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世界中から視察が来る「葉っぱビジネス」の上勝町。コロナ禍も、未活用資源を見つめ直す機会に

2021.02.02 

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コロナ禍で生まれた「脱都市」志向は、逆に人を呼び込みたい地方にとってはチャンスにもなり得ます。本シリーズでは、そんな状況下、地域おこしの最前線で働く地方自治体職員、および行政と協働する民間団体の方々の「あたまのなか」に迫ります。

 

第10弾は、ローカルベンチャー協議会の幹事自治体のひとつ徳島県上勝町(かみかつちょう)。人口1,500人にも満たない自治体ながら、紅葉、柿、南天、椿の葉っぱや梅、桜、桃の花などを料理のつま物の材料として商品化した「葉っぱビジネス」を生み出し話題になりました。2003年には日本で初めて「ゼロ・ウェイスト」宣言を行い、現在ではごみを13品目45分別、リサイクル率約80% を達成し、ごみステーションが地域交流の拠点となっている町として、世界中から多くの視察が訪れます。

 

多くの来町者との交流が暮らしの基盤だった上勝町で、コロナショックはどのような変化を自治体や企業にもたらしたのでしょうか。上勝町役場企画環境課の久保昌弘さん、町内企業「合同会社パンゲア」最高経営責任者の野々山聡さんにお話を伺いました。

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上勝町企画環境課主幹 久保昌弘(くぼ・まさひろ)

高校卒業後、1990年に入庁。住民課、産業課、建設課、国土調査室、税務課、建設課、産業課、総務課を経て2020年度から企画環境課へ。ローカルベンチャー推進事業、起業・創業支援業務や地方創生SDGsを担当している。

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pangaea,LLC. (合同会社パンゲア)最高経営責任者 野々山聡(ののやま・さとし)

1969年 愛知県出身。少年時代から宇宙に憧れを抱き、高校生時代にマーシャルフライトスペースセンター(NASA)にてスペースキャンプに参加。宇宙飛行士を目指すべくアメリカの大学に留学する。その後帰国、2003年より株式会社インテリジェンスにてHR事業に携わる。2013年より総務省管轄地域おこし協力隊を経てpangaea,LLCを2016年に立ち上げサステイナブルツーリズム事業を上勝町にて展開。

町の人の流れが変わる中、未活用資源を見つめ直す機会に

 

――コロナショックは上勝町にどのような影響をもたらしましたか?

 

上勝町役場・久保さん(以下、久保):県内で感染者が初めて確認されてから、宿泊業や飲食業を中心に上勝町内でも営業自粛などの感染症対策を進めてきました。それから徐々に来町者数の減少が続き、緊急事態宣言後には完全にこちらからも来町をお断りすることになりました。

 

上勝町は人口1,500人に満たない小さな自治体ですから、人の流れが生まれないと当然経済も動きません。そうしたことを痛感したコロナショックでした。

 

久保:世界中からの視察をお断りせざるを得ない状況の中、何らかのかたちで町の情報発信を続けようと、合同会社パンゲアさんにご協力をお願いしてオンラインでの視察に舵を切りました。

 

実際に始めてみると団体よりも個人申し込みが多く、数名まとめての視察ができるよう設計し直すなどの対応が必要になりましたが、町が取り組んでいるSDGsやゼロ・ウェイスト、葉っぱビジネスなど、これまで通り町の魅力を発信することができました。

 

また、それだけでなくオンライン課外授業といった新しいビジネスも生み出すことができたことは、一つ成果だと思っています。

 

一方で、宿や土産物などを扱う小売店にはお金の流れが発生しない現状が続いているので、そうした課題はまだまだ解決できていない状況にあります。

 

また、健康分野の大手企業さんにバックアップいただき、上勝の自然を活かしたヘルスツーリズムを町として企画していたタイミングでのコロナショックでしたから、企画は一度保留状態になり、非常に残念な思いです。現在は上勝町独自の取り組みとして、四国や徳島県内から上勝町を訪ねてくれる方を増やしていけないかと、週末に楽しめるコンパクトなヘルスツーリズムを構想しています。

 

――一つひとつの代替案に、新しいチャレンジの要素が組み込まれているのですね。

 

久保:今まで価値に変換してこなかったものを価値にしていこうとは、常に考えています。例えば、これまでは体験プログラムも期間限定で売り出していたのですが、これからは来町者のスケジュールに合わせた体験プログラムを生み出していくことや、見学中心の視察から体験型のものへ変えていくことに挑戦しています。

オンライン化の過程で生まれた、「オンライン課外授業」コンテンツ

 

――ありがとうございます。町の一企業の代表として、野々山さんにとってコロナショックはどのような変化をもたらしましたか?

 

合同会社パンゲア・野々山さん(以下、野々山):久保さんが述べられたように、弊社は行政委託という形で町の視察を担当させていただき4年目になります。メディアの方も含めると、毎年およそ2,500〜3,000名の方にお越しいただいていたのですが、2020年は4月11日から6月末まで、すべてのオフラインでの視察をお断りせざる得ない状況になりました。役場やスタッフと話し合い、これまでの視察をオンラインで実現できないかと、世間のオンライン化の流れにあやかる形でオンライン視察をスタートしたんですね。

 

また、2019年度から弊社が受け入れを始めていた修学旅行が、今年もありがたいことに毎月予約で埋まっていたのですが、5、6月は全てキャンセルとなってしまって。こちらも同時にオンラインで実現することはできないかと、挑戦することにしたんです。

 

去年のコンテンツは、上勝町が取りくむSDGsを基盤にゼロ・ウェイストと葉っぱビジネスの現場を体験をすることで課題解決と新価値創造について学ぶものでした。そこで今年は、我々がカメラを持って町内の農家さんや町長室を訪問し、生徒たちに直接インタビューしてもらったり、ゼロ・ウェイストの現場で実際にスタッフの方が分別しているところを画面越しに手伝ってもらえるような工夫をしながら学んでいただけるコンテンツを考案しました。

 

――手応えはいかがだったでしょうか。

 

野々山:最初は大学の授業としてご活用いただくケースが多かったです。中学校・高校では修学旅行はキャンセルになってもその予算は転用できませんし、他の予算がすぐに生まれるわけではないので、高校からのお申し込みが増えてきたのが7月以降からですね。

 

主に総合学習の授業でSDGsを学ぶ機会としてご活用いただいているのですが、視察を授業に取り入れていただけるようになって、今まで予算的に来町が難しかった遠方の学校からのお問い合わせをいただけるようになりました。

 

8月以降は、予約が入っていた修学旅行については通常通り実施できました。修学旅行は宿泊業も伴うので町内全体への波及効果がとても高く、一方でオンラインは結局弊社だけが稼ぎを得てしまうことになるので、安全が守られる環境であればやはり実際に来ていただく形で実施していきたいと思っています。

 

また、弊社は新人社員研修などの企業研修も行なっているのですが、今年は4月からクローズしていたため9割方のご依頼をお断りする形となってしまいました。企業研修については地方創生に貢献するCSR的な意味合いを含んだ現地訪問でもあったので、オンラインへの移行は難しく、断念せざるを得なかったですね。

ピンチをチャンスに変えて今の町があるから、諦める選択肢はあり得ない

 

――このコロナショックは、今後町や事業にどのような変化をもたらすだろうと感じられていますか?

 

野々山:この時期が結果として町にどんな影響をもたらすかは、この先振り返ったときに良いも悪いもそれぞれ出てくるのだと思っています。弊社としても、純粋に売上だけをみれば例年の3分の2もいかないだろうと減収を予測していますから。

 

ただ、僕らが修学旅行で常に生徒さんたちにお話しているのは、この町はピンチをチャンスに変えてきて現在があるということです。上勝町の在り方を通して俯瞰的に物事を見る目を養い、新たな価値を創造してもらいたいと次世代にメッセージを打ち出している以上、私たちはこの全国的な苦しみの中で新たな考え方・仕組みを構築できないか考えていく必要があると思っています。

 

また、個人としても上勝町で事業をやっている以上、この状況は不利だからしょうがないと諦めるのはあり得ないだろうという感覚ですね。おそらく役場の皆さんも、同じ感覚なのだろうと思っています。

 

最終的に経済的側面でどんな結果が待っているかは未知数ですが、新たな上勝町のブランドが生まれる機会にはなるのだろうと思います。

 

久保:野々山さんもおっしゃるように、この状況下で何かを生まなくてはいけないという上勝町ならではのプレッシャーもあるのですが、町で飲食業を営む方の中には売上前年比1.1倍の結果を出している方や、例年通りの売上を維持している方がいらっしゃって、このピンチの中で非常に刺激をいただいています。

 

また、現状は苦しくとも、今後の展開を想像すると悪いことばかりではないだろうという印象も受けます。都市部では地方への移住を検討・実行される方も増えていますし、2拠点居住への意識も高まっています。田舎の価値、働き方改革へのニーズが高まるなか、ピンチをチャンスに変えていけたらと思っています。

 

――最後に、現在町が力を入れている挑戦について教えてください。

 

久保:町のキャンプ場内に「上勝ベンチャーHUBステーション」というコワーキングスペースを創設しまして、宿泊機能も備えたいわゆるワーケーション施設としての活用をこれから推進していきたいと思っています。キャンプ場の対岸には月ケ谷温泉という宿泊施設もあり、そうした他施設のお客さんにもワーキングスペースとしてご活用いただける場所になったらいいなと思っています。

 

野々山:同時に、上勝町起業塾も昨年から開催しています。事業を始めたい方の移住と起業を支援して、そこから結果的に雇用が生まれれば移住が増えていきます。高校のない上勝町では、そうした方々の移住の流れを生み出していくことが大切だろうと考えています。

 

もちろん既存の業者さんに対しても、何らかの形で事業が発展していくような新規事業開拓をサポートしていけたらと思ってます。

 

あとはまだまだ構想段階なのですが、エネルギー事業をやってみたいなと思っています。上勝町は、とても雨が多く水が豊富なんですよ。DVDやCDを半年ぐらいクローゼットに入れておくとカビてしまうくらい(笑)。でも、そうしたことも逆手に取れば、町の資源としてエネルギーにできるのではと妄想しています。

 

あとは、「不便」を売りにしたいですね。徳島でコンビニがないのは上勝町だけですし、信号も町内に一つだけなんですよ。例えば上勝町に電気やガスを使わない昔ながらの暮らしを実践するために移住されてきた方の暮らしを体験する機会を作ってみるなどして、そうした不便を価値に変換していきたいです。

 

――ありがとうございました!

 

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。

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