当プログラムは、国連が採択した持続可能な開発目標(SDGs)に関連する特定の課題分野において、高いビジョンを掲げ、革新的な取り組みを行っている非営利団体に対して、デロイトが通常のビジネスと同等の品質とコミットメントを持って専属チームによるコンサルティングを無償で提供する取り組みです。この取り組みにより、各団体の成長をさらに加速すると共に、そこから生み出される社会へのインパクトを最大化することを目指します。
7ヶ月間におよぶプロジェクトを終え、対話を重視し信頼関係をつくったという両者は、今後も継続的なかかわりを持ち続けたいと考えています。応募時にSwitchが持っていた課題意識、それに対するコンサルティングプロジェクトの進め方・内容・成果、また、今後の展望等について、Switch代表の高橋由佳さん、事務局長の今野純太郎さん、そしてデロイトのプロジェクトチームよりCSR・SDGs推進室シニアマネジャー小國泰弘さん、コンサルタント岡ひとみさん、ビジネスアナリスト長島陽子さん・石川武さんにお話を伺いました。
順調な成長曲線を描くNPOが抱えていた課題
── Switchのお二人に伺います。応募した1年前に遡って、パイオニアプログラムに応募した動機を教えてください。
Switch高橋さん(以下「高橋」):法人設立から7年が経過しました。事業費も職員も増え、数字上は順調に成長しているように感じられるのですが、次の5年を考えたとき、避けて通れない課題がありました。
私たちは給付金をいただいて障害福祉サービスを提供する事業型NPOとして活動していますが、社会保障費の推移を見ていると、このまま給付金が増えるはずがない、というのが一点。それに加え、仙台市・宮城県にとどまらず、社会に対して価値を深めることはできているのだろうか?という問いがありました。もっと門戸を広げていくはずが、保守的になって活動の幅が狭まってしまうことへの危機感があります。
今、社会的弱者の課題は複雑化していて、一団体では解決しきれないことも増えています。単純に障がいを持つ方々の支援だけでなく、より多様な人たちの就労支援や心のケアのサポートもしていくべきではないか……。そういったことは、これまでも団体内で話していました。福祉サービスの枠にはまらない方たち、いわゆる「グレーゾーン」と呼ばれる方々を対象とした新しい事業を私たちが生み出すことはできないか? この領域には政府の予算も入っておらず、民間のサービスも行き届いていません。そのままでは社会的弱者に転落してしまうリスクの高い層に向けて、セーフティネットを作ることで早期支援・早期介入を行い、未然に防ぐような、対症療法ではないサービスを作りたい、と。
ですが、我々にはノウハウも財源もない、ファンドレイジングもどうしたらいいかわからないという状態。「点」ではなく、法人全体という「面」でセオリーオブチェンジを考え直さないといけないところまで来ていると感じました。それが応募の動機です。
── そういうSwitchの思いを受け取って、デロイトとしてどうコンサルティングプロジェクトを進めましたか?
デロイト小國さん(以下「小國」):最終的なアウトプットとして想定にあったのは、今後3年間の道しるべを作る、つまり中期計画の立案でした。ただ、Switchの皆さんがそこまで求めていらっしゃるかは分からなかったので、最初のご提案では、現状調査と解決の方向性の検討までにしましょうと。そこまで見えた段階で、中期計画を立案したいということになったら継続しましょうと話をしました。
第1フェーズとして内部・外部の環境分析からとりかかりました。NPOの場合、外部環境の要素としてまず想定するのは、①支援者、②受益者、③協働相手、④競合相手などです。Switchの場合は特に、就労先・インターンなどの受け入れ先企業、そして行政・公的機関との関係が大事な要素となってきます。この2つを特に意識した上で外部環境のスコープを定めました。
内部環境の分析では、全理事・全社員へのヒアリングや財務分析を実施しました。ここに3ヶ月ほどかけました。
いい仕事をしているからこそ、現場は疲弊していた
── 内外環境の分析からどんなことが見えてきましたか?
デロイト岡さん(以下「岡」):Switchは職員16人という規模で、大きくなろうとしているフェーズでした。その規模ならいつもコミュニケーションを取りあい、課題も共有して進めているんだろうな……と想像していたのですが、実際は皆さん目の前の仕事に集中されていて、課題があっても十分に共有せず自己完結し、フタをしているような状態でした。
Switchの一人ひとりが頑張っているんだけど、理事・職員がバラバラにやっている状態。でもやりたいことは一緒。それを可視化して方向性を見せるというのは外部者だからこそできると、やりがいを感じていました。
小國:NPOでは他の団体でもよくあることですが、理事・経営幹部と現場との乖離が大きいと感じました。加えて、仙台と石巻、2つの事業所でロケーションが分かれていることもあり、意外とコミュニケーションがされていないんだなと。
── そこに一つの事業の方向性を見いだすことで、一体感を感じられるように、ということですね。
小國:そう持っていきたいと思いながらずっとやってきた感じです。いい仕事されているんですけど、だからこそ疲れちゃう、みたいなところがあると感じました。
── 「いい仕事」とは?
小國:支援する一人ひとりに寄り添っていますよね。全身全霊傾けてサポートするというスタンス。それはもう至るところで感じます。職員の皆さんへのインタビューではもちろん、普段の振る舞いや団体に対する思いとかからも。
小國:第1フェーズに続き、次のフェーズとして①中期計画立案(福祉サービスと自主事業をどうしていくか)、そして②ガバナンス改革検討をご提案しました。理事・職員が一つの方向を向く何かが必要ということ、これが鍵だろうと考えました。これを想定しながら中期計画を作っていくことそのものに意義があるのと、中期的にすべきことをちゃんとスケジュールに落とした方がいいと思ったのが大きいですね。高橋さん、今野さんに伺ったら「やります」とのことだったので、第2フェーズに進みました。
社員一人ひとりの想いと法人のビジョン・ミッションを重ねていく
── Switchの中で、印象的だった組織の変化があれば教えてください。
Switch今野さん(以下「今野」):まず、理事・管理職全員が週に一度集まるようになった、ということが大きいです。以前は半年に一度集まるかどうかという感じでした。それが強制的に毎週集まることになり、話をする。ただ話すだけでなく、途中から本音が出てくるようになってきました。中盤から中間層が本気になり始めたのを感じて……その変化は自分たちだけでは生み出せなかったですね。そこが一番大きな変化かな。
自分自身でも、法人の方向性がこうだから、ということではなく、スタッフにあなたはどうしたい?と聞くようになりました。皆が何をしたいからこの法人がある、という方にシフトしていきたいと思うようになった。社員一人ひとりの想いと法人のビジョン・ミッションを重ねていくというか。
高橋:デロイトさんが対話に時間を割いてくださったのはすごくありがたかったです。他のNPOでもありがちだと思うんですが、理事たちは現場のプレイヤーも担っていて忙しく、一つの事業軸だけで日々過ごしていたり、それに対しての価値をどう深めていくかにフォーカスしたりしがち。他の事業に目が向かないし、ゆっくり将来のことを考える時間もない。伴走型の対人援助はどうしてもバーンアウトしやすい職業だと思います。
けれど、対話が増えて、他の事業・部署のスタッフの調子なんかも含めて関心を持って見ることができるようになったのは大きな変化。自分の部署だけでなく、他の部署に関して未来志向で何かを考えたり、アイディアを出したりするというのが最近できるようになってきました。
仙台と石巻、2つの環境で担う役割
── 今後、地域の中でSwitchがどう課題解決の役割を果たしていくべきだと思いますか?
今野:株式会社、福祉事業所などいろいろあるけれども、その中でNPOとして、収益だけでなく、グレーゾーンの人も含めて幅広くすくい取れる団体としての位置付けを強化したいと思っています。
グレーゾーンとは、福祉サービスの枠にはまらない方たち。例えば発達障害の方、高校生・大学生、通院していたり、障がい者枠に乗るのは難しい方々にとって、今のところ公的な福祉サービスはまったくない状態です。受益者負担が難しいので取り組みにくい、そこに自分たちの力で支援スキームを作っていけたらと考えています。
高橋:一団体では解決できなかったり、持続可能な支援が難しいケースが多くなっています。政府の制度変更に振り回されるのではなく、自主事業としてファンドレイジングをしながら収益事業をしていきたいと思っています。委託事業だけでは受益者負担がしにくい層を支えるのは難しい。そこにチャレンジしたいです。
小國:石巻事業所と仙台事業所は全然環境が違うんですね。仙台の方は駅前に事業所があり、商圏も広い。ですので、ここ、仙台事業所に通って来られる方への支援が一歩目として重要です。一方、石巻では事業所に通って来られる人は限られています。支援団体も少ないので、地域のネットワークの中でサポートしていく要素を強めていく必要があります。石巻では引きこもりなど表に出られない人も多いと、外部関係者へのインタビューなどを通じて聞いています。その支援のために地域連携は重要です。
石巻圏域ではこれまで震災復興という枠組みで支援の対象範囲を捉えてきた側面がありますが、次のステージではそれに代わる新しい枠組みで支援対象者を捉え直していく必要があります。新たな枠組みを行政と一緒に考えていく、そこにおいてSwitchができることがあると思っています。
あとは精神疾患以外を含めた複雑なサポートを地域として取り組んでいく、Switchはその主軸を担っていかれるのだと思います。石巻では1団体のことを考えるだけではない役回りが重要になってきますね。
外部の関係者にヒアリングをしていても、Switchに一番期待する役回りは社会に出ていくための入り口。最初の一歩を担うというところ。一歩目をなかなか踏み出せない方が多いと聞いているので、橋渡しが重要です。
「あなたのことを理解したい」と伝えて本音を引き出し、信頼関係をつくっていく
── Switchにコンサルティングをするにあたり、気をつけていたこと、心がけていたことはありますか?
小國:毎週、2時間のセッションのために仙台にお邪魔していました。
Switchと仕事する上で我々がテーマとしていた一つは「一人ひとりの本音を引き出す」ということ。我々はSwitchを理解しようとしている、理解したいと思っている、ということをどう伝えていくか、それを常に考えていました。特に理事の方とはお一人おひとり、結構な時間をいただいて、折に触れて個別にディスカッション、ヒアリングをさせていただきました。単純にプロジェクトを進めることだけでなく、我々のスタンス、思いも伝わればという思いでした。
今野:コンサルティングというと数字のイメージがあって、財務・事業の組み立てがメインかと思っていたんですが、デロイトさんはそうではなくて、法人の存在意義・ビジョンから入ってこられた。
福祉のスペシャリストとしてのプライドもあり、最初は、業界外の人にこんなこと言われるの?という感覚が団体内にもありました。それが、2〜3回目のセッションから聞こえてこなくなりました。ただ数字・実績を言われるだけではないと気づいたからではないかなと思います。
小國:個別に話をすることが一番大きいですね。数字をバンバン出すということをあえてしなかったのは、「ここまでやるべき」と「これだといき過ぎ」の塩梅、Switchにとってちょうどいい線引きはどこか、ということをメンバー内部で常にディスカッションしながら進めていたからです。それが教科書的なものではなく、一つひとつの団体内に入ってコンサルティングを実施する意義・価値だと思っています。クライアントのことをある程度理解しているということ、その上でこの人たちが言うんだったらやってみようかな、と思っていただかないと意味がないので。
高橋:やはり私たちを理解してくれている、ということが伝わったのが大きい。人の心を動かすのって結局そこなんだと思っています。最終的には、NPOとはいえどもサステナブルにやるためには事業基盤と収益が大事、それはそうなのですが、そのプロセスの間に「私たちを理解してくれている」とか「心」というのが大事で、それがちゃんと数字に織り込まれている。
小國:愛情です、愛情。(笑)
高橋:本当にそうですよね。愛がないと。
この職員数と事業規模のNPOにとって、コンサルタントがこんなにかかわってくださるということで、最初は私たちでいいのだろうかと戸惑いもありました。
でもこの事業規模と、当法人のカラーとスタッフ構成、アイデンティティ、パーソナリティ……すべて鑑みながらそれに合わせたコンサルティングのスキームを作ってくださったんだなと肌身で感じています。
コンサルタントの問題解決能力を社会に還元する機会がデロイトにはある
── コンサルタントとして、今回のプログラムを通して学んだことはありますか?同じようにコンサルティングに関わる人に伝えたいことがあれば教えてください。
岡:私は前職で国際協力のプロジェクトに関わっていて、コンサルタントに発注する側として働いていました。課題解決の当事者になりたいと思ってデロイトに入りました。これまでに担当したプロジェクトでは、至上命題はいかに売上・利益を出すか。そこさえ守っていれば、その数字をブレークダウンしていけばよいので、クライアントとのコンセンサスが取りやすかった。でもこのプロジェクトでは、社会課題を解決することが至上命題。今までのプロジェクトとはスタートポイントが違っていました。
初期情報をいただいたとき、「収入は伸びていますね、数字いいですね」という感じで真の問題が見えなかったのです。Switchの皆さんとお話する中で、「どう社会課題を解決していくか」という部分で一人ひとりアプローチが違っていたり、同じ団体なのに孤軍奮闘したりしている状態と知り、ここが真の課題だと気づきました。そして、自分が入るからには全力で変革したいと思いました。
同じコンサルタントに伝えたいことは、コンサルタントとして課題解決能力を持つのであれば、営利企業にとどまることなく社会に向けてその能力を生かすべき。長期的に見て社会に還元するという気持ちを持って働いてほしい。そういう機会がデロイトにもあるし、きっと外にもあると思いながら働いてほしい、ということです。
デロイト長島さん:私は新卒で入って2年目で、最初から最後まで一つのプロジェクトに関わったのはこれが初めてです。最終的に経済合理性だけで必ずしも課題を解決できるわけではなく、課題解決に向けた判断軸をクライアントと共同で考える必要があり、これまで以上にクライアントと密にコミュニケーションをとることの大切さを学びました。
1+1=3のインパクトが生まれるようなサポートを
── 今後のパートナーシップについて伺います。コンサルティング終了後、どんな連携がありうるでしょうか?
今野:貴重なアドバイザーとして関わり続けていただきたいと感じています。今までなかった外部からの目が入って、当団体はすごく活性化したので、今後も継続的にやっていかないといけないと思っています。
小國:今後のフォローですが、中期計画は作った瞬間に古くなるんですね。どんどん更新していかないといけないし、進めないと意味がありません。物理的には、最低月1くらいで進捗会議を実施していただけたらと考えています。
Switchが実践していることは全国に届けるべきだと思っています。願わくはSwitchの実践している支援の例を見て、全国の誰かが行動を起こしてくれるとか、そういう影響を及ぼし得るので、その支援をしていきたいと思っています。それは例えば他の地方の団体にSwitchの例を伝えることかもしれないですね。
若者就労支援の団体は全国に数多くあるので、1+1=3が生まれるような側面のサポートをしていけたらと思っています。他の団体に関わることかもしれないし、得られた示唆を他の団体にインプットすることかもしれないし……。もう少し全国規模で、同業や中間支援団体にデロイトとしてかかわることで、社会的インパクトを宮城に留めず、もっと広く何かできるのではないかと考えています。
── デロイトとして社会課題解決、社会的インパクトを出すということを考えたとき、1年間に2〜3団体の支援ではレバレッジが効かないという問題意識がおありでした。今後の役割についてはどうお考えですか?
小國:デロイトとして個々のNPO支援は続けていくと思います。ただ、プラスアルファをどう作るかを議論しています。エッセンスを抜き出したものをゼミ形式で複数の団体に提供するのか、簡易的にできる方法論やパッケージのようなものを開発するのか、工夫は必要ですが。例えば中間支援団体と組んで、一つの足がかりとしてそういう役立てるものを作っていきたい。
我々はこれまでの7年間で40ほどの非営利団体を支援してきています。プロジェクト単位でいうと80案件ほどでしょうか。これまでは国際協力系の団体が多かったのですが、去年あたりから国内で活躍している団体への支援も増えています。こういった国内の団体に向けて、レバレッジの効く方法で課題解決の支援をしていきたい。国内の団体の基盤強化には何かしら貢献できると思いますし、今は、金融機関に眠った預金を民間公益活動促進に活用できるようにする「休眠預金活用法」の件もあるので、個々の団体のケイパビリティを上げる必要があると思っています。税金とは違う資金が入ってくるというときに、各団体がそれを受けるに耐えうる組織になっていることが重要だ、という課題意識も持っています。そういうところにデロイトとして挑んでいくのは大事だと思っています。
本記事は、特集:満足度120%の「社会の問題を解くコンサルティング」〜デロイトとNPOによる協働のケーススタディ
に掲載されています。他記事へのリンクは以下を参照ください。
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