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思考と事業を飛躍させる「Out-of-the-box thinking」とは?孫泰蔵氏SUSANOO特別講座レポート

2018.04.05 

孫泰蔵さん(以下、孫さん)は学生時代にYahoo! JAPANの立上げに関わり、その後ガンホー・オンライン・エンターテメントを創業、現在は共同創業型のスタートアップ支援を行うMistletoe株式会社のFounderとして、日々世界中を飛び回りながら次世代の課題を解決するためのプロジェクトを数多く展開しています。

ETIC.のアクセラレータープログラムのひとつである、社会課題を“型破り”に解決するチェンジメーカーを応援する「SUSANOO」のファウンダーでもある孫さんに、特別講座を実施していただきました。孫さんの考える未来に向けて解決したい課題と、わたしたちができることとはどのようなことでしょうか?

 

100年に一度の変化を迎えている世界

気候変動や人口の爆発的増加、それに伴うエネルギー問題、また先進国では人口減少と高齢化など、現代は、世界規模での大きな変化にわたしたちが向き合い、ともにあり続けなければいけない社会とも言えます。変化と向き合い続けながら、社会全体の持続可能性、そして幸福を実現していくためには、どうしたらよいでしょうか?まずは孫さんの考える、これからの社会における根本的な課題についてのお話をご紹介します。

 

孫さん「今、世界は100年に一度の変化のタイミングを迎えている、と僕は思ってます。どのくらいのスピードなのか? この写真を見てください。1900年のニューヨークの街です。まだたくさんの馬車が走ってますよね。

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https://commons.wikimedia.org/wiki/File:NewYorkCityOstersonntag1900.jpg?uselang=ja

しかし、1913年になるとこうなる。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ave_5_NY_2_fl.bus.jpg

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ave_5_NY_2_fl.bus.jpg

馬車のほとんどがフォードの車に変わってるでしょう。街の光景が一変している。これが当時の人々にどんな意識や生活の変化をもたらしたか、想像してみてください。馬に関わっていた人の仕事はもちろん、エネルギー源も、道路などのインフラも、社会のさまざまな面で劇的な変化をもたらし、多くの人の生き方や価値観を構造的に変えていったはずです。」

 

AIが人間の知能を超えるのではないか、といういわゆるシンギュラリティ。2045年とも言われるそのタイミングについても、最近はもっと前倒しになるだろうという意見も多く出てきています。その遠くはない将来、世界はどんな課題に直面するのでしょうか?

 

 

孫さん「これからの世界が取り組まなければいけない大きな問題は2つあると思っています。それは、雇用の損失と行き過ぎた都市化の2つです。AIとロボットは確実に、人々の雇用を奪っていくでしょう。既存の職業の8割以上が無くなるという説もあるくらいです。それをどうするか。そして行き過ぎた都市化という問題。騒音、悪臭、水質、大気、交通渋滞など。そして仕事がなくなり、収入のない人が巷に溢れかえることでスラム化も進行し、治安の悪化も起こってくると思います。現に、この5年間で、社会におけるあらゆる格差が広がってきています。格差があまりに広がってしまう状況をどうにかしたいと考えています。

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失業には、仕事そのものがなくなっている状態である”本質的失業”と、社会構造の変化がマスに広がり大量の人が現実の問題として仕事がなくなる”摩擦的失業”があります。僕は特に、”摩擦的失業”がものすごいスピードで、かつてない規模で近づいてくるのではないかと問題視しています。これは今の世代に限った問題ではなく、一度スラム街に生まれてしまうと、現状ではその貧困から抜け出すことはとても難しいので、一生をスラム街で過ごす子どもたちが生まれ続けてしまう可能性も大いにある。

数年前のHarvard Business Reviewに、”The Zero Economic Value Citizen”、つまり「経済的価値のない人々」という存在がこれから出てくるだろう、という論文が出ていましたが、これがもっとも大きな経済の問題になるのではと思っています。都市化によって社会的に疎外される人たちが劇的に増え、しかもそれが固定化されてしまうという問題。

疎外を生む20世紀の産業社会型モデルから、新しい21世紀型の価値モデルへと発想を転換していくことが必要だと思います。いまはその過渡期にさしかかっているタイミングなんだと僕は思ってるんです。」

21世紀の価値モデルへ。

 

孫さんによると、経済学という学問が発達したのは1920年代。それは世界恐慌が起こったタイミングと重なります。シンプルに言えば、経済学は「どのように富を分配したら社会がうまく循環するのか?」を考える学問です。社会全体の経済的な豊かさを考える経済学が、世界恐慌のタイミングで発展したことも頷けます。世界で格差の拡大と社会構造の大変革を迎える今、私たちに必要な考え方はどのようなものでしょうか?

 

孫さん「たとえば、”人生設計”ということばがありますが、”設計”といっている時点でこれこそは20世紀の産業社会型の発想だと思います。産業社会のKPIは生産性・効率性です、たとえば4あった工数を3に減らせたからよい、とかそういったものですよね。、これは共通のゴールを設定することで、多くの人々が追究しやすい状況をつくるためです。この方法によって、世界中の人たちが同じ方向に向かって走り、結果として産業社会はここまで発展してきました。しかしながら、これまでのような成長モデルは明らかに限界が見えています。会社の売り上げや、個人の収入もどうしたって足止めがやってきます。収入が減っていく、というのはメガトレンドでしょう。

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ではどうしたらいいのか?孫さんは意外な、でも考えてみれば当たり前とも言える視点を提示します。

「ならば、支出・コストを劇的に下げればよい」

孫さん「収入が下がっても幸せに生きていくにはどうしたらいいのか?一般的にわたしたちは、全体の収入から生活費を引いた残りの”可処分所得”を日々の幸せに直結することに使いますよね。趣味や好きなことに費やしたり、美味しいものを食べたり旅行に出かけるといった使い道です。なので、収入が下がるとまずは可処分所得から減らすことを普通は考えると思います。だけど、それで本当に幸せなのか?

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このグラフで現在の生活にかかっているコストをあらためて見直してみると、住宅や車、保険、水道、電気などボリュームの大きさに気付きます。確かに実感として、家賃などの固定費の負担の大きさを感じている人は少なくないでしょう。もしもそれらの負担を小さくできれば、働き方や暮らし方の可能性がたしかに大きく広がる。

生活費からより多くの人が自由になり、自分らしく生きていくにはにはどうしたらいいか、孫さんはこう考えます。

孫さん「テクノロジーはコストを下げるのが得意なんです。食料や水、住宅や医療、教育、仕事、通信など、人の生活に不可欠なものをテクノロジーを使って劇的にコストを下げ、それをコモンズとして共有し、人々が好きなように自分らしく、世界のどこでも暮らせる環境をつくれないかと考えています。収入が減っても、固定でかかる生活費を減らすことができれば、可処分所得を維持したままで生活を続けられます。たとえば、地方に行けば家賃の負担は減りますし、自動運転などが実現することで移動のコストもどんどん下がっていきます。」

自動運転は駐車場を無くす。ではその土地活用は?

 

テクノロジーがコストを劇的に下げる。それはインターネットによってコミュニケーションコストが限りなくゼロに近づいたことや、24時間動き続けるロボットが生産コストをどんどん小さくしている現状を見てもよくわかります。孫さんは、世界中の最先端技術を扱う研究機関やスタートアップ、プロジェクトを数多く見て回りながら、投資という形で支援したり、共同創業でイノベーションを加速し続けています。そんな中で孫さんがコミットしているスタートアップのテクノロジーを2つ紹介してくださいました。

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孫さん「たとえば移動について考えてみましょう。世界中で開発競争が行われている自動運転のできる移動体は、わたしたちの移動に伴うコストを限りなくゼロにします。すると個人では車を買わなくてもよくなり、その分の駐車場がいらなくなる。そうすると、これまで駐車場にしていた土地を何に活用しようか? という議論ができる。

サンフランシスコにZooxというレベル4の自動運転を研究開発しているスタートアップがいます。現在、サンフランシスコの土地は3分の1が駐車場なのだそうですが、その土地が空いて再活用できると考えると、自動運転の技術の発展によって街そのものが大きく変わるきっかけをもたらすことができるのです。テクノロジーの劇的な変化を考えるとき、こうしたサイドエフェクトに着目することも重要です。

 

 

ドローンが冷蔵庫を無くす

また、Ziplineという米国のスタートアップでは、アフリカのルワンダで血液を医療機関へ運ぶドローンの開発・普及を進めています。このドローンでは、10kgの荷物を積んで約100km飛べます。第二世代は約200km飛行することが可能です。このドローンは鳥のように風を探して、いい風に乗ったらプロペラを止めてグライダーのように滑空するんですね。常時20機が上空をメッシュ状に飛んでいて、風の状況などを通信しあっている。そして運んだ荷物を上空から1mの精度で落とします。

 

 

 

 

このテクノロジーを使って、彼らは、"病院から冷蔵庫を減らすことができる"と考えています。これまでの病院にとって、血液を保管しておく冷蔵庫は非常に大事な機器でしたが、それが不要ということになると、病院の立地条件も変化します。自分たちの提供するプロダクトやサービスによってもたらすことのできる直接的な効果とは別に、社会への”サイドエフェクト”はどんなものがあるのか? これは、新しい事業を起こす人が考えるべき大切なことだと思います。」

 

 

ナナメ上の思考法「Out of the box Thinking」とは?

 

そして孫さんは、こうした新しい発想やイノベーションを産み出すために孫さんが考えている新しい手法、”Out of the box Thinking”について、若きイノベーターたちを前に語ってくれました。これは、「デザインシンキングでは革新的なイノベーションを起こすことは難しいのではないか?」、という課題が指摘されていることを受けての提案です。

 

孫さん「デザインシンキングについては、ユーザー中心主義ということで、ユーザーに接近しすぎるために、既存の考えや習慣に囚われすぎてしまう、という問題点が指摘されています。これからは課題や問いの設定の仕方自体が大切になる時代です。僕がこれから推進していきたい思考法は、”Out of the box Thinking” です。一言で言えば、既成概念にはまらない考え方で課題や問いを生み出し、解決策をデザインする考え方です。論理的思考でたどり着く課題や解決策は、もうみんなが思い描けるはずなんです。まして人工知能がこれだけ発達していくこれから、人間が単に論理で考えるだけではほとんど意味がないでしょう。おそらく今、社会に残っている課題は、論理的思考だけでは解くことができないのではないかと思っています。」

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”Out of the box Thinking” ができるようになるためには、とにかくたくさんのジャンルの世界・視点・考え方を見まくること。自分の関心分野やテーマとは関係のないものを含めてです。ポイントは、セレンディピティを逃さないように、一見関係のない世界を見ているときでも頭の片隅に常に自分の関心ごとは残しておくこと。そうすることで、論理的思考ではたどり着けない、新たな組み合わせによるナナメ上の解決策が生まれる、と考えています。”Out of the box Thinking”の例として、たとえば「通勤ラッシュの混雑をいかに解消できるか」という課題について考えます。

孫さん「普通に考えてしまうと、人が多くて電車が混み合ってしまうなら電車そのもののキャパシティを広げよう、という発想で二階建て電車のアイデアが出てくるかもしれない。しかしこれでは、駅のホームの混雑は変わらないし、乗り降りする時の混乱も変わらないでしょう。この思考方法の問題点は、あくまで”電車”という枠内にとどまっていることにあります。”Out of the box Thinking”では、まず駅や電車という場に固執せず考えます。そもそも多くの人の通勤時間帯が同じであることが問題なのでは? 通勤時間帯をずらしたり、あるいはそもそもオフィスに行かなくてもいい仕組みが多くの企業で導入されれば、同一の通勤時間帯に電車が混雑することは減るのではないか? と発想が膨らみます。その上で会社として課題となりそうな同僚とのコミュニケーションや会議の方法は、どんどん進化するVRやオンライン通話で行えば大丈夫だろうと考えられます。」

 

実際、孫さんのMistletoeでも、社員が好きな場所で仕事ができる制度を儲けているほか、新しいアイデアが生まれ続け、イノベーションを起こし続けられるような仕組みを整えているところなのだそうです。

 

孫さん「ランチタイムだけ会社に来て、一緒に食事をするという仕組みにしようと思っています。いままで休憩時間だったランチの時間を、セレンディピティを生むもっとも重要な時間とするというアイデアです。そうすると会社に必要なのは、ワークスペースではなく、ミートアップスペースやラウンジになります。打ち合わせがしたい、ピッチがしたければみんなが集まるランチに来る。せっかくなので、全国各地から集めたおいしい食材を使ってみんなが毎日食べたいと思うような料理が食べられるカフェにしたいと考えています。。20世紀には事業計画というものが必要でしたが、今は、そしてこれからは計画ではなく偶発性、セレンディピティをいかに事業に取り込んでいけるかが重要です。そのためには、なるべくいろいろな人、多様な視点と意見の交換をして、点と点を繋いでいく、コネクティングドットが大切になってくる。」

講座の最後に「自分が取り組むべき課題をどのように見つければいいか?」という質問が会場から寄せられました。「解決したい課題、というものは自分の内側からしか出てこない! だから内側からのメッセージを感じ続けることが何よりも大事だと思います」と私たちに力強くメッセージを与えてくれた孫さん。

既存の枠に捉われない課題や問いを生み出す”Out of the box Thinking”は、SUSANOOに集う「社会課題を型破りに解決するチェンジメーカー」の皆さんとって大きな軸の1つになる考え方になるのではないでしょうか。今後もSUSANOOでは様々なジャンルのスペシャリストをお招きした講座を継続的に展開予定!詳しくはウェブサイトをご覧ください。

 

 

 

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DRIVEメディア編集部です。未来の兆しを示すアイデア・トレンドや起業家のインタビューなど、これからを創る人たちを後押しする記事を発信しています。 運営:NPO法人ETIC. ( https://www.etic.or.jp/ )

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