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コト消費からイミ消費へ移る社会で大切なのは、自分に正直に生きること〜ローカルベンチャーサミット2020レポート(6)~

2021.02.15 

2020年10月27日~31日の5日間、オンラインで実施された「ローカルベンチャーサミット2020〜withコロナ時代のニューノーマルを創る 地域×企業連携のための戦略会議〜」(※)のダイジェストレポートをシリーズでお届けしています。

 

コロナ禍により、従来通りのやり方や考え方ではうまく回らない部分も多々出てきました。そこで今回ご紹介するセッションでは、既存の枠組みをブレイクスルーする、これからの「普通」に注目しています。今回のコロナショックに限らず、これまでも社会全体が大きな変化や困難に直面する度に、その時々のニューノーマルが形作られてきました。新しい「普通」が社会に根付くためにはどのような共通点があるのでしょうか?

 

ユニークな施策を次々と仕掛け、全国的にも注目を集める日南市の田鹿さんをモデレーターに、様々なシェアリングエコノミー関連事業を手がけるガイアックスの上田さん、こだわりの生産者が集まるオンライン直売所「食べチョク」を運営する秋元さんと、withコロナ時代における新たなパートナーシップのあり方を探ります。(以下、文中敬称略)

 

基調セッション

「with コロナ時代のニューノーマルを創る新たなパートナーシップのありかた」

上田さん (1)トリミング後

㈱ガイアックス 代表執行役社長/上田祐司氏

大阪府茨木市出身。1997年、同志社大学経済学部卒業後に起業を志し、ベンチャー支援を事業内容とする会社に入社。1年半後、同社を退社。1999年、24歳で株式会社ガイアックスを設立する。30歳で株式公開。一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事を務める。

秋元様トリミング後

㈱ビビッドガーデン 代表取締役社長/秋元里奈氏

1991年生まれ。神奈川県相模原市の農家に生まれる。 2013年、慶應義塾大学理工学部を卒業後、株式会社ディー・エヌ・エーへ入社。 Webサービスのディレクター、営業チームリーダー、新規事業の立ち上げを経験した後、スマートフォンアプリの宣伝プロデューサーに就任。 2016年11月に株式会社「ビビッドガーデン」を創業し、生産者直送で食材やお花を届けるECサイト「食べチョク」を運営。

田鹿氏_nトリミング後

モデレーター:日南市ローカルベンチャー事務局/田鹿倫基氏

1984年生まれ、宮崎県出身。2009年宮崎大学を卒業後、株式会社リクルートに入社しインターネット広告の事業開発を担当。2011年に中国の広告会社・爱德威广告上海有限公司に転職し、北京事務所の立ち上げに携わる。2013年から宮崎県日南市のマーケティング専門官として着任。日南市全体のPR、マーケティング業務の傍ら、2018年には株式会社ことろどを設立。

「イケてる」の定義が変わるとき、ニューノーマルが生まれる

 

田鹿:最近よく「ニューノーマル」と言われます。直訳すれば「新常識」ということですが、これまでも大きな社会変化は起きてきました。例えば直近ではリーマンショックのとき。金融商品は利回りさえ良ければよかったのが、運用会社の法令順守、社会的責任、環境配慮といった、利回り以外の物差しが生まれました。30年前のインターネットの誕生では、様々な知識や解決手法を知っていることよりも、調べ方を知っていることや人とつながっていることの方がイケてる条件になった。

 

もっとさかのぼれば、国家のために働くのがイケてる時代から、大戦を経て自分や家族のために働くという価値観へのシフトもあった。このように、社会の変化によって「イケてる」ことの定義が変わってきました。

 

ガイアックスや食べチョクのサービスも、これまでイケてるとされていた価値観に対するアンチテーゼ的な面がありますよね。物をたくさん持っていることより、必要な物に必要な時にアクセスできることの方がかっこいい。高級スーパーで買い物するライフスタイルより、顔を知っている農家から直接買う生活のほうがステータスになるという。地方創生の文脈で言うと、以前は国から補助金を取ってこられるのがイケてる公務員でした。それが最近では企業との協働体制を築けるスキルを持っているのがイケてる職員なんです。こういったことはあらゆる領域で起こっています。

 

スライド1

 

コロナ禍だからこそ見直された、つながることや食べる楽しみの価値

 

田鹿:生産者と消費者をオンラインで直接つなぐ食べチョクですが、コロナ禍の巣ごもり消費増加でどのような影響がありましたか?

 

秋元:飲食店や市場に卸している生産者さんはもちろん深刻な打撃を受けましたが、それによって食べチョクが提供する「直接消費者とつながる」という価値が見直された点は、長期的に見るとポジティブな影響だと思っています。新しい販路として使いたいということで、登録してくれる生産者さんも大きく増えました。

 

一方で消費者側の考え方も変化が感じられますね。食をエンタメとしてとらえて、食べる時間や食事を作る過程も楽しもうと考える人が増えてきたように思います。食べチョクの利用者層も、もともと「意識の高い」系の方や高級志向の方だけでなく、かなりマスへと広がりました。これまでは時短ニーズが強く、同じ魚でも丸ごと1匹ではなく切り身に加工できる生産者さんが強かったんです。それがコロナ以降は切り身でなくてもばんばん売れるようになりました。

 

農業でも、これまでは品目を絞って大量に作るのが効率的と考えられていたのが、流通が多様化することで少量多品種生産でも採算が成立するようになり、そうした取り組みをしている生産者さんに少しずつ光が当たり始めているように思います。

 

スライド2

 

オンライン時代にあっても偶然の出会いを作り続けるために

 

田鹿:続いて上田さんに伺いたいのですが、コロナ禍前後で働き方や人とのつながり方にはどのような変化があったのでしょうか?

 

上田:コロナ禍でオンライン化が一気に進みましたが、メリットの1つは距離が関係なくなることですね。リアルなイベントだったら参加できなかった人も来られるようになりましたし、地方にいても何の不都合も感じないという点に大きなインパクトがあると思います。

 

一方でデメリットは、偶然の出会いがほとんどなくなってしまったことです。ガイアックスでは自社ビルをシェアオフィスにして日々イベントを開催していたんですが、それはほぼできなくなりました。元々我々は1999年の創業時から全員リモートワークをしてたんですが、そうすると社員はだんだん会社に来なくなってきます。そこで会社をシェアオフィス化して、未知の利用者と自然に出会うことができ、たくさんの刺激をもらえる場を意図的に設けていたんですが、そういった場は残念ながら今は作りづらいですね。

 

コロナ禍においても偶発的な出会いを創出するには、2つの方向性があると思います。1つ目は各地域でコミュニティを作っていき、おもしろいビジネスが出てきたら出資して育てるというような、リアル路線です。もう1つはオンラインツールのフル活用ですね。オンライン会議だと出会う人は決まっていますが、SNSは投稿者とフォロワーの距離感が近いメディアです。フォロワーとつながることで偶発性の高い出会いを創出できるので、社内でもSNSの活用を奨励しています。

 

田鹿:僕も日南で仕事をしていますが、地域コミュニティから新しい仕事が生まれるケースは多いと感じます。

 

上田:私自身もまさに今日、神奈川県の葉山町に引っ越してきたところなんですが、都会から地方にやってくるヨソモノって、地域コミュニティの軸になりうるんじゃないかと思うんですよね。例えば便利なオンラインサービスも、地方だとなかなか普及しない実態がありますが、都会から来た人が地域に紹介して広まることってありませんか?

 

秋元:確かに、お子さんが帰省したときに食べチョクを教えてもらったという話は多いですね。結局情報は人づてに広まるので、東京の人がどんどん地方に行くことでサービスが広まっていくというのは同感です。

 

スライド3

 

自分に正直に生きることが、社会の変化に対応することにもつながっている

 

田鹿:参加者からの質問です。「モノからコトへ人々の関心がシフトしていると言われますが、更にコト消費からイミ消費へと人々の関心が移る中で、社会の変化に素早く対応するにはどうすればいいでしょうか?」

 

上田:個人のライフプランは大切にしています。今日だけ頑張ってモチベートしても効力は薄い。それよりも相手が人生で何を大切にしているかを共有できた方が、1人1人に寄り添った働き方を考えられると思うんです。ライフプランは、自分にわがままにならないと出てきません。結局何が大切なのかを本気で突き詰めることが重要です。そうすると「田舎に住みたい」とか「満員電車が嫌」といった「素の気持ち」が出てきます。ただ、普通は会社で「素の気持ち」を表明する場はないので、言われることに日々なんとなく対応している人も多いかもしれませんね。

 

イミ消費にシフトしていく中で社会の変化に素早く対応するためには、いかに余分なことを削ぎ落して本質をつかめるかだと思います。本音を表明できる場に身を置くほど、「こういうサービスないからやった方がいいんじゃない?」と、自然と切り込めるのではないでしょうか。

 

田鹿:自分に正直でいるということですね。秋元さんが起業された過程は?

 

秋元:実は元々起業したい気持ちはありませんでした。実家が農家だったので農業は身近なものでしたが、固定観念でビジネスとしては厳しいと思い込んでいたんです。当時は就職先の選択肢にすら入っていませんでした。就職して新規事業やDX(デジタルトランスフォーメーション)関連業務に携わったことで、初めてデジタル化が進んでいない領域ほどチャンスがありそうだと気付けました。実家の農家の廃業も原動力になりましたね。「誰に反対されてもやりたい!」と思えたタイミングで、ようやく起業が選択肢に出てきました。

 

田鹿:自分のやりたいこと、大切だと思う正直な心の声に従った結果が起業だったということですね。

 

スライド4

幼少期の秋元さん

 

会社やマネジメントそのもののあり方も変わっていく

 

田鹿:心のままにやってみることが大事とは言え、新入社員が、いきなりリモートワークで初めての業務に取り組むという状況はかなりシビアに思えます。そういったケースをどうマネジメントしていけばいいのでしょうか?

 

上田:自分の気持ちに素直に働くと、フリーランスなのかボランティアなのかよくわからない状態も出てくるので、これまでのようなマネジメントされた会社というのは存続しないかもしれませんね。働くこととお金をもらうことがあまり連動せずに、やりたいことをやって、結果的に生活が回るというような感じになるんじゃないでしょうか。本当に素晴らしい事業なら、お金を払ってでも関わりたいという人もいるはずです。

 

そういう自由な働き方をする上では、個々人が自立せざるを得ません。そのためにはリアルにしろオンラインにしろ、会社の枠を超えて自分のポジションは自分自身で築こうという気概が必要だと思います。

 

田鹿:秋元さんは全国各地への出張も多いと思います。オフィスにいることが少ない中で、社員と一緒に働く際、気を付けていることはありますか?

 

秋元:うちは、現在のコロナ禍で週3日はリモートなんですが、私も含め週2日の出社日を設けています(イベント開催時の2020年10月時点)。場所を選ばないオンラインのよさを実感する一方で、リアルな場がないことの難しさも感じているので、試行錯誤中です。

ただ週3日リモートにしたことで、三重県で米農家を継ぎながら食べチョクの仕事をするという社員も出てきました。働き方を変えると生き方も多様化しておもしろいなと思っています。

 

田鹿:これまでの働き方が変わると、マネジメントの根本も変えていく必要がありそうですね。オンラインを活用した働き方は、今が過渡期と言えそうです。

オンラインの活用で、地方はチャンスを活かせるか

 

上田:過渡期という意味では、リモートの活かし方を最もわかっていないのが地方の人かもしれませんね。コロナ時代の今、静かに民族大移動が起きています。地域の魅力を外に発信できるコーディネーターとなりうる人が、地方にどっと流れ込んでいるタイミングなんです。またとないビジネスチャンスに気付いていないとしたら、非常にもったいない。

例えば食べチョクという新しいテクノロジーが入ることで、変化した地域はありましたか?

 

秋元:リテラシーの問題もあって、食べチョクは高齢の生産者さんに参加してもらいにくいという課題があります。ですが地域全体でがんばっていこうという感覚が強まると、若い人が高齢者の方をサポートしながら進めてくれるので、一気に広がるというのは感じますね。地域のリアルなつながりを活用して、テクノロジーをより浸透させていくというやり方は、他のことにも転用できるんじゃないでしょうか。

 

田鹿:新しいものを導入してもらうときに、風穴を開けるコツってありますか?

 

秋元:私は異業種から農業に来ているので、最初はだいぶ風当たりが強かったですね。イミ消費の難しさってストーリー性が重視される点にあると思うんです。だからこそ広告よりも、継続的なストーリー発信や原体験が大事だと思います。

 

風穴を開けるという意味では、やはり自分自身を認めてもらえるかどうかでしょうか。私の場合は会社の代表をやってますけど、地域の人は会社よりも私個人がどういう人間なのか、なぜこの事業をやっているのかというところをすごく重視されます。自分自身のストーリーを言語化して伝えられることが大切だと感じます。

 

201027基調講演キャプチャトリミング後

 

ニューノーマルの中でも生き残れる組織を作るには、スピードが命

 

田鹿:次が最後の質問です。上田さんはメディアなどでも「新入社員に打ち合わせを断られた」というような失敗談を話されていますよね。これまでの社長像と言えば、ピラミッドの頂点に君臨する権威型が典型的なイメージでしたが、上田さんはトップが細かい指示をせずメンバーが自律的に動く、ティール型を意識した組織作りをされているのでしょうか?

 

上田:コロナに限らず変化はいずれやって来ます。そのときに乗り遅れないポジションにいるためには、やはりスピードが重要です。ありとあらゆる組織は、世の中の変化のスピードに負けて衰退していきます。スピードをキープするためには、情報を完全に共有することが大切です。なので、僕が取締役会で怒られてる様子も全社に共有されています(笑)。

フラットにすればするほど権威は保てなくなりますが、情報を共有することであらゆるメンバーから提案が上がってくるようになるんです。権威よりもそういうスピード感を優先しようという意識をもっています。

 

田鹿:秋元さんは巨大IT企業から起業されて、今は農家さんとやり取りをされていますよね。スピード感の変化や、バランスの取り方など、気を付けていることがあれば教えてください。

 

秋元:農業は比較的ゆっくりな業界なので、もっとスピード感の早い他の業界の成功事例をウオッチしたり、流されないようにしようと意識しています。他の業界に追いつくぐらいのスピード感を自分達が作れれば、周りももっと早くなっていくんじゃないかという期待を込めて動いています。

 

田鹿:ちょっと意地悪な質問ですけど、そうやって早く動こうとするほど農家さんとの距離が広がりませんか?

 

秋元:生産者さんの登録数が急激に増えたので、「遠くなった」という声をいただくこともあります。ただ、今回コロナ禍でポジティブだったのは、オンライン会議の地方への浸透です。食べチョクでは週2回、生産者さんとのオンライン会議をやっています。これまではリアルでしか会えなかった方ともオンラインで会えるようになりました。この仕組があれば、登録数が増えていっても近い距離感を維持できるんじゃないかと感じています。

 

田鹿:今回は多岐にわたるトピックについてお話ししてきましたが、ニューノーマルが社会に根付くために、あるいは自分たちがニューノーマルな社会に対応していくためには、自分の正直な本心に愚直に従うということが印象に残りました。自分に素直になって本当にやりたいことをやっていれば、変化は後から付いてくるんじゃないかと感じます。本日はありがとうございました。

 


 

※ローカルベンチャーサミットは、地方発ベンチャーの輩出・育成を目指す自治体コンソーシアム、ローカルベンチャー協議会が主催するイベント。参画自治体および各地のベンチャーたちに、メーカー、物流、ゼネコンなどの大手企業も加わり、プレイヤー連携の最新事例を共有し、協働を生み出す場として毎年開催されています。4年目となる2020年は、初の全面オンラインで実施。各日の基調セッションのほか30の分科会が設定され、5日間で延べ1,700名に参加いただきました。本サイトでも各セッションの内容をダイジェストでレポートしていきます。

 

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茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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