“あたりまえは、変えられる”
この合言葉を掲げ、「スイッチスタンダードプロジェクト」というプロジェクトを2020年3月から開始したアパレルブランドがあります。
“性別差・身体差の廃止と体験する場所の拡張を目指すと共に、顧客・社会との継続的な関係性を重視した行動を起こすこと”を宣言した同ブランドは、2015年の創業当初から「あたりまえをあたりまえにしない」という価値観のもと、様々な「あたりまえ」の更新にチャレンジしてきました──
- ファッションとしての服ではなく、生活に寄り添った実用品としての服の提案
- クラウドファンディング等のテクノロジーを利用し、本当に必要なものを必要な人に届けるということ
- 店舗に来ることができない人に体験していただくために、47都道府県全てでリアルイベントを開催
- ブランド主導のブランディングではなく、ブランドをお客さんと共につくっていくということ
その名は、「ALL YOURS(オールユアーズ)」。
◆
本記事ではオールユアーズ代表の木村さんを取材しました。「あたりまえをあたりまえにしない」を体現してきた木村さんに、「あたりまえ」というもの、そのものについて、様々な角度からお話をお伺いしました。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の中、ご自身の「あたりまえ」について違和感を感じたり、見直している方も多いのではないでしょうか。みなさんの次の行動のヒントやきっかけになればと心から願っています──
<目次>
- 第1章 : 「あたりまえ」を認識するために──
- 第2章 : あたりまえの中に「違和感」を感じるために──
- 第3章 : 木村さんにとっての「違和感」とは?
- 第4章 : あたりまえを、変えていくためには?
- 第5章 : 「#購買は投票」に込めた想いとは──
木村まさし / 株式会社オールユアーズ 代表取締役
1982年群馬県生まれ。大学在学中より大手アパレル小売店で勤務。そのまま社員となり店長やバイヤー、商品企画などの業務に携わる。その後大手アパレル卸企業に勤務した後、2015年7月にアパレルブランド「オールユアーズ」を設立。2020年より「Switch Standard project」を開始。小さな変化がつくる可能性を模索している。
第1章 : 「あたりまえ」を認識するために──
──「あたりまえ」はその人にとって自然なことであり、認識すること自体が難しいように思います。そもそもとして「あたりまえ」というもの自体を認識するためにはどうしたらよいのでしょうか?
木村 : 「あたりまえ」には2種類存在すると思っています。
- 自分というバイアスで、あたりまえになっていること
- 社会構造というバイアスで、あたりまえになっていること
自分が生きている現代であたりまえに感じていることは、お父さん・お母さんの時代、おじいちゃん・おばあちゃんの時代と比べるとかなり違っています。以前母親の話を聞いて驚いたのですが、母親の小さい頃は洗濯板で洗濯し、鰹節を削って出汁をとっていたそうです。洗濯機もほんだしも当時存在していなかったということです。
今ではあたりまえのことが、実は刹那的で、自分が生きている中で起こっていることに過ぎないという感覚を持っています。
──2つ目の「あたりまえ」についてもお聞かせください。
木村 : 「性差(ジェンダー)の日本史」という展示を以前見に行ったことがあります。「男女の関係にはどういう歴史的背景があったのか」などを知ることができました。
男尊女卑が強調されていくのは武家社会以降だったりします。歴史を紐解くと、卑弥呼が政権を持っていた時代──つまり女の人が政治の中心にいた時代もありました(*)。現代のジェンダーギャップって、歴史の中で、資本主義社会に帰結するまでに強化されていったことであり、実はあたりまえではなかったのです。
(*) 「性差」はいかにつくられてきたのか? 国立歴史民俗博物館で「性差(ジェンダー)の日本史」を見る《美術手帖》
自分があたりまえだと思っていることは、実はその裏側にある構造的な条件からかなり影響を受けています。「その構造をどう変えれば、自分が自然に感じるのか」ということも意識しています。
第2章 : あたりまえの中に「違和感」を感じるために──
──木村さんは「違和感」を大切にしていると伺ったことがあります。あたりまえの中に「違和感」を感じるためにはどうしたらよいのでしょうか?
木村 : 大学1年生の時に9.11が起きました。その様子をリアルタイムにテレビで見ていて、とんでもないことが起こったと感じました。
ちょうどその頃レディオヘッドというバンドが好きで、彼らは反グローバリゼーションと気候変動についての歌を歌っていました。こういうことに警笛を鳴らしていた経済学者・ジャーナリスト・アクティビストなどの本を読むようになり、グローバル化された世界の中で「人の苦しみに自分も加担しているんだ」という感覚が生まれました。
たとえばインターネット。この取材もオンラインですが、インターネットがあることで「お互いに直接会わなくても話が出来ていい」と感じるかと思います。しかしどこかのサーバー上で処理され、熱を持ち、冷却するためにエアコンが使われています。インターネットを使っていても気候変動や地球温暖化に結びついている──レディオヘッドが好きだったことをきっかけにこのようなことを学びました。
そこから、誰かへの直接的な行為が──良いことでも悪いことでも──巡り巡って、「その他の人に対しても、どんな影響が与えることになるのか」ということを考えるようになりました。あたりまえの中に違和感を感じるために、「自分がどの範囲まで想像力を持てるのか」ということが大事だと思います。
これを商売的に言い換えると、「三方よしを実現するためにはどうしたらよいのか?」ということです。1対1の関係性だけが「よし」になる状況は比較的簡単に作ることができます。しかし裏方の人々や社会まで「よし」になる状況を考えてみると、歪(ひず)みが発生してしまうことがあります。
「自分が行動することによって、第三者にどんな影響があるのか」という想像力と「それをどうやって調和できるのだろうか」という試行錯誤も大事だと思います。
第3章 : 木村さんにとっての「違和感」とは?
──木村さんにとって違和感とは何でしょうか?
木村 : 最初の段階からお話していきます。
まずはオールユアーズという会社を設立した時のことです。アパレルというのはそもそも、トレンドから落とし込まれた価値観、つまり業界が作った価値観をみんなで模倣していく商売です。しかしそれって「自分が選んで着ているのか、着させられているのか分からないな」と疑問に思いました。
アパレル産業があたりまえにしていることがそれであれば、「自分たちのユーザーさんがいいねと言ってくれるから、オピニオンが形成されていく」「ボトムから積み上がっていくやり方ってできないのかな」と考えたのが最初でした。
「トレンドや洋服の良い悪いは、誰が決めているのか?」というのが最初の問いでした。
オールユアーズを創業したお二人。左が原さん、右が木村さん。
──次の段階もお話をお聞かせください。
木村 : 続いてクラウドファンディングに挑戦する時のことです。
当時ファッションの中で、クラウドファンディングをやるブランドはダサいと思われていました。ちなみに今はその価値観もかなり変わってチャレンジしている人たちもいます。別にその人たちが良いとか悪いとかという話ではありません。
「ボトムから積み上げていく」「ユーザーさんがいいと言っているから、だんだん世の中としていいものになって、社会性を持っていく」という考えだったので、従来のファッションみたいに販売するより、クラウドファンディングの方が自分たちのスタイルに合っていると思い、挑戦しました。
2015年12月にクラウドファンディング初挑戦。2017年5月からはクラウドファンディングで「24カ月連続プロジェクト」に挑戦。《CAMPFIREサイトよりスクリーンショット撮影》
──現在はどんなことを考えていますか?
木村 : ジェンダーギャップ・ジェンダーバイアスが課題と世の中で言われている割に、洋服の選び方の入り口がそもそもメンズ・ウィメンズというジェンダーで分かれていること自体に違和感を感じました。そこで2020年からオールユアーズではメンズ・ウィメンズで分けるのをやめました。
着心地が良い服をオールユアーズでは作っているのに、その着心地の良さを体感できない人がいることにも不自然さを感じました。サイズレンジで弾かれてしまっている人や産業構造の中で排除されてしまっている人がいるのではないかと。
たとえば身体が小さくて、もしくは大きくて、選ぶ服が限られてしまっている人たち。そこで同じく2020年からオールユアーズではサイズレンジをさらに広げました。対応できていない人たちがまだいることが今後の課題でもあります。
しかし、それでもまだ違和感があります。
服を企画している人や服のブランドを経営している人の中で──自分たちも含めて、自己反省的でもあるのですが──車椅子に乗っている方や、身体が不自由な方を見たことがない人が多いのではないかと。自分たちの輪の中にそういう方々がいなかったら、「車椅子に乗っている人や、身体が不自由な人が、着やすいと思ったり、めちゃめちゃいいと思ったりする服は多分作れないな」と思いました。
その現状を不自然に感じるようになり、「オールユアーズのレギュラー商品が、そういう人たちにも対応している商品になったらいいな」とリサーチを始めているところです。
このような感じで、世の中に対する違和感が自分の中でだんだん進化してきました。
東京・池尻大橋にあるALL YOURS STORE(直営店)。現在はコロナ禍で「事前予約優先制・1時間1組のみ案内」で、安心して製品をご覧いただけます。
第4章 : あたりまえを、変えていくためには?
──あたりまえを変えていくためにオススメの方法はありますか?
木村 : もし何かに違和感や関心を持った時、「自分が簡単にできることに落とし込んでみたら、どんな行動ができるのか」を考えることが第一歩です。
環境問題に関心がある場合、たとえば「ペットボトルを買わない生活をしてみたらどうだろうか」「ビニールゴミが出るものを買わない暮らしをしてみたら、自分の生活はどうなるんだろうか」ということを実践してみてください。
あたりまえを変えていくためのアクションとして、一歩踏み出しやすい方法だと思います。
──ご自身の生活で実際に試しているものはありますか?
木村 : 「動物性の食べ物をなるべく食べなかったら、自分の生活はどうなるんだろうか」ということを実践しています。味噌汁や煮物をいざ作ろうとすると鰹の出汁が入ってしまっているなど、普段の料理が難しくなりました。ビーガンになろうと思ってやっているわけではありませんが、こういう大変さも抱えながらビーガンの人は生活しているんだなぁと感じました。
「ビニールゴミを出さないようにする生活」も試しています。スーパーで販売されている野菜のうち、かなりの数がビニールに包まれていて、これも難しいことがわかりました。
──自分の身近なところからでも気づくことがたくさんありますね。
木村 : 「自分が行動することによって、第三者にどんな影響があるのか」まで想像力を働かせることもたしかに大事です。しかしそれ以上に、違和感や興味を感じた時に「自分で実際にやってみること」「自分で実際に感じてみること」が大事です。
たとえ1週間でも3日でも1日でも取り組んでみると、「他者がどういう感覚で過ごしているのか」の片鱗について自分なりに触れられるようになります。
──「自分の小さなアクションが、大きな課題の解決に繋がっているのか」ということを考えすぎて、行動に移せず葛藤している方々もいる気がします。アイデアやコツはありますか?
木村 : 「面白がる」ということを大事にするとよいのではないでしょうか。
不謹慎な言い方になってしまうかもしれませんが、「生活の中でゲームっぽくしてみる」ということです。「ビニールに包まれているものを買わない生活をしてみるとどうなるのか」というのは、私もゲーム感覚で実践しています。
「ビニールに包まれている商品をどのぐらいだったら買ってもいいかな」と継続していく中で考え始め、「ここまでだったら生活できる」「ここまでいくと無理だな」というラインが最終的に出来上がります。
たしかに背景にある課題を大きく捉えると、「自分が行動しても、解決には繋がらないのでは」「どこから手をつけたらいいのかわからない」など考え込んでしまいます。しかし、自分のやっていることが巡り巡って色々なところに影響を及ぼしていることを踏まえると、「身の回りの小さなことで、何からトライしてもいい」と思います。
そしてもし面白いと思ったら継続してみてください。もし継続が難しそうだったら別のことにトライしてみてください。少なくとも1つ1つのアクションが学びになります。小さな行動がきっかけで、「実は自分もそう思っていたんだ」という人が周りに出てきて、その輪が徐々に大きくなっていくこともあります──
第5章 : 「#購買は投票」に込めた想いとは──
──ご自身のSNSで「#購買は投票」(*)と発信されています。「#購買は投票」も1つの小さなアクションだと考えられますが、いかがでしょうか?
(*) 「選挙の一票のように誰を支持しているか?を能動的な行為として捉えたお金の使い方を考えていきたいと常々思っています」とご自身の投稿で語っています。
木村 : はい。先ほどまでの話にも繋がっていて、「興味あることに対して、簡単にアプローチできること」です。たとえば「自分が応援しているもの・すごくいいと思うものを買う」「ビニールに包まれているものを買わない」というのも、それぞれ投票であると考えています。多分、一番手軽にできる小さなアクションです。
買うという行為は、大きく捉えれば、「その人たちを資金で援助すること」でもあります。「自分の意志でお金を使う、という行為をした人たち」は投資家と同じであると考えています。
──興味深いですね。投資家と同じであると捉えると、どうなっていくのでしょうか?
木村 : 自分が小さい投資家だという意識を持つと、お金の使い方が変わります。お金の使い方が変わると、お金の巡り方が変わります。お金の巡り方が変わると、そこで支持されている人たちがもっと活動できるようになります。
応援したい人たちに対してお金を使う行為は、「もっと新しい可能性にチャレンジしてくれるんじゃないか」「もっとこうだったらいいのにと思っている世界に近づけてくれるんじゃないか」と思っていることに対して直接的に応援する行為だと思っています。
「#購買は投票」は、応援したい人たちに希望を託すように、最初に始められる小さな可能性です。
──他にはどんな可能性を感じていますか?
木村 : 同じものが、様々な場所で・様々な価格帯で手に入る中、「自分はどういうお金の使い方をしますか?」ということだと思います。
「こうだったらいいなと思っているところに、実際にアクションを起こす人たちが出てきた時に、お金を気持ちよく使える余剰分を持っているかどうか」ということが、豊かさを考える上で大事な要素であり、そのための倹約・節約はとてもいい行為だと私は思っています。
これは所得が多い少ないの話ではありません。「これ本当に必要なのか?」と考えた時に、実は要らないものってたくさんあるじゃないですか。それらを買わないことで、応援したいところに使うお金としてプールできます。こういう生活が実現できると、心の充足感としての幸せが感じやすくなるのではないでしょうか。
「違和感を感じるためには?」という冒頭の質問に戻りますが、「#購買は投票」という考え方のもと、自分がいいと思うところにお金が使えると、その人たちが違和感について教えてくれると思います。
なぜなら、その人たちは、あなたが感じたその違和感を先に感じて、先に活動しているからです──
──木村さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!
取材後記
「あたりまえ」だと認識していたことや、「あたりまえ」だと認識していることすらも忘れてしまうほど「あたりまえ」に考えていたことが、ちょっとしたきっかけで大きく変わってしまう現代において、大切にしていきたい「違和感」──
「シンプルに自分らしく生きるためのヒント」をいただいた気がしました。
◆
さて最後に2つご紹介して、この記事を終わりたいと思います。
ALL YOURSのロゴに込められた思い、それは──
すべては「あなた中心」であること。
ALL YOURSの姿勢がそうであるように、このロゴもまた「常にあなた(U)が中心」にあってその立ち位置が決まります。ゆえにその位置は、時に世界の中心からズレているようにも見えますが、大切なのは世界の中心でも自分中心でもなく「あなた中心」であること。
ALL YOURSのロゴは、いかなる状況においても「使う人が中心」の精神は変えずに「発想や創造」は柔軟に変化していく、いわば「変わらずに変わり続ける」ことができるかたちです。これからもALL YOURSが「人」や「生活」に寄り添ったワクワクするものを生み出してくれることに期待して、彼らの姿勢の体現を試みました。
グラフィックデザイナー
田久保 彬(TAKUBO DESIGN STUDIO)
《ALL YOURS「ロゴに込めた思い」より抜粋》
◆
もう1つは、「ALL YOURS magazine vol,1」という書籍──木村さん初の著書で2020年に出版されました。
私も拝読。思考するための「余白」を感じられ、居心地よかったです。
もし木村さんのお話に興味を持った方は、ぜひ一度チェックしてみてはいかがでしょうか。最後まで本記事をお読みくださりありがとうございました。
著者 : 木村まさし
発行 : 青山ブックセンター Aoyama Book Cultivation
“「雑誌と書籍の間」にあるような形態を意識し、写真あり、インタビューあり、対談あり、まだ答えの出ていない問いがあったり、私たちの現在進行形が書かれています。だから本のタイトルに「magazine」という題名をつけました”
※本記事の掲載情報は、2021年3月現在のものです。
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