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最大の収穫は公教育の現場において、 継続的に指導を行う権利を得られたこと-A-bank北海道 曽田雄志さん-【ローカルベンチャー最前線:後編】

2018.11.05 494view 

教育の現場にアスリートが指導者として立つこと。そして彼らが培ってきたフィジカルとスキルを生徒たちに伝えていくこと。その価値を理解し、「わがまち、わが校にもアスリートを」という自治体や学校はスタート以来、年々増え続けていった。

「素直にうれしい反面、相変わらず運営面では苦労していました」と曽田氏。協力してくれたアスリートには、派遣するたび1回あたり数万円のギャランティが発生する。まして東京から呼んだ場合には、交通費や宿泊費の負担もしなければならない。この費用をどこから捻出するかが、問題となっていた。「A-bank北海道を立ち上げてしばらくは、こうした事業は本当にお金の作り方が難しいなぁとしみじみ感じていました。いろいろな方に相談をしましたが、結局解決策を見出すことができず、アスリートに支払うギャランティは僕自身が立て替えて、負担するというのが、何年も続きました。他のイベントに出演した時のギャランティで補填したりして、何とかやりくりをしてきましたね」と振り返る。大変な話を穏やかな口調で話す彼の様子を伺う限り、それも楽しんでいた雰囲気さえ漂うが……実際はかなり苦心していたはずだ。

とは言え、アスリートを派遣すればするほど、赤字が増えるという矛盾をどうしたら解消できるのか。悩みながらも、彼はこの事業を続けてきたことによって得たものをどう活かしていくのか、すでに次のステップを見据えていた。

「企業から協賛をいただくために、何をしたら、相手に喜んでもらえるのか……シンプルに考えました。僕たちがいいことをしてるんだからお金をくださいと言うのは全然違うと思ったし、企業側に響くはずもない。この事業に関わったことによって相手が得られるメリットを生み出そうと知恵をしぼりました」。

オフィシャルな立場で公教育の現場(=体育の授業や部活動)に継続的に携わる権利を得たことこそ、この事業における最大の収穫。課題解決のヒントは新たな可能性の中にあった。

(前編はこちら)

「子どもと社会のために!」を前提に学校内で展開可能なビジネスプランを考案。

憧れのアスリートから直接指導を受け、子どもたちのやる気もアップ! 写真左は陸上競技実業団チームで活躍した仁井有介さん。

憧れのアスリートから直接指導を受け、子どもたちのやる気もアップ! 写真左は陸上競技実業団チームで活躍した仁井有介さん。

彼はさっそく教育委員会に出向き、学校内でオフィシャルにビジネスをするためのアイデアを提案し、働きかけた。

具体的な内容は、以下の通り。

1.学校内に広告を持ち込む権利

アスリートが指導を行う際に、企業名の入ったユニホーム着用の許可を申請。

2.学校内でアンケート調査を行う権利

子どもたちや保護者を対象としたアンケート調査の実施と、依頼主へ結果(データ)の公開を許可してもらえるよう申請。

3.学校内でサンプリングを行う権利

授業や部活の終了後、生徒に対してメーカーから依頼のあったサンプルを配布し、試飲・試食・試用するための許可を申請。

「最初は社会貢献に対して応援してくれる企業のサポートを期待していましたが、なかなか難しかった。それならば企業がすでに予算付けしている販促費や広告費に適応するプランを提案した方が、現実的かなと思い直したんです。これがきっかけで少しずつ企業からの協賛金が集まるようになりました」と振り返る。

ターゲットが明確な上に、アスリートによって届けられるコンテンツは生徒や保護者に魅力的に捉えられる。しかも学校内で行うからこその安心感も加わって、企業のマーケティングやPR活動における新たな価値を創造したのだ。

とは言え、協賛金は活動資金のごく一部。実際のところはまだまだ曽田氏の持ち出しも多く、事業がうまく回っている段階というにはほど遠かったというが、ここ1〜2年は少しずつ思い描いている形に近づきつつあると言う。

そのきっかけとなったのは、A-bank北海道の設立以来、継続的にコミュニケーションをとってきた札幌市や教育委員会から「やはりこれは大事な活動なので、事業化したい」と提案があったこと。結果、中学校の部活動の派遣に関しては予算化され、今年度は年間250回分の活動資金が捻出された。

「これまで考えて、実行してきたことが徐々に形になって、ようやくビジネスとして成立した感じですね。今は黒字経営で、雇用も増えています」と語る表情には安堵が漂う。

これからも、「面白がる」ことを忘れずに「北海道から新たなスポーツビジネスの在り方を発信したい」

スポーツと教育の可能性を信じ、それを最大限に活かす方法を考えていた曽田氏。来年度は新規事業に向けた動きも加速しそうだ。

スポーツと教育の可能性を信じ、それを最大限に活かす方法を考えていた曽田氏。来年度は新規事業に向けた動きも加速しそうだ。

札幌市の事業として“お墨付き”をもらったことを機に、他の市町村からの問い合わせもますます増えていった。「僕たちが活動できる場が広がれば、指導する子どもたちの数も当然増えていきます。それは企業の協賛金にも反映されるわけで、非常にいい仕組みができつつありますよね」。

「アスリート先生」は今、彼の強い信念と柔軟な発想によって新しい価値を次々に創造し、人、行政、企業に必要とされる事業に育っている。「だからといって、僕自身がここに執着し続けるのではなく、新たな人材がまた新しい価値を創造していくことが大切」と彼は言う。

その言葉通り、A-bank北海道が手がける事業はほかにも、引退後のセカンドキャリアに不安を抱えるアスリートに対してのコンサルティングや厚別公園競技場と共同で運営するスポーツクラブ「厚別アスリートアカデミー」など多岐にわたるが、そのすべてを彼が把握し、こと細かく指示しているわけではない。

「既存の概念やシステムにとらわれることなく、新たな仕組みを作ることかができれば、最初は自分が手間と時間をかけて動いていたことも、継承する人が出てきて、自然に広がっていく。それが一番いい形だと思います。

さらに「マーケティングの最終形は、マーケティングをしなくても商品が売れる状態が最高と言われています。僕らはまだそこまでは行きませんが、それに近い現象は起きています。僕は以前と変わらず、社会と子どもの未来のために面白いことをしたいなとか、困っている人がいたら手伝おうという気持ちを持ち続けて、常に動いていればいいのかなと思いますね」。

気負いがないから、曽田氏の言葉は心に響く。だからこそ彼に賛同して集まるアスリートや仕事仲間、スタッフは皆主体的に行動し、「個」のパワーがA-bank北海道の活動を支えている。

「目の前の人が楽しそうにしていたら自分も楽しい。社会はその先にあるわけで、いくら社会のことを考えたって、身近な人をワクワクさせることができなければ、素敵な未来は描けない。だからこそ僕自身、面白そうという感覚には正直に反応したいと思っていますし、スタッフや自分が教えている学生たちにもそんな気持ちを忘れず持ち続けていて欲しいと思います」。

厚別アスリートアカデミーでの指導風景。基本動作から元トップアスリートによる専門的なトレーニングを通じて、人間育成に力を注いでいる。

厚別アスリートアカデミーでの指導風景。基本動作から元トップアスリートによる専門的なトレーニングを通じて、人間育成に力を注いでいる。

クールな語り口から伝わる情熱と野望、自然体で素直な人柄、執着せず、常に新しさと面白さを追い求める姿勢、郷土愛……知れば知るほど、その人間力に惹き付けられていく。だからこそ今後も彼の周りには、豊かな個性と才能を持つ人材が自然に集まっていくだろう。そして次々に、北海道からスポーツビジネスの在り方を発信し、新しい価値を創造していくはずだ。ますます広がるであろうフィールドで、どんな活躍を“魅せて”くれるだろうか……期待を寄せてその動向に注目したい。

(前編はこちら)

ローカルベンチャーPROFILE

会社名 : 一般社団法人   A-bank北海道

所在地 : 北海道札幌市中央区南1条西4丁目13番地 日之出ビル9F ドリノキ内

設立 : 平成25年10月24日

従業員数 : 6名

事業内容 :

1.義務教育の授業、部活動へのアスリート派遣

2.海外へのアスリート派遣

3.アスリートへの教育

4.アスリートの講演に関するコンサルティング

5.アスリートのセカンドキャリアコンサルティング

6.スポーツ、教育に関する調査及び研究

7.イベントの企画、演出及びコンサルティング

8.アーティストに対する、上記アスリートと同様のコンサルティング

URL:http://www.abankhokkaido.jp/

取材・文/市田愛子(Office Mercato) 編集/伊藤衝

この記事を書いたユーザー

市田愛子

市田愛子

ママ向けのファッション実用誌「Como」(主婦の友社)、フリーペーパー「オントナ」「さっぽろシティライフ」(札幌/道新サービスセンター)の編集部を経て、2015年に独立。編集ライターとして書籍・雑誌・WEB関連のコンテンツ制作に携わるほか、広告コピーのライティング&ディレクション、企業の広報・販促支援、イベントの企画・運営など幅広く活動。

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