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石巻がアート?! Reborn-Art Festivalが東北で創るものとは? ②— 鼎談:小林武史×須永浩一(Yahoo! JAPAN)×宮城治男(ETIC.)

2017.02.23 

第一回はこちら→石巻がアート?! Reborn-Art Festivalが東北で創るものとは? ① 

出会い、混じり、新しいものを生み出す。石巻の「場」としての力

———小林さんも石巻に何度も通われていますね。小林さんにとって、石巻という場所はどういうふうに見えているのか教えてください。

小林武史さん(以下敬称略):石巻は港町であり、地理的には突端の町です。突端の町は、多様な文化の”あや”みたいなものをもっている。伊豆半島の下田や三浦半島の横須賀のように、いろいろな匂いを混ぜたおもしろさがあります。また鮎川という町にはクジラの文化があったり、対岸には金華山があったり、実はかなり多様な物語をもっているけれど、ここ100年、200年は手がついていない。

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漁師の人たちは、狩猟民族としての強い部分ももっているし、縄張りみたいな感覚をもっている。そこに東北人のシャイな感じが合わさって、なかなか手強いところもあるんだけれど(笑)、でも彼らはいつも自然と向き合っているからか、人間としての反応する力がすごく発達している人が多い気がします。

石巻という場所は、震災でたくさんのものが失われたけれど、外から引き入れる力のようなものが存在している。ものすごく「出会う」ということを求めている場所だと思っています。

宮城治男:小林さんが何度も石巻に足を運ばれて、アーティストのまなざしで、石巻の町や人の魅力を再発見された結果が、今回のフェスでもあるような気がします。

小林:最近になっても、まだまだ新しい発見があるんですよ。例えば、ラ・ストラーダというライブハウスがあるのですが、被災して使えなくなったライブハウスを自分たちで作り直したところで、ニューヨークかパリの音楽のサロンみたいな感じ。ステージと客席の境目があまりなくて、ちょっとした芝居小屋みたいなライティングがあったり。そこで、生活に根ざした、日々の営みに近い音楽の鳴らし方をしている。

宮城:それも生活の術としてのアートですね。やっぱり小林さんのまなざしには、「生きる術」がアートとして見えているんですよね。須永さんはいかがでしょう? この5年間、被災地をベースに活動してこられた須永さんの眼に、石巻はどう映っているのでしょうか。

須永浩一さん(以下敬称略)被災地として世界中からいろいろな人が来て、期せずして、社会実験が行われている場所のように感じています。それを通じて、多様性が生まれて、今までとは違う新たな価値観が芽生えはじめたり、あそこに行くと何かがあるんじゃないかという場所になった気がします。

 

宮城:石巻は、最もへんなやつ、最もおもしろいやつに出会える確率がとっても高い、エッジの効いた場所になっちゃったんですね。東京なら、会うために数ヶ月先のアポをとらなくてはいけない人が、石巻に行ったらあっさりいて会えちゃう、というようなこともあったり。実際にアートもそうですし、漁業の変革に挑む人たち、新しいまちづくりや教育、福祉などの実験に挑む人たちなどのシェアハウス、シェアオフィスなどが続々生まれていたり。結果的に日本で最も仕掛けている人が集う場所のようになっていますね。

どうして、石巻には自由な感じがあるんだろうかと、考えていました。これは仮説ですが、大きな衝撃があって、従来の資本主義的な価値観の中で知らないうちに縛られていた閉塞感が、石巻ではひっくり返ってしまったのではないかと思うんです。もともと、石巻自体が、自然とのつながりや濃密な人間関係がまだしっかり生きていて、グローバリゼーションや資本主義の波に完全に覆われていないものが残っていた場所だったという面もあると思うのですが。土地の皆さんがもっていた”生きる術”と震災が起きたことが相まって、石巻の町にすごく自由で、今となっては新しい何かが生まれてくるような予感がします。

須永:浜の人たちは規格外ですから(笑)。我々はお金を払って物を買うことが当たり前ですが、石巻はおすそわけ文化がふつうです。牡蠣がたくさんとれたら、米と交換するといったことが今も存在している。一方、田舎特有の規格もあったと思うんです。でも、それが震災を契機に物理的に壊れて、コミュニティーが分断されて、よそから数十万人の外国人がボランティアとして入ってきた。その結果、いろいろなものが混ざったということはあるかもしれないですね。

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宮城:東北の未来であり、日本の未来であり、新しい世界の形の一つを示せるような奇跡的な場が石巻に生まれている。そういう意味では、今回のRAFそのものが象徴的な何かを示せるのではないかと思っています。

象徴としての牡鹿ビレッジ。

———石巻、とっても魅力的です。ぜひ行ってみたいと思いますが、その石巻で2017年夏に開催されるRAF、どのような芸術祭になっていくのでしょうか?

小林:アーティスト、ボランティア、地元の人、お客さん、それぞれの間にある”敷居”が感じられなくなるような51日間にしたいと思っています。芸術祭期間中は、石巻を周遊するバスも走らせる予定です。

象徴的な場所としては、牡鹿半島の荻浜に「牡鹿ビレッジ」という場所を作りたいという構想をずっともっていました。

牡鹿ビレッジは、いろいろな出会いの場です。代表的なアート作品も展示されます。そして牡鹿に昔から仕事として根づいている漁業の営みがあり、そこで獲れる魚を料理するという「食」。フードディレクターの目黒さん渾身のレストランです。

旅費を払って外から来てくれるお客さんも含めて、牡鹿ビレッジ全体が一つの作品のように思えてきます。ビレッジの中にアートや音楽が存在していること自体を作品化して、RAFの中心的な位置づけにしたいのです。いろいろなハーモニーが起こりやすい場所になると思います。

———RAFの面白さ、新しさは、アートを生きる術として広く捉え、漁業者も、農家も、起業家たちもみんな、生きる術としてのアートになるというところだと思います。この牡鹿ビレッジ自体も生きる術という作品になってしまうのですね。

小林:いろいろなものが編みこまれていく、そういうおもしろさが重要だと思いますね。

須永:牡鹿ビレッジの完成型はとても大事ですね。形になったものがあると、地元の人たちも「ああ、これか」と思うんですよね。今回は、アートというもののキャパシティが広いので、まだ説明が難しいんです。でも、それを体現している場所が目の前に存在すると、突然通じるようになる。ビレッジに行って、そこに行った自分たちもアートの一部なんだということが起きたら面白いなと思います。

震災から5年。今、必要とされていることとは?

宮城:今回、この牡鹿ビレッジを担う人材を右腕プログラムで募集されています。この5年の間に、右腕プログラムに応募する人も少しずつ変わっていると感じています。これまでは、復興という文脈だったけれど、そこに新しい可能性や自分自身の成長という前向きな意味での思いを重ねる人が来ているきがするんですね。この牡鹿ビレッジの仕事も、ここだからこそできる体験があって、ここから未来を見出して、つくっていくという仕事になりそうですね。

小林:震災から5年が経ち、これから復興がどういう方向性で進んでいくか。地域だけの問題ではなくて日本人として、ここからが本当に大切なんだと思うんです。ETIC.やap bankも、手探りでこれまで支援をやってきて、ツール・ド・東北や昨年のReborn-Art Festival × ap bank fes 2016のように、そこに行って楽しむということも含めて、いろいろなポジティブなエネルギーが生まれてきていると思います。その流れの中で、次のステップとして、ETIC.の右腕プログラムも必要だと思っています。

宮城:6年が経とうとしている今、RAFは一つの象徴になる気がしています。大変な状況だから助けないといけないというときは、コミュニケーションが一方通行になりがちでした。RAFを通して、復興という文脈が、助けるいうことから、ここから新しく生まれていったり、新しい価値観がつくられたりしていく。ずっと先にあると思っていた目指すべき復興も、実はすごく近くにあったというような転換が起きるかもしれないという気がしているんです。

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RAFが始まって、これからの自分たちが何を大事にし、何を見据えて生きていくのか、という新しい価値の尺度が、アートという形で実験されたり生まれてきたりすることになったら、すごくおもしろいなと思います。新しいビジネスやソーシャルイノベーションが生まれる起爆剤にもなると思います。そしてそれを、地域の皆さんと一緒につくっていく。可能性をすごく感じています。今日はありがとうございました。


 

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鈴木 まり子

1988年生まれ。大学卒業後、出版社で4年間編集の仕事に携わり、小学生向けの書籍づくりなどを担当。2016年春から、フリーランスとして編集・執筆・企画の仕事をはじめる。三重県尾鷲市と東京都渋谷区の2拠点居住中。

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