有山篤利先生(聖泉大学教授)、今井紀明さん(NPO法人D×P共同代表)、岩切準さん(NPO法人夢職人代表理事)、斉藤寛子さん(フリーキャリアアドバイザー)、山本繁さん(NPO法人NEWVERY理事長)、渡辺一馬さん(一般社団法人ワカツク代表理事)ら6名のキャリア教育実務家が集まり、これからのキャリア教育を考える機会となったDRIVE×NEWVERYトークライブ「いま、キャリア教育を考える」。
前編に引き続き、どんなやりとりがなされていたかを、紹介します。
■「社会関係資本が、生徒のレジリエンスに影響する」トークライブ・レポート(1)
■「学生を、価値の消費者から生産者に変える」トークライブ・レポート(2)
■「何がやりたいかわからない大人を生まないトークライブ”・レポート(4)
「世界を変えられるかもしれない若者」を仙台から生み出す
山本:前半に引き続き、どんな子どもたちを対象に、どんな活動をされているか、どんな問題意識を持っているのかを、渡辺さんに聞けたらと思います。
渡辺:大学生向けのインターンシップのコーディネーションや、大学のカリキュラム開発や運営、大学の就職の先生など、仙台でキャリア教育のようなことに取り組んでいます。 僕自身のキャリアとしては、大学時代にWEB制作などを仲間と請け負い始め、卒業してからもそれをやっていました。ある日、中学や高校の同級生と飲む機会があったのですが、彼らは会社の悪口や愚痴をずっと言っている。
「おまえら馬鹿じゃないの、嫌ならやめればいいだろ!」と言っても、「それを言っちゃおしまいだ」という反応だった。僕より偏差値の高い大学を出て、2倍くらいの給料を貰っているのに、なんでだろう。考えてみて、僕は大学時代にいろんな面白いことを地域の方たちとやらせてもらった点が違うと気がついたんです。
それで、自分の後輩たちは面白くさせようと、インターンシップの真似事を始めたのが、26歳くらいでした。その後にETIC.と出会い、今は職員も10数名を超えて、地域の中で若者が自主的に課題を見つけ、インターンしたりゼミ活動にしたりするためのコーディネートをしています。
昨年、インターンやボランティアで、地域に関わった学生は、延べ人数にすると1000人を超えます。 根本の問題意識は、僕自身がいじめられっ子だったことにあります。友達がいなかったので、小学校の時はいつも家でテレビを見ていた。そんな中で小4の時、テレビで二つの映像を見ました。ご飯も満足に食べられないアフリカの貧しい子どもたちの映像と、アメリカの裕福な家庭のクリスマスの映像。それを見て、「世界中の子供達を笑わせたい」というのが夢になったんですね。
でも20代中頃に、自分自身が世界を変えられるようなスーパーマンではないことに気づく。ただ、僕は世界を変えられないけど、「世界を変えられるかもしれない人々を生み出す」ことはできそうな気がするなと思って、地域の中での若者育成をやっています。 311後は震災復興の仕事にも関わってきましたが、被災地・被災者と向き合っていく活動で継続しているプロジェクトの共通点は、「この人たちのことが好きなので、この人のことをお手伝いします」という姿勢があることです。当事者意識を持って相手と関わって、自分たちにできることをしていくのが大事だなと思います。
「若者は地域に関わらない」という地域側の思いこみ
山本:東北の若者と、東京の若者との違いはどんな感じでしょうか。震災があって、東北の若者たちの意識は、どう変化しているんでしょう?
渡辺:どこの地方都市も似た課題を持っていると思いますが、高校までは生まれ育った地域でみんな過ごすので、優秀な子たちやリーダーシップを持った若者たちも地域にいるんですね。だけど、大学進学の際に、急激に「首都圏の大学を目指そう」と、そういう子たちが地域から抜けていきます。だから目的意識があまりなかったり、親の意思もあって残らざるを得なかった人が地域に多いわけです。
震災の影響の話をすると、東北の子どもたちは、エンパワーされた子達とディスエンパワーされた子達に二極化しています。支援の一環で、海外の短期留学に参加し、「世界は変えられる」みたいに言うようになる子もいれば、両親とも亡くなって身動きが取れなくなっているような子もいる。そういう子たちの対応は難しく、小中学校の先生にもストレスがかかり、先生たちがうつを抱える割合も上がっています。
今井:僕も高校時代にジュニアリーダーをやっていて、活躍の場を地域にもらったというのがすごく大きかったと思ってるんです。先日、講演会をした時に、高校生の子たちが来てくれたんですが、地域の中から出ていきたいのか、将来的には戻ってこようという気持ちや愛着があるのか、どうなんだろうと思ったんですけど。
渡辺:田舎は、「この地域はダメだから、若いやつはみんな出ていくべきだ」という伝説がまかり通っているんですよね。頑張っている人が地域にいても、馬鹿じゃないのという目線で見られてしまったりもする。地域の側が、若い人は町づくりとかに関わらないと思いこんで閉ざしている面もあるんですよ。それで、地域で活動したいと思っている若者たちが、動きにくくてやりづらいと感じてしまっている。それはもったいない気がして、そこをなんとか壊そうとしているんです。
スーパーリーダーじゃない普通のフォロワーを、地域で育てていくには
来場者:田舎出身で、上京して都市部に出てきたものです。地元には、車の整備工場やディーラー、洋服の販売定員の仕事をしていて、趣味はパチンコみたいな生活をしている人がたくさんいる。今日の話を聞いていて、「自尊心」が結構大事なテーマなのかなと思ったんですが、地元で働いていく中で彼らをエンパワーメントするためには何が必要だと思いますか。
渡辺:どんな仕事でも幸せに生きている人はもちろんいっぱいいるので、どうエンパワーメントするかなんておせっかいでもあるのですが。おっしゃったような方が普通に働けているうちはいいのですが、ちょっと足を踏み外すと、失業者じゃなくて無業者になることもありますし、地域との関係性もなくなったりします。
僕自身は、「若いうちに、役に立ちたいと思う場を自分で見つけて、何かチャレンジして、失敗でも成功でもしてごらん」ということを、町が許容する文化にしていくことが必要だと思っています。学生の頃だったらチャレンジをしても失敗はそんな大きくならないだろうと思いますし、得られる効果が大きい。
有山:僕は最近すごく違和感を感じていることがあるのですが。いろいろな所の取り組みを聞いても、リーダーになって町おこしをして、商店街の課題解決をして、そんな人ばっかり育てようとしてるのではないかなと感じているんです。そんな人、100人中1人いたらいいとこだと思うんですね。
残り99人のフォロワーのための教育ってどこにあるんだろうという問題意識があります。家族や近所のお手伝いをして喜んでもらったとか、地域で普通の生活をしているフォロワーの人々をどう育てて構成していくかが本当は大事なのになあと。とんでもないスーパーリーダーばかりを作るのがキャリア教育じゃないよなっていう危機感はすごく持っています。
複数の役割や仕事を持つことで、地域コミュニティーが維持できる
岩切:高校を卒業し、大学や専門学校を出て就職し、その後も会社を辞めずに働き続ける「ストレータ―」と呼ばれる人たちは、統計で言うと50%を切っている。そうじゃない働き方をする人が、実際は多いわけです。しかし、親がサラリーマンの家庭の子どもは、第一次産業は一生接しないんじゃないかってくらい、知りません。
まず土に触れるところが都市部にはない。そういった多様性という意味では、子ども時代から都市部と地方で交流していくようなことが必要なのではと思います。 地方には、リンゴ農家をやりながら、冬はスキーのインストラクターをやっているような人たちもいるわけですが、都市部の子どもは仕事を兼業するというイメージが描けないんですよね。大人はみんなお父さんと同じようなサラリーマンだと思っている。そうやって選択肢が見えないことは、人を苦しめていると思うんですね。
本当はいろんな働き方があるんだけど、少しレールから外れると、「僕の人生はもう終わった」みたいに感じてしまいやすいのかなと思います。
渡辺:仕事の多様性は地方でもすごく失われてきています。それはたぶんすごく不幸なことで、もともとは田舎っていくつかの仕事や役割を負いながら、少ない人数で地域が回っていけるようにコミュニティーが形成されていた。なのに、だんだん仕事や役割が1つに固定されてしまい、町づくりを誰も担わなくなった。その仕事は自分の仕事、この仕事は自分の仕事ではないという考え方だと、「人口がいないと町がつくれない」となってしまうんです。
人口が少なくても、人がいくつかの役割や仕事を持っていたら地域コミュ二ティーは維持できるっていう当たり前のことに、今はみんな気が付けなくなっていると思います。
■「社会関係資本が、生徒のレジリエンスに影響する」トークライブ・レポート(1)
■「学生を、価値の消費者から生産者に変える」トークライブ・レポート(2)
■「何がやりたいかわからない大人を生まないトークライブ”・レポート(4)
<本記事にメイン登場する渡辺一馬さんの活動や情報は下記よりご覧ください>
・課題解決型の若者が増えれば街が変わる(一般社団法人ワカツク求人情報)
協力:本記事の文字おこしは、竹田周平さん、溝渕加純さん、渡部寛史さんにサポートいただきました。
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