2021年10月下旬から断続的に5日間開催された「ローカルベンチャーフォーラム2021」。最終日11月5日は、「地域と企業の共創の未来 ~我々は地域課題解決を命題とした新たな市場を創り出せるのか?」と題したセッションが行われました。
企業が地域と関わるときはたいてい、新規事業の小規模な実証実験や人的交流からスタートするもの。その後、自治体と企業とが一緒に市場開拓や社会実装まで目指す「共創フェーズ」へと移行するには、どうしたらいいのか?このセッションでは、自社の全国インフラを生かして新規事業に取り組む大手2社と、そうした企業を迎える地方の側から1自治体とローカルベンチャー1社が登壇。すでに始まっている共創の事例を紹介し、「企業×自治体」の関係にいま起きつつあるパラダイムシフトにフォーカスしました。(敬称略)
その充実の内容をお届けしてきたシリーズの最終回です。各登壇者の詳しいプロフィールはパート1、2をご覧ください。
【パート1・2はこちら】
>> 大企業の持つ資源を地域課題の解決にどう活かすか?日本郵政・セイノーの取り組み〜地域と企業の共創の未来(1)
>> 大切なのは地域にマイルドな競争を起こし続けること。巻組・厚真町の取り組み〜地域と企業の共創の未来(2)
パート3 : 「企業x地域」は新しい市場・新しい社会パラダイムをどう共創していくか
■規模は違っても、同じ目線で一緒に歩む。
【山内幸治(モデレーター/NPO法人ETIC.)】 4者の取り組み・現状を伺ったところで、企業×地域で新しい価値を共創していく未来の議論をしていきたい。まず、自治体としてはセイノーホールディングス、日本郵政という大企業2社の取り組みを聞いてどう感じるか。
【宮久史/北海道厚真町役場】 そもそも郵便局にはどういう相談ができるのか認識していなかったが、今日の日本郵政さんの話を聞いて、もっと頼りにしていいのだとわかった。小さな厚真町にも郵便局が3つある。私たちはこの町を企業が最初の一歩を踏み出す社会実験の場にしていきたい。だから、郵政さんのローカルベンチャー共創の取り組みでも、ぜひ厚真を実験の場として使ってほしい。
セイノーホールディングスさんは「目利き力」がすごいと感じた。地域のどんな資源にどう反応して事業につなげるのか。その視点が私たちと異なると思う。こちらで変なフィルターをかけず、ありのままの厚真を見てもらえば、可能性を発見していただけるのではないか。
【加藤徳人/セイノーホールディングス株式会社】 実は、(厚真町と関係の深い通販大手の)フェリシモさんと私たちも、ラストワンマイルの置き配事業の実証と社会実装を一緒にやっている。物流のあり方は多様だ。先に紹介した子ども宅食事業(パート1参照)などは人との接触・会話が基本だが、置き配はその対極。地域ニーズに合わせるためには、実際に現地へ行ってみないとわからないことは多いので、ぜひ厚真の現状も見せてほしい。物流経営に一定の枠は当然必要だが、はみ出したものは回転レシーブしてでも拾っていきたいと考える。
【山内】 企業が地域と組んで新しいことを始めるとき、収益性が不明なうちに先行投資することになる。その際に何が大切か?
【小林さやか/日本郵政株式会社】 私たちグループは一昨年、かんぽ商品の不適切な営業活動等によりお客様に大変なご迷惑をおかけした。それが、お客様の信頼こそ事業基盤だということをあらためて認識するきっかけとなった。事業の成長は必要だが、そもそも基盤がなければ成長もない。その取り組み方を組織として模索しているところで、私が立ち上げた「ローカル共創イニシアティブ」(パート1参照)はその流れに乗った形だ。社内でもいろいろな意見はあったが、最後はトップが「やってみろ」とコミットしてくれたことが大きい。
また、共創相手のローカルプレーヤーと私たちとで企業規模は大きく異なるが、同じ目線で一緒に歩んでいくことが大切と思う。その上で、相手のローカルベンチャーが事業をスケールアップしていく際、いわばインキュベーターのような役割も果たしたい。さらに将来的には、地域と組んでやりたいことがある企業向けに地域側のコーディネーション機能も担えたらいいと考えている。
■異動の壁を乗り越え、ワンチームで臨む。
【山内】 いま時代は、最初から持続可能性がビルトインされた社会経済システムという新パラダイムに向かおうとしている。その意味でも地方の可能性が注目されているが、現場ではどうか。
【渡邊享子/株式会社巻組】 戦後の日本経済は高度成長とその後の停滞を経験してきたが、(巻組が拠点とする宮城県石巻市を含む)東日本大震災被災地の復興は、この10年それを早送りで追体験しているようなものだ。震災直後は、課題山積だった一方で解決のための大きなエネルギーが働いたが、いまはその持続化が課題となっている。
地域の課題は一度に全部は解決できない。私たちの事業である空き家のリノベーションにしても、材料を地産地消で、身体にいい天然素材で、かつコストを抑えて、など全部実現するのは難しい。優先順位の低いものをそぎ落とし、本質的な部分へとスリムアップしたものが汎用性の高いビジネスモデルになると思う。
大企業との連携で期待することは、そうやって作り上げた課題解決モデルを他地域に展開する可能性が広がることだ。大企業から見て、儲からなくても難しい課題解決をがんばってるローカルベンチャーを応援する、という慈善スタンスの連携ではなく、一緒にしっかりビジネスにしていこうというパートナーシップを目指している。
【山内】 企業が自治体と連携するときの“リスク”としてよく挙げられるのが、役場の頻繁な人事異動だ。せっかく意気投合してもその人がいなくなるとチャラになってしまう、という心配はあるか。
【加藤】 本音を言えばもちろん異動してほしくない(笑)。でもそれは企業側も同じこと。だからこそワンチームで取り組むことが大事だ。チームづくりというのは、トップダウンというよりムーブメントが起きていくイメージだ。いま連携する自治体には、キーマン以外に同じ熱量をもった人が何人かいて、仮にそのキーマンが異動してもチームは回っていくだろう。また、異動するより早く、新しい“デファクトスタンダード”を作ってしまえば後戻りもできなくなる。スピード感も大切だ。
【宮】 異動させる役場もさせない役場もある。考え方次第だ。私は厚真町役場に11年いるが、異動してもずっとローカルベンチャーの任務はついて回っている(笑)。企業が地域と組むときは、どんな文化・風土を持つ役場なのか見極めるのが大事だと思う。一緒に新しいことを始めるには、やはり突破力のある職員が熱意をもって3年は担当してくれると速いと思うが。
【山内】 自治体からみて、進めやすい・進めにくいケースとはどんなものか。
【宮】 企業からの提案は具体的な方がいい。いちばんつらいのは「なにか地域課題ありませんか」と聞かれることだ。事業はお互いの情熱から生まれる部分が大きい。企業人であっても個人の強い「思い」を持って、自分が何をやりたいのかをぶつけてもらったほうがいい。
■つくりたいのは新しい文化。最強のゲームチェンジャーになる。
【山内】 企業×地域の取り組みが「社会の新しいパラダイム」となるために、新しい市場をどう一緒に作っていけるか。ビジョンを伺いたい。
【小林】 私たちが既に持っているインフラをどう活用し、アップデートしていくか。私たちは面的量的に新市場を作り出すパワーは持っていると思う。が、それは地域ごとに事業パーパスを共有できるパートナーと組むことで初めて可能になる。自社だけ良ければいいのではなく、同じ目的を共有するパートナーと組んで新たな市場を開拓していきたい。
【加藤】 たとえば私たちのドローン事業(パート1参照)は、ドローンで既存の物流を代替するのが目的ではない。新しいデリバリー文化をつくることを目指している。単に新しいデリバリー手段としてドローン物流やります、だけでは、うるさくて危ないものが飛んでる、と思われるだけだ。地域のニーズを掘り起こし、「これは便利だ」と感じてもらうことで、新しい文化・新しい市場をつくっていく。
【宮】 新市場の開拓には、失敗をおそれず挑戦の数を増やし、さらに打率をあげていくことが必要だ。その際、個人や企業だけにリスクを負わせるのではなく、行政もある程度のリスクをとってコミットしていくべきだ。一緒に「まだ見ぬ未来」を見ようという町の姿勢が、「ここならできる」という雰囲気を生み出し、町の明るさにつながる。私たちももっと踏み出していきたい。
【渡邊】 日本の不動産市場というゲームのルールは、もう完全に時代に合っていない。そういう時代遅れのゲームからこぼれ落ちた課題を拾っていく必要がある。同じリーグで優勝しつづけても優勝の価値は下がっていくだけで、そもそもゲーム自体を変えてしまえるプレーヤーが最強だ。東北の地から、そういう存在を目指していきたい。
【山内】 たしかに私たちはこれまでと違うゲームをプレイしている。だからこそパーパス、個人の思いが大事だということを再認識できた。明確な答えがないテーマだが、引き続きみなさんと探求していきたい。
【パート1・2はこちら】
>> 大企業の持つ資源を地域課題の解決にどう活かすか?日本郵政・セイノーの取り組み〜地域と企業の共創の未来(1)
>> 大切なのは地域にマイルドな競争を起こし続けること。巻組・厚真町の取り組み〜地域と企業の共創の未来(2)
セイノーホールディングス、日本郵政が参画している企業と自治体によるプラットフォーム「企業×地域共創ラボ」についてはこちらをご覧ください。2022年度の参画企業・自治体募集は4月開始予定です。
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