ソーシャル系WEBマガジンが世に知られるきっかけをつくった『greenz.jp』を運営するNPO法人グリーンズ。共同代表の植原正太郎(うえはら・しょうたろう)さんは、今年春から二代目経営者として経営も担っています。
大学時代にグリーンズと出会い、それからはグリーンズとともに「仕事と生き方を一緒にする人生」を歩んできた植原さん。グリーンズや生き方への思いをお聞きしました。
こちらの記事は、自分の道を信じ、情熱をもって一歩、また一歩と進む人のキャリア観と人生観に迫る連載記事です。大切にしたい思いとともに自分の人生をDRIVEさせる人たちのことを【DRIVERS】とし、敬意を込めてその生きざまをご紹介します。
植原さんのインタビュー記事 Vol.1はこちら
>> 「仲間と新しいグリーンズを創る」二代目経営者になった今考える、これからのこと―NPO法人グリーンズ共同代表 植原正太郎さんVol.1【DRIVERS】
植原 正太郎さん/NPOグリーンズ共同代表
1988年生まれ。大学時代のインターンをきっかけに初めてソーシャルの仕事に携わる。大学卒業後はマーケティング事業を主軸としたIT企業に就職。その後、2014年にNPOグリーンズ入職。寄付会員制度の立ち上げに携わり、ファンドレイジング、マーケティングの担当としてキャリアを積みながら2018年4月には副代表 兼 事業統括理事のポジションへ。2021年4月、に共同代表に就任。同年5月に家族で熊本県南阿蘇に移住し、大自然に囲まれた生活を満喫している。釣りとスケボーが趣味。二児の父。植原さんポートレート撮影 : 山中康司
聞き手 : 鈴木敦子(NPO法人ETIC.シニアコーディネーター)
30代半ばの自分たちは、先輩たちが創った領域で研鑽する人が多い
植原さん :
僕は、グリーンズやETIC.(以下エティック)に出会って、人生が変わっちゃった人なんです。
僕は1988年生まれですが、僕たち30代半ばの人は、先輩たちが創業した団体にしっかりと参画して、きちんと研鑽していく人が多いような気がしています。
大学生の頃には、グリーンズやエティックを含めて上の世代の先輩たちが、社会起業やソーシャルデザインなど、すでに新しい領域や概念を開拓してくれていました。就職活動の時にはそんなキャリアが選択肢の一つにあった。不思議な世代だと思いますね。
僕たち30代半ばくらいの人はそれぞれの領域で成長させてもらって、新しい価値をつくっていくことが自分たちのキャリアにつながる、そういった人生を歩んでいける人が大多数じゃないかと思うんです。
NPOの事業継承についても面白さを感じます。なぜなら、一般的な営利企業と比べると価値観や哲学、文化、社会に対する想いやビジョンなどがしっかりと引き継げなければ実現が難しいから。グリーンズという団体を引き継ぐことも、たとえ経営のスペシャリストでも外部の人が突然担うことはまず不可能です。NPOはマインドの部分がすごく重視されるので、事業承継のハードルは高いかもしれません。
鈴木 :
言われてみれば、30代半ばというとベンチャーの創業者はたくさんいるかもしれないけれど、ソーシャル系の創業者は少ないかも。
植原さん :
マネージャークラスで事業や組織にしっかりと貢献している30代はたくさんいますよね。
グリーンズに関わるほど人生が豊かになっていく
鈴木 :
学生時代に描いていた30代と比べて今の自分はどう?
植原さん :
僕、大学生の時に仲間と一緒にスマホで30歳になった自分にあててビデオメッセージを撮ったんですよ。その時、僕は「30歳になったらグリーンズで働いておけよ」と言っていました。正直、30代の自分にはグリーンズで働くこと以外何も求めていなかったのですが、24歳の時、グリーンズに転職した時点でその目標は達成していて。
今は、グリーンズで働くどころか、二代目経営者にもなれて、夢が叶った世界で思いもよらない方向に人生が転がっているという感覚があります。
鈴木 :
想像を超えた方向に人生が進んで、やりがいは大きくなった?
植原さん :
そうですね。それに、考えてみると2014年に入職してからこれまで、「グリーンズを辞めてやる」と思ったことがありませんでした。仕事のすべてが社会や地域、自分のためになっていると思えることばかりで。「やらなくてもいい」と思う仕事がなかったのは、ソーシャルの仕事でキャリアを積むうえでよかったなあと思いますね。
鈴木 :
植原くんの仕事のモチベーションの源泉は何だろう。
植原さん :
僕は、常に自分の生き方を探求していると思うんです。どういう暮らし、仕事、生き方をしたいか、常に模索しているなかで、グリーンズで仕事をしていると常にそれが満たされるんです。
例えば、2021年、家族で熊本県の南阿蘇に移住しましたが、それはグリーンズの仕事を通じていろいろな地域に行き、いろんな人に出会って、話を聞いて、「こんな暮らし、生き方がしたいなあ」と自分が選択したい方向へと進むことができたことが大きいです。
熊本県南阿蘇村の風景(植原さんのnoteより)
「グリーンズに関わるほど人生が豊かになっていく」、そう言えることがモチベーションの源泉になっています。グリーンズでは「仕事と生き方が一体化している」と感じることが多いし、僕たちは「そういう仕事しかしない」と思っています。
いろいろな人に出会えて関係性を深めることができて、学びが多くて、自分の人生がアップデートされていく――。こう実感できることが、僕だけでなく、メンバーにとってもグリーンズで働く源泉になっていると思います。
鈴木 :
仕事と生き方が一体化していると思えること、関わるほどに自分の人生がアップデートされていくこと、大事だと思う。
植原さん :
グリーンズには非公式の社是があるんです。「公私混同」という。
「自分のやりたいことをグリーンズのリソースを使ってやる」。このことがグリーンズでは大事な団体文化として受け継がれています。自分のやりたいことを企画にして提案することから始まり、WEBマガジン、スクール、コミュニティづくり、すべてにおいていろんなメンバーのやりたいこと、学びたいことが詰まっています。一つひとつ自分の思いをもって実現していく、こうして「自分を持ち込む」ことは、グリーンズにとって何より大事なのかもしれないです。
鈴木 :
ここまで話を聞いていて、エティックと似ていると思った。私も創業時から一度も「エティックを辞めたい」と思ったことがない。なんでもできちゃうから。裁量を持てるし、やりたいことがあれば応援もしてもらえるし、なんでもできるから辞める理由がないんです。困ったことがあったら、公私ともにみんなが救ってくれる。もちろん、私もそうする。
植原くんにとって、グリーンズで働くことは、「働く」「暮らす」「生きる」が一緒になっているということなんだね。こう感じられることがやっぱり生きるということで、生きることが豊かになるということなんだろうなあ。
植原さん :
そうですよね。大学生の頃にエティックの長期インターンを利用して、NPO法人日本ブラインドサッカー協会でインターンをしていた時とか、20代前半に「社会課題解決のためにしっかりと仕事をしたい」と思うようになった時とか、いつも仕事を通じて自分の思いを満たしてきました。「社会のため、地域のためになることを大事にしたい」と仕事に向き合えたことで、僕の人生は自分が本来望む方向へ大きく変化したんだと思います。
グリーンズからギフトをもらった自分たちが、どんなギフトをグリーンズに贈ることができるか
鈴木 :
今後、新しいグリーンズをつくりたいという自分の思いを実現していくわけですが、そのエネルギーのもとともいえる「希望」を感じることはありますか?
植原さん :
仲間の存在が大きいですね。新しい価値づくりに関わってくれるメンバーはみんな、僕と同じようにグリーンズの創業当時のことを知りません。でも、人生に多大なる影響を受けている人ばかりです。
グリーンズからたくさんのギフトをもらって、第二世代として今後のグリーンズに関わるなかで、新しい価値をどうつくっていけるか、グリーンズにどんなギフトを贈ることができるか、思いをもって真剣に考えている。そんなメンバーたちとこれからのグリーンズを運営できることへの安心感はすごく大きいし、みんなとなら面白いことができそうだと希望を感じられます。
鈴木 :
最後に、未来の自分について、例えば、50代はどんな自分でありたいですか?
植原さん :
グリーンズの仕事は、50歳の頃には卒業している予定です。40代の前半くらいには次の世代に任せて、自分の暮らしと仕事をもっと一つにしたいと思っています。
よく妄想しているのは、自分で家を建てて、庭と畑をつくり、自給自足をしている姿です。食べ物もエネルギーも自分でつくる暮らしをちゃんとやってみたい。
家の離れとして宿を一つ建てて、暮らしをおすそ分けするようにゲストをおもてなしします。もっと暮らしが豊かになる宿というところでしょうか。
まだ身体が自由に動くうちにそれまでとはまったく違う、まわりが驚くようなキャリアの変化を起こしたいですね。
NPOグリーンズについて
2006年7月、ソーシャルWEBマガジン『greenz.jp』創刊(当時の編集長は鈴木菜央氏)。2011年6月に green school Tokyo(現グリーンズの学校)を始め、2012年1月には書籍『ソーシャルデザイン』(朝日出版社)発表し、話題になるなど、ソーシャルメディア・コミュニティを世の中に拡げ、多様なつながりや価値を生んできました。
『greenz.jp』では、自分の価値観を大切に新しいチャレンジをする人、ほかにはない人生を感じさせる人たちのインタビュー記事が常に共感を呼び、寄付型WEBマガジンという独自のスタイルも社会に広く浸透させました。
グリーンズのビジョンは「いかしあうつながりがあふれる幸せな社会」、ミッションは「個人の変容と実践を応援する」、さらにタグライン(合言葉)は今年7月19日に「生きる、を耕す。」へリニューアル。グリーンズが今後、自分の人生を大切にしたいと願う人たちにどんなメッセージを届けていくのか、注目が集まっています。
写真提供 : 植原正太郎
※記事の内容は2023年7月取材時点のものです。
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