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テクノロジーの力で、社会課題の解決を加速する。ソーシャル・テクノロジー・オフィサー(STO)という新しい仕事

2018.12.04 

皆さんは、「ソーシャル・テクノロジー・オフィサー(以下、STO)」という、職業をご存知でしょうか?

特定の領域のソーシャルセクター(主にNPO)に所属し、経営戦略のための技術活用やIT経営戦略づくりを担当するというお仕事です。

特徴は、特定の1団体のみに所属するのではなく、3〜4団体の経営層に近い立場で契約関係を結ぶという副業を前提としたスタイル。比較的自由度の高い職業と言えるでしょう。

 ソーシャル・テクノロジー・オフィサー(STO)の公式サイト

今回は、そんなSTOに関心のある方や、STOの受け入れを希望するNPOを対象にしたイベントである「ソーシャル・テクノロジー・オフィサースクール」の第1回のレポートをお届けします。

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コレクティブ・インパクトを生み出すための、組織を超えた共通の目標を作る仕事

2018年7月より創出へ向けて本格的な歩みをスタートしたSTO。その目的は、ソーシャルセクターに適切なIT投資を行い日々の業務を計測可能にし、コレクティブ・インパクトを生み出すための協働のベースをつくることにあります。

コレクティブ・インパクトとは、行政、企業、NPO、財団など立場の異なるセクターが組織の壁を越えて協働することで、社会的課題の解決を目指すアプローチのことです。

今、このSTOという職業が求められている背景には、ソーシャルセクターが対面する課題の複雑化、取り組むセクターの多様化によるコレクティブ・インパクトへのニーズの高まりがありました。このコレクティブ・インパクトを生み出すためには、異なる組織同士が共有できるような目標を作ることが求められます。つまり、日々の現場の活動の数値化、目標までの到達方法などの可視化が求められてくるのです。

そこで鍵になるのが、現場レベルでのIT活用。現場の日々の業務に計測の視点を入れるなど、適切なIT投資が必要になるのです。

「社会課題に向き合いながら人手不足に苦しむNPOにこそ、テクノロジーの活用が必要なのでは」

このSTO創出の仕掛け人は、一般社団法人 コード・フォー・ジャパン(以下、Code for Japan)。市民と政府行政とがこれからの公共のあり方を共に考え、共に作り続ける活動を支援するとともに、そのような社会を作るための環境作りを行っていくということをミッションとし、業界や分野を超えたパートナーと共にIT技術を活用することでより良い社会を創造することをバリューとしてシビックテック(Civic Tech)に注力してきた団体です。

過日7月14日に開催された「第1回 ソーシャル・テクノロジー・オフィサースクール」にて、代表の関 治之さんは「これまでは、主に市民・行政というプレイヤーに焦点を絞っていたけれど、同じく社会課題解決の担い手として慢性的な人手不足を課題にしているNPOにこそテクノロジーの活用が必要なのではと感じるようになった」とその始まりを語っています。

また、プロボノではなく経営レベルでコミットする新たな職業を創出することを決意したのは、プロボノでは本質的な情報戦略に携わることが難しいと考えたからなのだそう。これから本格的な創出へ向けて、

・ソーシャル領域の課題を理解し、現場に寄り添った意思決定ができる人物を探していくこと

・人材市場として成立するような魅力的なものにしていくこと

・現場の声を吸い上げ、STOと受け入れNPOの適切なマッチングを目指すこと

・学びと実践を定期的に回していけるようなスクールを開催していくこと

を目標とすると語りました。

STOに求められるのは、エンジニアと現場の架け橋であること

AI活用が必須となる時代、STOは

・そもそもAIで何ができるのか? 現在の業務とAIをどう繋げる?

・どの程度テクノロジー活用に投資するべきなのか?

・テクノロジーの担い手とどう繋がりどう採用すればいいのか?

という各団体の問いをサポートする存在になることを求められます。

STOに関心のあるエンジニアとSTOの派遣受け入れを検討したいNPOを参加対象にした「第1回 ソーシャル・テクノロジー・オフィサースクール」では、これまでに非営利組織としてテクノロジーの活用に取り組んできた4名のゲストが招かれ、その体験談を参加者と共有することでSTOの実際の働きへのイメージを深める時間が設けられました。

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福祉ビックデータを蓄積・活用しオープンで持続可能な福祉を目指しているWELMO株式会社の鹿野 佑介さんは、技術面を牽引する同社CTOである菅 真樹さんとの試行錯誤の経験から「現場のスタッフとエンジニアの通訳をするイメージで、テクノロジーと現場の感覚を繋げる人がSTOには望ましいのではないか」と語ります。NECの研究員として大手企業で働いてきた菅さんにとって、最初は社会課題に取り組む人々のビジネスライクに割り切れない感覚を理解するのが難しく、エンジニアと現場の感覚に差が出てしまったそう。

また、NPO法人サービスグラントの角永 圭司郎さんは、元エンジニアとして非営利組織で働くなかで「試行錯誤のフレキシブルさに価値を感じてきた」と語り、テクノロジーについて誰に相談していいかわからない状態のNPOが多いということ、だからといって業者に依頼しても組織の微細な部分にまで配慮した仕事をしてくれることはない現状から、「STOへの潜在的なニーズは高いのではないか」と実感を語りました。

一方で、「STOを受け入れる側のNPOは専門的な知識がないからといって判断をSTOに任せないこと、そしてSTOはわからないと言われないように判断材料を用意すること」といった注意点も。エンジニアと人との密なコミュニケーションを主とする非営利団体という共通言語の少ない専門同士の協働にとって、最重要事項とも言えるポイントなのかもしれません。

また、約20年NPOの事務局長として非営利組織で働いてきたSTO創出共同パートナーでもあるNPO法人ETIC.の鈴木敦子も、「非営利組織の領域で起こりがちなこととして、組織を超えての個人的なコミュニケーションが必要とされる場面が多く、熟練者や判断がいいと言われる人が生まれてしまい、技術が属人的になりやすい。それを型にするわけでもなく、どう数字となって共有していけるのか関心がある」と続けました。

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これからの時代に生きるための、「繋がり資産」を可視化するSTO

認定NPO法人フローレンスの陣内 一喜さんからSalesforceとkintoneの活用事例や経営陣との意思決定の実際のところを、株式会社カルミナ/NPO法人 Make it betterの安藤 昭太さんからこれまで関わってきた複数団体へのIT活用ノウハウのシェアと、実際に理事に就任したことでIT活用の成果を作った事例も共有され、STOの可能性と課題が見えてきました。

最後のゲスト、at Will Work 理事/Project30エバンジェリストであり、自身が生み出した「コネクタ」という職業として人と人を繋げることを生業とする日比谷 尚武さんは、STOの役割について「最初はNPOが置かれている環境を理解してそっと技術を添えるだけで十分」なのだと語りました。

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「課題を解決するのに特別な技術を持ち込む必要はなく、まずは情報伝達のためのインフラを整え、業務効率化をはかることでマイナスをゼロにすることが先決である」と続けた日比谷さんは、コネクタとしての自身の経験も踏まえ、人材の流動化が進むこれからの時代におけるIT技術は「繋がりを活かすため」にあるのだと、会場に集ったSTO候補者・受け入れ候補団体に語りました。

社会の変化が激しく、これまでの組織内の知識の蓄積では対応できなくなっている現代において、NPOに限らず「コア人材+専門家」のプロジェクトチームで進めるスタイルが普及し始めています。新しいチャレンジには外部のリソースを臨機応変に取り入れていくことが必須となる時代、専門家と繋がるためのこれまでの「繋がり資産」を可視化する役目としても、STOの可能性が開かれているのです。

社会課題解決の担い手として、大きな可能性を秘めたSTO。「経営戦略にテクノロジーを活用してみたい」。そんなワクワクを胸に感じた方は、ぜひ次回の「ソーシャル・テクノロジー・オフィサースクール」に参加してみてください。新時代の働き方と、出会えるかもしれません!

 

第2回 ソーシャル・テクノロジー・オフィサースクールの詳細はこちら

 

この記事を書いたユーザー
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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。

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