「24歳で入職してから11年、グリーンズで働くことが僕の人生のようになっていました」
こう話すのは、NPO法人グリーンズ共同代表の植原正太郎(うえはら・しょうたろう)さんです。グリーンズは2006年創業以来、ソーシャル系WEBマガジンの草分けとして知られる『greenz.jp』を運営しています。
植原さんは2021年、創業者の鈴木菜央(すずき・なお)氏とともに共同代表に就任しました。今年春からは二代目経営者として、組織運営の舵取りも植原さんが担っています。
「グリーンズで働く」。大学時代に立てたこの目標を24歳で叶えてから、前線で経験とキャリアを重ねてきた植原さんの人生。それはどんな時間だったのでしょうか。そして、これからどんな思いをもってこの先を歩もうとしているのか、植原さんにお話を伺いました。
こちらの記事は、自分の道を信じ、情熱をもって一歩、また一歩と進む人のキャリア観と人生観に迫る連載記事です。大切にしたい思いとともに自分の人生をDRIVEさせる人たちのことを【DRIVERS】とし、敬意を込めてその生きざまをご紹介します。
植原 正太郎さん/NPOグリーンズ共同代表
1988年生まれ。大学時代のインターンをきっかけに初めてソーシャルの仕事に携わる。大学卒業後はマーケティング事業を主軸としたIT企業に就職。その後、2014年にNPOグリーンズ入職。寄付会員制度の立ち上げに携わり、ファンドレイジング、マーケティングの担当としてキャリアを積みながら2018年4月には副代表 兼 事業統括理事のポジションへ。2021年4月、共同代表に就任。同年5月に家族で熊本県南阿蘇に移住し、大自然に囲まれた生活を満喫している。釣りとスケボーが趣味。二児の父。
植原さんポートレート撮影 : 山中康司
聞き手 : 鈴木敦子(NPO法人ETIC.シニアコーディネーター)
「創業メンバーのようにはなれない」でも仲間がいる
鈴木 :
まずは最近、植原くんが一番関心を持っていることを教えてください。
植原さん :
グリーンズは今年7月に17周年を迎えたのですが、この春から僕が経営を担うことになりました。それからは「自分は二代目経営者としてどう進んでいけばいいのだろう」という問いが常に自分の中にあります。
自分が創業したわけでもなく、家業でもない。そんな立場の僕が、二代目経営者を自ら引き受けさせてもらって。
鈴木 :
グリーンズも、もう17周年。
植原さん :
そうなんですよ。僕がグリーンズの仕事に初めて携わったのが2011年、大学生の時にライターインターンで記事を書くようになってからなので12年は経ちますが、2006年の創業当時のことは知りません。
『greenz.jp』の「NPOグリーンズについて」より
でも、グリーンズは僕にとって大きな影響を与えてきた団体でありメディアなんです。2014年に入職してからは、グリーンズで働くことが僕の人生のようになっていました。
グリーンズの仕事を通じて人間関係も広がったし、友達も増えたし、暮らし方や生き方にもたくさんの影響をくれています。グリーンズと自分の人生が一体化していくような感覚がすごくあるんです。
グリーンズの代表を担うことに関しては、もちろん緊張や恐れのようなものはありますが、仕事を引き受けること自体に躊躇はありません。それは、今に至るまでの長く大切なプロセスがあったからだと思っています。
鈴木 :
とはいえ、「菜央さんの後継者」へのプレッシャーを感じる声はない?
植原さん :
今のところ特に聞かないです(笑)。もちろん、「僕は、菜央さんたち創業メンバーのようにはなれない」という思いは今もありますよ。
菜央さんたちの役割を一人では担えない。だから、無理はしないで他のメンバーと役割を分担しています。僕は得意な組織づくりの部分を引き受けることで、自分の強みを活かしたグリーンズのマネジメントを形にできるんじゃないかと思っています。
そして、今、自分たちは今後どんな可能性を開いていくのか、大きく試されているように感じています。先代たちがゼロから創ったグリーンズの価値を、守りたい部分は守りつつ、手放したり、壊したりしながら新しい価値をつくることが必要だと思っています。
新しいグリーンズをつくる。書籍に可能性も
植原さん :
グリーンズはWEBマガジンの老舗メディアであって、ソーシャル、サステナビリティ、ローカルの分野を17年もの間、横断的につないできたメディアは他にはあまり見当たりません。
ただ、現在、サステナビリティはもうグリーンズだけのものではないくらい市場が成長し、変化しています。そのなかで、「今後、グリーンズが社会に果たせる役割とは何か」、しっかりと考え直すタイミングがきていると感じています。
鈴木 :
これから、グリーンズがもつどんな強みを活かして新しい可能性を開こうしている?
植原さん :
今まさに議論をしながら企画を検討している段階です。ただ、今までグリーンズがやってきたことを僕らなりに再解釈して、自分たちを信じて行動を始めてみることが大事だと思っています。
例えば、WEBマガジンを中心としたコミュニティづくりも、実はもうやり尽くした感覚があるんです。だから、別の視点を取り入れたらどうなるか、今の時代に求められていると確信できることを創っていきたいなど、そういった話をみんなでよくしています。
これまでのグリーンズのメッセージとして最も手ごたえを感じたのが、2012年に出版した『ソーシャルデザイン』(朝日出版社)で、たくさんの方に読んでいただけたし、新しい読者も増えた、大きな転換期だったと感じています。
理由は、グリーンズが社会を良くしたいという想いでライターさんたちと行動を起こし続け、たどり着いた「どんな課題も楽しく解決できる」というメッセージが時代の流れに合っていたんだと思います。グリーンズは、創業後、まちづくり、子育て、エネルギーなど各分野でたくさんの人に出会ってきました。心動かされた想いや営みを、「もっと素敵な未来をつくる21のグッドアイデア」として、前向きにポップに一冊の書籍に込めたことが、新しい価値として社会に受け入れられたと思っています。
こんなふうにグリーンズが社会に届けた価値を振り返りつつ、今、編集長の増村江利子たちと議論を交わしているのが、書籍づくりを中心に置いたWEBマガジンです。インターネットで気軽に読めるWEBマガジンはいまやメディアの主軸の一つですが、膨大な量のコンテンツのなかで本当に読まれているのか疑問に感じる記事も少なくないと思っています。
一方で、学びや勉強のための書籍の購買行動は定着していて、書籍には誰かの人生を前進させる力もあると思っています。一冊の本が、書店や誰かの自宅の本棚に並ぶ、そんな状態から伝わる作り手たちのメッセージや考え方があるはずなんです。
どうなるかわからないけれど、誰かに届けたいメッセージを書籍に込める、WEBマガジンとしてそんなことをやってみたい。社会の変化にともなってメディアの方向性も変わっていく必要があると思う分、いろいろ試行錯誤をしているところです。
先代がゼロから生み出したグリーンズにこだわりすぎず、みんなで新しいグリーンズをつくるチャレンジを必要なタイミングで重ねていきたいです。
鈴木 :
新しい方向に進むことはまさに未知の世界に入るけれど、ワクワクするよね?
植原さん :
そうですね。グリーンズが17年かけて積み上げてきたものを、これから10年後、20年後も形を変えながら届けていくためには、僕たちが新しい価値を創造し続けることが必須だと思っています。これまでとは違うチャレンジを続けないと、守りたいものも守れない。「グリーンズの新しい価値って何だろう」と、今、みんなで必死に考えています。
NPOグリーンズについて
2006年7月、ソーシャルWEBマガジン『greenz.jp』創刊(当時の編集長は鈴木菜央氏)。2011年6月に green school Tokyo(現グリーンズの学校)を始め、2012年1月には書籍『ソーシャルデザイン』(朝日出版社)発表し、話題になるなど、ソーシャルメディア・コミュニティを世の中に拡げ、多様なつながりや価値を生んできました。
『greenz.jp』では、自分の価値観を大切に新しいチャレンジをする人、ほかにはない人生を感じさせる人たちのインタビュー記事が常に共感を呼び、寄付型WEBマガジンという独自のスタイルも社会に広く浸透させました。
グリーンズのビジョンは「いかしあうつながりがあふれる幸せな社会」、ミッションは「個人の変容と実践を応援する」、さらにタグライン(合言葉)は今年7月19日に「生きる、を耕す。」へリニューアル。グリーンズが今後、自分の人生を大切にしたいと願う人たちにどんなメッセージを届けていくのか、注目が集まっています。
写真提供 : 植原正太郎
※記事の内容は2023年7月取材時点のものです。
植原さんのインタビュー記事 続きはこちら
>> 「仕事と暮らしを一緒に」大きな影響をもらったグリーンズにどんなギフトを贈れるか―NPO法人グリーンズ共同代表 植原正太郎さんVol.2【DRIVERS】
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