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NPOのプロフェッショナルを目指して。桜の花で震災の記録を後世に伝える桜ライン311の現場に密着

2020.01.04 

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「大切な命を守っていきたい」という思いから事業をスタート

認定特定非営利活動法人 桜ライン311は、2011年3月11日の東日本大震災をきっかけに、翌年5月、岩手県陸前高田市で設立されました。

 

津波で多くの尊い命が犠牲になった陸前高田市。しかし、震災から約半年後、過去にも同規模の津波が三陸沿岸を襲っていたことがわかりました。「このことが事前に知らされていれば、助かった命はあったのではないだろうか」。そんな後悔と、「震災の記録をあとの世代に伝えていくことで大事な命を守りたい」という思いから、今回の津波の到達点を桜の木でつないで後世に伝える、桜ライン311の活動がスタートしました。sakura311

 

桜の苗木を植える時には、スタッフや地元の方以外にも全国から関心を寄せる方たちが参加します。事業の運営費は寄附で支えられ、年間で延べ1,800人の寄附者の方が桜ライン311を応援しているそうです。その寄附額は、設立時から累計で約2億3千万円にのぼり、岩手県内で1位となります。

 

こんなふうに県内外で高い支持を得ている桜ライン311。では、職場ではどのように事業を進めているのでしょうか。今回、桜ライン311で募集している広報担当の方の仕事を通してご紹介します。

 

>>桜ライン311では広報担当の方を募集しています!

 

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桜ライン311の事務所が入っている高田大隅つどいの丘商店街

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桜ライン311の事務所

避難所の手伝いで、支援が必要な人と助けたい人をつなぐ役割の必要性を認識

今回、お話を伺った代表理事の岡本翔馬(おかもと・しょうま)さんは陸前高田市の出身。震災時は、東京にある建築系の会社で、建築メンテナンス兼インテリアデザイナーの仕事をしていました。震災をきっかけに陸前高田市で避難所の運営に関わり、「支援が必要な人(地元の人)と、支援をしたい人(県外の人)を、それぞれの考えや言語を理解しながら橋渡しするコーディネーターの必要性を感じた」という岡本さん。岡本さんは地元を知り、また県外で暮らした経験もあることで「役に立てるのでは?」と、陸前高田市にUターンしたそうです。

 

その後、岡本さんに声をかけたのが、陸前高田市で仮設住宅の運営に携わっていた現事務局の佐藤一男(さとう・かずお)さんでした。「震災の痕跡を次の時代に伝えられることをしたい。手伝ってほしい」と佐藤さんから相談を受けた岡本さん。佐藤さんと一緒に副代表理事として、桜ライン311を立ち上げたそうです。

 

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岡本さんは2013年7月から、代表理事として、主に年間約30回の講演活動と、広報チームの仕事をしています。広報チームは現在、岡本さんとスタッフの矢作彩子(やはぎ・あやこ)さんの2人。岡本さんが業務全体のマネージメントをしながら2人で協力して日々の仕事を進めているそうです。

広報チームの1日。わかりやすく、みんなの顔が見える活動を

桜ライン311のスタッフは6名。そのうち4名が植樹チームとして、桜の苗木を植え、育てる業務などを中心に行っています。そして岡本さんと矢作さんの広報チームと、それぞれ分かれて業務をしています。

 

「1年のうち桜の苗木を植えられる時期は決まっていて、3月から4月、11月から12月の間に植えています。僕らは『植樹会』として定期的に桜の苗木を植えていて、多くの方にもご参加いただいているのですが、植樹チームは、参加者の方の募集、植樹会の運営、また終了後の参加者の方への対応、桜の木のメンテナンスなどを行っています。さらに、桜の苗木を植えるためには土地も必要になります。土地を所有する方に活動の趣旨をご理解いただいたり、定期的にご挨拶に伺ったりしながら土地の今後についてご安心いただくこともとても大事にしています」

植樹会には地元の子どもたちも参加しています

植樹会には地元の子どもたちも参加

一方で、桜ライン311では、問い合わせ対応や、寄附者の方への事業報告、情報発信なども丁寧に行っています。それを担っているのが広報チーム。では、広報チームは具体的にどんな仕事をどのように進めているのでしょうか。岡本さんにある日のスケジュールを教えていただきました。まずはこちらから見ていきましょう。

 

桜ライン311様スケジュール

出社して掃除と朝礼をした後、日常的に行うのが、問い合わせ対応、さらに寄附をいただいた方への領収書の発行・発送業務。その後の昼食では、お弁当や買ってきたものを事務所で食べたり、自宅が事務所から近いスタッフは自宅で食べたり、思い思いに過ごすそうです。

 

昼食が終わると、SNSなどからの情報発信や広報物の企画立案・制作を行います。広報物は、年1回発行のアニュアルレポートをはじめ、リーフレット、チラシなど5種類あるそうです。

 

桜ライン311では、広報全体のテーマを2つ設定しています。1つは、震災から時間が経っても活動に共感してくださる方に、事業の進捗状況や自分たちの思いをわかりやすく伝えること。もう1つは、特にSNSで、スタッフや、僕たち役員の顔が見える投稿をすること。桜の苗木を植える事業は、苗木を植えていない時間は何をしているのかわかりにくいところがあるんですね。だから、桜の苗木を植えるまでに土地の所有者さんと何度も話し合ったり、植えた後も桜の木のメンテナンスをこまめにしたり、そういった見えにくいところもご理解いただけるように、気を配りながら情報発信などをしています」

 

企業とのコラボレーション企画が多いのも桜ライン311の特徴。たとえば今年は、春に東京の百貨店でチャリティグッズが販売されました。あるメーカーでは12月中旬頃から桜の香りのシャンプやーやボディソープを販売し、1個につき10円が桜ライン311に寄附されるというキャンペーンを実施。またフルオーダーの結婚指輪を作る会社では、チャームを作ると代金がそのまま桜ライン311に寄附され、さらに、Twitter上でも、「#桜ライン」のツイート1回につき0.1円が桜ライン311に寄附されるなど、たくさんのコラボレ―ション企画が形になっています。

 

「企業さんとのコラボレーションは、ありがたいことに、お問い合わせやご紹介をいただいて進むことが多いんです。その後は、僕が先方に伺ってプレゼンテーションし、企画内容が決まったら、広報チームで具体的に進めていきます」

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事務所には、企業とのコラボレーション商品がいくつか飾られている

基本的に広報チームで仕事をする場合は陸前高田市の事務所にいることが多いのですが、もし岡本さんと一緒に企業との打ち合わせを進めるなど、仕事の幅を広げたい、今の業務以外にチャレンジしたいことがあるという場合は積極的に後押しするそうです。

ユニリーバ・ジャパン様とのキャンペーン。ユニリーバの「サクラシリーズ」を購入するごとに“認定NPO法人 桜ライン311”に10円が寄附される

ユニリーバ・ジャパン様とのキャンペーン。ユニリーバの「サクラシリーズ」を購入するごとに“認定NPO法人 桜ライン311”に10円が寄附される

「桜ライン311の設立時は僕が一人で広報をしていたこともあって、今は僕が主導していますが、SNS投稿は基本的に矢作にまかせていますし、新しく入っていただける方も、状況に応じてどんどん仕事をおまかせしたいと思っています。企画立案などが多いので、何かを新しく生み出すことを楽しんでもらえるといいですね。

そして、寄附してくださる方は県外の方が多いので、県外から移住していただけるとうれしいです。寄附者の方の立場にたった情報発信を大切にしたいんです」

温泉旅館で缶詰めになって、ビジョンとミッションを見直し

「今年、桜ライン311のビジョン、ミッションを見直す合宿をしたんですよ」と岡本さん。

日数は2泊3日。スタッフ6人が集まり、1日は視察も兼ねて宮城県や石巻市周辺の伝承施設を見て回った後、温泉旅館の会議室で1泊2日缶詰めになって、ビジョンとミッションについて語り合ったのだそうです。

桜ライン311のビジョンは、「自然災害で人命が失われる悲しみを2度と繰り返さない未来」を作ること。ミッションは「東日本大震災の教訓を後世に伝承するために陸前高田に賛同者と桜並木を作り、全国にその気持ちを伝えること」です。

 

ビジョンとミッション、それに事業内容の方向性は、設立時と同じなのですが、時代の変化とともにずれが生じていないか、また一人ひとりが自分の言葉として使えるものになるように、議論を重ねました。今までも事務所の会議室で何度もやっていたのですが、なかなかまとまらないんですよ。だから今回、思い切って合宿をしたんです。決めるための合宿はとても有意義だったし、今後も定期的に見直しはしていきたいですね」

NPOのプロフェッショナルになりたい

ここまで親しみを感じる口調で、桜ライン311の事業や業務について語ってくださった岡本さん。続いて、経営者の立場から組織への思いについて次のように話してくださいました。

 

「僕は、定年まで勤められるNPOを作りたいと思っているんです。現在、ウチのスタッフは20代から40代がほとんどなのですが、その世代ってキャリアを築く意味ですごく重要な時期ですよね。そんな時にNPO業界に飛び込むのはわりとチャレンジングなことだと思うんです。ただ、待遇面で継続を諦める場合も少なくないのが現状です。そういったことを変えたいと思っていて。桜ライン311では、毎年一定評価を受ければ、給与が平均107%前後は上がるようになっています。事業の目的を達成できるなら、当然の投資だと思っています。

その対価として、これは自分も含めてですが、NPOとしてプロフェッショナルになっていかなければならないと思うんです。東日本大震災があったのは僕らの事業にとって大きな契機であることは間違いない事実です。でも、そこに甘んじることなく、さらに全国のNPOと切磋琢磨しながらも、協力し合えるような受け皿の広い、またチャレンジしたいことに安心してチャレンジできるような強いNPOに育てていきたいですね」

「自分で見つけた世界」を心から応援

最後に、岡本さんに、桜ライン311への入職を考えている方に向けてメッセージをお願いしました。

 

「まずは情報発信や広報物の企画立案、企業さんとのコラボレーション企画などに主に関わっていただきたいので、マルチタスクな状況を楽しめる方だとより仕事を楽しめるのかなと思います。

また陸前高田市に来て、たとえば桜ライン311に入職して、その中で地域のことを理解したり、新しい視点が増える中で、自分のやりたいことを見つけて桜ライン311を卒業する方もいます。自分の事業を立ち上げたり。こんなふうに、別の角度からこの陸前高田市にコミットメントする人が増えることは僕にとっては喜ばしいことなんです。以前、広報チームで働いていたスタッフは、動画のクリエイターとして卒業しました。今は会社を興していて、桜ライン311ともお付き合いがあるんですよ。桜ライン311での仕事を通して、何か別の世界が見えたのなら、僕は心から応援します」

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桜ライン311のスタッフたちも、個性豊かな人ばかりだと岡本さんは言います。アーティストとして音楽活動をしていたり、セミプロの釣り師だったり、防災士として講演活動をしていたり、フラワーアレジメントのクリエイターとして結婚式のプリザーブドフラワーを手がけたり。みなさん、事業と同じように自分の世界を大切にしているから、仕事も定時で帰るのだとか。

 

岡本さん自身も、桜ライン311の代表ほか、陸前高田市の移住定住に関する情報を提供する特定非営利活動法人高田暮舎の理事長、岩手県内の地域おこし協力隊の採用・活動支援を行う特定非営利活動法人wizの副代表理事を務めるパラレルワーカーです。

 

「新しく入っていただく方は、移住が前提にはなりますが、陸前高田市は自治体の中でも移住者が多い街なんですよ。だから、僕のまわりにも移住者の方が少なくとも50、60人はいらっしゃいます。高田暮舎として移住支援もできますし、楽しんで暮らせると思います。肩の力を抜いて、気軽に来てほしいですね。そしてぜひ、桜ライン311の活動をたくさんの方に広く伝えていく広報の仕事にチャレンジしてください」

桜ライン311で働きたい人、募集!

桜ライン311では、岡本さんと一緒に広報チームで働く方を募集しています。「1日1回はSNS投稿をする」など丁寧に活動を伝え続ける桜ライン311の広報に携わりたいという方、ぜひご応募ください!

 


 

<認定特定非営利活動法人 桜ライン311募集概要>

 

募集ポジション

広報担当

雇用形態

正社員

給与

月給 17万円〜

※試用期間2ヶ月有り(条件変動なし)

※実績能力に応じて1年毎に昇給(年1回給与見直し)

勤務地

岩手県陸前高田市高田町字大隅93-1 高田大隅つどいの丘商店街12号

応募資格

・普通自動車免許(必須)

・Illustrator、Photoshop、Salesforce経験者優遇(必須ではありません)

 

「認定特定非営利活動法人 桜ライン311」の募集要項の詳細はこちら!

 

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