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大切なのは起業家から経営者になり、仕事を手放すこと。キズキグループ・安田祐輔さんに聞いた右腕と働くということ

2019.09.05 

起業家が求める「右腕」という存在。彼らはいったいどのようにして右腕と呼べる人と出会い、互いの能力が最大化される協働関係を築いていったのでしょうか。

今回お話を伺ったのは、キズキグループ(株式会社キズキ、NPO法人キズキ)代表の安田祐輔さん。「何度でもやり直せる社会をつくる」というミッションのもと、現在では不登校・引きこもり・高校中退など困難を抱える若者の勉強支援を行う「キズキ共育塾」、うつや発達障害を経験した方が専門的なスキルを身につけて復職するための就労支援を実施する「キズキビジネスカレッジ」、自治体からの委託によりビジネスによって支援できない貧困世帯の若者を様々な方法で支援する公民連携事業、首都圏・関西の少年院における学習支援、渋谷区の生活困窮家庭の中学生を対象にしたスタディクーポン事業を運営しています。

2011年8月の設立から8年、困難を抱える若者を支える総合的な支援機関となったキズキグループは、現在社員約40名、アルバイト約200名を抱える組織に成長しました。組織が大きくなる過程で、安田さんはどのように右腕や社員と関係性を築きながらその在り方を変化させていったのでしょうか。

キズキグループ代表・安田祐輔さん

キズキグループ代表・安田祐輔さん

現在の右腕は、創業時から一緒に成長してきてくれた存在

――現在の右腕との出会いについて教えてください。

 

2011年の創業時から当時は大学生インターンとして参画していた仁枝幹太が今も役員として働いてくれているのですが、彼が現在「右腕」と呼べる存在です。今彼には全社的な管理業務や、既存事業を担ってもらっていますが、いわゆる「起業」よりも「経営」が得意なタイプです。実際、僕よりも彼の方が、管理業務や出来上がった事業を大きくすることは上手だと思っているので、現在はその点に関してはほとんど手放して彼に任せています。

 

――創業時からの付き合いとのことですが、関係性はずっと右腕ですか?

 

いえ、出会った当初は大学生でしたし、2年前もそうした状態ではありませんでした。彼自身の役割は組織の成長と共に変化していて、右腕になってもらうために育てたという意識もなく、ゼロの状態から一緒に組織の中で成長してくれた結果だと思っています。

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仕事を手放す鍵は「予実」と「人事評価」にある

――仁枝さんに限らず、組織に頼れる存在が増える中で自分の仕事を手放されていくことはあったのでしょうか。

 

そうですね。既存事業や人事が安定してきたので3年ほど前から既存事業における自分の仕事を手放して、今では予実を軽くチェックするぐらいです。正直、仕事を手放すのには苦労しました。人事の評価制度や、そのもとになっている「行動規範」を作っていく中で初めて、自分は創業者として自分にしかできない仕事に集中して、それ以外は任せてもいいんだと思えるようになりました。

 

――人事の評価制度の設定が、仕事を手放し他者に任せるための鍵になったということでしょうか。

 

はい。正確には手放すためには2つ握る必要があると感じました。それは予実と、人事評価を通じて組織文化を守っていくことです。

まず予実については、数字なので事業部ごとに細かく把握できると思うので、簡単かと思います。一方人事評価については、行動規範の作成を通じて自社のカルチャーを定義することが大事になります。例えば「キズキ共育塾」のような不登校の子どもたちをサポートする現場では、何でも相談を聞いてあげたいと残業が常態化しやすい。そうした事態を防ぐため6つの行動規範、例えば「自己満足に基づく支援をしない」といったものを設定して、それに沿った支援をしているかを半期に一度人事評価の中でチェックすることで歯止めをかけるようにしました。 一見不自由に感じられるかもしれませんが、組織として守りたい最低限のことを定義することによって、「他は自由で良い」と管理を手放せるようになったんです。こうした仕組みは、昨年まで在籍していた役員たちと仁枝が中心となって作り上げてくれました。

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――既存事業の仕事の大部分を手放されたあと、安田さんはどのようなお仕事に取り組まれるようになったのでしょうか。

 

会社というのは、たとえ現状売り上げが伸びていたとしてもそれは昨年や一昨年の成果でしかありません。僕自身は自分にしかできない仕事をしようと思い、組織の3年後のために会社のビジョンと事業を紐づけて社内で語り続けること、新規事業をつくることなどに注力するようになりました。その成果が、今年4月にスタートした「キズキビジネスカレッジ」や、急拡大している「公民連携事業(自治体と連携した生活困窮家庭等の支援)」になります。

組織の成長に合わせ、起業家をやめて経営者になる

――右腕と仕事をするうえで気をつけられていることはありますか。

 

仁枝が管理している事業に関してはよほど悪くない限り口を出さないようにしています。過去にそれぞれが責任を持ってやってくれていることに必要以上に口出しをしてはいけなかったなと反省した経験があり、予実や行動規範に基づいた原理原則は握ったうえで、組織で働く人間の自由度を確保することが大事だと思うようになりました。能力が高い人間であればあるほどプライドがあり必要以上の制限を嫌いますから、そうしたことを意識しないと彼らは組織から離れていってしまうと感じています。

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――仕事を任せること自体が右腕との良い協働関係につながっていくということですね。

 

そうですね。まず前提としてなのですが、起業家と経営者は別の存在だと思っています。起業家であると自分の想いが事業に込められているのであれもこれも譲れないと思いがちですが、組織が成長したら起業家から経営者になり、最低限譲れないものだけを握ってあとは人に任せることが必要になると思っています。そうした姿勢は、先ほどお話しした3年前の人事の評価制度の仕組みづくりを境目に自分自身もやっととれるようになりました。

仕組みづくりを始めたのは、社員の半数くらいが同時期に辞めてしまったことがきっかけでした。組織や自分自身の在り方を変えなければと、まずは採用の仕組みを変え、組織カルチャーに合わない人はどれだけ優秀でも採用しないことに決めました。次に人事評価を変えたのですが、その詳細は先ほど述べた通りです。

 

――それでは安田さんは、起業家であることを“辞めた”という意識なのでしょうか。

 

そうですね。組織が大きくなったので、起業家であることは辞めました。僕にとっての起業家とは事業を立ち上げ続ける人間で、経営者は組織を上手に活かして事業のインパクトを最大化する存在です。キズキグループにとっては顧客数が一つのインパクトポイントだったので、僕は経営者になることに決めました。新規事業を生み出すのは今でも得意なので取り組みますが、あくまでその新規事業が組織にとってインパクトを生み出すと確信できたときに限ります。今「キズキ共育塾」は教室を増やしている最中ですし、そうした大切な既存事業があるのに僕のやりたい気持ちだけで利益のでない事業を作っても、マネジメント費が嵩んで社員の負担が増えるだけです。そうした視点で組織のことを考えて、好きなことを事業にするのを辞めなくてはいけないと思うようになりました。

でも、それは決して諦めという意味ではありません。自分の会社の事業に誇りを持っているので、やるべきことのために自分の能力をどう使えばいいのかと考えた結果です。

1対1で自分に対し批判的な発言ができるかどうか、一方で社員に対しては自分の味方であれるかどうか

――なるほど……。実はこのあと「社会起業家」が求める右腕人材像についても伺おうと思っていました。経営者としてでも問題ありませんので、もしあれば教えていただけますか。

 

社会起業家であっても、ビジネスを手段にしているならば一般的な企業と変わらないと思いますよ。政策提言を目的にしているならば話は別ですが、社会起業家は世の中の経営者からもっと学ぶべきことがあると個人的には思っています。僕自身も、キズキグループよりも上のフェーズにいる企業の社長から経営を学ぶようにしています。

右腕人材像については、大事なのは1対1で僕に対して徹底的に批判的にものを言えるかどうか、一方で社員に対しては僕(社長)を守り一枚岩の強い経営チームとして存在できるかどうかだと感じています。これは僕自身もそうですが、自分で起業したタイプはいわゆる“わがまま”でどうしても自分のやりたいことを優先してしまう傾向があります。色んな組織を見ているとそうしたトップの姿について右腕が社員に悪く語る姿を見聞きしますが、それでは組織内に経営陣への不信感を生んでしまうと思うんです。僕も含め起業家はかっとなりやすい人が多いので、そうした姿勢を貫くことは中々難しいのかもしれませんが(苦笑)、自分個人の言いたいことよりも、会社のために今何を言うべきかを考えてくれる人を大事にしなければいけません。

 

――仁枝さんは右腕としてそうした振る舞いをされているのでしょうか。

 

はい。二人きりのときは必要であれば徹底的に僕を批判しますが、社内では社員から批判的な発言が生まれたときにも必ず僕の側にも立って発言をしてくれているようです。先日行った社員満足度調査では2年前と結果が様変わりし、経営陣への信頼度が高く出ていました。 そうしたあり方に関して仁枝からは「安田さんと対立したことを理由に離職する人が多かったけれど、これまで自分がそのつなぎ役になれなかったことを反省している。これからはその役割に徹しようと思う」と言われたことがあります。

 

――なるほど。仁枝さんにとっての右腕としてのモチベーションはどこにあるのか、そうしたこと以外に伺っていることはありますか?

 

彼自身プロの経営者になることを目標としているようで、本人のキャリアの歩みとして一致しているのかもしれません。あとは「安田さんのビジョンや思想には共感していて、疑いがないからこそやれている。この規模の経営全般に携われる経験は30歳では中々ないから、そこにもやりがいを感じられる」とも言っていました。

 

――最後に、仁枝さんとの出会いは偶然でしたが、これまでのご経験から右腕の採用の鍵になると思われていることがあれば教えてください。

 

外部から経営陣を招いて失敗する企業は多いですが、能力が高いかだけでなくその組織の現状に相手がフィットするのかも大切なのだと思います。とはいえ、どの会社でもマネージメントポジションで採用した場合、うまくいかないことも多いです。うまくいかないことを覚悟したうえで、それでも採用したい人を採用すべきなのだと思います。

 

――ありがとうございました!

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。