前回の記事、「NPO・ソーシャルベンチャーに転職する時にぶつかる3つの壁」でも触れましたが、現在の日本のNPO業界は、決して給与水準の高い業界ではありません。
それを象徴するように、少し前までのNPO業界では、「男の寿退社」ということがよく言われていました。 結婚や出産を機にNPOを退職する男性が多いということ。つまり、NPOからの収入だけでは、家族を支えることが難しいので、不本意ながら転職をするということです。これは団体側にとっても痛手です。働き盛りの30代が抜けるので、ノウハウが溜まりません。
今回はそういった「収入不安」に対する僕の経験・考え方をご紹介しようと思います。
1. 活動のソーシャルインパクト(成果)を最大化する
NPOは「社会問題の解決(ミッションの達成)」が目的であり、「経済活動」は手段です。なので、まずはこのソーシャルインパクト(成果)の最大化を本気で目指さないのであれば、その団体に存在価値はありません。
かものはしプロジェクトでいえば「児童買春問題の解決」ですし、環境系団体であれば「絶滅危惧種の保護」や「砂漠緑化の推進」など。教育系団体であれば「学力の向上」や「中退率の低下」などです。団体が掲げるミッションに本当に近づけているか、これが最重要です。これなくして自分の「収入」だけを考えるのはナンセンスだと思います。
2. 団体のファンドレイジング(資金調達)を強化する
成果が伴ってくれば、徐々に資金や人材などの「資源」が集まり出します。「その団体・活動を失いたくない!もっと頑張って広げていって欲しい!」と思ってくださる方が増えるからです。
NPOは成果を持続可能なものにしていかなければ、社会的責任を果たせません。成果を出せても、資金不足で活動を中止してしまえば、受益者にとって迷惑でしかありません。社会問題解決の活動を続けるためには、資金が必要なのです。この順番を間違ってはいけないと、いつも自分自身にも言い聞かせています。
NPOではこういった資金調達活動のことを「ファンドレイジング」と言います。NPOの資金源は多様で、事業収入や寄付、会費、助成金、委託金などがあります。これら資金を自団体に合わせてバランス良く調達することが大切です。
このファンドレイジングの担当者を「ファンドレイザー」と言います。アメリカでは人気職業ランキングの上位にもランクインしており、欧米の非営利組織間ではヘッドハンティング競争の的になっています。ちなみに年収も団体代表に次ぐ水準であることが多いそうです。
しかし、日本ではまだまだ「プロファンドレイザー」の方は多くありません。ファンドレイジングの8割はビジネスロジックでできています。なので、企業人の方がとても入りやすいし、貢献しやすい分野でもあります。やってみて初めて分かってくるのですが、ファンドレイザーは単なる「資金調達」が仕事ではありません。とてもおもしろく、やりがいの感じられる職業です。僕は大好きです。笑
「ファンドレイジング」に関心のある方は、日本ファンドレイジング協会のWEBサイトから見始めることをオススメします。 「ファンドレイザー」に関心のある方は、日本でも出始めている「プロファンドレイザー」の方々のブログをいくつかご紹介しますので、ご覧下さい。
- 鵜尾雅隆さん:ファンドレイジング道場
- 長浜洋二さん:飛耳長目 ?アメリカにみるNPO戦略のヒント?
- 小川宏さん:プログレス ?自分と社会を一歩前に進めるプロボノという生き方?
- テントセン:Probono Unit for Nonprofits
- ヤマゲンメモ:NPOマネジメント x ファンドレイジング x キャリア
NPOが「なんとなく良いことをしているボランティア集団」から「社会問題解決のプロ集団」へと変わっていく過程で、「収入」は自然と付いてきます。
3. 個人としてのファンドレイジング=マルチインカム(多重収入)構造をつくる
本業(団体からの給与)のみでは厳しいのであれば、他の収入源を作るというのも選択肢の一つです。投資や各種不労所得の仕組みを個人として、持てればいいのでしょうが、残念ながら僕個人がそちら方面に関心も知識も能力もないので、ここでは主に「副業」について考えていきたいと思います。
今、ビジネスセクターやソーシャルセクターを問わず、「副業」を承認・奨励する動きが出てきています。背景としては、「もっと他業界・異分野・外部での経験を積み、自団体・自社での業務にフィードバックしてくれるような、イノベーティブ(革新的)な人材になってもらいたい」や、「中長期の日本の経済状況を鑑みると、自団体・自社から支給できる給与の昇給幅には限界がある。残業をやめて、一部副業からの収入を得ることで勤続してくれるなら助かる」という想いがあるようです。
※僕自身の例(と多少の宣伝)
かものはしプロジェクトに転職をする際、僕は「副業」を認めていただけることを条件に入れました。幸いなことにかものはしプロジェクトも当時から前述のようなことを考えており、すんなりと受け入れてくれました。これには驚きました。笑
僕の場合、前職で得たご縁のおかげで、フリーランスの経営コンサルタントの方のアシスタント、ベンチャー企業での新卒採用コンサルティング、内定者研修講師、新入社員研修講師、若手社員研修講師などのお仕事をいただき、2,3年ほど副収入としていました。
お仕事をくださっていた企業の経営者の方の中には、「俺は寄付はしないけど、お前に仕事をやることで支援する」とまで言って下さった方もいました。確かにこの「副業」がなければ、もしかしたらかものはしを続けられなかったかもしれません。今でも本当に感謝しています。
しかし、徐々に「出来れば本業と相乗効果のある副業にできればいいな」ということを思い始め、「学生の時から考えていたNPOへの支援を副業にできないかな」と考えて、いろんな方に事ある毎に話していました。すると、ある日、そういったお話を個人宛てに頂き、恐る恐るお受けすることにしました。
最初はNPOの浅い実務経験しかないわけですから、僕のほうが学ばせていただくことが多く、四苦八苦しました。自分の力不足に悔しい思いを何度もしました。だから「全部吸収してやろう!」と思って業界の大先輩方のお話を自分の中で何度も反芻しました。そして、試行錯誤を重ねて成果を出し、それをまとめて他団体の支援に活かすようになっていきました。すると、少しずつですが、NPO支援関連で声をかけていただく機会が増えていきました。
そして、2013年4月、かものはしの業務と明確に切り分けるために、個人開業届を出すことにして、「NPOマネジメントラボ」という屋号で活動をすることにしました。主には、NPO・ソーシャルベンチャーの「ファンドレイジング」や「組織マネジメント」のお手伝い、ソーシャルセクターでの「キャリア」に関する情報発信を行なっています。が、まだ明確に決めているわけではないので、お役に立てることがあればなんでもやらせていただこうと思い、「基本的にご依頼は断らないキャンペーン」期間中です。笑
結果的に現在は、いくつかのNPO団体のファンドレイジング&マネジメント支援、各種テーマのセミナー講師、ブログ記事のライティングなどをやらせていただいています。まだ明確にこちらが報酬金額を決めていないにも関わらず、皆さまにご配慮いただき、有償でお仕事をいただいています。
NPOの懐事情はよく分かりますので、報酬をいただくからには、必ずそれに見合う成果を出すことに拘ってお手伝いしていきたいと思っています。実は「B to Nビジネス」とも言うべき、こういったNPOやソーシャルベンチャーのみを対象とした商品・サービスの提供を事業として行う人達も徐々に出てきています。
ここまで言うと、「いつやっているのか?」といつも聞かれます。あくまで僕の本業は「かものはしプロジェクト職員」です。毎週月曜日から金曜日(たまに土日も)の朝から晩までかものはしの業務のみを行なっています。副業は、基本的に土日・平日早朝&夜・代休・有給休暇を使ってやっています。
「かものはしには絶対に迷惑をかけない」ということに拘っていて、大きなご依頼をいただいた場合は、必ずかものはしの理事に相談し、同意が得られない場合は迷いなくお断りします。
それでも、かものはしプロジェクトが「副業」を容認してくれているのは、団体外での経験も積むことで、本業にそれが活きているからです。他団体での成功体験を自団体でも活かすようになったり、出会った人たちが自団体の活動を助けてくれるようになったり、自団体を客観視できるようになるのでより適切な戦略立案ができるようになったり、という評価をしてもらっています。
これは僕がかものはしで同じ時間だけ残業していても得られなかった成長だと言われました。 「副業」については賛否両論あると思います。僕も今でも悩むこともあります。とりあえずチャレンジしてみます!随時、ご報告していこうと思いますので、皆さんの「糧」にしていただけると幸いです。
最後に:収入は「最大」ではなく「最適」を目指すものだと思う
僕は、収入は「自分らしい人生を歩むために必要な金額」があればいいと思っています。ですので、まずはそのために自分はいくら必要なのかということを整理することが先決です。
僕の場合は、知り合いのファイナンシャルプランナーの方に相談にのってもらい、目指すべき所得水準を整理しました。すると、必要以上に焦ったり不安になったりする必要がなくなります。なので、今回お伝えした内容も決して「資産最大化のノウハウ」ではありません。「自分らしい人生を歩みながら最適な所得水準にするヒント」くらいに思っていただけると幸いです。
「結局、副業なんて一部の人しか無理でしょ」と思われた方もいらっしゃるでしょう。 次回は、それも含めて「キャリア不安」を解消するためのヒントをご紹介していきたいと思います。
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