新型コロナウイルスは、新しい生活様式への転換を迫るだけでなく、働き方や人々の意識、世界観を変えるような影響を及ぼしつつあります。見通しがつきにくい、変化も激しい環境において、経営者はどんな思いでこの状況を見つめているのでしょうか。
意外と語られていない「経営者のあたまのなか」を解剖してみようと立ち上がった本企画。第12弾は、遊びの予約サイト「アソビュー !」運営など、レジャー産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進、各地域と連携したDMO支援も進めているアソビュー株式会社のケースをお届けします。
コロナ禍で大きな転換を迫られている観光業界と観光地。創業10年目のベンチャー企業はいま、どのような未来を描いているのでしょうか。アソビュー株式会社代表取締役・山野智久さん、 執行役員兼アソビュー総研所長・内田有映さんにお話を伺いました。
山野智久(Tomohisa Yamano)
アソビュー株式会社 代表取締役
2007年 明治大学法学部法律学科卒。大学在学中には累計30万部のフリーマガジンの発刊を主宰。新卒にて(株)リクルートに入社。HR事業部にてコンサルティング営業、事業開発室にて新規事業立ち上げを経験。2011年3月、カタリズム(株)(現アソビュー)創業。代表取締役社長に就任。ForbesJapan日本の元気にする88人に選出(2017年)。2015年7月より、ICTを軸としたイノベーションによって、地域事業の生産性の向上に貢献し、地方創生を実現することをミッションとした(一社)熱意ある地方創生ベンチャー連合 共同代表理事を務める。
内田有映(Uchida Yu)
アソビュー株式会社 執行役員
神奈川県小田原市出身。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。新卒で、博報堂コンサルティングに入社。ベンチャー創業への参画を経て、その後アソビューに入社。観光戦略部の事業責任者として、官公庁・地方自治体向けの事業を統括。観光や体験領域におけるマーケティング調査、コンサルティング業務、セミナー講師など幅広く従事。また地域観光の専門領域の知見を活かし、Forbes JAPANへの連載や、NewsPicksのプロピッカーとしても活動している。
「ワクワクをすべての人に」をミッションに、レジャー産業のDXを推進する
――アソビュー株式会社(以下、アソビュー)は、現在どのような事業に取り組まれているのでしょうか。
山野智久さん(以下、敬称略):「ワクワクをすべての人に」をミッションに、レジャー産業のDXを推進している会社です。DXはデータやテクノロジーを活用して組織やビジネスモデルを根本から革新していく取り組みのことで、それを週末のお出かけや旅行といったレジャー産業で実現しようとしています。
当社では複数の事業を運営しています。まず、日本最大級の遊びのマーケットプレイス「アソビュー!」です。北海道から沖縄まで、アウトドアスポーツやものづくり体験、遊園地や水族館、日帰り温泉などの450種類の遊びを、7,000施設、20,000プラン紹介しています。
焼き物体験に、マリンスポーツの体験も
他にも、自治体と連携した地の利を活かした体験商品づくりや、観光事業者育成のサポート、ギフトサービス「asoview!GIFT」に、レジャー施設向けに業務生産性を改善するオンライン予約・チケット販売管理システムの販売など、様々な方面からレジャー産業のDXを推進するサービスなどを展開しています。
大型施設のEチケット導入、行政との住民サービスの共同開発など、コロナ禍で生まれた新たな役割
――4〜5月にかけて発出された緊急事態宣言で、アソビューがどのような対応をとられたのかをまとめた山野さんのnote記事を拝読しました(記事「コロナ直撃のベンチャー経営者は、緊急事態に何を考え、そして実行したのか。」はこちら)。
外出自粛要請の影響で主力サービス「アソビュー!」の売上が昨年対比で95%減少するほど大打撃を受け、雇用を死守するためにコンサル案件の受託や新商品の開発、従業員の雇用をシェアする災害時雇用維持シェアリンングネットーワークなど様々な取り組みをされてきたそうですが、8月現在(取材時点)その後どのように変化されてきているのでしょうか。
山野:そうですね、記事にまとめた3〜5月の状況と6月以降の状況は少し違っていて、「野武士コンサル」や「前売り応援チケット」などの取り組みは3〜5月限定で実施していました。お出かけ自粛が解除された6月以降は、一定割合でマーケットが戻ってきています。災害時雇用維持シェアリングネットワークで他社に出向した社員は、出向先で活躍している人材も多く、弊社ならびに派遣先双方にメリットがあるなと感じています。
――戻ってきているマーケットは、どれくらいの割合という感覚でしょうか。
山野:「アソビュー!」というサービスは、国内で最大級の日本のレジャーシーンにおける多量の購買データを保有しています。そこから推察するに、最近はマイクロツーリズムと呼ばれているような3密を避けたご近所へのお出かけに関しては、およそ70%ほど。一方で宿泊を伴う旅行はまだまだ、おそらく30%ほどの戻りという印象です(2020年8月28日当時)。
――コロナ禍で生まれた新しい取り組みで、残っているものはありますか? また、6月以降新たに生まれた取り組みはあるのでしょうか。
山野:「いつものおうち時間をもっと豊かに」をコンセプトにコロナ禍で開発した「おうち体験キット」は、おかげさまで情報番組でも取り上げていただき、ユーザーの皆さまにもご好評いただいていいます(サービス詳細はこちら)。レッスン動画付きのそば打ち体験キットや、自宅で焼鳥屋さん気分を味わえる煙の出ない専用焼き台がセットになった本格焼鳥キットなど、オススメがたくさんありますよ。
イチオシ本格焼き鳥キットは、山野さんのご自宅で撮影されたのだとか!
また、大型レジャー施設――水族館や動物園、博物館、美術館のDX推進で、時間指定と事前決済ができるEチケットの導入を進めています。今までレジャー施設のチケット販売は 1)現地で当日に並んで購入するか、2)コンビニで紙のチケットを発券するか、3)我々が導入しているようなEチケット(Electronic Ticket)をスマートフォンで購入するかという3経路をたどっていました。
近年のスマートフォンユーザーの増加で、今後はEチケットに集約されていくだろうと先んじてプロダクトを提供していましたが、入場人数の制限が求められるようになり、業務の煩雑化を避けるためEチケットに一本化するという流れが生まれたんです。これを推進するに当たり、アソビューではいち早く関係省庁や専門家と連携して、施設運営における新型コロナウイルス感染防止対策のガイドライン作成も担わせていただきました。これは内閣官房の公式の業種別ガイドラインとして登録されています。
――コロナ禍で行政との連携も進められているのですね。
山野:はい。ありがたいことに様々な地域からご相談をいただいて、自分の地域の良いところを再発見しようといったことをテーマにアソビューの仕組みを活用して半額補助で地域住民に遊んでいただこうといった行政施策をサポートさせていただいています。
テクノロジーへの意識が変わった今こそ、できることがある
――今後さらに挑戦していきたいことについて教えてください。
山野:コロナ以前は都市部から離れるほどテクノロジーに抵抗を覚える地域が多く、正直DX推進の難しさを感じることもありました。それが新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけになって、テクノロジーを活用しようという意識が地方にも浸透してきたように感じています。土壌が生まれてきたこのタイミングだからこそ、加速度的にレジャー産業のDXを推進していきたいですね。
たとえば、コロナ以前は土日や長期休暇中に観光客が特定の観光地に集中し、顧客満足度が下がるという課題を抱えてきました。けれど今は3密を避けるため、分散化による観光体験が進められています。これをうまく今後に活かせたら、これから先もっと観光がおもしろくなっていくのではないでしょうか。DX推進はその助けになれると思っています。
また今回、観光業界全体が非常に大きな打撃を受けていて、今なお売り上げが戻らず苦しみ廃業を検討されている事業者さんが日本全国にたくさんいらっしゃいます。この状況は国のサポートだけでは乗り越えられないと感じていて、業界全体で知恵を出し合い協力していく必要があると思っています。そのひとつの手段として、自治体と連携したアクティビティ・体験事業者さまを主体としたクーポンによる需要喚起施策といった取り組みを各地域と始めています。
――具体的に行政との連携を担当する観光戦略部では、どのような感覚をお持ちでしょうか。
内田有映さん:山野からも話がありましたが、アソビューでは北海道や三重県、新潟県など各地方自治体と連携を図り、地域の体験事業者やレジャー施設を救う需要喚起のキャンペーン施策を行っています。既存事業者は、一度破綻してしまうと立て直しがききません。我々の事業は事業者さんあってのものですから、今後一層行政との連携を強化して、何とか全国の体験事業者さんの事業継続を支えていきたいです。
あとは、それを目的に地方に人が来るような体験商品の開発を地方と一緒に進めていきたいですね。観光コンテンツで稼ぐ力が地方に求められている時代において、どうしても行政が主体となると経済的な事業の持続可能性を担保していくことが難しいように感じています。そこを企業としてサポートしていければと思っています。
アソビューの場合、様々な角度から体験づくりのお声かけをいただくことが多いんですよ。半分以上は行政の観光課からですが、それ以外にも農林水産課から直販を盛り上げたいから体験商品を作りたいといった相談や、町の小さな酒屋さんからの新商品を楽しんでもらうための体験づくりを中小企業支援文脈でのご相談、移住定住センターからの交流人口を増やすための体験づくりのご相談もあります。捉え方次第で体験商品の開発はどんな支援にもなり得るなと感じています。
――確かに、地方での観光分野におけるDXや体験商品は、コロナ禍でますます変化していきそうですね。これまでWi-fi環境が悪かった地域でも環境整備が進んで、一部の地域では行政によるサポートが入って地域の年配の方々も全員ZOOMが使えるようになったと聞きました。
山野:そういうことだと思っていて、これからおそらく市場のチャンスが広がっていくんだと思います。
感染症のパンデミックは過去の歴史を紐解いてみると終わらなかったことはありません。ですから、今後必ずインバウンドも回復してくるはずです。インバウンドは日本の経済成長を牽引する手段としても非常に大切な領域だと思うので、国交のルール整備など現時点から準備をした前提で、復活した際にはどう盛り上げていくのか、日本の地方の魅力をどこまでグローバルに花開かせていく機会にできるのか、観光産業に従事する企業の一つとして一生懸命経営して取り組んでいきたいなと思っています。
――ありがとうございました!
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