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ヨソモノのITエンジニアが、震災後の南相馬で「ゼロからのまちづくり」に取り組むまで。一般社団法人オムスビ・森山貴士さん

2021.05.13 

本記事は、東北リーダー社会ネットワーク調査の一環で行なったインタビューシリーズです。

 

一般社団法人オムスビ代表の森山貴士さんは、7年前、まだ避難指示下の南相馬市小高区(おだかく)でヨソモノとして活動を開始しました。社名の由来となったOMSBというコミュニティカフェの運営と地域の事業プロデュースとを有機的につなぎ、ITエンジニアとしてのスキルも活かしながら、地域のニーズに向き合い続ける森山さんにお話を伺いました。

 

1森山さんプロフィール

■森山貴士氏プロフィール■

一般社団法人オムスビ 代表理事。ソフトウェアエンジニア。1986年大阪府生まれ。立命館大学政策科学部卒業。2009年より東京のIT企業でソフトウェア開発、先端技術研究などに携わる。2014年に退職し、福島県南相馬市に移住。当時まだ避難区域だった小高区の可能性に惹かれ、同区内で活動を開始。2016年末、仲間とともにキッチンカーでOdaka Micro Stand Bar(OMSB)を開業。2017 年4月に一般社団法人オムスビを創業。現在は、店舗化したOMSBのカフェ事業をベースに、ITを軸とした地域課題解決で持続可能なまちづくりを目指す。

 

■南相馬における森山さんの主な活動履歴■

2015年~2016年 小高フリーペーパー製作委員会を立ち上げ、「小高の小数力(しょうすうりき)」発刊。ITで帰還支援を考えるハッカソン開催。

2016年12月 小高区でキッチンカーを使ったOdaka Micro Stand Bar(OMSB)開業。

2017年4月 一般社団法人オムスビを創業。

2018年6月 小高駅前にOMSBの常設店舗を開業。

2018~19年 南相馬市から「お試しハウス」(移住体験施設)運営を受託。

2018年~ 小高駅前の民有地で「屋根園(やねん)」プロジェクトを開始。

2020年3月 OMSBにて「宿題カフェ」スタート(NPO法人トイボックスとコラボレーション)

試行錯誤しつつも、「ゼロからのまちづくり」に惹かれて

 

――移住されてまもなく7年ですが、もともと南相馬に来た目的は?

 

前職を辞めた理由は、なにかしら地域の中で教育に携わる仕事がしたかったからですが、南相馬に来たのは本当に偶然でした。2014年初め、友人に誘われて宮城県石巻市で復興支援アプリを開発するハッカソンに参加したとき、南相馬でIT人材の育成を目指して動いていた人たちと出会って、ここなら自分のやりたいことができるかもしれないと思ったのです。まずは頻繁に通い始め、その年の7月に引っ越しました。実は移住直後に当初の予定が狂ってしまって紆余曲折あったのですが、そこで諦めて帰るのではなく、南相馬で自分のスキルを活かした仕事をつくっていくことにしました。

 

――知らない土地でゼロから仕事をつくるのは苦労されたでしょう。

 

初めの3年くらいはいちばん辛かったですね。それまで東京のIT企業で相当の仕事をしてきたつもりだったのに、こちらでフリーランスになってみると、自分一人ではこれほど何もできないのかと。周りの人の紹介で、初めのうちはチラシ1枚の制作からどんな仕事でも請け負いましたが、なかなか思い通りにいかなくて。生まれて初めて貯金が3桁になったときは、メンタル的にもかなりすり減った状態でした。

 

それに、地域の課題解決にこうやってITを使ったらどうかというアイデアはあっても、地元に一緒にやれる人がいない、というケースは多かったです。たとえば農業にテクノロジーを導入するといっても、協力してくれる農家さんがいなければ実証できません。あるプロダクトを売り出そうにも、自分でプログラミングができるだけではダメで、デザイン、マーケティングから資金調達までいくつもの役割が必要。本当に一人では何もできないと痛感しました。

 

――南相馬市の中でも小高の復興には最初から関心があったのですか?

 

2014年当時、小高区はまだ避難区域でしたから、僕が最初に移り住んだのは隣の原町区です。ただ、初めて小高を訪れたとき、ここは文化の香りがすると思いました。僕はそれまでにも日本各地のまちづくり事例を見てきていたので、地域の「顔」である駅前の街並みなどを見れば感じるんですよ。いまは住めなくても、小高の人たちには自分たちでまちを作っていくという意識があると感じたし、建物の造りなどにも伝統的に「人を受け入れる文化」が表れている、と思いました。それで、なにかやるならこの地域でと考え、当時小高駅前にオープンしたばかりのコワーキングオフィス(和田智行氏の小高ワーカーズベース)を借りて活動を始めたのでした。

 

和田さんたちとは当初から、一度はゼロになった小高だからこそゼロからみんなでつくり直せる。新しいテクノロジーの力も借りて「いいまち」をつくろうと話していました。でも、当時避難先にいた小高の人たちには刻々と変わる小高の現状がちゃんと伝わっていなかったし、僕たちがそういう考え方で活動していることも知られていなかった。だから、まずはきちんと発信していこうとフリーぺーパーを制作したり、住民の帰還支援を考えるハッカソンを開催したり。フリーランスの仕事と並行して、そういう活動を立ち上げていったのです。

 

2ハッカソン

▲会津地方などからも参加者が集った第1回のハッカソン(2016年)

 

また、もともと志していた教育・人材育成についても、小高商業高校(現在の小高産業技術高校)でプログラミングを教える機会をいただいたり、地元のおかあさんたち向けのパソコン教室を始めたりしました。高校での授業担当はその後も数年間継続し、パソコン教室も現在OMSB(オムスビ)カフェで開催している「IT寺子屋」に引き継がれています。

地域の課題に向き合いながら、ちゃんと稼げる仕事をつくる

 

――そのOMSB(オムスビ)カフェの開業が森山さんのひとつの転機になったのではないでしょうか。

 

キッチンカーでコーヒーなどを移動販売するOdaka Micro Stand Bar(OMSB)を開業したのは2016年暮れのことです。実は発起人は僕ではなく、南相馬市役所の職員(杉並区から出向)で現・オムスビ理事の花岡高行さんだったんですよ。花岡さんとも、もう一人の理事の福島勉さんとも、上述のハッカソン開催がきっかけで知り合いました。その年の7月ついに避難指示が解除された小高ですが、当時はまだ店というものがほとんどなかった。それで花岡さんが、人々が気軽にコーヒーを飲みながらおしゃべりできるところがあったらいいね、と発案してスタートしたプロジェクトでした。

 

3当初のOMSB(fbより)

▲開業当初のOMSB

 

そこを拠点に、僕たちは地域の声に応える形でいろんなことにトライしました。2017年3月から実施したOdaka Micro Coffee Lightsキャンペーンもそのひとつ。小高区内で高校が再開したのですが、昔は家々の灯で明るかった下校路が(居住者が少ないため)真っ暗で危険というので、ソーラーライトを設置しようという運動です。コーヒー+ソーラーライト1本を500円で販売。約2か月のキャンペーンで150本以上を設置できました。

 

ほかにも、オムスビマルシェというイベントを開催し、京野菜や山菜はじめこだわりの食材を販売したこともあります。当時の小高には大きなスーパーなどがなく、生鮮食品は宅配に頼る住民も多かったため、「選んで買う楽しみ」が欲しいという声に応えた企画でした。

 

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▲コーヒーとセットで販売したソーラーライトが下校路を照らす

 

――翌年には法人オムスビを設立。2018年にはカフェの常設店舗を開業。さらに活動の幅を広げておられます。今後の計画を教えてください。

 

2018年からは、駅前の民有地で公園をつくるプロジェクトを進めています。「屋根園(やねん)」と名付けた(仮称ですが)この場所では、野菜を栽培したり(東京大学・小高復興デザインセンターと住民有志による「まちなか菜園プロジェクト」)、花を植えたり、あづま屋をつくったり。景観整備とともに、いつも人がいて、それが外から見える場所をつくろうと考えて実施しています。

 

6やねんBBQ

▲常に進化する公園「屋根園」では、若者たちが集まってバーベキューも

 

オムスビの活動は、OMSBをベースとしたコミュニティカフェ事業と、地域ニーズに対応するプロデュース事業との2本柱です。今後まずはカフェ事業の収益化を図ります。その際、居住人口3,700人の小高だけを商圏にしていたらかなり厳しい。それは開業時から分かっていたことですが、さらに今の小高には震災前よりも多くのカフェが開業しています。そういう難しい環境のなかで僕たちは「遠方からわざわざ来てくれる」場所を目指すとともに、オフィス向け需要の開拓、コーヒー豆の宅配なども含めて着実に収益を上げられる体制づくりに挑みます。

 

そのカフェ事業を通じて収集した地域の課題・ニーズとリソースとを組み合わせ、主にウェブテクノロジーを使ったマーケティングやクリエイティブの仕事をプロデュースしていくのが、もうひとつの事業の柱です。僕は小高で高校生を中心とした人材育成にも注力してきましたが、まずは僕らの世代がきちんと社会課題に向き合って、彼らが就きたいと思えるような仕事を地域に作っていこう、と考えています。

 

5現在のオムスビ(fbより)

▲さまざまな人が集うコミュニティカフェOMSB。多彩なイベントも開催

 

民の力をレベルアップし、やるべきことをやる

 

――復興まちづくりではまだ行政主導の部分も大きいと思いますが、森山さんが考える民間の役割は?

 

民間事業者は「結果を出す」ことが大事。でも福島では、抱える課題の大きさ・難しさに対して民間の力が圧倒的に弱いと感じています。自分たちをレベルアップしてできることをもっと増やしていかないと、課題に立ち向かって結果を出すことができない。だからこそ、僕は人材育成(個人の能力向上)と組織開発(仲間づくり)が大切だと考えて活動しているのです。行政と連携するにも、「俺たちなら結果を出せる」と自信を持って言える組織をまず作らなければなりません。

 

――地域住民や他のプレイヤーとの協力において留意していることを教えてください。

 

ヨソモノとして小高に来た僕は、地域の人たちへの「報連相」をことさら大事にしてきたつもりです。それでもお小言をもらうことはあって、もちろん直せるものはすぐ直しますが、中には無理な相談もある。その際は、なぜできないかの理由をきちんと説明することを心がけてきました。地元の信頼はそういう積み重ねでしか得ることはできないと思います。

 

小高で試行錯誤を始めた当初は、先達たちから厳しいことを言われたこともありました。でもキッチンカーでOMSBを始めてから、雨の日も風の日もコーヒーを淹れてお客さんを待っている姿を見て「あいつがんばってるな」と、だんだん協力してくれる人が増えていきました。また、現オムスビ理事の二人をはじめ、同年代の仲間と出会って悩みを話し合えるようになったのは、精神的な支えとしても大きかったですね。なかでも、いちばん苦しかった頃から現在まで右腕として支えてくれているスタッフには、もう感謝しかありません。

 

この地で活動してきて、失敗も経験するうちに学んだのは、他人と主義主張がぶつかったとしても相手の人格はリスペクトすること。言うべきことは言いますが、正義感をふりかざして攻撃するだけでは何も生まれない。この地域に関わる人に基本的に悪い人はいないんですよね。たとえ意見ややり方が違っても、僕らは僕らでやるべきことに集中するのみだと思っています。

 


 

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【イベント情報】6/25(金)、入山章栄さん(早稲田大学)、菅野拓さん(大阪市立大学)、高橋大就さん(一般社団法人東の食の会)によるオンラインセミナー『イノベーションと社会ネットワークとの関係を考える ~「東北リーダー社会ネットワーク調査」分析結果から~』を行います。参加は無料です。ぜひご参加ください。

 

※東北リーダー社会ネットワーク調査は、みちのく復興事業パートナーズ (事務局NPO法人ETIC.)が、2020年6月から2021年1月、岩手県釜石市・宮城県気仙沼市・同石巻市・福島県南相馬市小高区の4地域で実施した、「地域ごとの人のつながり」を定量的に可視化する社会ネットワーク調査です。

調査の詳細はこちらをご覧ください。

 

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中川 雅美(良文工房)

福島市を拠点とするフリーのライター/コピーライター/広報アドバイザー/翻訳者。神奈川県出身。外資系企業で20年以上、翻訳・編集・広報・コーポレートブランディングの仕事に携わった後、2014~2017年、復興庁派遣職員として福島県浪江町役場にて広報支援。2017年4月よりフリーランス。企業などのオウンドメディア向けテキストコミュニケーションを中心に、「伝わる文章づくり」を追求。 ▷サイト「良文工房」https://ryobunkobo.com

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