「食べ過ぎの先進国」と、「食料不足の途上国」をつないで食の不均衡を是正し、双方の健康改善を目指すTABLE FOR TWO International(テーブル・フォー・ツー・インターナショナル、以下TFT)。
今回のインタビューでは、代表理事である小暮真久さんに、TABLE FOR TWOという取り組みにこめた想いや今後の展開、そして小暮さんの仕事観などについて、幅広くインタビューしました。前編に続く本稿では、小暮さんが社会起業家という生き方に至った背景や思考の遍歴について送りします。
<写真:TABLE FOR TWO International 代表理事・小暮真久さんインタビュー風景>
「世界平和に貢献する人になってくれたらいいな」
石川:小暮さんがなぜ「社会起業家」あるいは「ソーシャルビジネス」という世界に興味をもったのか、教えていただけますか。大学以降のお話は、書籍でも度々ふれられていますが、それ以前に、何か印象的な出来事などがあったりしたのでしょうか。
小暮:僕には、小さい頃にアフリカにいたとか、何か衝撃的な場に立ち会ったとか、そういったわかりやすい原体験はありません。ただ、思い返してみれば、小さい頃から母親に「世界平和に貢献する人になってくれたらいいな」と言われていました。子ども心にはよくわからないので「何を言っているんだろう、僕はサッカー選手になりたいのに」と思っていたのですが、やはり刷り込みというのはあると思います。僕は大学で人工心臓の研究を通して社会に貢献するという道を選んだのですが、そういった選択にも潜在的に影響していたのかもしれません。
石川:幼少期の何気ない親からの言葉は、意外なほど後々にまで影響を及ぼしますね。
小暮:はっと「それが自分の原点だ」と思ったのは、TFT以前に企業で働いていたときです。その時の自分は不完全燃焼で、フラストレーションがたまっており、「今後自分は仕事とどう向き合っていくべきだろう」と30半ばにして悩んでいました。その時、自分のルーツに立ち返り「自分ってなんだろう」と考えた時に、「世界平和に貢献する人になる」という言葉が思い浮かんだのです。そして、その時の自分はそこからすごく遠い所にいたので、一度ルーツに戻ろうと思ったところから、色々なことがとんとん拍子に広がっていきました。
石川:僕自身もふりかえってみれば、親の口ぐせが良くも悪くも自分の性格に多大な影響を与えているように思います。ちなみに、その精神が「社会起業家」というキーワードとつながったのは、いつ頃のことなのでしょうか?
ビル・ゲイツだって、おもしろいから社会貢献をやっている
小暮: それは、アメリカで勤務していた時です。当時はマッキンゼーというコンサルティング会社の仕事でNYに赴任していたのですが、僕が滞在していた2000年の前半から中盤というのは、すごい勢いでソーシャルアクションがアメリカに広がっていった時期でした。そこで活躍するNPOやNGO、そしてソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)をみて、「このムーブメントは面白い!」と思ったのです。
石川:アメリカには慈善事業の長く深い伝統があると思いますが、小暮さんが目にしたものは、それらの伝統的なNPOとは異なるムーブメントだったのですね。
小暮:昔と変わらない伝統的なNPOであったら、マッキンゼーの同僚はさほど興味を持たなかったでしょう。今回のムーブメントが過去と異なったのは、「世界を本当に変えていく」というビジョンがあり、ビジネスのスキルを用いて活動を持続的かつスケールさせていく、という点にあったのだと思います。だから、そういったところに転職したり、事業を立ち上げたりする同僚が次々に現れたのでしょう。
石川:アメリカのマッキンゼーの方々は、プロボノ(スキルを活用したボランティア)ではなく、仕事を辞めて転職していったのですか?
小暮:そうです。今はエスタブリッシュメントになっていますが、当時はビル・ゲイツが財団を立ち上げたことが大きなニュースになっていました。「あのビル・ゲイツが、非営利事業をやるの?」と。そこで働くことになった同僚もたくさんいましたね。
石川:彼らがそこに飛び込んでいった理由は、何だと思われますか?
小暮:やっぱり、仕事としておもしろかったんでしょうね。アメリカのマッキンゼーのプロボノサービスはとても充実していて、多くの同僚がそこで非営利事業に携わっていました。そういった活動に取り組む中で、やりがいやおもしろさに気づいたのでしょう。
関わる前は未知の世界ですが、中にはいってみるとビジネスとさほど変わらないということもわかります。それにわかりやすくいえば、そもそもそれが面白くなかったら、ビル・ゲイツはマイクロソフトをやめていないと思います。
石川:なるほど、そうですね。笑
小暮:そう、こっちのほうがおもしろいと思ったから、ビル・ゲイツは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団(Bill & Melinda Gates Foundation)をやっているわけです。だから、仕事というか、「やること」として圧倒的に楽しいのだと思うんですよ。僕も実際TFTをやっていて楽しいですし、僕の当時の同僚にとっても、「楽しい仕事をしよう」という、シンプルなことだったのではないかと思います。
<写真:シュワブ財団 世界経済フォーラム「アジアを代表する社会起業家」賞>
自分と仕事が合致しているから、アイデアが次々に出てくる
石川:それでは、TFTをつくるという段階での心境の変化というか、この選択を小暮さんがどう捉えていたか、というお話をうかがってもよろしいでしょうか。
小暮:僕にはあまり心理的なハードルはありませんでした。「よし、今日からNPOだ・・・!」みたいな気負いはなかったです。振り返ってみれば、僕の場合は、近藤正晃ジェームスさん(TABLE FOR TWO共同創設者)という先人がいたということが大きかったですね。同じくマッキンゼー出身の近藤さんは、医療分野のNPOをやっています。その彼がマッキンゼーで培ったスキルを活かしつつ、活躍されていたので。
石川:よいロールモデルが身近にいたのですね。
小暮:そうですね、それにソーシャルセクターに転職していった米国マッキンゼーの同僚たちの影響も少なからずあったと思います。あとは、大企業で働いていたことへの反省として、「もう大きな組織での仕事はやめよう」と思っていたことが大きかったです。これからは、「何か新しいものをつくる仕事をしよう」と心に決めていました。
石川:TFTをはじめて、小暮さんご自身に何らかの変化がありましたか。
小暮:やっぱり、本当に自分はこの仕事に向いているのだな、という感覚ですね。何をしていても、新しいアイデアや事業プランが次々に浮かんでくるんです。それはやはり、自分の人生と、TFTのミッションが合致しているからだと思います。
石川:小暮さんの自然なあり方と、日々の仕事が合致しているのですね。
小暮:そうですね。あと、この仕事の一番の魅力は、色んな業界の色んな人に会えるということです。時々、僕が日本で一番多様な人たちに会っているのではないかと思うくらいですね。
石川:前職でも相当に幅広い方との交流があったかと思うのですが、それ以上に様々な人たちと出会うということでしょうか。
小暮:それはもう格段に。コンサルティングファームや企業に所属していると、幅広いといっても、基本的にはビジネスセクターの人たちとのやりとりが多いです。同じような人たちと、同じような仕事をしていると、話の幅もある程度限られてしまいますし。僕はソーシャルセクターを起点に、世界中の人々、それも学生からエグゼクティブまで、幅広い人たちと仕事をすることができる幸運なポジションにいると思います。
<写真:TFTオフィスの仕事風景>
TFTで大切なことは、人の感性に訴え、共感してもらうこと
石川:プライベートでは、いかがですか。
小暮:家族との時間を大事にしていますね。経営者という立場になると、会社が決めたルールというものがなくなります。だから、その気になればいつまでも働ける。でも、僕は父親が忙しくてほとんど家にいなかったという自分の体験もあって、自分の子どもたちとはなるべく多くの時間を一緒に過ごしたいと思っています。
石川:仕事と家族のどちらも、犠牲にしないと。
小暮:僕はけっこう欲張りなので、両立させたいと思っています。だって、家族から見たら「仕事が忙しい」というのは、単なるエクスキューズじゃないですか。
石川:おっしゃるとおりです。
小暮:それに、僕はアフリカをまわる中で、「病気で親が亡くなってしまった、もっと一緒に遊びたかった」という多くの子どもたちと出会いました。親に甘えたいけど甘えられない、という子どもたちが、世界にはたくさんいます。だからこそ、そういう幸せを大切にしたいという思いがあります。
石川:現在TFTではコアメンバーをリクルーティング中ということですが、新たに加わるかもしれない方々に伝えたいことはありますか。
小暮:「一生懸命やりたい」という情熱のある人がいいですね。僕らもベンチャーですから、強い想いをもって仕事に取り組む人が絶対に必要だと思っています。加えて言うなら、家族や友人を大切にする人であってほしいですね。僕らの仕事は「人の命を救う」ことです。ですから、人に無関心なロボットのような人には向かないと思います。
石川:TFTのミッションや人に対する深い共感があり、かつ自らビジネスを提案・実行できる起業家的な方ですね。
小暮:TFTの仕組みはシンプルでわかりやすいですが、「仕組みがいい」というだけでは、人を動かして新しい仕組みを世の中に広げていくことはできません。目の前の人や、その先にいる人の感性に訴え、共感してもらえるかどうか。「この人と進めていきたい、応援したい」と思ってもらえる魅力ある人かどうかが大切だと思います。
石川:ありがとうございました。小暮さんが感じている、プロフェッショナルな事業運営の中にある楽しさを、新たなメンバーとも共有できたら素晴らしいと思います。また、新たな展開についてお聞きするのを楽しみにしています。
NPO法人TABLE FOR TWO International 代表理事/小暮真久
1972年生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、オーストラリアのスインバン工学大で人工心臓の研究を行う。 1999年、同大学修士号修得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社へ入社。 ヘルスケア、メディア、小売流通、製造業など幅広い業界の組織改革・オペレーション改善・営業戦略などのプロジェクトに従事。 同社米ニュージャージー支社勤務を経て、2005年、松竹株式会社入社、事業開発を担当。 経済学者ジェフリー・サックスとの出会いに強い感銘を受け、その後、TABLE FOR TWOプロジェクトに参画。2007年NPO法人TABLE FOR TWO Internationalを創設。
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