全校生徒、革命児。創るのは、まだ見たこともない未来。MAKERS UNIVERSITY は、10年後の世界の主役になる未来のイノベーターたちが集い、未来を描くために、共に挑み、共に学ぶ、挑戦者のための学校です。ここから、どんな未来が生まれていくのでしょうか。今回は、MAKERS UNIVERSITY第2期に参加した田村賢哉さんにお話を伺いました。
地理をもっとおもしろく!学校の地理の授業をサポートする
ー田村さんは、NPO法人 伊能社中とダーウィンエデュケーション、二つの活動を通して教育に関する事業を進めていると聞いています。それぞれ、どんな活動をしているのですか?
田村:まず想像力を育む地理を目指し、 2011 年の大学 4 年生のときに特定非営利活動 法人 伊能社中を立ち上げ、Google Earth などの バーチャル地球儀を中心にした教員向け講習会 や教材提供をしてきました。地理教育支援に特化することで、教員に質の高い研修会を提供し、従来の暗記科目と言われた地理教育の枠に留まらない授業の実現を目指しています。というのも2022年に高等学校の『地理』が必履修科目になるニュースがでました。
これまで選択科目であった『地理』が必履修科目として新しく設置されるので、これまでにない新しい地理の授業が実現できると期待されています。その一方で、これまでの学校教育の流れでもわかるように新しい科目が設置される度に、現場は混乱してきました。伊能社中では、今回の『地理』の必修化で現場に混乱なく、楽しい地理が子どもたちに届けられるように、非営利組織として地理教育の普及啓発シンポジウムやイベント、学校教員向け講習会を開催しています。
また、2017年7月に設立した ダーウィンエデュケーション株式会社で次世代の教材開発を進めています。デジタルアーカイブの概念を変えるデジタル地球儀型博物館「APLLO」と次世代型教科書 「Mapup」を開発中です。
僕の理想とする教材に、首都大学東京渡邉研究室が制作している「ヒロシマ・アーカイブ」というものがあります。「ヒロシマ・アーカイブ」は広島の高校生が被爆者に話を聞き、デジタル地球儀に表現しています。現在、次世代型教材の制作に注力しており、7月に開発したドローンを用いた地形学習教材は教育業界で反響を呼ぶなど、想像力をかきたてる新しい学習スタイルを全国の学校教育で導入する方法を模索しています。
ー伊能社中の名前の由来は、「伊能忠敬」の名前からですか?
田村:そうなんです。江戸時代に今の地図と変わらない精度で詳細な日本地図を作った人です。しかも、50歳から始めて、日本中を歩いて測量した。僕らにとって、神的存在なので(笑)、この「伊能」という名前を入れたいなと思いました。「社中」は、坂本龍馬を中心につくった日本に強い志を抱く志士たちの組織「亀山社中」からです。「仲間」という意味もあるので、志をもった人たちで地理をおもしろくしていこうよと付けました。
ー想いが伝わるいい名前ですね(笑)。ところで小学校から地理の授業はあるんでしたっけ?
田村:社会科で地図帳は使います。でも、地理の科目自体は、中学校で始まります。
ー授業を支援するのは、小中高全部ですか?
田村:はい。基本的には学校の先生から、「こんなことをやってみたい」と依頼を受けたときに、「こういうことができるんじゃないですか」と提案をしています。インターネットで、いろいろなツールやアプリが出てきました。でも、スマホに地図帳が入っていても、学校教育ではなかなか使えない。そうした中で、NPOではデジタルを活用した授業の支援をやっています。
地図をきっかけに、世界を旅する
ー小学校ではどんな授業をしているのですか?
田村:基本的には「地理×ICT」で授業や教材をつくっています。デジタルは紙の資料では難しい表現を可能にし、子供たちにワクワク感を提供します。そうした中で、2011年からずっと制作してきたのはGoogle Earthを使った地理や歴史の授業です。小学生は、まずGoogle Earthで自分の家を探すだけでも楽しいんです。Google Earthは3Dに表現された地球儀で,紙地図では不可能な迫力ある表現ができます。他にも、ドローンを用いた地形学習教材も開発するなど進めてます.
ー田村さん自身は小さいときから、地理が好きだったんですか。
田村:もともと、幼稚園くらいの頃から「世界中いろいろなところを見てまわりたい」という欲求がありました。実は、父が青年海外協力隊でケニア(Kenya)に赴任していたことから,名前に賢哉(Kenya)と付けられたんです。名前に国の名前が付けられたことで,物心付いたときから"ケニアってどんな国や!?"と興味がありました。そして,小学校2年生のときに父から2冊の地図帳をもらいました.その地図に夢中になり、行ったこともない場所の想像を掻き立てられてました。いま思うと、地理好きになる育ち方してたなと思います。
ー地図帳はたしかに、子供心にもおもしろかった記憶があります。小学生のとき背伸びして高校の地図帳見てニヤニヤしてたのを思い出しました。それが今はGoogle Earthですもんね。最初にあれを見た時の衝撃たるや。いま見ても間違いなくおもしろいです。
田村:そうですね。Google Earthはすごいプロダクトだと思っています。僕が高校1年生のときにリリースされたんです。今まで紙の地図帳を使っていたのに、町まで拡大できるのに、地球全体も見られるというツールをオンラインで出しました。僕は、高校のパソコンに勝手にGoogle Earthを入れて、ずっと見ていたんですよ。
ー名前を聞いたこともないような国でも拡大すると、家があって、人が住んでいるんだなって実感するんですよね。紙の地図帳でもなんとなく思っていたことだけれど、高解像度だし、写真で見られる。
田村:本当にそうです。開発者のジョン・ハンケは、「ポケモンGO」を作った人でもあるんです。ハンケは、世界中のいろいろなところを人に旅させたいと言っていて、Google Earthは、世界のあそこに行ってみたいというきっかけになればいいと。「ポケモンGO」もそうですよね。アメリカに行かないと、ケンタロスを捕まえられない。僕はそこを尊敬していて、それを学校でやっていきたいなと思っています。
ただ、僕の周りは必ずしも地理好きじゃありません。高校生のときに「みんな、なんで地理がおもしろくないのかわからない。よし、地理好きにして、幸せにしてやろう」と思ったことがきっかけでした。なので、地理で人を幸せにできると心から信じています。(笑)
ー特に伝えていきたい地理の面白いポイントはどんなことですか?
田村:地理ってすべての教科で唯一地図が配布されるんです。世界地図をみながら授業受けられるってワクワクしませんか?僕自身はとにかく、地図帳を見るのが好きでしたね。そこから、地図帳を見ながら先生の話を聞くとますますおもしろくて、「ここは何だ?」と疑問がわいて、ますますはまっていく。それで、とにかく地理が大好きでした。
その場所への想像力が掻き立てられるし,もっと興味を持てば行きたいって思える。私の活動は,そんなおもしろい地理から冒険心を育んでもらいたいと思ってます。
ICTを活用して、新しい世界への入り口をつくりたい
ー高校では、授業もより専門的になりますね。
田村:高校の地理は、たとえば「アメリカの農業」といっても、農業だけでなく、自然環境や社会も合わせて捉えるので、いろいろなデータをGoogle Earth上にコンテンツとして表現して、学校の先生が教材として使えるようにしています。
ー地理は、そこから歴史にもつなぐことができるし、文学にも、文化にもつながる。地図から入ることができるところがたくさんありますね。あらためて、地理っておもしろいなと思っちゃいました。
田村:僕らはよく地理はなんでもありの学問だと言っています。入口はたくさんあるんですよ。でも、個人の興味関心につなげる部分があまりなくて。そこにも、ICTを活用したコンテンツを使って、入口をたくさん作ってあげられたらいいなと思っています。
ー今、地理的に熱いスポットってどこかありますか?(笑)
田村:世界中どこでも熱いですよ!世界には一切同じ場所は存在していません。身近な場所から、地球の裏側までいろんなところに行ってその場所の独特の風土を感じ取ってください。そうやって,多くの人たちがその場所の理解につながり世の中になればいいなって思います。強いて言えば,そうすると世界は平和になるでしょって思っています。
次の挑戦は、子どもたちにわくわくを伝える授業をつくるロボット
ー田村さんから見て、学校の現場はどうですか?
田村:学校現場はとにかく忙しい。高校生も地理は単なる暗記科目と思っていて。
ー先生も地理のおもしろさが教えたくても、忙しかったり、学習指導要領があったり、いろいろな制限がありそうですね。
田村:だから、学校の先生の負担軽減になるように、必要な教材をセレクトしてあげられるようなロボットを作りたいと思っています。それを目指して、今たくさんの教材を集めているんです。
ーロボットですか。これからの新たな挑戦ですね。
田村:2022年に高校の学習指導要領が新しくなります。そのときに、今まで選択科目だった地理が必修科目になるんです。
ーそれは大きな変化ですね。
田村:今までは偏っていたんだと思います。世界史が必修で、日本史と地理は選択だったんです。でも、歴史も地理も大切だよねと。新しく変わると、地理を学ぶチャンスになります。このときに、学校の先生が使いたいと思うコンテンツをいかに作ることができるか、それを通して子どもたちがいかにわくわくできるか、です。
ーそれでは、きっと地理業界は、盛り上がっていますね。何かチャレンジしたいことはありますか?
田村:はい。何をすればよいかを考えているところでもありますが、例えば地理教育に人工知能やロボット技術を導入して、これまでのデジタルとアナログの壁を大きく超えた次世代の地理教育を実現したいと思っています。いまの多くのデジタル教科書や教材は、「アナログでいいじゃん」という声が聞こえてきます。「あ~、この教材はどう考えても導入した方が圧倒的に子供たちの学びに繋がる」と直感的に思ってもらえるような教育コンテンツを生み出していきます。
MAKERS UNIVERSITYでのつながり
ー田村さんも塾生として参加しているMAKERS UNIVERSITYについてお聞きします。さまざまな分野で活動する人がコミュニティにいると思いますが、実際に参加してみてどうでしたか?
田村:みんな違っていて、別々の方向を見ているように見えるけれど、実はつながっているんじゃないかと思うんです。仲間というか、どこか家族みたいな。
ー分野は違えどなにか同じ心持ちや志を持っている、という共通の感覚があるんでしょうかね。MAKERSの先輩たちや師匠的な立場の起業家の人との関わりはどうでしたか?
田村:僕のメンターは、おもしろいか、おもしろくないかの価値判断で評価してくれました。それ、おもしろいじゃん、やりなよって。世の中で何がおもしろいかの目利きができるようになりました。
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