今回のコロナ禍で、はじめて寄付をしたという方もいらっしゃるかもしれません。本記事では、個人で寄付したときにどうなるか、はじめて寄付して寄付控除を利用する人向けに、事例を基に方法をご紹介していきたいと思います。
寄付控除(寄付金控除)って何?
寄付控除(寄付金控除)は、寄付した人の税金(所得税と住民税)を安くします、という制度です。 もう少し具体的にいうと、認定NPOや、国、自治体、社会福祉法人や学校法人、公益法人等、特定の公益目的の団体・活動に寄付した人に、 所得税では、
(年間の寄付金額-2,000円)× 40% *1
住民税では、
自治体により最大10% *2
の負担が軽減されるものです。
例えば、年収500万円の場合、1万円寄付すると、所得税から4200円、住民税から最大800円が減税されます。給与所得者の場合、減税を考慮せず、すでに所得税や住民税が支払われているので、 必要な手続きをすると、4200円が還付され(所得税)、最大800円が翌年の住民税から減額される形になります。
*1:こちらは、「税額控除」という計算方式です。 別途「所得控除」という計算方式を選択することもできます。 高額所得者の場合、寄付額によっては所得控除の方がお得になる場合があります。 少し計算の仕方が複雑になりますので、ご関心の方はリンク先の解説事例をご覧ください。
(2)寄付金控除のしくみとルール ~こんな人ならこれだけお得 / 認定とろう!NET
*2:自分の場合はどうなるか気になるところですが、知るためには、都道府県、市区町村が条例で定めているかどうかそれぞれ確認する必要があります。最大で10%で、国税と別の手続きは要らないのでとりあえず無視して、あったらラッキー、という風に捉えてもよいかもしれません。ご関心ある方は、2011年11月時点の状況は、 各自治体の寄付金に関する税制(「3号条例」)指定状況一欄 / 認定とろう!NETで確認できますし、 「個人住民税 寄附金税制 ●●●(お住まいの自治体名)」で検索すると、大体ヒットします。
寄付控除を受けるためには?~領収書保管と、確定申告
認定NPO等の公益法人に寄付したとき、この寄付控除を受けるためには、以下2つが必要になります。
①領収書(寄附金受領証明書、受領書)の入手 (寄付したとき)
②確定申告 (2月中旬から3月中旬)
概要を把握したところで、具体的なケースでみていきましょう(ケースは、実例を基にしたフィクションです)。
2020年10月時点の情報を基にしています。
対象になる寄付って?
都内在住のイブ美さん(30代、会社員)の場合で考えてみましょう。
12月、大掃除もひと段落して、メールチェックをしていたイブ美さん。イブ美さんが関心のある活動をしている認定NPO団体から“寄附控除”についてのお知らせが書かれたメルマガを受け取りました。
「ふむふむ、確定申告をすれば税金が最大半分もどってくる。まず必要なのは寄附の証明書ね、えっと…。」
イブ美さんは、まず、自分が寄付したものを思い出してみました。
a 毎月1000円をクレカでその認定NPOaに…クレカの更新をした今年の4月からずっと
b 年会費を出身大学のb大学基金に4000円
c クラウドファンディングで見つけたコロナ禍の医療従事者向けプロジェクトに5000円
d 財布の中の小銭処理もかねて、400円ちょっとをコンビニの募金箱に
e 出身自治体のe市にふるさと納税3000円
うーん、全部「寄付」だけど…。
このうち、寄付控除の対象となるのはどれでしょう。
金額(年) | 寄付先の団体 | 対象 | |
a | 8000円 (1000円×8か月分) | 認定NPOa | ◯ |
b | 4000円 | 国立大学法人b | ◯ |
c | 5000円 | 不明(多分、任意団体。かNPO法人、一般社団法人の可能性も) | × |
d | 700円ちょっと | 日本赤十字社※募金箱 | × |
e | 3000円 | e市 | ○ |
cの場合は、寄付先が、寄付控除の制度の対象ではない*3ため、 dの場合は、募金箱は寄付受領証明書が発行されないため、対象になりません。
*3: その団体への寄附が控除の対象となる場合は、「寄付控除の対象になります」とHP等に書いていることが多いです。団体のウェブサイトにアクセスして確認するか、あるいは直接団体に問合せてみると分かるでしょう。対象となる法人類型について知りたい方はリンクをご覧ください。
寄付の証明書(寄附金受領証明書)が必要
イブ美さんは、寄付の証明書(寄附金受領証明書)を探します。
「えーっと、団体のときは確か寄附控除に必要な領収書を発行するにチェックしてから寄付したような…あ!メールに領収書が添付されてる。 なになに、『本領収書は寄付金控除の証明書になります。』って書いてある。 PDFだけど大丈夫かな、これ印刷すればいいのかな。 大学のやつとe市のふるさと納税は確か封筒が来てたな、 あそこの棚にしまっておいたような…。 ふるさと納税のはあった(ほっ)。 あ、やってしまった。 大掃除で、大学から来た封筒はシュレッダーにかけて捨てちゃったんだった…。」
寄附 | 寄附金受領証明書? | |
a | 認定NPOaに8000円 | 「本領収書は寄付金控除証明書になります。」と書いてありました。 |
b | 国立大学法人bに5000円 | 郵送で感謝状・活動報告書と共に「寄附金受領証明書」の原本(立派な厚紙)が届いていたはずですが、誤って捨ててしまいました。(→問合せ後、再発行しました) |
e | e市に3000円 | 郵送で領収書や返礼品の案内と共に「寄附金受領証明書」の原本が届いています。 |
イブ美さんは、b大学の基金のウェブを検索して、再発行できるか調べてみました。
でもよくわからなかったので、問合せ先にメールをし、依頼することにしました。1か月かかりますということでしたが、自宅に郵送して送ってくれるということでした。
「よかった。2月に間に合うから、不幸中の幸いだけどギリギリだったら無理だったし。 今度から、受け取ったときに写メしておこう。あ、5年間は原本も保管しとかないといけないのね。もらったときに決まったファイルにいれておけばいいんだよね、つい忘れちゃうけど。」
*ちなみに、ふるさと納税のみの場合、確定申告ではなく別の書類の郵送手続きをすることになります。詳しくは「ワンストップ特例制度」で検索してください。
いざ、確定申告(の事前準備)。
さて、領収書も届いた1月末。イブ美さんは、満を持して、確定申告にチャレンジしてみることにしました。
必要なものは、源泉徴収票と寄附金受領証明書とマイナンバー。方法は3つあることが分かりました。
①e-Taxを利用する。(自力で作成して作成してネットで送る)
②確定申告書を自力で作成して郵送する。
③最寄りの税務署にいって相談しながら作成する。
「これまで郵送か、相談したくて税務署に行ってたけど、今年はコロナだし…。①e-Tax。領収書添付が省略できるっていうのがいいよね。へぇ、チャットで相談できるし、令和元年度分以降はスマホでもできるのか…。マイナンバーカードもマイナポイント貰えるからつくったし。ちょっとチャレンジしてみようかな…。」
マイナンバーカードと3つのパスワード(利用者証明用、券面事項入力補助用、署名用)を用意して気合十分のイブ美さんは、e-Taxを使う準備をはじめました。
まず、友人でITに詳しいドラ夫さんにチャットで聞いてみます。
イブ美「e-Tax今年やってみようと思うんだけど、どうしたらいい?」
ドラ夫「マイナンバーカード方式とID・パスワード方式があって…マイナンバーカード作ったって言ってたから、マイナンバーカード方式かな?実際に申告書作る前に、①環境確認して、②初期設定が必要。初期設定結構大変だと思うけど、がんばれ!もしくじけたら、ICカードリーダー買ってパソコンからID・パスワード方式にしてみてもいいかもね。」
ドラ夫さんも忙しそうだったので、詳細はウェブサイトでしらべてみることにしました。
①環境確認:スマホ、PC&ICカードリーダーライターから自分にあてはまるものを確認
「えっと、『マイナンバー方式 確定申告』で検索。動画特集?令和元年度分だとここに正式な情報がまとまってるみたい。医療費控除も副業収入もスマホでOK*4なのね。私はiPhoneだから…ブラウザはSafariね。解説動画はこれか…。えっと、初期設定は…?やってみたひとの解説発見。やっぱり難しいのかぁ…がんばろう。」
*4:消費税(1000万以上売り上げのある個人事業主)や贈与税(年間110万円以上)の確定申告が必要な人は、スマホの手続きの対象外です。
②初期設定:2つのアプリを入手して、マイナポータルとe-taxの連携、アカウントの登録をする
イブ美さんは、パソコンで手順が書かれたウェブページを開いて確認しながら、スマホの設定をすすめます。
1.マイナポータルのアカウント情報を登録
2.マイナポータルとe-Taxの連携(「もっとつながる」機能の設定)
3.e-Taxのアカウント設定(マイナポータルのサービスメニューからe-Taxソフト(SP版)を利用)
「利用者識別番号?なんだっけ…。e-Taxをしたことがあればってことか。これがID・パスワード方式の『ID・パスワード』なのね。よし、利用者識別番号を取得していない場合…。これで初期設定は終わりかな。ふぅ…結構疲れたな。残りは明日にしてごはんにしよう。」
いざ、確定申告!(申告書の記入と送信)
昨日e-Tax利用のためのスマホの初期設定をして、マイナンバーカードと3つのパスワード(利用者証明用、券面事項入力補助用、署名用)も机に用意したイブ美さんは、いよいよ本題の確定申告書の記入と送信をはじめます。
「さて、何をどうすればいいんだっけ。毎年忘れちゃうな~。会社の経理担当さんから源泉徴収票がシステムで届いてたはず…。あった! 寄附金受領証明書は、まとめておいた。振込先口座がわかる銀行のカードもある。これで準備完了! ええと…何をどこに記入するのかな。副業のほうの解説から確認するか。
◎動画解説:副業についてのスマートフォンを使った申告方法(国税庁動画チャンネル)(4:30以降)
うん、何となく思い出してきた。寄付金控除の方は、控除の入力画面のところの最後で『寄付金控除』を入力すればOK、と。」
確定申告書等作成コーナーから作成開始を開いて、ぽちぽちすること30分程。
「ふぅ~やっと終わった。」
そして3週間後…通帳に無事、振り込まれていました。
「手数料引いて、数千円程度か。初期設定なしで、慣れちゃえば便利だな。副業でどうせ確定申告しないといけなかったから、よかったよかった。」
(FIN)
※なお、この事例はフィクションであり、一般的制度についてご説明したものです。 個別具体的な相談は、最寄りの税理士さん等にご相談ください。
寄付控除制度を活用しよう!
イブ美さんのケース、いかがでしたか? 正直面倒だなと思われた方も、いや、自分ならもっとササっとできそう、やってみようという方もいらっしゃるかもしれません。
その年に転職した人、兼業・副業をして2か所以上から給与をもらっている人、個人事業主等の方は、いずれにせよ確定申告をする必要がありますので、そのついでにぜひ、寄付控除も忘れず申請を検討ください。
いわゆるサラリーマンでも、働き方の多様化の流れの中、
①会社に自分の所得管理を依存せず、客観的に理解するきっかけになる、
②転職、兼業、副業、独立するときの備えになる
という意味では、寄付をきっかけに、確定申告の経験を持つことは、ひとつのメリットといえるかもしれません。
日本の寄付の現状についてはいろいろな見方がありますが、一般的な個人の寄付の還付率という点では、日本は世界でも有数の寄付税制制度を持つ国です。
日本と同じ税額控除方式で66%が還ってくるフランスだと、対象となる寄付金額の上限が総所得の20%に対し日本は、総所得の40%まで対象となります。
他の国(米、英、オランダ等)は所得控除という方式のみのところが多く、これは、高額所得者が一定額以上を寄付する場合以外には、あまり実感できません。 (http://www.tax.metro.tokyo.jp/report/tzc20_4/05.pdf P20 2007年時点。)
日本も昭和42年以降30年来ずっと所得控除方式のみ*だったところ、平成23年度の税制改正で、大幅な制度変更が成され総所得の40%の寄付の、最大半額が戻ってくる、今の形になりました。(NPO の寄附税制の拡充について NDL加 藤 慶 一 )
このせっかくの「寄付控除」制度、個人が、寄附という社会に対するアクションを起こすとき、ついでに活用することを、ぜひご検討頂ければ幸いです。
その他参考:国税庁タックスアンサー No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)
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