数少なくなった単館系の映画館として、アーティストや都市部のファンからも根強い人気を集めているのが、大分県日田市の「リベルテ」だ。前編では支配人の原茂樹さんが経営に乗り出すまでを紹介。後編では、全国的に廃業する映画館が相次ぐ中、原さんがいかにして経営を続けているのかに迫る。
草をかき分けるように、歩いた後には道ができる
「小さくて自由な映画館」を標榜するリベルテの座席数は約60席であり1スクリーン。興味深いのは、「シネコン」よりも座席数が少ないことを最大限に活かしていることだ。映画館の主流である「シネコン」が、ひとつの施設に大小複数のスクリーンをもち、大規模かつ効率的に集客するのとは好対照に、この場所の大きさでこそ伝わる作品を選び、その1つの作品を大切に届けている。
シネコンには、少人数のスタッフで多くの作品を上映することができるというメリットがある。人件費を最小化して、多様なニーズに応じて作品を上映している。収益性でみると、リベルテの経営は合理的ではないが、支配人の原茂樹さんは、そもそも同じ土俵で戦う必要がないという。
「ほかの映画館が廃業した記事を見ると、年間2万人も来ていたのに、辞めたという話もありました。うちは月に1000人ほどお客さまがいれば、回していけます。やりよう次第なんでしょうね」
効率化しようとも、シネコンや規模の大きな劇場であれば、経営にかかる費用は大きな額になってしまう。「小さな映画館」であれば、一度に大きな売上げをあげることはないものの、そもそもの維持費を抑えることができる。
なにより、リベルテではこの規模感でこそ伝わる作品上映を前提に、ゆったりと映画を楽しめる空間、また足を運びたいと思わせる空間づくりを重視した。席数が少ないことも、今や”売り”にしている。「映画を観に来るお客さまは、カラオケのように大人数ではなく、多くがおひとりです。映画と向き合う時間を大切にしてもらいたい」という原さんの思いがあるからだ。待ち合いスペースにカフェをつくったのも、やはり映画館という空間で過ごす時間やコミュニケーションを楽しんでもらうためである。
目先の数字にとらわれない
10年後のあるべき姿を思い描いてスタートしたリベルテだったが、オープン当初は苦戦を強いられた。来館者数に大きな波があり、はじめは1日のお客さんが1、2人しか来ない日も。だからといって、ムリにイベントを開催して来館者数を増やすようなことはしなかった。苦しいときも、目先の数字にとらわれることはなく、変わらずに空間を大切にするという方針を貫いた。
例えばイベントを開催すれば、365人が1度だけ集まるかもしれない。それで終わるよりも、リベルテを心から気に入ってくれて、年に1回でも毎年訪れてくれる人を365人つくった方が、劇場としての地力がつく。居心地のよい空間は1日にしてならず、である。長期的なビジョンが必要だと原さんは説く。
「悪いときが自分たちの実力だと思っていました。来館者数が厳しいから、じゃあなにかやろう、それだと上手くいかないので。目新しさだけを求めても、おふくろの味、郷土の味にはなりませんから。映画館だけだと厳しいから、じゃあカフェも、というのも同じなのでそういう形でカフェをやっているのではありません。純粋に美味しいものを、素敵な映画を見ながら味わえると心地よい。その心地よさをいつも提供できるように。という芯(想い)がないと、すぐに潰れてしまいます。」
自分たちがよいと思ったことを続けることで、地道にファンをつくっていくことを重視したのである。その背景に見えるのは、モノや美味しさ、そこに込められた想いを信じている姿だ。その結果、リベルテファンの中には、いま第一線で活躍するアーティストたちの姿も。相乗効果として、アーティストが自発的に館内でイベントや展示販売をしてくれるようにもなっている。
予想外の追い風も吹いた。地方の映画館が減る時代に、新しく台頭した劇場として、メディアで大きく取り上げられたのである。リベルテという名前を地元でじわじわと浸透させていく中、東京をはじめとする都市部で名前が知られるようになり、遠方からの来館者が増えたという。
取材中にも、ふらりと訪れた地元の女性が原さんに話しかけてきた。何気ないリベルテの日常だが、その1コマに居心地のよさ、コミュニケーションを大切にし続けてきた成果が凝縮されているようであった。
つかみ取った支持と信頼
年々、安定してきたという売上げは、入場料が50%、カフェと物販が30%、原さんの執筆・講演料が20%の3本柱で成り立っている。原さんが掲げ続けてきた「理想」が執筆や講演という仕事になり、その理想を形にしたひとつであるカフェ、そこから生まれた物販も売上げに貢献している。日田への恩返し、本気のコミュニティースペースづくりを目指してきた物語がつながった結果に思える。
成り立ちをひもとくと必然のように見えるが、原さん自身はそこまで見通していたわけではない。歩んできた道のりを例えると「草分け」という言葉がぴったりだという。
「なんとなく方向性は分かっていたけど、目の前でやるべきことは分からなくて。できることをひとつずつ、草をかき分けるようにやってきたというイメージです。そうしたら、振り返ると道ができていました」
「リベルテ」という映画館の由来は、「リバティー=自由」にある。同じ意味合いのフリーダムが、受け身な自由であるのに対して、リバティーという言葉の持つイメージは、自らがつかみ取る自由だ。未経験の映画業界で、原さんがつかみ取ってきたのは、多くの人からの支持と信頼。そうして、唯一無二の映画館として道を切り開いてきた。
今年でオープンから9年目を迎えるが、原さんに気負いはない。「思いや希望が明日をつくるように、これからもひとりでも今日も頑張ろうと思ってもらえる人が増えるような空間であれば」という。これまでと変わらぬリベルテの日常を刻み続けることで、もっと大きな希望となってゆく。そんな未来を見据えているかのような清々しい表情で語ってくれた。
前編はこちら
>> 思いでつながる、小さな映画館 -日田シネマテークリベルテ 原茂樹さん 前編-【ローカルベンチャー最前線】
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ローカルベンチャー PROFILE
原茂樹(はら・しげき)
映画館「日田リベルテ」代表。リベルテはフランス語で自由の意。35mmフィルム映写技師。映画館で映画を観て何かを感じてもらいたいという想いが大きな活力源。ほかに、ヤブクグリ広報係、きじぐるま保存会会員、コラム連載(現在2誌)、大学講師やアートディレクションなど活動も様々。映画館が1日でも長く楽しく存続できることを願っている。温泉好き。
会社名:日田シネマテークリベルテ
所在地:大分県日田市三本松2丁目6-25
設立:2009年
従業員数:2名(パート、アルバイト含む)
事業内容:映画館の運営
<取材:坂田賢治 ライター:若岡拓也>
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