京都府の北部、丹後半島に拠点を置くNPO法人地球デザインスクール。1997年、京都府からの「市民参加、ソフト先行で、自然共生の公園を作ろう」との呼びかけに賛同して集まった人々により創設された団体です。地域社会に受け継がれてきた豊かな自然や文化を守りながら、自然と共生する暮らしを模索する様々な活動を展開しています。
2006年からは、京都府立丹後海と星の見える丘公園の指定管理者を務め、2018年には、宮津市や京都大学などと共におこなっている「宮津・竹の学校」事業が、国土交通省が発表している都市景観大賞の景観まちづくり活動・教育部門において優秀賞にも選定されました。
そんな同団体の中心メンバー6人が、日々の活動を進めていく中で、自分たちの組織がどこへ向かっていくかを確認するために、株式会社ウエイクアップとNPO法人ETIC.が協働で手掛ける、リーダーシップ・組織開発プログラムに参加しました。リーダーに対するパーソナルコーチングと、チームのシステム・コーチング®※1からなる同プログラム。その経緯と効果について、参加した常務理事兼 事務局長の清水睦さん、理事の市瀬拓哉さん、徳本英明さん、太田征紀さんにお話しをうかがいました。
システム・コーチング®※1 : 「理論教育、エクササイズ、対話」を通して「別々の個性や強みを持った個々人」が、「一度にチームとして成長」していく為の支援をするもの。「当事者全体」の「関係性そのもの」に直接働きかける。(「CRR Japan」公式ホームページより引用)
今の活動の積み上げから脱却したい
─どんな問題意識を持っていましたか?
清水:私たちの活動は、公園とは切っても切り離せない関係にあります。設立当初は、どんな風に公園を使っていくかという夢だけ語っていれば良かったのですが、京都府から公園の指定管理者を請け負った責任上、そうはいかなくなりました。私たちが広げた夢は、税金が入っている公の場ではできないことがたくさん。当初集まった人たちが離れていったということもありました。
日々やらなければいけないことがある。現場で働く人の入れ替わりも激しい。私たちはどこに向かうのか。現場、理事、NPOの会員の方々が思っていることは一緒なのか、違うのか――そんな不安やモヤモヤが10年来ずっとありました。
そんな時、このプログラムの話を聞きました。このまま今の活動を積み上げて行った場合、どこに行きつけるのだろうか。根本的に変えないといけないのではないかという思いがあったので、もしかしたら、その取っ掛かりになるのではないかと思い、申し込みました。
市瀬:私が抱いていた問題意識は、チームとしてどの業務の優先順位が高いのか、何に力を入れていくのか整理されていなかったことです。個々で仕事を担当しているのですが、シフト制なので、メンバーが顔を会わせない日もあります。組織としては、ビジョンやミッションについて話し合ってはいたのですが、具体的にどうしていくかがまだ明確ではなかったため、それがはっきりしたら良いなと思っていました。
チームの関係性を作りなおす
─実際にプログラムを受けてみて、どう思いましたか?
清水:システム・コーチング®では、チームとしての計画を作るのかと思っていたのですが、そうではなくて、そういうことを話せるベース作り――つまり、人間関係やチームの関係性を作るのだと、セッションを受けながら気づきました。
また、私はLCP(リーダーシップ・サークル・プロファイル™)という360度アセスメントツールで個人のリーダーシップ発現度を測定しました。結果として、自分自身がお腹の底ではわかっていても、できれば隠しておきたかったことが出てきて、正直心が痛かったです。初めは、どうしたらそんな自分のあり方や行動を直せるのか考えていたのですが、コーチのサポートもあり、途中からはそんな自分も受けとめ、楽になりました。
市瀬:システムという言葉を聴くと、仕組みをカチッと作るイメージだったのですが、もっと柔軟で有機的な感じというのがとても新鮮でした。チーム内のコミュニケーションも含めて、どう展開していくかの作り上げ、積み上げが今回のシステム・コーチング®だったなと思っています。
印象的だったのは、地球デザインスクールの歴史を共有する時間があったことです。私と清水さんしか知らないこともあり、それが他のメンバーに共有できたのが良かったと思っています。メンバーからは、「組織がよくここまで生きて来られた」という声もありました。過去が整理されたことで、前を向いて行けるようになった感覚があります。
太田:コーチングは研修会と同じで、手取り足取り教えていただけるのかと思っていたのですが、明らかに違いました。昔ながらの研修とは違う、新しい感覚でした。私はここに来て1年半なので、正直、自分は他のメンバーよりも一歩遅れて、後を追っているような感じがありました。
徳本:2年前に決めた地球デザインスクールのコンセプトを使って営業や広報をしていたのですが、そのコンセプトが外の人にうまく伝わらないというモヤモヤがありました。システム・コーチング®を通じて、どうにかしたいと思っていました。
コーチングを受けていく中で、皆が同じ方向へ向かっていると感じられた時もあれば、逆に仲が悪いのではないかと感じる時もありました。しかし、コーチから、「自分たちの深い思いを掘り下げていくと、違う部分があることも気づく。そういう部分をぶつけ合っていくことで組織は成長していく」という話を聴き、今までとは違う視点でチームを見られるようになりました。
「どちらにも一理ある」─新しい物の見方で柔軟に
─その後、ご自身にどのような変化がありましたか?
市瀬:これまで目標は平面上にあった感じなんですけれども、もっと立体的に、柔軟になったと感じています。もちろん目標や目的は定めなければいけないし、定めた方が走りやすいというのはあるんですが、走りながら変わるし、方向自体も変わっていくのだと感じました。振り返ってみると、未来が定まっていないことに対する不安がすごくあったと思います。そこは柔軟に行こうというのが、いまの自分の感覚です。
それから、事務局長の清水さんがリーダーとしてパーソナルコーチングを受けたことで柔軟になったと感じています。前は一度決めたら決めた通りにやることが多かったのですが、状況に応じて変えていくことも増え、仕事がやりやすくなりました。
清水:システム・コーチング®の中で使われる「パートリーライト」(partly right: 誰もが正しい。ただし全体から見ると一部だけ)という考え方が腑に落ちました。物事は、どちらが正しく、どちらが間違っているということではなく、どちらにも一理ある。そういう議論や物の見方ができるようになったのも変化です。
徳本:僕も同じです。自分の中に「こうするべき」という強い考え方があり、白か黒かはっきりさせないと落ち着かない性格なのですが、「パートリーライト」という考え方を知り、ビジョンも変えていったら良いと思えたことが、自分の中で大きな変化です。「べき」と思うことが少なくなったので、自分の仕事に集中でき、他の人の動きも尊重できるようになりました。
太田:徳本さんを見ていて、お客様への対応がすごく変わったと思います。とにかくお客様に喜んでもらおう、ここへ来て良かったと思っていただこうという気持ちが、話し方や言葉遣いに現れていると感じます。チームに目に見えるような大きな変化が起きたという感じはないのですが、貴重な時間でした。
個人の思いや力を活かす組織に
─今後についてはどのように考えていますか?
清水:個人の能力に依存した仕事の進め方だったので、組織として仕事ができるようにならなければとこれまでは思っていました。しかし、システム・コーチング®を受けてみて、一人ひとりが何らかの思いを持って、それを実現するために、今この地球デザインスクールを活用するのでも良いし、個人の力を使って組織が何かを実現するのでも良いし、どちらでも良いと思うようになりました。
結局、人の中に思いがないと、「これをやりなさい」と言われても楽しくないし、波及効果もないということを実感しています。沸き上がってくる個人の思いが組織を動かしたり、さらに大きな結果につながっていくとわかったことが、大きな収穫だったと思っています。
◆コーチからのコメント <地球デザインスクール>
中村奈津子(システムコーチ)
社会人や大学生向けにコーチングやカウンセリングをベースとしたコミュニケーション、リーダーシップ、メンタルヘルスの研修、ワークショップを提供しています。元々社会企業の応援をしたいという思いがあり、今回応募しお引き受けしました。目標へ向かう道のりには、一般企業にはない課題が想像以上にあることがわかりました。だからこそ、その願いや思いを少しでも形にできるお手伝いがしたいという気持ちが高まりました。
石井宏明(システムコーチ)
普段はシステムコーチの育成をはじめ、主に組織開発(含システムコーチング)の仕事をしています。NPOは、想いは強いがお金が無く(自分たちのために使いづらく)、それだけに組織が疲弊しやすい印象があります。同時に、社会的意義がある強いため、そういった団体へこそ、システムコーチングを活かすべきと思い、担当させてもらいました。もっとこうした団体こそが持続可能になり、成果をだしていくべきだという見方が強くなりました。
森山裕二(パーソナルコーチ)
コーチングを主に、京都をベースにエグゼクティブの方から次世代リーダーの方々のコーチングを行っています。理想とするライフスタイルは「半農半コーチ」です。
元々社会起業家の方々の支援に興味があり、地元京都のNPOだったので今回手を挙げました。関係する団体や理事との関わりが多い一方、どうしても限られた情報源や、限られたコミュニティの中で行うアプローチとは違ったアプローチとして、今回の企画は、リーダー、メンバー共に、思考の広がりや、メンバー間の相互理解、ビジョン等の共有に役立てもらったのでは、と思います。
NPO法人ETIC.は、今回効果を実感したリーダーシップ・組織開発プログラムを、株式会社ウエイクアップと協働し、非営利組織向けのプログラムとして引き続き提供します。詳細はこちらからご覧いただけます。
あわせて読みたいオススメの記事
#経営・組織論
事務局長の一番大事な役割ってなんですか? 〜NPO・ソーシャルビジネスの成長を支える体幹はどうつくられるか
#経営・組織論
#経営・組織論
社会課題解決の仕事の“リアル”を知る『SOCIAL CAREER WEEK 2024』とは?【1月29日~2月10日開催】
#経営・組織論