北海道胆振東部地震で最大震度7を計測し、家屋の倒壊や大規模な土砂崩れによる甚大な被害が発生した北海道厚真町(あつまちょう)。特に土砂崩れの被害は凄まじく、森林の被害面積は厚真町だけでも過去最大と言われていた中越地震の3倍、3,000ha強にもおよんでいる。
厚真町役場は、通常の業務に加え、避難所の運営や物資の管理、仮設住宅の準備や被災者の生活支援、さらには土砂災害地域の都市計画や、甚大な被害を受けた森林をどうするかなど、膨大な業務を抱えている。
これからどう復興に取り組んでいくのか。「多くの課題を抱える今だからこそ、現場でともに汗をかき、そしてともに新たなまちづくりに向けて歩んでくれる仲間を募りたい」と語る、厚真町役場の宮久史さんにお話を伺った。
※厚真町役場総合職募集:https://drive.media/career/job/22026
(現在第二次での追加募集中です。2019年1月11日応募締め切りになります)
被災前の厚真町の風景、緩やかな丘陵地が広がる
チャレンジの連鎖を止めない決断
被災前、厚真町は地域の新たな産業を育てていこうとしていた。2016年9月にローカルベンチャー推進協議会(全国11自治体が参画)の立ち上げにも加わり、新たな起業家育成や地域の一次産業者の事業拡大に注力した結果、この2年で5名が新たに移住・起業を実現。またふるさと納税を活用しながら、既存の一次産業者とともに地域のファンづくりにも取り組み、確実に成果を積み上げていた。それらを牽引していたのが、産業経済課主幹の宮久史さんだ。
※ローカルベンチャー推進協議会:https://initiative.localventures.jp/
今回の災害では、その仲間たちも被災し、家屋と鶏舎が全壊した養鶏業者や、起業を予定していた廃保育園が土砂で使えなくなった移住予定者もいた。地域をあげて取り組んできたハスカップ(作付面積日本一)農地も、土砂災害による被害を受けた。
「家屋も鶏舎も全壊した小林農園さんは、もう再建に向けて動き出しています。厚真町内の新しい土地で鶏舎の建設も始まりました。彼の姿に励まされる人は少なくないですし、厚真町にとっての希望です」
厚真町では移住者による起業支援のプログラム「ローカルベンチャースクール」を、岡山県西粟倉村で実績を重ねてきたエーゼロ株式会社とともに実施してきた。今年度の参加メンバー募集を進めている中での今回の地震に、一度はスクール開催を中止するという決断をした。しかし、こんな時だからこそ、むしろ未来の厚真の仲間になってくれる人たちに加わって欲しいという願いのもと、再起動を決断。11月より改めて、今年度メンバーの募集を行っている。(募集は終了となりました。多数のお申込み、ありがとうございます)
※厚真町ローカルベンチャースクール:https://www.a-zero.co.jp/lvslll-atsuma-lvs/
※再起動に向けての宮さんの想い:http://throughme.jp/idomu_atsuma_lvs2018restart/
※厚真町ローカルベンチャースクールについてはこちらの記事もお読みください。
「「求む、自分の幸せの開拓者」。起業家とともに悩み、ともに幸せになる覚悟をもつ町役場が北海道にあった【Eターン@厚真 前編】」
「移住の事例から学ぶ!移住成功に不可欠な“ある存在”とは?【Eターン@厚真 後編】」
「質のよいチャレンジがこの先の厚真を作っていくのではないかと思っています。チャレンジには質があるんじゃないかと。自分だけがよくなればいいチャレンジと、周りの人を巻き込んでよくなっていくチャレンジと。僕らが思う上質なチャレンジとは後者のようなもの」
「一方でチャレンジとは全てが成功するわけではありません。チャレンジに対する怖さもあるはずです。厚真町では、チャレンジのリスクを本人だけに負わせたくない。もう少し役場が負うこともできるのではないか。ゆくゆくはチャレンジの失敗を寛容できる町民が育っていき、チャレンジを育む地域にしていきたいと思っています。今後は、厚真町役場の仕事を可能な限り民間の力を活用しながら進めていく
甚大な被害を受けた森林をどうするか?
林業の専門家として、広大な森林資源を活用した新たな産業育成も目指していた宮さんは、今回甚大な被害を受けた森林、そして林業の再生にも挑むことになる。厚真町はいま、ローカルベンチャースクールの参加者だけでなく、行政の中に入り、ともに復興、そしてまちづくりに取り組む仲間も募集している。
「短期的な課題としてはまず、大量の被害木が発生しています。現状、これを厚真町内で循環して利用していくシステムがありません。今回を契機に、その仕組みを作れないか。北海道下川町がやっているように、チップ化して燃やしてお湯を沸かすとか、エネルギーとしての利用が一つの軸になる。それを基盤にしつつ、木材利用の範囲を広げていければと思っています」
「もっと長期的な視点で考えると、人と森林との関係の問題です。山だけでなく川や海も含めて、この土地で自然と人間がどう関わっていくのか。そのことを町としてももっと勉強して、今後のビジョンを定めていかなければいけない」
現場に足を運んでみると、厚真町の森林被害の甚大さには愕然とさせられる。山が基岩ごと350mも動き、沢をせき止めダム化している場所もある。すでに多くの地質学者や研究者なども訪れているが、地震によるこれだけの大規模な森林被害は世界的にも稀なケースだという。一方で日本中には厚真町の森林と似たようなリスクを抱えた場所も少なくない。
元の姿に戻すことはその被害の規模からも現実的ではない中で、この森林とどのように共生していくのか。またその知見を世界とどう共有していくのか。厚真町は、目の前の課題に泥臭く向き合いながらも、可能性をともに創りあげていく仲間を求めている。
震災によって浮き彫りになる、震災前からの課題。持続可能なまちづくりへの挑戦
発災から1ヶ月半が経過した10月22日23日に、ローカルベンチャー推進協議会の有志が厚真町を訪れた。その中には東日本大震災を経験した気仙沼市、釜石市の市役所職員も含まれ、大震災当時の経験をもとに、宮坂町長はじめ、宮さんや他の役場職員との意見交換を行った。
それを受けて宮さんは言う。
「気仙沼の方が仰っていたように、
「加えて、データを洗っていくことや住民を巻き込んだ復興計画づくりを、これを機にやっていきたいという想いもあります。ファシリテーションが得意な方であれば、住民と行政の新しい関係づくりにもぜひ加わっていただきたい」
震災を機に、それぞれの立場で復旧・復興、そして新たなまちづくりへの想いを持ち、日々奔走している役場職員たちがいる。その想いを分かち合いながら一緒に歩んでくれる人たちに出会いたいと、厚真町では「大規模災害からの新たなまちづくりに挑む、厚真町役場総合職」の募集を開始した。
※厚真町役場総合職募集:http://xs737720.xsrv.jp/career/job/22026
民間人材が活躍した東日本大震災
東日本大震災で被災した地域の中では、民間人材が行政の中に入り、新たな役割を担ったケースが少なくない。
例えば釜石市では、コンサルティング会社に務めていた石井重成さん(当時26歳)がNPOの紹介で釜石市に任期付職員として入庁。民間人材を募って被災した各地域・団体にリージョナルコーディネーターとして配置する「釜援隊」という仕組みを作りあげた。住民や地元事業者と役所との間を繋ぐ黒衣的機能として、今では議会や行政の中でも広く認知されてきている。また、釜石市が掲げる「オープンシティ」のコンセプトを牽引すべく、石井さんは30歳という若さでオープンシティ推進室の室長となり、都市部の企業との連携や、ローカルベンチャー育成支援の仕組みづくりを推進するなど、地域内外を繋ぐ役割も担っている。
さらに、原発事故により全町避難を余儀なくされた福島県浪江町でも、全国47都道府県にばらばらに避難した町民とのコミュニケーションを支援した外資系保険会社の元広報部員や、ITを活用した住民への情報提供の仕組みづくりをサポートした大手IT企業の若手社員、さらには数百にもおよぶ役場内の復興プロジェクトを横断的に連携調整する役割や、住民を巻き込んだまちづくりなど、多様な場面で任期付職員として加わった民間人材が活躍してきた。2018年に新たに設立されたまちづくり会社も、そうした人材が中心となって企画から資金調達、人材採用などを進めている。
震災はもとからあった地域の課題を浮き彫りにする。しかしそれは、持続可能なまちづくりを進めるチャンスにもなる。人口減少、高齢化、行政予算の削減、こうした流れは確実に進んでいく。震災はそれを顕著なものにし、時計の針を急激に進める。でもそんな状況だからこそ、そこに希望を見出して挑戦していこうという人たちが厚真町の中にいる。
「うちの役場は、一言で言うと楽しい。町長がいつも言っているのは、『基本を押さえて枠を飛び出せ』。基本を押さえていれば、自分のやりたいことをやらせてくれる職場です。ベースになる仕事は好きや嫌いではなく必要かどうか。その上に自分の意志を乗っけていって欲しい。風通しはいいし、課題感も共有できる。自分で動いていける人であれば、自分の意志を乗っけていく余白はたくさんあります」
「厚真町はもともとチャレンジを応援する町でした。来てくれた方のチャレンジはもちろん応援するし、まちのビジョンすらも一緒に考えていって欲しい。多少の失敗は仕方ありません。失敗してもナイスチャレンジといえる町にしていきたいのです。よく関係人口と言いますが、その関係とは何かを考えたとき最後に行きつくのは、持続可能なまちづくりに関わる人たちが必要だということ。いま改めて、持続可能なまちづくりにチャレンジしてくれる人に、私たちの仲間になって欲しいです」
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