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創業期にやってよかったこと、やらないほうがよかったことは? NPOだからこそできる事業戦略や大事にしたい考え方【社会起業塾20周年イベントレポート②】

2022.08.25 

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起業したものの、貯金を切り崩して活動をしている。

経営資源がどこまでいっても足りない。

どうすれば持続可能な事業戦略が作れるのだろうか。

 

こういった悩みは、社会起業家の皆さんの多くが直面します。今回は、2014年度の社会起業塾生として、NPO法人 ReBit (リビット)代表理事の藥師実芳さんと、2012年度の社会起業塾生として、認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長の今井紀明さんをお呼びし、同じような悩みを乗り越えてきた先輩としての経験、そして想いの軌跡をお聞きしました。

 

こちらのトークセッションは、創業期の起業家の伴走支援を行う「社会起業塾イニシアティブ」が20周年を迎えたことを記念するイベントとして開催したもので、社会起業塾の卒業生の方々に登壇していただきました。

 

藥師実芳_プロフィール写真_圧縮

藥師 実芳さん/認定NPO法人 ReBit 代表理事

1989年生まれ、早稲田大学大学院卒。 LGBTQを含めた全ての子どもがありのままで大人になれる社会を 目指し、20歳でReBitを設立。行政/学校/ 企業等でLGBTやダイバーシティに関する研修、 LGBTQやマイノリティへのキャリア支援、国内最大級のダイバーシティに関するキャリアフォーラム運営、国内初のLGBTフレンドリーな就労移行支援事業所(福祉事業) の設立等を担う。また、世田谷区、新宿をはじめ行政で検討委員を務める。ダボス会議が選ぶ世界の若手リーダー、グローバル・ シェーパーズ・コミュニティ選出、オバマ財団が選ぶアジア・パシフィックのリーダー選出。共著に「LGBTってなんだろう?」「 トランスジェンダーと職場環境ハンドブック」等がある。

 

今井さんプロフィール

今井 紀明さん/ 認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長

1985年札幌生まれ。立命館アジア太平洋大学(APU)卒。神戸在住、ステップファザー。高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。その活動のために、当時、紛争地域だったイラクへ渡航。その際、現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと日本社会から大きなバッシングを受ける。結果、対人恐怖症になるも、大学進学後友人らに支えられ復帰。偶然、中退・不登校を経験した10代と出会う。親や先生から否定された経験を持つ彼らと自身のバッシングされた経験が重なり、2012年にNPO法人D×Pを設立。経済困窮、家庭事情などで孤立しやすい10代が頼れる先をつくるべく、登録者7700名を超えるLINE相談「ユキサキチャット」で全国から相談に応じる。また定時制高校での授業や居場所事業を行なう。10代の声を聴いて伝えることを使命に、SNSなどで発信を続けている。

10個中9個は失敗?「紆余曲折しているうちに、気付いたら今に辿り着いた」

 

――NPO法人ReBitは、「LGBTQを含めた全ての子供が、ありのままで大人になれる社会」を目指して設立から13年間、課題解決に取り組んできました。これまでの旅路を振り返ってどのように感じますか?

 

藥師さん(以下敬称略) : 「社会起業家」と呼ばれる時、あたかも「最初からそれを目指していました」というキラキラした印象を持たれる場合があるのですが、本当は紆余曲折しているうちに気付いたらここに辿り着きましたという感覚があっているんです。10個中9個失敗して、何とか可能性が残った1個に縋りついてここにいるみたいな部分が正直あると思っていて(笑)。

 

藥師さん

認定NPO法人 ReBit 代表理事の藥師 実芳さん

 

教育事業から始まって、そこから事業を、若者支援、キャリア、福祉へと広げてきました。辿り着いた場所から見えてきたのは、課題が課題であると認識されていないこと。当事者の困り感や私たちが現場で見えている課題を、社会的な課題として認識しもらうためにも可視化し続ける必要があったんです。

 

皆さんには、正解はないということを伝えたいです。正解は今も見えないのですが、一歩踏み出した時点できっと大正解。何をしていても評価される時と、されない時があると思っていて。特に立ち上げのタイミングだと、「何をやってるんだ」と言われることも多いと思います。そういうタイミングでの社会起業塾ってすごく大事です。

 

起業塾は、自分が言っていることをはじめて信じてくれ、言語化をしてくれたんです。想いを形にすることを伴走してくれたし、評価されない頃から一緒に走ってくれました。もし、皆さんが何かやられているとしたら、やっていることは全然間違っていないし、自分軸でOK。社会を変えることは終わらない旅です。だからこそ、心が動くことを続けてほしいし、あまり焦りすぎてもサステナブルではないから、ゆっくりいきましょう。

 

――今井さんは、10代の孤立を支援するというテーマで、「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」をビジョンに、NPO法人D×Pを運営されています。事業資金の8割は寄付だとお聞きしました。

 

今井さん(以下敬称略) : 16歳の時に9.11のテロがあったのですが、アフガニスタンの空爆を見て、子供たちの不条理な状況を変えたいと思って20年経ちました。寄付でしかできない課題解決があると考えているので、寄付型の事業をつくりました。でも、創業時の3年間は事業型でした。当時、寄付の決済サービスの仕組みが不便だったのと、現在のようなクラウドファンディングの文化や応援消費のような行動もそこまで育っていない環境だったので、今のような仕事とは別の事業もやってきて、その上で3年目からやっと寄付型の事業に移行したんです。

 

――目指す先に向かって本当に必要なこと・やりたいことを実現するために、今井さんも藥師さん同様に模索し続けてきた経緯があるんですね。

ビジョン、ミッションを初期からクリアにするー創業当初のやっててよかったこと、やなければよかったこと

 

今井 : 藥師さんは、創業当時のお金をどう用意しましたか? D×Pの場合は、最初にETIC.(エティック)からいただいたSVM(ソーシャルベンチャー・スタートアップマーケット:事業を始める個人を応援するプログラム)の100万円と自分の個人資金80万円の合計180万円で動き出しました。

 

今井さん

認定NPO法人D×P理事長の今井 紀明さん

 

藥師 : 2009年の学生団体の時は、活動費は基本的に持ち出しでした。2014年にNPO法人になりましたが、初年度の売上が800万円くらいで。この時期は、自分も夜勤を中心にバイトをして、事務局長は昼にバイトをしていましたね。

 

今井 : なるほど。ちなみに創業当初1、2年でやってよかったことを3つ上げるとしたら何ですか?

 

藥師 : やらなければよかったことの方が多いかも(笑)。寝ないでやり続けることはやらなければよかったです。全くサステイナブルではない働き方をしていたので心身しんどい状態で、良いアウトプットもできませんでした。これから創業する方たちにはぜひ寝たり休んだりしてほしいですね。

 

あとは、お金のことで焦るのではなく、まずは事業を組み立てることに全力を注げばよかったですね。今ではスタートアップを応援してくださる助成金も増えている中で、何をやるのか、どうやって社会を変えるのかをきちんと伝えられるようになること、そしてそれを一歩一歩実施することにリソースを注ぐことが大事だなと思っています。今井さんはいかがですか?

 

今井 : やってよかったのは、ビジョン、ミッションを初期からクリアにできたこと。これは社会起業塾の影響ですね。自分達が目指す揺るがない根幹であるビジョンが初期段階であるのは本当に強いと思います。それがあると、何の事業をするか、自分達の強みは何かを考えていけるんです。あとは一人でやらないことです。仲間を初期段階でどうやって集められるかだと思います。

 

やらなければよかったのは、自分の弱い部分やできないことをまわりにシェアできなかったことです。できるようになったのはここ2、3年くらい。自分で抱え込みすぎないことが大切ですね。

 

藥師 : 社会起業塾の話には本当に同感で……。設立当初はお金もないし休めていないしという状況で、まずビジョンから考えようと言われるたびに、いやいやそんな話じゃないんだよと焦っていたんです。でも、ビジョンとしての文言が定まって、課題の整理と資料ができて熱量を込めて話せるようになってから、まわりにも話を聞いてもらえるようになったし、そこからいただけるチャンスの量も変わりました。

 

いつだって、社会を変えるときにはビジョンとかストーリーが大事だと思います。当時、社会起業塾で「調査をしなさい」と言われて、「いやいやLGBTQの子どものことは自分が一番知ってるよ!」と思っていたけれど、今ではどんな事業でも一番最初に調査をするんですよ。あの時言われたことの全てがすごく大事でした。

 

今井 : 何を自分達で成していくのかの根幹の部分を整えていくのは、起業する際にやっていく必要がありますよね。D×Pの場合だと、政府や企業がどうしてもアプローチできないところに絞ってやっていこうという方針が創業当初に明確になっていました。

 

2014年度社会起業塾時 藥師さん

2014年度社会起業塾時の藥師さん

 

全ての当事者にはなれない―活動の決め手とブレない想い

 

参加者 : 多くの社会課題がある中で、取り組む社会課題への決め手は何ですか? 当事者性も必要なのでしょうか。

 

今井 : 自分達の強みを活かして「これだったらできるだろう」ということに常に挑んでいると思います。僕自身、当事者性があるといえばあるし、ないといえばないですね。課題の決め手はビジョンのもとにニーズがあることだと思います。

 

藥師 : 全ての課題の当事者にはなれないじゃないですか。なぜそれをやるのかを伝える時のストーリーの組み立ては考える必要はあるけれど、当事者性に寄ったストーリーでなくても問題ないと思います。当事者じゃない人がたくさんやってくれる方が、むしろ社会の課題は解決するから、当事者じゃない人たちも重要なプレーヤーだと思うんですよね

 

参加者 : 様々な困難にぶつかる中でどうやって思いをブラさずにやってこれたのですか?

 

今井 : 正直、活動を続けていく上で疲れたと思う瞬間は頻繁にありました。それでも、今関わっている子たちのために何かできることをしようということを大切にしていたから、辞めたいと思ったことはないですね。休めば回復しますので。

 

藥師 : 僕は本当に辞めようと思ったことが何回かあるんです。でも結局、この事業はすごく自分がやりたくて、辞めても結局は「これをやりたい」と望むんだな、結局、今はあの時に描いた夢の中を歩かせてもらっているんだなと一周回って着地するルーティンがあるんです。選択してここにいるということや、チャレンジし続けてここにいることを確認する作業が大事です。

 

一方で、フルタイムで動く必要はないし、辞めたいと思ったら辞めてもいいし、休んでもいいと思っているから、目標をブラさず持ち続けなくてもいいと思っています。社会を変えることへの関わり方は山ほどあって、どの方法でもいいと思うんです。

関わり方の種類を多くつくること―NPOとしての仲間集めと、マインドセット

 

参加者 : 創業期におけるコアな仲間集めをお金がない中で、どのように行ってきましたか?

 

今井 : 基本的にいろんな場で話していくことをやってきました。誰と会っている時も仲間集めだと思ってきたし、それこそ事務所に尋ねてくる配達員の人や家に遊びにくる方など全ての人がD×Pのビジョン達成のために関わってくれるかもしれないと思って接してきました。だから、どこででも話して仲間集めをしようとしていましたね。

 

藥師 : 発信し続ける、つながり続ける、ことはとても大事だと思っています。「あなたのやりたいと思っていることはすごく重要だと分かったけど、何を支援できるのか教えてください」と聞いてくださった方がいて、なるほどと思ったことがあるんです。「あなたの力になりたいから、そのために必要なことを5個教えて下さい」と言われた時にしっかりと言えるのが社会起業家としてすごく大事だと気づきました。今まさに必要な数個のことをいろんな場面で伝え続けて、探し続けることです。あとは、本当にこの人のことが大好きで一緒に活動をしたい、相談にのってもらって楽しいなど、どうにか一緒にやってくれないかとお願いし続けるのも大事なのかなと思います。

 

今井 : 藥師さんの言う通りで、関わり方の種類をたくさん作るのは大切ですよね。

 

藥師 : 30回くらい断られていても言っていいと思っています(笑)。5年くらいお願いをし続けて、今一緒に働いてくれている人もいます。「絶対この人」という人には何回断られていても、いろんなタイミングや関わり方で誘い続けるという。

 

参加者 : 仲間を頼りたいのですが、どこまでお願いしてもいいのか、謝礼はいくら払えばいいのか分かりません。

 

藥師 : 頼っていいと思います。お金から生じるモチベーションは限定的で、全てではないんですよね。あなたを応援したい、この事業を一緒にやりたいといった想いへの共感は大きなモチベーションになり得ます。特にスタートアップの時期は、何もギブできないなんてことはないので、想いを共に実現できるという経験が価値だと思ってもらえる仲間たちと一緒に進めたらいいなと思います

 

今井 : これは難しい問題。悩みますよね、さっきの話と関連して、関わり方の種類を増やしたらいいのかなと思います。例えば、ボランティアや寄付者としての関わり方、週1回のプロボノとして関わってもらうことやメンターやアドバイザーとして関わっていただくなど様々な関わり方があると思います。「一緒にやろうよ」と、説得し続けるのが起業家にとって重要なのかなと。

まずは相談すること―社会起業塾の活用方法として大事なこと

 

参加者 : 社会起業塾を最大限活用する方法を教えてください。

 

藥師 : いまだに最大限に活用している卒業生の一人です(笑)。困った時にまず相談するのがおすすめです。社会起業家への伴走支援ということで、プロフェッショナルがすごく揃っているのですが、必要な資源を揃えてくれたり、「あの人に聞くといいよ」など人と繋いでくれたり、話を聞いてくれたりします。これから社会起業塾に挑戦するみなさんは、自分がなぜやりたいのか、何をやりたいのかという思いを整理する時間にすると、そこから10年、20年ずっとそこを宝として前に進めると思います。

 

今井 : 相談するのが一番かなと。リソースが一番強いと思っています。ビジョン、ミッションが整っていないのだったら、そこは厳しめに言われるので……(笑)。その辺りは受け入れつつ、自分で考えながらやっていけばいいのかなと。とにかくビジョン、ミッションと向き合ったり、相談することで活用できればと思うので、ぜひ向き合っていただければと思います。

 

2012年度社会起業塾時 今井さん

2012年度社会起業塾時の今井さん

 

< 編集後記 >

 

起業家の皆さんにある想いと、実際に事業をやっていく上で直面する課題の狭間に生じる葛藤やこれまでの軌跡を伺うことができ、大変貴重な機会になりました。原体験や、きっかけから現状に至るまで生々しい感情、本質的な課題の捉え方、組織に関してなど多岐に渡る話題で、本イベントだからこそ知ることができたストーリーが本当に多くあったと思います。加えて、『今も社会起業塾が続いているような感じ』と、社会起業塾のプログラムに関して、終了後何年経っても振り返られている起業家の方々がこの社会に多くいることを肌で実感できました!

 

***

 

【社会起業塾20周年イベントレポート①】はこちら

>> 創業時の不安や葛藤をどう乗り越える?二人の社会起業家が語るリアル【社会起業塾20周年イベントレポート①】

 

【社会起業塾公式サイト】はこちら

>> 社会起業塾イニシアティブ

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この記事を書いたユーザー
池田 彩恵

池田 彩恵

NPO法人ETIC.社会起業塾イニシアティブ インターン生。 社会を変革する一員になりたいという想いから、2022年度よりETIC.ソーシャルイノベーション事業部インターンとして参画。大学4年。趣味は旅行、ジョギングなど。

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