TOP > ワークスタイル > 新規事業の立ち上げは副業人材と。中小企業にとって副業の受け入れはチャンス。【太陽住建の事例紹介】

#ワークスタイル

新規事業の立ち上げは副業人材と。中小企業にとって副業の受け入れはチャンス。【太陽住建の事例紹介】

2020.12.23 

太陽住建写真(1)

「solar crew」の活動風景(DIYで空き家を地域住民と一緒にリノベーションしている)

 

働き方が多様化する中、組織や領域を越えて、新しいイノベーションが生まれる──

 

その兆しが横浜市にあります。

 

同市は、2019年1月に「イノベーション都市・横浜」を宣言。その理念の下、副業・兼業を活用した人材交流によりスキルを持った人材が関わりあうことで、自社の経営課題の解決や組織の垣根を超えた人材の交流・成長機会の獲得を支援するための事業──「横浜市イノベーション人材交流促進事業」を、昨年度に続き、2020年度もスタート。

 

DRIVEでは今まで2回、この事業について記事をお届けしてきました。

 

 

第3回となる本記事では、この事業を通じて副業・兼業人材を受け入れた株式会社太陽住建より、代表取締役・河原勇輝さん(以下敬称略)を取材。太陽住建は、神奈川県横浜市の住宅用・産業用太陽光発電、リフォームの施工会社で、3年ほど前から副業人材を受け入れています。副業の最新事例や今後の可能性についてお話いただきました。

 

副業を通して「社会貢献」したい人が多い

 

──本日はよろしくお願いします。はじめに「株式会社太陽住建」について紹介をお願いします。

 

河原 : 太陽住建を2009年に設立し、今12期目に入っています。事業内容は「太陽光発電システム販売、設置工事」「住宅リフォーム、リノベーション工事」で、本業を通して社会貢献していくことを掲げています。

 

本業と一体化した社会貢献を目指し、太陽光パネル設置と架台組立て工事を細分化することによって、障がい者の方々と施工することを可能にし、一緒に取り組んでいます。しかしコロナ禍で工事が止まってしまい、障がい者の方々の仕事も止まってしまいました。本当の意味での「持続可能」ではないと考え、一般のリフォームなどでどうやって一緒に工事ができるのかを再設計しているところです。

 

またリフォーム事業については、現在「solar crew」(ソーラークルー)という新事業に絞り始めています。昨年度の横浜市イノベーション人材交流促進事業でマッチングした副業人材4名の方々と一緒に事業を作り上げています。

 

太陽住建写真(2)

株式会社太陽住建の様子(後列左から2番目 : 河原さん)《コーポレートサイトより》

 

太陽住建写真(3)

WEBより

 

──副業人材のお話が出ましたが、昨年度の募集について、マッチングまでの経緯をお聞かせください。

 

河原 : 「solar crew事業を弊社のコア事業としていくための事業戦略ディレクター」を今回募集し、多くの応募をいただき非常に驚きました。選考はすべて私が担当しまして、一人一人の書類に目を通しました。その後人数を絞って連絡をとり、直接お会いしたり、オンラインでお話したりして、結果的に4名マッチングしました。

 

今回の選考プロセスから実感したことは、「副業を通して社会貢献したい人が多い」ということでした。本業があって補助的にやる仕事という位置付けではなく、「自分の空いている時間に、ビジネスの手法を通じて、社会貢献に関わりたい」という意識を持っている方が多い印象でした。

 

太陽住建写真(4)

WEBより

 

副業メンバー全員が「社会課題を本気で解決しよう」としている

 

──続いて、マッチング後から現在までの様子についてお話をお聞かせください。

 

河原 : solar crew事業の基本的な方向性は私の方で定めていて、一つ一つ取り組んでいただきたいことを、それぞれの副業人材の方にお伝えしました。

 

具体的には例えば、動画制作です。YouTuberを育成している方が副業で参画しており、動画制作について弊社社員にも教えてもらい伴走してもらっています。他には地域住民とのコミュニティデザインを担当している方もいます。

 

みなさんにはこの事業に深くしっかりと関わってもらっているので、「自分もsolar crewを作り上げた一人だ」という認識をそれぞれ強く持っています。solar crew事業を通じて向き合っている社会課題に対して、みなさん「自分ごと」になっており、「このsolar crewに関わることで社会課題の解決につながる」と非常に意欲的です。

 

太陽住建写真(5)

「solar crew」の活動風景(DIYで空き家を地域住民と一緒にリノベーションしている)

 

──受け入れの際、何を大切にされていらっしゃいますか?

 

河原 : 事業のことだけではなく、会社の想いや事業の今までのストーリーもしっかりお伝えしています。「一緒に共感してもらってから始めるようにすること」を大切にしています。

 

半年ぐらい一緒に事業に取り組んでいて、「自分なりのsolar crew」をみなさん持ち始めます。それぞれが自分なりのsolar crewへの想いを持っているため、打ち合わせでは意見がぶつかります。本気で積極的に発言してくれるということは、「自分ごとに捉えて、社会課題を本気で解決しよう」と思っている証拠です。私も副業メンバーもお互いに本気で向き合いながら、事業を一緒に進められています。

 

──副業人材の受け入れは、太陽住建の社内にも何か影響はありましたか?

 

河原 : 社員が8名いるのですが、社員同士がとても仲良く、仲が良すぎるからこそできない相談もあります。そんな時、ちょうど良い距離感にいる副業メンバーが、社員の相談役になっています。そしてその副業メンバーから私に報告が届きます。良い意味で、太陽住建の社内を循環させようと想いをもってくれています。

 

ちなみに、残念ながら参加は叶いませんでしたが、今年の社員旅行に副業メンバーを誘ったぐらい、太陽住建に溶け込んでいます。

 

中小企業にとって「副業・兼業人材の受け入れはチャンス」

 

──少し今回のマッチングの話題から逸れるのですが、過去にも副業人材を受け入れていたと伺いました。その詳細についてもお聞かせください。

 

河原 : 実は3年ほど前から副業人材を弊社では受け入れていました。空き家活用プロジェクトの活動拠点を立ち上げる際に、私の知り合いから「空き家のデザインをやりたい」という話があり、副業として依頼したことがきっかけでした。

 

彼の本業は航空会社の倉庫の管理なのですが、元々デザイン系の学校を卒業していて、彼が本当にやりたいことは「デザイン」だったのです。家族もいて、給料が安定していて、現状に満足しているが、「本当にやりたいことを、休日にやってみたい」という希望で、実際に空き家のデザインができて喜んでくれました。

 

もう一人、私の知り合いで大手で事業計画を作っている方が、副業として参画しています。私が空き家事業に乗り出す際に、「ソーシャルな事業に関わっていきたい」と相談を受け、事業計画を一緒に作ってもらいました。

 

という2名の副業人材の交流がすでにあったので、今までお話した昨年度の横浜市イノベーション人材交流促進事業での副業・兼業人材の受け入れについても、スムーズに進めることができました。

 

──今まで多くの副業人材を受け入れてみて、どのようなことを感じていらっしゃいますか?

 

河原 : 既存事業がある中、新規事業について社員8名の中で時間を割くことが難しいのが現状です。しかし私としてはその先を見据えていかないといけません。前へ進むために、特定の分野に強みを持った副業人材の方々と新規事業を作り上げていこうという発想に至りました。また社員にとっても副業人材の意見(=外部からの意見)を聞けるのは影響が大きく、日々参考にしているようです。

 

今回のsolar crew事業への副業についても、当初の想定通り、「その分野の強みを持っている副業人材のみなさんとともに、新規事業を立ち上げている」状態で、スキルをシェアするような形で関わってくださっています。この形が弊社に合っていると私自身感じています。

 

社員と常日頃一緒にいて、家族のようなものだと思っています。正直、社員の人数は8〜9名が弊社の最大値かなと今のところ考えています。社員が今以上に増えることは当分ない予定ですが、今までお話した通り、副業という形で弊社に関わる人数は増えています。

 

副業人材の方々と新規事業を生み出していって、出来上がった事業を弊社社員が少しずつ一緒に伴走しながら、最終的には社員でちゃんと自走していきます。事業を生み出していくゼロイチのタイミングはものすごい力が必要ですので、このような形で、その分野に強い副業人材と作り上げていく流れは今後も維持していくだろうと思います。

 

──最後に、今後副業・兼業人材を受け入れたいと考えている起業家・経営者のみなさんに向けて、メッセージをお願いします。

 

河原 : 中小企業にとって、「副業・兼業人材の受け入れはチャンス」だと思います。弊社の受け入れの話をすると、社長のみなさん、かなり関心をお持ちで、副業人材を受け入れてみたいという声をよくお聞きします。「人材を導入していく手法として、副業はこれからさらに増えていく」と感じていますし、私の経験としては、「新規事業を立ち上げるゼロイチのタイミングに、副業人材が非常にマッチする」と思います。

 

また、稼ぐという観点ではなく「社会課題を解決したい」という観点で参画を検討している副業人材も多くなっています。私たちとしても、そういう人たちと企業とが繋がれるきっかけも作っていきたいですし、様々な企業と一緒になって新しい流れを生み出していきたいです。

 

太陽住建写真(6)

先日、環境省 第8回グッドライフアワード「環境大臣賞地域コミュニティ部門」を受賞されました!

2020年12月5日に開催された受賞者プレゼンテーション&授賞式の様子(右 : 河原さん)

 

──お話ありがとうございました!

 

【案内】2020年度の「横浜市イノベーション人材交流促進事業」について

 

以上、河原さんのお話はいかがでしたでしょうか?

 

 

さて今年度の「横浜市イノベーション人材交流促進事業」は、NPO法人ETIC.(エティック)が委託を受け、実施します。

 

副業・兼業に関する相談窓口(企業・人材向け)がWEBに設置されています。ぜひ詳細をご覧ください。

 

ウェブサイトのトップ画面

 

 

 

※本記事の掲載情報は、2020年12月現在のものです。

 


 

 

【連載・第1回】

160年前の開港から、物語はずっと続いている―横浜から新たなイノベーションを

 

【連載・第2回】

副業・兼業人材を受け入れ「今までにない発想」が社内に【株式会社テレビ神奈川の事例紹介】

 

【連載・第3回】

本記事

 

【連載・第4回】

副業・兼業、「レンタル移籍」―多様化する働き方の最新動向

 

【連載・第5回】

誕生したのはオンラインコミュニティ!採用・不採用ではない副業人材との関わり方とは?【株式会社plan-Aの事例紹介】

 

【連載・第6回】

「プロに徹する」「自分の価値観を再認識できる」―副業経験者のリアルな声

 

【連載・第7回(最終回)】

副業人材の受け入れにより、見えてきた可能性とは?【太陽住建・ユニキャスト2社の事例紹介】

 

河原さんのプロフィール写真

 

株式会社太陽住建 代表取締役/河原 勇輝さん

 

中学卒業後、建設業の職人として修行。その経験を活かし24歳で建設会社(株)太陽住建を設立。本業を通した地域貢献に取り組み、平成29年1月に横浜市住宅供給公社との共同プロジェクトにより開設した「井土ヶ谷アーバンデザインセンター」では、多様な人と地域をつなぐプラットホームとして同センターの運営を担っている。また、NPO法人green bird横浜南チームリーダーとして横浜市内4拠点でゴミ拾いを通じて、ゆるやかなコミュニティ活動を展開している。

・一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス代表理事

・認定NPO法人市民セクターよこはま理事

・ヨコハマSDGsデザインセンター 地域コーディネーター

 

この記事に付けられたタグ

横浜市イノベーション人材交流促進事業
この記事を書いたユーザー
アバター画像

Ryota Yasuda

1989年生まれ。早稲田大学スポーツ科学部卒業。執筆・編集する、アート作品をつくる、ハンドドリップでコーヒーを淹れる、DJする、など。「多趣味多才」をモットーに生きている。2015年よりETIC.参画(〜2023年5月末まで)。DRIVEでの執筆記事一覧 : https://drive.media/search-result?sw=Ryota+Yasuda