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「NPO・ソーシャルビジネスの”採用基準”」 社会起業家・NPO人事担当者が語る座談会レポート(前編)

2014.03.05 

昨年末、クリスマスを目前に控えた12月23日に開催されたトークライブ、「NPO・ソーシャルビジネスの人事戦略を考える」(イベントの趣旨などはこちら)。

師走の渋谷の夜、季節感のある衣装に身を包んだ5名のゲストを中心に、終始和やかな雰囲気の中で、自由な議論が繰り広げられました。 紙幅の都合上などから、トークの全てをお伝えすることはできませんが、採用検討中のNPO、そしてNPOではたらきたい人の双方にとって気づきの多いメッセージを整理し、前後編に分けてお伝えしたいと思います。

前編のテーマは「採用候補者をどう発掘し、どんな基準・プロセスをもって採用するか」です。 ■ファシリテーター 山本繁氏(NPO法人NEWVERY理事長) ■ゲスト 石井正宏氏(株式会社シェアするココロ代表取締役) 工藤啓氏(NPO法人育て上げネット理事長) 辰巳真理子氏(フリーランス/NPO法人ETIC.) 山元圭太氏(NPO法人かものはしプロジェクト 日本事業統括ディレクター)

「採用候補者と、どう出会う?」NPOの採用マーケティング戦略

まずは、そもそも未来のメンバーとどのように出会っているのか、についてお聞きしました。

NPO法人と一口にいっても、事業内容・文化ともに非常に多様です。工藤さんは「これは!という人を見つけたらすぐにお声がけするし、ハローワークも活用する」。一方で「有料媒体はなるべく使わずソーシャルメディアを活用する」という山元さん。また、辰巳さんの「クローズドなマッチングを多く見かける」というコメントもあります。 「NPOではたらきたい」という人にとっては、これらのコメントはとても参考になります。

ここから導かれる有効な作戦は、「具体的に働きたいNPOに、ボランティアや勉強会など何らかのかたちで接点を持つこと」です。「採用」は、事業への貢献と人間関係をお互いに確認したその先にあると考えると、無理なくスムーズに進むかもしれません。  

 

工藤:「この人は」と思う人に出会ったときは、直接ヘッドハンティングします。その際には、すぐに来てほしいと伝えるわけではなく、10年後20年後にきてくれたらいいな、と思って「来てほしい」ということを伝えています。そうすると、数年経ってから、転職先として選んでくれることがあります。

ハローワークも採用手段として活用しています。ソーシャルメディアやWEBサイトでも人は集まりますが、媒体によって集まる人の特徴があります。その意味でハローワークには意外性がある。こちらの想定を超えるような人材と出会えることもあります。

 

山元:募集の際はなるべく有料媒体を使わずに、団体のブログ、フェイスブック、ツイッターを活用しています。NPOとソーシャルメディアは相性がいいので、比較的低コストで募集を集めることができます。また、かものはしプロジェクトには、ボランティア登録している社会人が450名近くいらっしゃるので、彼らが職員予備軍にもなっていますね。 NPO独自の専門職の採用には苦労しています。例えば、ファンドレイジングマネジャーとか、NPOマネジメントという職種になると、プレイヤーの母集団が小さい。特に寄付型NPOは、ステークホルダーがものすごく多様ですし、報酬・役職の強制力ではなく、ビジョンの吸引力で人を動かす機会も多くなります。寄付を受けるにも、商品やサービスを販売するのとはやっぱり違うロジックがあります。こういった仕事のプロフェッショナリティを持っている人は少ないです。

 

辰巳:これまで自分がみてきたケースでは、クローズドに採用を進めるNPOが多いと思います。事業を立ち上げて進めていく過程で生まれたつながりの中から、採用につながっていくことがよくあります。そうして生まれたマッチングは、お互いのことを比較的良くしっているので、ミスマッチになりにくい。だから、そういった接点が増えていけば、ちょうどいいマッチングが増えていくんじゃないかと思っています。  

どんなキャリアの人がNPOで働いているのか

次に、現在のNPO職員には、どんなバックグラウンド(あるいはキャリア)の方がいるのかを伺いました。ここにも、NPOの収益モデルや、文化が大きな影響を及ぼしています。唯一共通して言えることは「一定の即戦力であること」でした。

こう書くと「じゃあ新卒ではダメなのかな?」という懸念もあるかと思います。その点について言えば、私の周囲を見回す限りでは、新卒NPO組は、長期間のインターンシップや起業経験などがある人たちが多いようです。実際に、新卒OKという条件で募集しているNPO・ソーシャルベンチャー(DRIVE新卒募集ページ)も少なくありません。  

 

山元:かものはしプロジェクトの職員は代表以外全員中途採用です。企業の広報担当だったり、海外営業だったり、国際機関職員だったり、かものはしが必要としている分野で経験を積んできた若手の即戦力ばかりです。

 

工藤:プロジェクトリーダーには、ビジネス経験者が多いです。大手企業で管理職だった40代で、個人的に若者支援に思い入れがあって転職してきたという人もいます。

 

石井:若者支援事業を実施していますが、支援対象者を雇用するケースもあります。被支援者が、支援者側にまわるというケースは、少なくありません。

 

辰巳:同じチームで働くメンバーのバックグラウンドは本当に様々です。国際協力機関、アパレル企業、介護福祉施設、メディア営業など、背景にある文化もそれぞれなので、意識や使用言語を合わせていくことが重要だと思います。  

NPO・ソーシャルビジネスの「採用基準」:どんな人が向いているのか?

一つ前のトピックでは、NPOで働く人たちのキャリアを紹介しました。そこでのひとつの結論は、向いているキャリア(前職)があるのではなく、向いている素養がある、ということでした。言い換えると、何かのスキルがあればそれだけで十分やっていける、ということはないというメッセージでもあるでしょう。

では、NPO・ソーシャルベンチャーを率いる社会起業家は、どんな人材を求めているのでしょうか。ここには、一定の傾向を読み取ることができます。それは、以下の3つです。(1)自ら仕事をつくることができる人であるか、(2)周囲の環境に依存しない(不満や不安を環境のせいにしない)人か、そして(3)ステークホルダー(サービスの対象者や、事業実施において関わる関係者)に好かれる人か。 つまり、一般企業やベンチャーと同じです。ただし、既存のルールや慣習がない上に、社会状況の変化が激しい。なおかつ、丁寧なやりとりが必要な「支援の現場」をもつNPOが多いことから、特にこういった素養が求められているのではないでしょうか。  

 

山元:NPOでボランティアやインターンを経験したことがある人は、職場や事業にギャップを感じすぎず、すばやく適応できる可能性が高いと思います。あとは、同じ組織でも倍々ゲームで成長している時と、成熟期では必要な人材像はまったく異なると思います。だから、働いている途中でフェーズによってはだんだんミスマッチになってきたりすることも想定されます。そんなこともいい経験だなと思いながらやりすごして行けるような、そういうタフな人がフィットするんじゃないかと思います。 混沌とした環境で自ら道を切り拓いていける人かどうかを重視しています。僕は、「グレーな海を泳げる人」といったりしています。NPOの経営資源は大企業ほど十分ではありませんし、仕事の進め方も定型があるわけではありません。また、課題を取り巻く環境が変わるので、朝令暮改もしばしばあります。ですから、環境が整っていないと力を発揮できない人には、ちょっとつらい職場かもしれません。

 

辰巳:独立精神旺盛で、依存的でない人が向いていると思います。NPOという法人ができて、ある程度の年数が経ち、それなりに人を採用できるようになってきたとはいえ、不確定なことも多く、事業環境も事業内容もめまぐるしく変化していきます。来年・再来年の事業がどうなっているかが誰もわかりえない状況において、その不確実さをうまく楽しむことができるか、そういうタフさがあるかどうかが重要だと思います。

 

山本:採用の際に僕が気にしているのは、バイタリティーと愛嬌です。どんどん拡大していく事業フェーズにあるので、外界からの刺激に対して受動的に反応するのではなく、環境に対応してどんどん攻めていく人を採用したいと思っています。あとは、何か憎めないところがあるというか、そういった人柄も大事ですね。その次に、業務とスキルのマッチング。これは、数学が苦手な人に統計分析を任せない、という程度に考えています。それよりも大切なのは、自己学習能力です。自ら必要なスキルを獲得する、というメタスキルがないと、環境変化に対応できません。 2,3年後に予算一億円規模の事業をリーダーとして率いていけるか、という点をみています。実際に、NEWVERYでは2,3年経つと事業をひとつ任せます。うまくいかなったら、自分の給料を自分で削ることになります。それくらい裁量と責任がある仕事です。でも実際そうなったら、僕も本人もすごく落胆してしまうでしょう。だから、そうならないように採用は慎重に進めています。

 

石井:究極のところ採用活動は自分や働く同僚ではなく、利用者が選ぶものだと私は考えています。採用候補者が働くとき、本当に向き合うのは同僚ではなく、支援対象の子どもたちです。ですから、実際には私たち事業者が採用活動をするのであっても、利用者が選ぶという目線を持つことを大切にしています。本人がどうしてもこの仕事に取り組みたい、と思っていても、現場で子どもたちが近づいてきてくれないようであれば、現場は務まりません。

 

  後編:これからのNPO・ソーシャルビジネスでの働き方と、"サンタクロースは最強のNPO"説に続きます。 2016年9月現在、山元さんの株式会社PubliCoで、コンサルティング等人材募集中です!

撮影/田村真菜

1988年生まれ、国際基督教大学卒。12歳まで義務教育を受けずに育ち、芸能活動や野宿での日本一周を通して、社会をサバイブする術を子ども時代に習得。大学在学時は、ポータルサイトのニュース編集者を務める傍ら、日本ジャーナリスト教育センターの立ち上げに従事。311後にNPO法人ETIC.に参画し、震災復興事業の情報発信や事務局などを担当。趣味は、鹿の解体や狩猟と、霊性・シャーマニズムの探究および実践。

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石川 孔明

1983年生まれ、愛知県吉良町(現西尾市)出身。アラスカにて卓球と狩猟に励み、その後、学業の傍ら海苔網や漁網を販売する事業を立ち上げる。その後、テキサスやスペインでの丁稚奉公期間を経て、2010年よりリサーチ担当としてNPO法人ETIC.に参画。企業や社会起業家が取り組む課題の調査やインパクト評価、政策提言支援等に取り組む。2011年、世界経済フォーラムによりグローバル・シェーパーズ・コミュニティに選出。出汁とオリーブ(樹木)とお茶と自然を愛する。