大崎下島・久比と三角島(みかどしま)を結ぶフェリー《乗船時間 : 約10分》。ナオライメンバーはその日の活動内容に合わせて二つの島を行き来しているそうです。
広島県呉市に位置する大崎下島・久比(くび)に、「人、自然、微生物、すべての命が尊重され調和されている醸された世の中」の実現を日本酒を通じて目指しているソーシャルスタートアップ(*)が存在します。
(*) 「市場の失敗」に果敢に挑み、高速仮説検証により革新的なソリューションを具現化し、短期間で急成長する取組や組織のことを指します。《ソーシャルスタートアップのススメ1より抜粋》
その名はナオライ。衰退する日本酒業界への危機感から、多様で豊かな日本酒文化を未来に引き継ぐため、2015年に創業されました。そして現在、新たなクラウドファンディングに挑戦中。
前編では、ナオライ創業者・三宅さんへの取材内容をお届けしました。
【前編】
多様で豊かな日本酒文化を未来に。瀬戸内にあるソーシャルスタートアップ・ナオライの新たな挑戦とは──
本記事はその後編として、三宅さんとともに新しい挑戦に取り組むナオライメンバー4名にインタビュー。クラウドファンディングに込めた想いやナオライの良さ、大崎下島・久比(くび)での暮らしなどのお話を伺いました。
日本酒と檸檬から発明されたスピリット「琥珀浄酎」
瀬戸内で誕生。日本酒とレモンで造る、ウイスキーのような41度の熟成酒『琥珀浄酎』
- 度数41度。広島県各地域の日本酒のピュアなアルコールを低温抽出した、独自製法の『浄酎(じょうちゅう)』を使用
- レモンの皮に着目。瀬戸内の小さな島で栽培する、皮まで食べられる「ミカドレモン」で贅沢に香り付け
- オーク樽で熟成。日本酒とレモンの風味が時をかけて混ざり合い、ウイスキーのような色合い・味わいへ
クラウドファンディング終了日は、2021年03月29日(月)。
柿木 景子さん / ナオライ 久比・三角島コミュニティマネージャー
柿木 景子さん / ナオライ 久比・三角島コミュニティマネージャー
青森県八戸市出身。大学卒業後横浜市の社会福祉法人で介護の仕事に従事。2020年6月ナオライに参画し瀬戸内の大崎下島・久比に移住。コミュニティマネージャーとしてナオライと地域の繋がりを構築する傍、自然農を学びレモン畑を育てている。
──クラウドファンディングに込めている想いをお聞かせください。
柿木 : 私は2020年に瀬戸内の大崎下島・久比(くび)に移住したのですが、それまでの都市の暮らしでは「自然が大事」とは思っていませんでした。そんなタイミングで三宅さんとお会いして、「三方よしを超えて、その先をいく」(*)というお話を伺いました。
(*) 「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」に加えて、「未来良し」「自然良し」という観点も大切という三宅さんのお話。詳しくは「三方よし」だけでは足りない―「未来よし」「自然よし」の商売へ。ナオライ三宅さんが語るwithコロナ時代の暮らし方という過去記事をご覧ください。
そこで「自然って大事」ということを認識し、「自分も自然の一部」であることを感じました。久比での暮らしを通じて、自然との調和を実践している最中ですが、そんな気持ちでナオライに参画しています。
クラウドファンディングに込めている想いですが、琥珀浄酎の背景にあるストーリーがとても素敵なので、感度の高い方は比較的すぐに情報をキャッチいただいているのではと感じています。
しかし最近は、たとえばインターネットを頻繁に利用していない方などにも、このクラウドファンディングの情報をお届けしたい気持ちが強くなってきました。お酒とかレモンとか自然とかにあまり関心をお持ちでない方にもお届けしていきたいと思っています。
「クラウドファンディング見たよ!」と近所の方に声をかけていただいたのはとても嬉しかったですね。もっと島の方々に知っていただくためにはどうしたらよいのかも考えています。
──柿木さんにとっての「ナオライの良さ」をお伺いさせてください。
柿木 : 「自然とともに時間が動いている」感じがするところです。
島での暮らしは「自然の流れありき」です。朝は鶏の鳴き声が聴こえて、地域の称名寺さんの鐘の音で帰りの支度をする──そんな暮らしをするところにナオライは本社を構えており、「自然と共に生きるという強い覚悟」を感じます。
三宅さんは常々「だめだったらしょうがない」と言います。「レモンの実りが悪かったらしょうがない」「それが自然と生きてきた結果だったらしょうがない、自然が出した結果なら」と。私はまだやっぱり焦ってしまうので、そこまでの覚悟を育てていきたいです。
ナオライを通じて出会う方々には、それぞれのスタンスで、自然やそれに近いもの──たとえば、現代においてどうしても弱いとされてしまう立場にいるもの──と深く向き合っている方が多いです。そういう熱量の高い人々と出会えるのは「ナオライならではのコミュニティ」だと思います。
日常生活の中で「ちょっと気になること」ってみなさんもあるかと思います。「興味はあるけれど、どうしても優先順位が下がってしまい自ら調べることもなく、そのまま放置されてしまっていること」というイメージです。ナオライのコミュニティにいると、そのような小さなビーズがどんどん集まってくる感覚があります。
──瀬戸内の大崎下島・久比(くび)に移住し、柿木さんが感じた「地域での暮らしの良さ」もお伺いさせてください。
柿木 : 全然不便を感じることなく暮らしています。以前横浜で働いていた時はまるで前世のように、別人格で生きている感覚があります(笑)
移住当初、友達も島に遊びに来れなかったので、本当に全く新しい人間関係の中で過ごしていました。Facebookで繋がっても共通の知り合いがゼロといった具合でした。しかし、私より先に移住してきていた先輩や地域の方が支えてくださいました。特に地域の方は「どうしてこんなところにきたの?」と興味津々でした(笑)
「何してるの」「どこからきたの」「結婚してるのか」など突っ込んだ質問も正直いただきます。通常であれば「地域で住む」=「生まれ育った場所」という印象もあり、特に地方出身者の方なら「田舎特有の息苦しさ」として容易に想像がつくかもしれません。
しかし、それを私が負担に思わないのは「地元ではない田舎」だからかもしれません。今住んでいる島は、私にとって血縁のない土地だからこそ、触れるものすべてが、「目新しく」「新鮮で」「ゲーム感覚で」、毎日を楽しめています。地域の方からの質問に対する答えによって、褒められたり、柑橘や野菜の苗をもらえたり──まさにリアルなどうぶつの森です(笑)
目の前は「瀬戸内海」、走っている車は「軽トラック」、家は「築100年オーバーの古民家」で、トイレは「汲み取り式」です。愛を持って表現するならば、「振り切れた田舎だからこそできる地域での暮らしの良さ」を日々実感しています。これは田舎暮らしを全力で楽しんでいる移住者の先輩たちの影響もありますね。なんだかんだ一緒に遊んでくれる人は重要です!
2015年から自社栽培を開始。ナオライが本社を構える人口約20名の小さな離島・三角島の耕作放棄地を活用して、「三角島レモンガーデン」を島内に立ち上げ。その後、三角島対岸の大崎下島・久比地区にもレモン畑を2箇所立ち上げ、現在久比・三角エリアで3箇所のレモン農園を運営しています。《前列右 : 柿木さん》
竹澤 元哉さん / ナオライインターン
竹澤 元哉さん / ナオライインターン
上智大学外国語学部在学中。「多様で豊かな日本酒文化を次世代に引き継ぎたい」というナオライの思いに共感し、大学卒業後の今春からナオライに本格参画予定。
──クラウドファンディングに込めている想いをお聞かせください。
竹澤 : 現在入社前のインターンとしてナオライに参画しています(今春からナオライに入社予定)。
今回のクラウドファンディングは、「自分の知り合いに、自分がこれから入社する会社の取り組みを知ってもらえるいい機会」だと思っていますし、実際に応援購入してくれた友達もいて、とても嬉しいです。
ナオライに入社する背景ですが、私自身、日本酒が大好きで、日本酒産業を一緒に盛り上げていきたいと考えています。大学3年生の時に休学してメキシコに1年滞在し、現地の方と関わる中で、「発酵」をはじめとする日本の豊かな食文化に改めて関心を持ちました。そして勉強する中で「その歴史や、造りの複雑性など、日本酒の魅力」を再発見しました。
斜陽産業と言われているのがもったいないと感じています。私はお酒好きとして、日本人として、日本酒産業を守っていきたいです。また産業の発展に貢献することに自分の力を使っていきたいです。
琥珀浄酎を初めて飲んだ時、驚きとともに、日本酒産業を盛り上げていくきっかけになれるお酒だと思いました。
──竹澤さんにとっての「ナオライの良さ」をお伺いさせてください。
竹澤 : 私は「食」の観点から自分の幸福度を測ることが多いのですが、久比でのナオライメンバーとの食事の時間は本当に幸せなひと時でした。
ナオライで食べるご飯は、「食べるものは基本的に自給自足」「お酒も自分たちでつくったもの」です。たとえばランチのサラダに入っている白菜は、柿木さんの畑から食べる直前に収穫したものでした。高級で華やかな食事とは違った豊かさがあると思います。
気の合うメンバーたちと、「ナオライを通じて、これからどういう社会をつくっていきたいか」と語り合いながら食べるご飯はさらに美味しく感じました。
──今年4月からの入社に伴い、広島に移住されるということですが、どんなことを楽しみにしていますか?
竹澤 : 自給自足の生活を体現していきたいと思っているので、それが楽しみです。食べる野菜も自分で育てたいです。
また猟師の免許も取りたいですね。食べる肉も自分で狩って、さばいて、自分でつくったお酒と一緒にペアリングできたら、究極の贅沢なのではと自分の中では考えています。
『琥珀浄酎』の香り付けには、瀬戸内の久比(くび)・三角島(みかどしま)で育つレモン「ミカドレモン®️」が使用されています。ミカドレモンとはナオライが厳選したレモンのことで、切ったときのフレッシュ感やまろやかな酸味が特徴。皮まで食べられる美味しいレモンとのことです。
安田 遥さん / ナオライインターン
安田 遥さん / ナオライインターン
青山学院大学地球社会共生学部在籍中。持続的な暮らしや環境問題に関心があり、久比・三角島の拠点で活動に参画中。
──クラウドファンディングに込めている想いをお聞かせください。
安田 : 現在ナオライにインターンとして参画しています。「環境や地球に優しい」を体現している会社で働きたいと思っていて、それをお酒というアプローチで取り組んでいるのが面白いと感じたのがきっかけでした。
琥珀浄酎はとても色々なメッセージが詰まったお酒で、「環境、自然、地球に優しいってどういうことか」を考えるきっかけになると思っています。
琥珀浄酎がたくさん生産されるようになると、オーガニックの田んぼが増える仕組みが組み込まれています。ちなみに詳しく調べてみると、日本には1000枚に2枚しかオーガニックの田んぼが存在していないこともわかりました。
「商品がどんな風にできたのか」「どんな人が、どんな想いを込めているのか」を今回のクラウドファンディングを通じて伝えられるといいなと思っています。多くの方々にぜひ届いてほしいという想いが強いです。
──安田さんにとっての「ナオライの良さ」をお伺いさせてください。
安田 : 「自然を守りたい気持ちを信じるものはすべて守りたい」という三宅さんの想いが体現されているところです。
またナオライに関わってくださる方々の熱量が集結されて、今のナオライがあると思っています。「良いものを信じる」「自分たちが守りたいものを守る」という気持ちが強いのも良いところです。
それゆえに、学びたい気持ちや好きなものを愛し続けたいという気持ちが生まれたり、それをピュアに持ち続けられているのが、ナオライの人格の好きなところです。
──現在久比にいらっしゃると伺いましたが、安田さんが感じた「地域での暮らしの良さ」もお伺いさせてください。
安田 : 「暮らしの全体感を掴めること」です。
一次産業が暮らしのすぐそばにあって、「この人がつくっている柑橘だ」とか「あの人がつくっている野菜だ」とかを見ることができます。また自分が関わった果物や野菜が、他の人と交換されたりもしています。
島のトイレはまだほとんどが汲み取り式のため、自分たちの排泄物を処理してくれる人の存在など、「誰のおかげで生活ができているのか」を見ることもできます。
自然を身近に感じたいと思っても、「どういう人やものと関わり合いながら、自分が自然の一部として生かされているのか」が都市だと見えづらいこともあります。島のコミュニティでは「誰に生かされているのか、顔が見える」のは安心感があります。
ナオライが大崎下島・久比で運営するレモン農園「音楽ホール」から眺める三角島
米山 凱一郎さん / ライター・フォトグラファー
米山 凱一郎さん / ライター・フォトグラファー
神奈川県茅ヶ崎市出身。出版社にて雑誌編集アシスタントを務めた後、2019年よりフリーランスとして活動。
──クラウドファンディングに込めている想いをお聞かせください。
米山 : 自分はライター・フォトグラファーとして活動しています。今回のクラウドファンディングでは、プロジェクトページの文章や写真撮影などを担当しました。
ページづくりは、ナオライのみなさんと相談しながら決めてきました。琥珀浄酎は良い意味で伝える要素が多すぎるため、メッセージをどこに絞るのかとても難しかったです。たとえば日本酒を蒸留した浄酎(*)というもの自体が一般の方々には伝わりづらいでしょうし、日本酒の会社なのにレモンを育てていることにも疑問を持つ方もいらっしゃると思いました。
(*) 浄酎(じょうちゅう) : 日本酒を原料としピュアなアルコール分だけを抽出したお酒。「低温浄溜」というナオライ独自の特許製法によって、日本酒由来の豊かな香りと風味をそのまま凝縮。さらに木樽熟成・タンク熟成によって時間が経つほどその風味は丸く深みを増すため、日本酒業界の課題である「海外輸出」や「長期保存」にも適した、付加価値の高まるお酒として大きな可能性を秘めています。
今回「Makuake(マクアケ)」というクラウドファンディングのプラットフォームを利用しています。その特性上、商品が前面に出るため、「商品の魅力をどれだけ伝えられるのか」がポイントでした。それに添える形で、「商品を製造している会社がどういう企業なのか」を後付けしていく──語りたいことがたくさん存在する分、伝えるべき情報を見定め、ナオライのことを初めて知る方にも伝わりやすいページづくりを心がけました。
──文章や写真はどういうところをこだわりましたか?
米山 : 三宅さんがおっしゃっている日本酒酒蔵の再生などの想いの部分(*)については、文字数の都合上、今回かなり削ることになりました。むしろ琥珀浄酎の説明的なところや製造工程、原材料の価値、使用しているレモンの説明など、「商品そのものの魅力を伝えること」を重視しました。想いの部分はページの後半にようやく登場する感じです。
(*) 本記事の前編「多様で豊かな日本酒文化を未来に。瀬戸内にあるソーシャルスタートアップの新たな挑戦とは──」に詳しく掲載されています。ぜひあわせてお読みください。
クラウドファンディングが公開され、SNSの反応をチェックしてみると、やはりみなさんが向かう先は「商品への興味」でしたので、ページづくりとしては間違っていなかったかなと思っています。
しかし、ナオライのビジョンも伝えていきたいので、クラウドファンディングページ以外でそれをどのように伝えていくのかも大事になります。商品の価値と企業のビジョン、その両輪で伝えていきたいです。
──米山さんにとっての「ナオライの良さ」をお伺いさせてください。
米山 : ナオライは「嘘のない会社」だと思います。「時をためて、人と社会を醸す」(*)「三方よしを超えて、その先をいく」ということを事業を通じて体現されていることをひしひしと感じています。
(*) 「時をためて、人と社会を醸す」はナオライのビジョン。詳細は会社概要をご覧ください。
環境への配慮や社会的意義を突き詰めていくと同時に、利益をしっかりとあげることも考えているのがさすがです。代表の三宅さんを中心にナオライという会社が嘘をついていないのが素敵です。
現状、ボトルのリサイクルまでは考えられていないのが環境的な観点で課題と認識されていて、ストイックに徹底的にゴミを出さないことも目指されています。ビジョンを掲げるだけでなく、それを実行していこうとする姿勢がいいなと思います。
ナオライ創業者の三宅 紘一郎さん
取材後記
以上、柿木さん・竹澤さん・安田さん・米山さんのお話はいかがでしたか?
◆
実は今回の取材はグループインタビューで、最後お一人お一人に「読者の方々へのメッセージ」をお願いしました。するとみなさん口を揃えて、「久比・三角島(みかどじま)にぜひ遊びに来てほしい」とおっしゃっていました。
みなさんの言葉をお借りすると、「今の暮らしに疑問を持ってたり、自分ってこれで良いのかなと思っている方々」「生きている実感があまりしない方々」「できないことだらけと思っている方々」などにオススメとのことでした!
取材時には実は「琥珀浄酎は、自分自身に向き合うお酒」というお話もありました。もしこの目まぐるしいスピードで変化し続ける現代社会において、一度立ち止まって、自分の働き方や暮らし方を落ち着いて見直してみたい方にはピッタリのお酒かもしれません。
「瀬戸内で誕生。日本酒とレモンで造る、ウイスキーのような41度の熟成酒『琥珀浄酎』」《2021年03月29日(月)まで》
◆
【Special Thanks】
写真 : 米山 凱一郎さん
※竹澤さんのプロフィール写真のみ、竹澤さんご自身からご提供いただきました。
◆
※本記事の掲載情報は、2021年3月現在のものです。
【ナオライ過去取材記事】
「三方よし」だけでは足りない―「未来よし」「自然よし」の商売へ。ナオライ三宅さんが語るwithコロナ時代の暮らし方 《2020年08月24日公開》
稲作時代からの「日本酒」の価値を、現代へバージョンアップ (Naorai inc. ・三宅紘一郎さん) 《2016年02月29日公開》
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