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「事業のために無理をするのではなく、やりたいことをやっていく」。社会起業家にとってのワークとライフとは?〜R65不動産・山本遼さん

2019.05.28 

ワークとライフが限りなく近い、「社会起業家」という存在。そんな彼らがワークとライフのバランスをとるために日々考えていること、これまでの試行錯誤を語ってもらう新シリーズがスタートします。

初回は、株式会社 R65 代表取締役の山本遼さん。孤独死へのリスクや認知症を理由に門前払いされることもあるという高齢者の“普通の”住まい探しですが、株式会社 R65が運営する「R65不動産」では、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅ではなく、賃貸物件における高齢者の住まい探しをサポートしています。

株式会社R65 代表・山本遼さん

株式会社R65 代表取締役・山本遼さん

2015年の起業から4年目を迎えた現在、「R65不動産」の事業を広げつつ複数のシェアハウス運営、モバイルハウスで暮らす実験、世田谷区での友人たちとのスナック経営など、複数事業を掛け持つ山本さん。その遊びと仕事が一体となったようなあり方の背景にある、ワークとライフへの考え方を伺いました!

>>「R65不動産」についての過去の取材はこちらから。

ワークとライフのバランス、本業にも良い影響をもたらした副業

――まず、山本さんにとってのワークとライフの関係性を教えてください。

前提として、不動産仲介という仕事が好きで始めた「R65不動産」なので、ワークとライフが切り離されている感覚はそもそもありません。ただ、事業のフェーズの変化などから、自分自身の自然な感覚と経営者として求められるスタンスのズレが仕事に生まれてしまった時期もあり、関係性のバランスを崩すことはこれまでに何度かありました。

――なるほど、そうしたワークとライフの関係性を調整する必要を感じた具体的なエピソードをシェアいただけますか?

高齢者向けの不動産仲介という事業柄、自分の親ほど年の離れた方と自分が上司という立場で働く機会を持つことが多いのですが、そうしたときに働くことへの価値観の世代間ギャップや、SNSに対する感性の違いから事業にまじめに取り組んでいるのかと疑われることもあり、自分自身のライフ(自然体の状態)がワークにつながらなくなりバランスを崩した時期がありました。そんな時期に始めたシェアハウスの運営はワークとライフのバランスにいい変化をもたらしましたね。

モテアマス三軒茶屋

シェアハウス「モテアマス三軒茶屋」メンバーと

今では「モテアマス三軒茶屋」を筆頭に、世田谷区3棟、吉祥寺1棟、千葉1棟、神奈川1棟のシェアハウスを運営しているのですが、完全に自然体で経営できていて、自分なりに生きることが収益のある仕事になるのだとこの事業で初めて思えるようになりました。R65不動産も好きで始めたことですが、社会のインフラを整えるという目的意識が強いものでもあるので大変なことも正直多いですから。一方で、好きでもあるし自然体でもいられるシェアハウス運営は “ありのまま”を頑張ればいいので救われることも多いです。

セーフティーゾーンを意識的に複数持つ

――シェアハウス運営を始められたのは、どういった理由からだったのでしょうか。

現在の自分自身の理想の暮らしを実現しようと始めたのが、シェアハウス運営でした。「R65不動産」は社会のインフラを整える事業なので、以前はそこに属人的な感情や感覚を持ち込んではいけないと思っていたのですが、事業を進めるうちにやはり自らの想いも乗せないと事業に熱がこもっていかないと感じるようになったんです。さらに、そもそも今自分がやりたいことをやっていないのに「高齢者になってもやりたいことをやれる社会をつくりたいから」とは言えないな、と。

シェアハウスを始めて、本業である「R65不動産」とは利害関係のないコミュニティに複数所属することになったのはとてもいいことでした。「R65不動産」代表の山本となると、講演会に呼ばれ親ほどの年齢の方に「先生」と呼ばれるようなこともあり、さらには4,50代の自分よりも経験豊富なビジネスマンと対等に渡り合うにはどうすればいいのかと神経を使う場面も多々あります。一方で、シェアハウスでは飾らない自分の本音を気軽に話したり相談できる仲間が身近にいることにだいぶ救われて、そうした経験からセーフティーゾーンを作ることは意識的に大切にするようになりました。今では“逃げ場”を複数持とうと、別地域3軒のシェアハウスにそれぞれ部屋を持っています。

――「R65不動産」はライフと切り離されているわけではないにせよ、社会課題に向き合う事業ならではの大変さや事業の成長に伴う他者の目線の増加が素の自分のままではいられない状況にさせることもあるということですね。

そうですね。正直、関わる人たちの姿が見えないときはとても大変でした。例えば2017年9月に「ガイアの夜明け」に取り上げていただいたのですが、放映後はとても反響が大きく、周囲の目を意識して自分の行動を監視するようになりましたし、これでいいのかなと不安に思うようにもなりました。起業家としてそれほど自分を飾っているつもりもなかったのですが、事業が大きくなり露出が増えるにつれて、気がつけば理論武装したり外聞を気にするようになっていっていたのだと思います。

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事業のために無理をするのではなく、やりたいことをやっていこうと思えた先輩起業家の背中

――現在はライフとワークは融合していますか?

そうですね、「自分にとっての理想の暮らし」というライフの延長線上が僕にとってのワークになっているので、結果的にはワークとライフは融合しているとは思います。整えたい仕組みという意味での「R65不動産」ですし、今の自分の理想の暮らしという意味でのシェアハウス運営ですし。そうした自分の理想実現のための事業が複数の形をとっている現在は、とてもいい状態だと思います。 また、起業家はどこかで誰かに見られているという意識で常に事業を進めていると思っていて、そうした意味ではワークとライフが切り離されがちになるのかもしれませんが、僕自身は徐々にライフを充実させていって、気がついたらワークと融合していたという感覚です。

実際に、起業当初は「R65不動産」はワーク、シェアハウスなどの他プロジェクトはライフ、とかなりはっきりと切り分けていて、「R65不動産」のイメージに影響が出ることを懸念してシェアハウスの運営は公にしないまましばらくの期間過ごしていました。SNSでシェアハウスや仲間とのスナックプロジェクトの話ができるようになったのは、つい最近のことです。それは、自分の生活自体が仕事になるということが体感として分かってきたこともあるし、シェアハウス運営の流れで「R65不動産」においてもより素に近い自分で事業が進められるようになってきたということもあります。

ライター、演劇家、デザイナー、1児の母、不動産屋などが日替わりで店主を務める、一風変わったスナック「スナックニューショーイン」を東急世田谷線松陰神社前駅にオープン予定

ライター、演劇家、デザイナー、1児の母、不動産屋などが日替わりで店主を務める、一風変わったスナック「スナックニューショーイン」を東急世田谷線松陰神社前駅にオープン予定

例えば「R65不動産」で最近始めたプロジェクトには「ぽっくり物件.com」といった遊び心のある見せ方のものがあります。それでも市場に受け入れられることが分かってきましたし、どんなことでもそこに自分の哲学があれば、あとは少しでも認めてくれる仲間がいればいいんだなと思い始めています。ちなみにここで言う“仲間”は、同僚よりも友人という意図が強いです。部下から言われるのももちろん嬉しいのですが、利害関係がない友人たちが率直な感覚で感想をくれ認めてくれると素直に嬉しいですよね。

――ライフがワークに融合していった過程で、印象的な出来事はありましたか。

ETIC.さんからの取材だからというわけではないですが、参加した「社会起業塾」(※NPO法人ETIC.主催の起業家向けプログラム)で生き様と仕事が融合している先輩起業家の背中を見たときにめちゃくちゃ格好いいなと思ったことがライフとワークの融合を意識したそもそものきっかけだったんですよ。事業のために無理をするのではなく、やりたいことをやっていこうと思えたんです。

実際、事業の継続性を意識すればするほど、週5日必死に頑張ってしまうと結果的に全体の質が落ちるように感じているので、日常を楽しんで自分自身がいい暮らしの消費者でありたいと思っています。例えば毎朝美味しいコーヒーを飲むことにこだわることも、巡り巡って事業のタネになっていくと思っていて。たとえ事業につながらなくても、暮らしを楽しむことで幸せになるので、そうした時間の使い方を今は大切にしています。社会課題に向き合う社会起業家としても、ポジティブなアプローチで事業を引っ張っていきたいと常々思っているので、そうした面にも良い影響があると思っています。

最初からは難しくても、徐々にでも「人生を楽しむための手段としての起業」という位置づけに切り替われば楽なんでしょうね。

仕事は人生の一部

――そうした一方で、ライフとワークのバランスをとる際に正直難しさを感じている部分はあるのでしょうか。

自分にとってのワークとライフの関係性を言語化して社内に伝えていくことや仕組みを整えていくことに課題を感じています。うまく伝わらず、仕事とプライベートはしっかりと切り分けてほしいという元部下が離職してしまったという経験もありました。

今では自分の働き方を社員の前で言語化する機会を設けたり、会社の評価軸も時間ではなくアウトプットに変えている最中で、全社でのミーティングは毎週木曜の午前一度だけになっています。また、自分の気持ちの中で切り分けができているんだったら社員もいつ休みをとってもらっても自由ですし、例えば社員がやりたいと思っている事業があれば挑戦できるような環境を整えています。

ただ、あくまで自分が評価されたい評価軸を会社に反映しているので、もしかしたら社員の人たちには無理を強いているのかもしれないですけど、すり合わせは行うようにしていて、木曜の全社ミーティングは社員からの希望で行うことにしました。自分が自由にしていたいのと同じように、社員の中には自由でいたい人、管理されたい人がいます。皆のわがままを持ち寄って、どちらにも合わせられるような体制を整えていきたいと思っています。

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――最後に、これからさらに挑戦していきたいことがあれば教えてください。

ワークとライフを切り分けたい人は切り分けてくれていたらいいと思うのですが、僕自身は仕事は人生の一部分だと思っていますし、ワークがライフのすべてではないという意味で社員にもそう思っていてほしいと感じています。

例えば社員がライフを犠牲にしてワークしている姿を見てしまったときに、自分自身もワークを純粋に楽しめなくなると思っていて。そのために、まずはお互いが言いたいことを言い合える関係性になって、全員にとって自分らしくいられる職場環境を整えていくことをさらに目指していきたいと思っています。

例えば僕は海外旅行をしたいので時々は長期休暇をとっていて、社員も遠慮せずにそうすればいいと思っているのですが、一方でまとまった休みに関心がない人もいます。仕事の仕方に関しても、自由にやりたい人もいれば管理されたい人もいるし、ノー残業デーを設定するのもいいのかもしれませんが、同調圧力にならないように気をつけて、お互いに遠慮することなくアイデアや意見を出しあえる関係になるのがいいかなと思っています。

また、社会課題を扱う仕事なので、どうしてもお客さんから切実に頼まれると、社員も無理をして頑張り過ぎてしまう傾向があります。意識して「仕事は人生の一部なのだ」と理解しておかないと、簡単に働きすぎてしまうんですね。 例えば、夜間の対応を望むお客さんがいるときに、自分や部下はどうしたらいいのか。自分の暮らしと相手の事情を天秤にかけることが難しい仕事だと思っていますし、正直ここに関しては答えが出ません。もう少し夜型の勤務を増やすであるとか手段を考えてもいますが、これからもずっと対応を考えていくテーマなのだろうと思います。

――ありがとうございました!

 

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山本さんは、社会起業塾イニシアチブ(通称”社会起業塾”)のOBです。自分自身で事業を磨くプログラムですが、領域やフェーズの違う起業家との出会いも多いので、山本さんのように経営に関して視野が広がった・新しい発想が生まれた、という声もよく生まれています。 現在年に1度の応募期間で締め切りは6/19(水)正午まで。説明会&事業相談会も開催中であるため、ご興味のある方はぜひ公式サイトをチェックしてください。

 

 

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。