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ソーシャルセクター入門第3話 “団地”発・イノベーション

2018.01.12 267view 

日中の暑さがまだ残る夏の夕暮れ時。大阪府四條畷市内にある府営清滝(きよたき)住宅では、毎年恒例の盆踊り大会が開催されていた。

40年以上、変わらぬ風景。しかしそこには、訳あってこの夏この団地に引っ越した、数人の若者の姿があった。

今回のプロジェクトに参加している若者

今回のプロジェクトに参加している若者

1.高度成長と人口増、そして宅地開発

物語の舞台となっている大阪府営 清滝住宅は、1970年(昭和45年)に建設された団地だ。

1970年といえば大阪万博が開催された年である。日本中が高度経済成長に沸き、圧倒的な人口増を経験した時代だ。都市部への人口流入と万博景気を背景に、大阪府近郊でも公営住宅が大量に供給された。

図 1 建設年度別にみた府営住宅の戸数

図 1 建設年度別にみた府営住宅の戸数

当時は最先端だった「団地での生活」。

「憧れの暮らし」を手に入れようと、清滝住宅にも多くのファミリー世帯が居住した。

しかし入居開始から46年、一時は2000人が暮らした団地は老朽化が進み、現在の応募倍率は0.5倍だという。また高齢化が進み、現在は入居者の約半数を高齢者が占める。[1]

若い世代が減少した結果、自治会をはじめとする団地内のコミュニティ活動を維持することは難しくなっていた。

[1]大阪府営住宅ストック総合活用計画

昭和45年に建設された大阪府営 清滝住宅

昭和45年に建設された大阪府営 清滝住宅

そんな老朽化と高齢化が著しいこの団地で、この春、ユニークな取組みが始まった。その名も「住宅つき就職支援プロジェクト“MODEL HOUSE”」である。

2.住宅つき就職支援プロジェクト“MODEL HOUSE”とは

自信がなくて、就職活動を始められない。

家族との関係に悩み続けてきた。

自立したいけれど、なかなか最初の一歩を踏み出せずにいる。

MODEL HOUSEは、そんな働きづらさ・生きづらさを抱えた若者を支える取組みだ。無業状態や不安定就労が長期に亘って継続している概ね39歳以下の若者に対して、団地の空き室を提供し、就職活動の支援を行っている。

プロジェクトの担い手は、関西を中心に活動を行うNPO法人HELLOlife(旧:NPO法人スマイルスタイル)と大阪府、公益財団法人日本財団である。

01_メインビジュアル

HELLOlifeは、若者を中心に就業支援の取組みを行うNPO。2011年から大阪府とともに若者就業支援事業に取組み、2013年に職業安定所の民間版「ハローライフ」を独自開設。さまざまな就業支援の取組みを大阪市内中心部で展開してきた。今回のプロジェクトでは、就職意欲はあるが、離職・転職を繰り返すなど安定的な就業状態に結び付かない失業中の若者を対象に、就業・生活の両面から支援を行う。

大阪府は、府営住宅を提供した。現在、大阪府内に存在する府営住宅は約12万5千戸。駅から近く利便性が高い住宅は人気がある一方で、老朽化や利便性の悪さから入居率が低下する住宅もある。清滝住宅もそうした団地のひとつ。今回のプロジェクトに対し、団地のコミュニティ維持という観点からも期待を寄せる。また、就業支援の面では、大阪府の運営する「OSAKAしごとフィールド」の支援メニューを提供し、HELLOlifeと協力して若者たちを職業的自立へと導く。

日本財団は“MODEL HOUSE”プロジェクトを文字通りモデル的な取組みにしようと、スポンサー役をかって出ている。

3.仕事・住宅・コミュニティ

“MODEL HOUSE”プロジェクトのキーワードは、「就職・住宅・コミュニティ」の3つ。

「就職サポート」では、自己分析・企業研究・就職準備などを中心にワークショップ形式の支援を10日間に亘り実施。その後も就職に向けて、丁寧な支援が続く。

就職サポートプログラム グループワークでお互いの長所短所を見つけ合う

就職サポートプログラム グループワークでお互いの長所短所を見つけ合う

「住宅サポート」では、団地の部屋の家賃は日本財団の事業費を使ってHELLOlifeが負担することにより、参加する若者に対しては無償で提供される。ただ、単なる無償貸与ではなく、入居者自らがリノベーションを行うところがポイントだ。いわゆるDIYである。リノベーションをサポートしたのは大阪住宅安全衛生協議会だ。大阪地区の住宅メーカー数十社により発足した団体で、建設業の魅力を知ってもらおうとボランティアで参加した。入居者たちはプロからのサポートを得ながら自分の暮らしを自分でつくる喜びを体感した。また共同で作業をすることで、入居者同士の横のつながりを生む時間にもなった。

職人さんからレクチャーを受けてDIYに取り組む参加者

職人さんからレクチャーを受けてDIYに取り組む参加者

「コミュニティサポート」は、入居者である若者同士、そして清滝住宅に元々住んでいる住民とのコミュニケーションを促す取組みを指す。プロジェクトでは、個室に加えてコミュニティスペースも整備した。コミュニティスペースは、入居者同士が就職に向けた悩みを共有したり、日々の出来事を話すコミュニケーションの場として機能している。

また入居した若者たちは、自治会活動に積極的に参加している。例えば冒頭に紹介した夏の盆踊り。清滝住宅で長く続いてきた入居者による手作りのイベントだが、高齢化に伴う担い手不足で、こうしたイベントを続けることは難しくなっていた。そこに登場した今回の“MODEL HOUSE”プロジェクト。若者たちはやぐらを組むなどの作業を積極的に手伝った。こうしたイベントは、若者たちにとっては多様な人に触れ、自分の暮らしや生き方を考える機会にも繋がっているという。

コミュニティスペースで一緒に食事をとる参加者

コミュニティスペースで一緒に食事をとる参加者

4.眠れる資源に光を当てる

「資源」などと表すれば叱られるだろうか。しかし「価値あるかけがえのないもの」という意味でその言葉を使いたい。

“MODEL HOUSE”プロジェクトでは、2つの眠れる資源に光を当てている。

一つ目の資源は、「生き方に戸惑う若者」だ。

大阪府によれば、府内の若年無業者、いわゆるニート状態の若者は4万人を超えるという。加えて、府内の若者の概ね4人に1人にあたる約37万人が非正規雇用である[2]。正社員の平均年収が約473万円であるのに対し、非正規雇用の場合は約168万円[3]。非正規といっても、雇用環境や就業状況、就業者本人の意思は様々で、一括りにすることはできない。しかし平均年収だけ見れば、経済的な自立はむずかしいことは容易に想像ができる。そして新卒一括採用が一般的な日本社会で、一度「働くこと」につまずいた若者が安定的な仕事に就くことは、まだまだハードルが高い。

[2]平成24年就業構造基本調査」より

[3]平成26年分民間給与実態統計調査」より

もう一つの資源は、「老いていく団地」である。ここで言う「老い」には、物体としての建物の「老い」と、住まい手たちの年齢としての「老い」の両方の意味が含まれている。

高度成長期、公営住宅の目的は「量の供給」だった。つまりは、都市部に流入する人口に対応して、住宅を増やし、都市の働き手や、ひいては都市部の経済発展を支えることが至上命題とされた。

しかし民間住宅が供給され、「量の供給」の時代は終わりを告げた。公営住宅法は1996年に改正され、公営住宅は「増大する都市部の住宅需要を満たすこと」から「住まいのセーフティーネット」へと役割を変えた。そしてその結果、公営住宅には高齢者や低額所得者の集住が進み、単身の若者が積極的な入居対象となることはなかった。

例えば府営住宅全体の高齢化率は40%を超えている。今回の“MODEL HOUSE”プロジェクトの舞台となった清滝住宅の高齢化率に至っては52.5%である。これは大阪府の高齢化率の26%を遥かに上回る。入居者の高齢化が進む中で、コミュニティの維持は難しさを増している。

自治会の活動に参加し、住民の方と協力して清掃活動に取り組む参加者

自治会の活動に参加し、住民の方と協力して清掃活動に取り組む参加者

5.組み合わせるから価値が生まれる

「生き方に戸惑う若者」と「老いていく団地」。マイナスにとらえられがちなこの2つを組みあわせたのが“MODEL HOUSE”プロジェクトである。

若者たちは、自立の足掛かりとしての住まいを得る。そして、自治会活動やコミュニティスペースでの人との関わりを通じて、同じ境遇にある仲間やご近所との日常的なコミュニケーションを深め、多様な生き方に触れる。そして人と繋がることで自尊心や社会に前向きにかかわる意欲を取り戻していく。

清滝住宅の住民たちは、若者という、新たなコミュニティの担い手を得る。しかし、高齢者だからといって単に保護されるのでも、単に自治会が若い労働力を安価に手に入れるのでもなく、若者たちに自分たちが歩んできた人生の一片を伝え、若い彼らのこれからを支えるサポーターとして、新しい役割を見出している。

「働く」という観点から、若者の自立を支えること。

「暮らす」という観点から、老いていく住処とそのコミュニティに新たな息吹を吹き込むこと。

公営住宅を舞台に、2つの資源を組み合わせることで、新しい価値が生まれているといえよう。

コミュニティスペース完成時には、住民の方も招いたお披露目会を実施

コミュニティスペース完成時には、住民の方も招いたお披露目会を実施

6.二兎を追うからこそ、生まれる価値

「生き方に戸惑う若者たち」も、「高齢化率の上昇」も「コミュニティの衰退と孤立」も、言ってみれば日本中にありふれている課題だ。

ありふれた課題だからこそ、今回の事例に意味がある。カギは、プロデュースする側のソーシャルセクターの力量、受け入れる地域側とのきめの細かなコミュニケーション、それを支える政府・自治体の協力だろう。丁寧なコーディネートを進めれば、水平展開も見えてくるはずだ。

眠れる資源に光を当てることで、若者支援とコミュニティ再生の二兎を追う取組みが、今日も続いている。

プロジェクトに参加する若者に提供している部屋(リノベーション実施後)

プロジェクトに参加する若者に提供している部屋(リノベーション実施後)

参考URL:

住宅付き就職支援プロジェクト“MODEL HOUSE”ウェブサイト

この記事を書いたユーザー

水谷 衣里

水谷 衣里

株式会社 風とつばさ 代表取締役/コンサルタント。 UFJ総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)にて、ソーシャルセクター・市民公益活動に関する政策立案やコンサルティングに従事した後、独立。ソーシャルファイナンス・社会的インパクト投資といったソーシャルセクターの資金還流や、社会起業家養成・ソーシャルビジネスの経営支援、支援者の創出・育成、プロボノコミュニティの運営に携わる。 NPO法人ETIC.とは、「社会起業塾イニシアチブ」やソーシャル ベンチャースタートアップマーケット、中小企業への右腕マッチング事業などを通じて連携・協働。 大学教員として、ソーシャルイノベーション、ソーシャルアントレプレナーシップ等に関する教育・研究にも従事。 各種執筆や講演、コーディネーションを通じて、当該分野への知的貢献を続ける。

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