するにはどんなスタイルのリーダーシップが有効なのでしょうか?本稿では、近年あらためて注目を集める「オーセンティック・リーダーシップ」をキーワードに、人々を巻き込みながら社会を変えていくリーダーシップスタイルについて考えてみたいと思います。

(この連載の第1回記事はこちらからお読みください)

1.「誰かの真似」から脱却し、「自分らしさ」から醸し出すリーダーシップ

「オーセンティック・リーダーシップ」、直訳すると「本物のリーダーシップ」です。ロンドン・ビジネス・スクールのロブ・ゴーフィー名誉教授が、その著書『なぜ、あなたがリーダーなのか?』の中で提唱しているリーダーシップスタイルです。ゴーフィーは、この「本物であること」について3つの要素――①発言と行動が一致している、②常に首尾一貫している、③自分らしくあること――を提示しています。(詳細は下図を参照)

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この3つの中でも特に「③自分らしくあること」が、これまでのリーダーシップ論に抜けていた点である、とゴーフィーは強調します。優れたリーダーは役割を果たす上で「自分の持ち味」を認識し、自身の置かれた状況でその持ち味を活かすことを重視します。そのバランス感覚を持って人と人との関係性に踏み込み、絆を維持して周囲を鼓舞し続ける行動を実践できるのです。

ゴーフィーは「いつ何時でも当てはまるようなリーダーシップ。そんなものは存在しない」という前提に立ちます。そのような「『レシピ的』なリーダーシップ論」を乗り越えて、一人ひとりに合った「自分らしさ」を見つめること、自分の置かれた状況の中で「自分らしさ」を活かすことこそ、他の誰でもない自分自身のリーダーシップを発揮するのに重要である、というのがゴーフィーの主張です。

ここで重要なのは、「自分らしくあること」とは「個人の原点と、目指す目標をつなぐこと」と同義だということです。この「個人の原点」に立脚するからこそ、オーセンティック・リーダーシップは社会起業家にとって特に重要な意味を持つといえます。

なぜ社会起業家にとって、オーセンティック・リーダーシップが重要なのでしょうか。以下では、オーセンティック・リーダーシップが、社会起業家にどんな価値を発揮するのか、そのメカニズムを考えていきます。

2.オーセンティック・リーダーシップを通じて、組織内・外の人々を惹きつける

オーセンティック・リーダーシップは、社会起業家にとってどんな意味があるのでしょうか。まずは、組織マネジメントという観点から、社会起業家にとってのオーセンティック・リーダーシップの意味を考えていきましょう。

「社会課題を解決しよう」、「いまだ実現されていない新しい社会を創ろう」という社会起業家のリーダーについて考えた時、その特徴は、大まかに下図のように上げられます。

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これらの特徴は、上述のオーセンティック・リーダーシップのスタイルと整合しています。つまり、オーセンティック・リーダーシップは、社会起業家の組織を円滑に運営するのに重要な要素であるといえます。

カシミール大学のミル・サイード・サタールの研究では、インドの社会起業家146名への調査から、社会起業のリーダーたちはオーセンティック・リーダーシップを示すことで組織内のメンバーを動かし、外部の人々の巻き込みに成功していることを発見しました。サタールによると、成功している社会起業家は、自身のやること全てを真心から行う人物であり従業員との間に高いレベルの信頼関係と親密さを創り上げます。その結果、従業員たちも高いレベルの熱意と帰属意識を持つようになるというのです。また対外的にも、オーセンティック・リーダーシップを通じて、地域やコミュニティから多くの社会資本(人的ネットワークや知識)を得られていることをサタールは明らかになりました。(Satar (2018))

一般に、社会起業の組織では大企業のように大きな資本や緻密な制度があるケースはほとんどありません。しかし、そんな中でも、内部のメンバーへの求心力を高め、外部とのパートナーシップをつなぐ原動力として、オーセンティック・リーダーシップが機能するのです。その意味で、社会起業の組織マネジメントを考える際、オーセンティック・リーダーシップの考え方はとても参考になるといえます。

3.社会の複雑な課題と向き合うためのリーダーシップ

社会起業家にとってオーセンティック・リーダーシップは、自組織のマネジメントだけでなく、社会課題の解決に挑む場面でも有効といえます。

ハーバード大学院のロナルド・A・ハイフェッツ教授によると、「課題」には2つの種類があるといいます。1つは「技術的課題(technical problem)」、もう1つは「適応課題(adaptive challenge)」です。

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前者の技術的課題とは、すでに解決策が分かっており、既存の知識等で解決が可能な課題のことです。例えば、「自社に適した経営戦略を立てる」、「財務の改善方法を明らかにする」という課題は、専門的な技術(スキル)は必要ですが、その方法はすでに分かっており、既存の知識や手続きを通じて解決することができます。

一方、適応課題とは、人々の信念や価値観、習慣などを変えることを要する課題です。適応課題を解決するには、現状の硬直したやり方を排除し、新しい力を生み出さなければ前進できません。例えば、「今の事業から別の取り組みへ人員・資金を移すことを合意する」、「組織の成長に伴ってメンバーの自主性に任せる方法から、制度を敷いた管理体制に移行する」という場合、人々はこれまで慣れ親しんだ考え方や方法から、新しい環境へ適応することを求められます。このような、人々の考え方やものの見方について変化への適応を要する課題が適応課題です。それは、ある人々にとっては、これまでのやり方や地位、プライド等を失うことを意味し、少なからずの抵抗を生み出すものです。この複雑さゆえに適応課題には決まった正解が無く、問題の当事者同士が解決に取り組むことが必要なのです。

この区別を念頭に置いた時、社会起業家の挑む社会課題の多くは「適応課題」に当てはまることが分かります。そもそも社会課題とは、誰もそれを発生させたいと思っているものではありません。様々な背景の人々が、それぞれの信念やものの見方の中で行動した結果、色んな事情が複雑に絡み合って解決できなくなっているものです。それは、専門的な知識・スキルを用いて「正解」を探し出せば解決する、というものではありません。ハイフェッツは、適応課題の複雑さを下記の4類型にまとめています。

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このような複雑さを持つ適応課題には、課題に取り組む当事者たち自身が、信念を持って粘り強く人間関係に向き合い、人々の価値観や姿勢を変えていく必要があります。このことは、上述したオーセンティック・リーダーシップが適応課題に取り組むのに適していることを意味します(※)つまり、自分の揺るぎない信念を持ちながら、それを実現するために、当事者や利害関係者の状況を見据え、彼らに一貫した行動で働きかけることによって、変化への抵抗を乗り越えることができるのです。

オーセンティック・リーダーシップの考え方は、社会起業家のリーダーたちにとって、複雑な社会課題に粘り強く取り組むための拠り所になるといえます。自分の信念に基づいた粘り強いアクションや一つ一つのプロセスを通じて、社会課題に関わる人々の変化を実現することで、社会を変える大きな影響力を発揮できるようになるのです。

※ハイフェッツは、適応課題に取り組むリーダーシップの形態を「アダプティブ・リーダーシップ」として提示しています。紙幅の関係上、両者の比較については本稿では割愛しますが、アダプティブ・リーダーシップとオーセンティック・リーダーシップはその特徴に共通する部分が多くあります。アダプティブ・リーダーシップの詳細については、ハイフェッツ(2017)を参照ください。

4.リーダーの原点から生まれる「自分らしさ」が、人と社会を動かす

「社会起業家にとって、ミッション・ビジョンが最大の武器」というポイントは、これまでにも様々な場面で言われてきたかもしれません。本稿では、それが、なぜ・どんなメカニズムで武器になるのかについて考えてみました。

組織マネジメントの観点では、オーセンティック・リーダーシップは組織内・外の仲間を惹きつける可能性を持っているといえます。また、社会課題に取り組む場面でも、複雑な適応課題の当事者や関係者に粘り強くアプローチするのに、オーセンティック・リーダーシップの特性は合致しているといえます。

冒頭に述べた通り、オーセンティック・リーダーシップは、誰かの真似を通じて実践できるものではありません。「社会を変えよう」、「新しい社会の姿を創ろう」という社会起業のリーダーたちは、誰もがその志を持つ原点・原体験を持っています。その原体験は、他の誰かに代えが利くものではないはずです。その「代えの利かなさ」こそ、「自分らしさ」を創る重要な要素であり、それがオーセンティック・リーダーシップの端緒となります。

リーダー自身の持つ「原点」から生まれるリーダーシップ。オーセンティック・リーダーシップとは、それを体現するスタイルの一つとして注目に値するものではないでしょうか。

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次回は、社会課題に取り組む組織マネジメントを取り上げます。ソーシャルセクターの組織の「多様性」をテーマに、それぞれの組織にどんなマネジメントスタイルが適しているのか、定量的な実証分析を通じて考えていきたいと思います。

【参考文献】

・宇田川元一(2018)「残業時間が減っても経営が変わらないのはなぜか──組織の「技術的問題」と「適応課題」」https://bizzine.jp/article/detail/2613?p=3 (2018年8月21日アクセス)

・ロナルド・A・ハイフェッツ(2017)『最難関のリーダーシップ――変革をやり遂げる意志とスキル』(英治出版)

・ロブ・ゴーフィー、ガレス・ジョーンズ(2017)『なぜ、あなたがリーダーなのか[新版]――本物は「自分らしさ」を武器にする』(英治出版)

・Mir Shahid Satar (2018) Managing People in Social Entrepreneurship Ventures- Top Two Takeout's from a Doctoral Survey Global Journal of Commerce & Management Perspective vol.7(1):23-25

この記事を書いたユーザー

松井孝憲

松井孝憲

一橋大学法学部卒業、早稲田大学大学院政治学研究科修了。株式会社シグマクシスにて、新規事業立案、人事・人材開発プロジェクト等に従事。並行して2011年にNPO法人二枚目の名刺に参画、2015-16年常務理事として活動。社会人とNPOが協働し、社会課題解決に取り組む「NPOサポートプロジェクト」を運営。本取り組みを企業向けの人材開発プログラムとして立ち上げる。大学との共同研究を通じた副(複)業・パラレルキャリア・越境学習の実証研究も実施。現在、グロービス ファカルティ本部 研究員/(財)KIBOW インベストメント・プロフェッショナルとして、研究・コンテンツ開発に取り組むのと合わせて、社会インパクト投資にも従事する。

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