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格差や競争を生まない、オルタナティブな経済のあり方とは?3人の実践者の取り組み~ローカルベンチャーサミット2020レポート(5)

2021.02.02 

2020年10月27日~31日の5日間、オンラインで実施された「ローカルベンチャーサミット2020〜withコロナ時代のニューノーマルを創る 地域×企業連携のための戦略会議〜」(※)のダイジェストレポートをシリーズでお届けしています。

 

01スクショ

 

この記事では、エッジの効いた3名の登壇者がそれぞれ異なる角度から「オルタナティブ経済」について語ったセッションの概要をお届けします。感謝・共感・信頼など、一見測りにくいものを価値化する。価値がないと思われていた廃棄物を資源にする。競争ではなく支え合い、共生する。「循環」や「ギフト」といったキーワードで、現在の市場経済を補完するオルタナティブな経済の在り方を考える、刺激的な内容です。ぜひごご覧ください。(文中敬称略)

 

これからの時代に必要なオルタナティブな経済

株式会社eumo 代表取締役 新井和宏氏

Circular Initiatives&Partners 代表 安居昭博氏

合同会社巻組 代表社員 渡邊享子氏

空き家活用が目的ではない。地域に「多様なライフスタイル」を生むことを目指す

渡邊さんトリミング後

■渡邊享子(わたなべ・きょうこ)

合同会社巻組代表。2011年、大学院在学中に東日本大震災が発生、石巻へ支援に入る。そのまま移住し、石巻市中心市街地の再生に関わりつつ、被災した空き家を改修して若手の移住者に活動拠点を提供するプロジェクトをスタート。2015年3月に合同会社巻組を設立。絶望的条件の不動産を流動化する仕組み作りに取り組む。2016年、日本都市計画学会計画設計賞受賞。2019年、日本政策投資銀行主催の「第7回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」で「女性起業大賞」を受賞。

 

私が活動している宮城県石巻市は、東日本大震災で大きな被害を受けた地域です。全壊家屋2万2千戸のところへ、復興住宅など新築が約7千戸、どどーんと供給されました。その裏で古くて価値のない空き家がたくさん生まれ、今ではその数1万3千戸。総住戸数の20%が空き家という状態です。

 

その中でも私たちが扱っているのは、最も絶望的なクラス。古いだけでなく接道してないとか墓地に囲まれてるとか、場所・間取り・家賃で画一的に判断する普通の不動産業者なら、まず手を出さない物件です。でも、こうした空き家でも使い方の工夫次第でクリエイティブな若い入居者が集まってくれます。音を出したいとか(創作活動のため内装を)汚したい、みたいなニーズもありますし、クリエイターの方は逆にこういう場所の方が魅力的だと感じてくれたりするんですね。これまでの改修実績は35軒、うち11軒は購入したり借り上げたりして自社で運用しています。

 

もっとも私たちは、ただ空き家を活用したいだけでなく、「地域に多様なライフスタイルを生む」ことが重要だと考えています。実際、(巻組の物件を拠点に)クラフトに取り組む狩猟女子とか、必ずしも経済的に豊かとは言えなくても、いろんな新しいライフスタイルが生まれていて、ここから大量生産・大量消費社会の価値観をひっくり返していける可能性を感じています。

 

02巻組スライド1

 

そこで私たちは、そういうクリエイティブ志向の方々をもっと地域に増やしたいと考え、コロナ禍をひとつの契機としてCreative Hub(クリエイティブ・ハブ)という事業を始めました。主に首都圏の生活困窮しているアーティストを石巻に迎え入れ、生活と制作の場を提供してみんなで支えようというプロジェクトで、既に6名ほど(2020年10月時点)受け入れています。彼らのために地域の皆さんに不要品の持ち寄りを呼びかけたら、たくさん物資が集まるようになりました。イベントを開催すると、地元の人もアーティストと触れあうことでクリエイティブな活動に参加してくれますし、アーティストへの投げ銭も集まります。

 

このように、廃屋を利用して困っているアーティストさんを受け入れただけで、多世代共生を含め、さまざまな経済的効果を生んでいます。「なんでもお金に換算される交換経済とは別の経済のあり方」があってもいいんじゃないか?そう考える私たちはその一つの切り口として、お金を介さずにお互いが持て余しているものを交換する、つまり何かを贈与することによる価値づくりを実験しているところです。

 

03巻組クリエイティブハブ

 

――Creative Hubには実際どんなアーティストさんが来ていますか?

 

20代くらいの若手が中心ですね。彼らが友達を連れてきて一緒に制作するみたいなことも始まっています。石巻にはもともと自分なりの価値観を持ち、自立して何かやろうという人が多いので、そういう人たちと関われるのがすごく面白いと言ってくれています。都会ではそういう人のつながりがなかったと。

 

――生活の場の支援とは、具体的にどういう取り決めになっているのですか?

 

アーティストさんには、巻組が運営するシェアハウスの中で稼働率が低いところに入居してもらい、最長1年無料で滞在できる代わりに、月1回はイベントなどで作品発表してねという約束です。創作活動はペインティングとかパフォーマンスとか音楽とかなんでもいい。それを応援しに地域の方々がこの場に集まってくれます。1年を越えたらなんらかの形で「着地」してもらう必要がありますが、それまでいわばお試し運用中です。

 

――地域に密着した活動をされる中で、いまどんな変化が起きていると感じますか?

 

コロナ禍が始まって、みんな急に「お金に頼らない暮らしの方が持続可能だ」みたいなことを考えるようになりました。身の回りの人と、与え合う関係性を大事にして暮らそう、という考え方をする人が増えて(オルタナティブな経済に対する)感度も高まったのではないでしょうか。首都圏など人口密集地が大変なことになったのを見て、逆に地方の幸福度が上がったと感じます。ちょっとした発想の転換や見方の変化で、地域はどんどん魅力的になれると思います。

共感コミュニティ通貨euomを通し、ギフトの循環で経済は回ることを証明したい

新井さんトリミング後

■新井和宏(あらい・かずひろ)

株式会社eumo代表取締役。1968年生まれ。信託銀行勤務を経て、英国大手投資会社にて公的年金などを中心に、多岐にわたる運用業務に従事。その後、大病とリーマン・ショックをきっかけに、それまで信奉してきた金融工学、数式に則った投資、金融市場のあり方に疑問を持ち、2008年に鎌倉投信株式会社を共同創業。2010年3月より運用を開始した投資信託「結い2101」の運用責任者として活躍した。鎌倉投信退職後の2018年9月、株式会社eumo(ユーモ)を設立。

 

私が代表を務めるeumoという会社は、「共感資本社会の実現を目指す」というミッションを掲げて活動しています。共感でお金が循環する仕組みを作ろうと考え、共感コミュニティ通貨eumoというアプリをリリースしました。その考え方は「贈与」、つまり先ほど渡邊さんのお話にも出てきた「ギフト」が基本になっています。

 

04eumoホームページ

 

そもそも私がなぜこんな発想をしたか、背景を少し説明しますと、私は25年ぐらい金融マンとして働いていました。鎌倉投信という会社では、世の中をより豊かにする企業に投資するということで、ソーシャルベンチャーの皆さんと交渉してきました。でも、その最中にフランスの経済学者トマ・ピケティという人が出てきて、(その著書「21世紀の資本」の中で)「(富裕層がより豊かになることで、その富が滴り落ちるように全体に生き渡るという)トリクルダウンは起きない」ってデータで証明したんですよ。つまり、あなたが25年間やってきたのは、富める人をさらに豊かにするだけ。格差を生むだけですよ、と突き付けられたわけです。

 

じゃあ、格差を生まないお金ってどうしたらデザインできるんだろう、というのが私の発想の原点です。格差を生まないとは、お金自体が権力化しないということ。その代わりに社会を豊かにする循環を生み出さなきゃいけない。この考え方を成立させるための仕組みとして、eumoというアプリを作ったのです。eumo自体はペイメントサービスですが、それをソーシャルにしたということで、ソーシャル・ペイメントサービスと定義しています。加盟店さんも、社会・地域のためになるような仕組みを提供するというeumoの理念に共感した上でご参加いただいています。

 

05eumoアプリ画面

 

今日は、視聴者の皆さんに実際にeumoを体験していただきたいと思います。eumoアプリをスマホにダウンロードし、せっかくなので渡邊さんの巻組を応援してみましょう。今回は、私から500eumox200人分のギフトを用意しましたので、画面のQRコードを読み取ってeumoを受け取ってください。次に加盟店の中から巻組さんを選び、300eumoをお支払いしてみてください。OKを押すとギフト画面になるので、残りの200eumoを好きなところへギフトしてみましょう。そのとき一緒に応援メッセージを送ると、加盟店にリアルタイムで表示されます。ぜひ、共感でお金が循環するeumoの仕組みを楽しんでいただけたらうれしいです。

 

――巻組へ贈った300eumoはこの後どうなりますか?

 

他のペイメントサービスと同じで、巻組さんがeumoに換金請求し、私たちが手数料を頂いて巻組さんに日本円を支払います。でもこれだけじゃ面白くありません。次は巻組さん自身がeumoを発行したり、eumoで支払いができたりするんです。これからeumo加盟店が増え、仕入れなども含めて横のつながりが増えてきたらぜひeumoでの決済を活用してもらいたいと思います。

 

――残りの200eumoはギフトしないとどうなるのですか?

 

循環経済をつくる上でお金の循環はすごく大事です。どこかに貯まってしまうとダメなので、貯められない=有効期限のあるお金でないといけません。だから、今日皆さんにお配りしたeumoは3か月で有効期限が切れちゃうんです。切れたお金も再利用。ギフトしてくださった方にギフトとしてお返しする仕組みになっています。こうやって貯めないでどんどん回すことでギフト経済の循環が生まれます。その際、eumoに加盟しているお店や会社が社会のためになる仕組みを持っていることがとても重要で、皆さんは生活者としてそうしたギフト先を主体的に選択しながら、eumoをご利用いただきたいと思います。

 

――eumoに込めた新井さんの思いをあらためてお願いします。

 

私はゲームチェンジをしたい。今までの経済はお金を集めるゲームでしたが、それをギフトするゲームにしたいんです。なぜかと言えば、人の幸せに必要なのは人にギフトすることだから。そのメカニズムは既に幸福学でも解明されていることです。ギフトの循環で経済は回るということを証明したい。そんなすてきな社会を皆さんと一緒に作りましょう。

「捨てる」を排除した新しい経済。People/Planet/Profitがバランスしたサーキュラー・エコノミー

安居さん

■安居昭博(やすい あきひろ)

Circular Initiatives&Partners代表。1988年生まれ。アムステルダム在住。サーキュラーエコノミー研究家 / サスティナブル・ビジネスコンサルタント / 映像クリエイター。「世界のアイデアに学び、日本ならではのものを共創する。」をヴィジョンに自身が監修するメディア媒体を通じた発信活動をしつつ、企業向けサーキュラーエコノミー視察イベント開催、ビジネスコンサルタント、アドバイザー、イベント企画を通じサーキュラーエコノミーやサスティナブルなアイデアを国内外へ広める活動に従事している。

 

サーキュラー・エコノミー誕生の背景には、世界的な人口増加や資源枯渇に加え、もはや無視できないレベルになった廃棄物の問題があります。地球資源には限界(プラネタリー・バウンダリー)があること、そして永遠の経済成長は不可能だということが認識され始め、これまでのようなGDP偏重ではなくもっと複合的な指標で――具体的にはPeople(人々の幸福感)、Planet(地球環境)、Profit(利益)という3つのPのバランスの取れた――成長を目指そうというのが、いま欧州を中心に拡大している新しい経済の仕組み、サーキュラー・エコノミーです。

 

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これを従来の経済と対比したのが上図です。モノをつくり、使い、そして捨てるということが一方通行で行われてきたリニア・エコノミーに対して、サーキュラー・エコノミーでは「捨てる」という部分が全く無い。それもただのリサイクルではありません。企業であればビジネスモデルや製品設計の段階から、自治体であれば政策決定の段階から、既に「廃棄物を出す」という選択肢をなくすよう仕組みづくりをするのです。

 

「それはあくまでも理想では?」という思う方もいるでしょう。でも私が住むオランダでは、例えばこんなビジネスモデルが実際に成功しています。今日、私が履いているジーンズ。実はこれは購入したのではなく、月々700円ぐらい支払ってMUD jeansという企業からレンタルしているんです。破れたりして履けなくなったりしたら返却をすると、彼らはその使用済みジーンズを繊維に戻し、新しいジーンズに作り直して送り返してくれます。つまり私は消費者でなく利用者となり、ジーンズは必ず企業に返却されて廃棄物とならない仕組みになっているのです。

 

MUD jeans社の取り組みは、単に環境負荷を減らすだけではありません。例えばいま、コロナ禍でアジアやアフリカからの資源調達が難しくなっていますが、廃棄衣料からジーンズを再生する技術を持つ同社は、こうしたサプライチェーンの不安定化にも対処できる。これまでに8万本以上がレンタルされており、ビジネスとしても大成功しています。環境負荷を低減しつつ事業成長も達成できるモデルで、これがサーキュラー・エコノミーの特徴です。

 

もうひとつ、オランダを代表する一企業フィリップス社のモデルを紹介します。同社はもともと照明器具を販売していたのを、リースに転換しました。これで同社が得たメリットはまず、長期間使用可能な器具の設計が導入できたこと。利用者が使ってくれている限り収入源になるから、以前は継続的な収益性の観点から実施されなかった「半永久的に壊れない照明器具」を開発する動機が生まれました。また、使用後に返却された器具の中から使えるパーツを取り出し、そのまま次に活用できる。つまり1台で複数回のビジネスが可能になっているのです。

 

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利用者側にも大きなメリットがあります。上の写真はアムステルダムのスキポール空港ですが、ここの照明は全てフィリップスからリースがされています。通常これだけの照明器具の購入には莫大な初期投資が必要ですが、リースなら大幅にコスト削減できます。さらに、使用した光量に応じて課金される仕組みなので節電も促進できるというわけです。

 

――日本のサーキュラー・エコノミーはどういう状況ですか?

 

こうした取り組みは日本が遅れているわけでは全然なくて、むしろ日本から海外に示せる事例もたくさんあります。いまヨーロッパで注目されているサーキュラー・エコノミー事例は、ほぼ例外なく、アムステルダム、パリ、ロンドンといった大都市で生まれていますが、日本では、例えば巻組さんが石巻ですごく画期的な取り組みをされているし、熊本県の黒川温泉でも、サーキュラー・エコノミーをコンセプトに据えた取り組みとして、食品残渣をコンポスト化する活動が始まっています。宗教的な意味合いにおいても、日本では自然と環境保護が行われてきましたし、それが日本独特の自然と人の関わり合いを作り上げてきました。また、食材を無駄にしないための知恵としての発酵文化でも、日本から世界に伝えていけることは多いと感じています。

 

――世界を見ている安居さんは、日本の可能性をどう感じますか?

 

Industrial symbiosis(産業共生)という概念があります。ひとつの企業で廃棄したものが別の企業の資源になるなど、市場を奪い合わない。各企業がものすごくユニークなビジネスモデルなので、そもそも競合が起こらない。結果、産業全体で共生関係ができる、ということですが、これが最近注目されているのは、競争より共創をしたほうが、実は社会全体や企業にとっても「3つのP(Profit, Planet, People)」の全ての側面でメリットが大きいとも言われているからです。ただ、そこには大きな発想の転換(Rethink)が必要です。日本はトップダウン的な社会ですが、ボトムアップで自分たちが行動すれば変わるんだという、その成功体験の積み重ねがすごく重要だと思います。完璧じゃなくてもとりあえず始めてみて、やりながら学び(Learning by Doing)、完成度を高めていくといった行動が、子ども達の教育環境おいても、私たち大人の社会においても、もっと尊重される必要があるように感じます。

 


 

※ローカルベンチャーサミットは、地方発ベンチャーの輩出・育成を目指す自治体コンソーシアム、ローカルベンチャー協議会が主催するイベント。参画自治体および各地のベンチャーたちに、メーカー、物流、ゼネコンなどの大手企業も加わり、プレイヤー連携の最新事例を共有し、協働を生み出す場として毎年開催されています。4年目となる2020年は、初の全面オンラインで実施。各日の基調セッションのほか30の分科会が設定され、5日間で延べ1,700名に参加いただきました。本サイトでも各セッションの内容をダイジェストでレポートしていきます。

 

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中川 雅美(良文工房)

福島市を拠点とするフリーのライター/コピーライター/広報アドバイザー/翻訳者。神奈川県出身。外資系企業で20年以上、翻訳・編集・広報・コーポレートブランディングの仕事に携わった後、2014~2017年、復興庁派遣職員として福島県浪江町役場にて広報支援。2017年4月よりフリーランス。企業などのオウンドメディア向けテキストコミュニケーションを中心に、「伝わる文章づくり」を追求。 ▷サイト「良文工房」https://ryobunkobo.com