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#経営・組織論

会社も社員も「キャラ」を大切に。ソーシャルだけど株式会社を選んだ坂ノ途中に聞く、自分たちらしい組織のつくり方

2020.05.11 

ソーシャルビジネスを始めるとき、多くの人が向き合うことになる「株式会社にする? NPO法人にする? それとも一般社団法人?」といった法人化への問い。1500名以上の社会起業家を支援してきたNPO法人ETIC.では、様々なケースを見てきました。

 

正解は本当にそれぞれで、それを示すことはできませんが、これからソーシャルビジネスを始めようという人にとって一つの指針になればと考えて企画された今回の取材。ソーシャルビジネスで株式会社を選び、その後その選択をしたからこそ組織の在り方を望む方向へ変えていくことができた「株式会社坂ノ途中(以下、坂ノ途中)」のケースをお届けします。

 

また、坂ノ途中といえば個性的なメンバーがいきいきと働いている様子が印象的な団体。その日々を支えているという、「一個のモノサシじゃない、キャラを大切にした組織文化」についてもお話を伺いました。

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株式会社坂ノ途中/小野邦彦

「百年先も続く、農業を」を企業理念として掲げ、環境負荷の小さい農業の普及を目指し、新規就農者をパートナーに農薬や化学肥料に頼らずに栽培された個性豊かな野菜を販売している坂ノ途中。取り扱っている野菜は、なんと400種類以上に及ぶそう(詳しい事業内容はぜひこちらから)。

 

代表である小野邦彦さんは、働くことに前向きなイメージを持てないままあちこちでアルバイトをしていた中、京都大学在学中に友人が始めたアンティーク着物ショップの手伝いを始め、「働くことは時間の切り売りではなく目指す価値観や世界観を伝えられるものなのだ」と感じられるようになったのだそう。その後休学しアジア圏を旅行、専攻の文化人類学にものめり込むようになった中で、自分が本当にしたいことは人と自然環境との関係性を問い直すことなのだと思い至り、農業分野での起業を決意。2年余りの外資系金融機関での“修業期間”を経て、2009年株式会社坂ノ途中を設立しました。

 

“小さく美しいコミュニティビジネス”から、組織拡大を考えた3年目

――まず、小野さんはソーシャルビジネスで法人化するにあたり、株式会社をなぜ選択されたのでしょうか?

 

正直、起業時点ではどちらでも問題ないなと感じて、自分が一番知っていた業務形態である株式会社を選びました。金融機関出身だし中小企業診断士だったりもして(現在は失効)、2年目まで自分で税務申告をしていたくらい株式会社の財務会計周りには知見がありました。一方でNPOの法人格にするならば勉強しなおさなければならないという状態だったんです。

 

また、ソーシャルセクターの中には、例えば難民支援などテーマによっては事業化がとても難しい分野もありますが、僕らが向き合うテーマは難易度は高いものの事業として成り立たせることは不可能ではありません。事業を作ること自体が社会へのメッセージになり得る分野だと考えたということもあります。

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――その後、その選択に対してどのような振り返りをされてきましたか?

 

NPO法人の方が性格的にはマッチしたのかもしれないと思った時期もあったのですが、結果的に株式会社でよかったと思える出来事がありました。

 

僕は起業前は東京でサラリーマンをしていたのですが、学生時代をすごした京都に戻って起業したんです。その理由は、循環型モデルの“小さく美しいコミュニティビジネス”を思い描いていたからで、地方都市で地元のものを使いたい人はたくさんいてもその人たちが地元の野菜と出会う機会が少ない中、ちゃんとしたビジネスとして成り立つケースを一つ作りたかったんです。そこから全国に類似事例が生まれていき、世の中が変わっていくという変革の青写真を描いていました。

 

けれど、実際はその業務の性格上、真似したいと思ってもらうことが難しかったんですね。自治体や企業の視察を積極的に受け入れてきましたが、多くの人が求める真似したい事例というのは端的に表現すると“楽をしてできるいいこと”であったりして、一方で弊社は業務の仕組み化もそこまでできていませんでしたし、“誰かが根性を出してやったらどうにかできるいいこと”であって、興味を持っていただける人は多くてもそれで終わってしまうということが続きました。

 

パートナーの農家さんは増えていく一方でしたが、このままでは広がりがないと、自分たちが掲げているビジョンの壮大さや共感してくれる人たちの期待値の高さと、実際の活動の小ささのギャップが嫌になっていったんです。そこで途中から、誰かが何かをしてくれるのを期待するのではなく、自分たちの規模を広げていこうと考え直すようになりました。

 

それまでは株式会社といってもNPO法人的な性格の企業だったのですが、3期目の2012年から時間をかけて、確信を持ってというよりは少しずつ蛇行しながらベンチャー企業としての性格を強めていき、6期目にシードラウンド約4600万円、8期目にシリーズAラウンド約2億円、10期目の昨年にはシリーズBラウンド約6億円、累計約8億4700万円の資金調達を行いました。一般的なベンチャーだったらシードラウンドって1期目や2期目に行うと思うので、ずいぶんと普通とは違うタイミングなのですが。こうして事業展開のなかで特に財務戦略の方向性を大きく変えることができたのは、株式会社という法人格を選んでいたからだと振り返って感じています。

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組織の変革期を支えたのは、「モノサシを一個にしない」という文化

――そうした大きな変化に伴う組織内での混乱は、どう乗り越えてきましたか?

 

創業期にありがちな大きなクラッシュは一度も体験していないのですが、とはいえ成長痛と呼べるような大変さはありましたし、特に初期からのメンバーからすると難易度が高い転換要求だったろうなと思います。ただ、根本的には僕らは「モノサシは一個ではないよね」という感覚を共通して持っているので、組織内が殺伐となることは避けられたのではないかなと思っています。

 

「一個のモノサシ=これが正しい」があると、簡単に誰かが誰より劣っていると言えてしまいます。例えばコミュニケーション能力が高くても経費精算が苦手であるとか、出荷は誰より得意でも営業は苦手であるとか、僕らは色んな仕事があるし野菜も人間も多様だということを知っているので、「できることがある/できないことがある」が人間性の否定に繋がらない文化が会社に根づいていたのだと思います。

 

――素晴らしいです。その文化を根づかせるために意識的にしていることはあるのでしょうか?

 

「モノサシを一個にしないで、多様性を排除しないように」ということは、都度スタッフに伝えてきたと思います。例えば農業で言われる豊かな土というのは、生物多様性が担保されている土壌のことを指します。持続可能性の文脈においては、生きものの多様性は尊重されるべきものなんですよね。僕らはそうした世界に日々触れているので、人間だって多様な方がレジリエンスが高いだろうと納得しやすいのかもしれません。

 

また、社内で日々そうしたことを体感する場面が結構あるんです。会社の真ん中にキッチンがあって昼食はそこでまかないをつくっています。それぞれの時期の野菜たっぷりのご飯を食べる、その時間を通して、理屈で、アタマで考えて有機農業を広げようというだけでなく、体感として、こんなに美味しくて個性のある野菜が排除されない社会でありたいと思えます。本社の1階が出荷場で、2階が事務所とキッチンになっているのですが、2階で活躍している人が1階に降りると活躍できなかったり、その逆もあったりで、職種が限られている会社よりも他の人間をリスペクトしやすい環境なんだと思います。

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論理的に正しいことをやることは、別に正しくはない。「キャラ」を大切にした仕事づくりを

――小野さんご自身も、自分に対して「一個のモノサシ」を当てないようにされているんですね。

 

そうですね。あと僕はキャラを大事にしていて、自分のキャラに合わないことをやってもうまくいかないし、一人ができることは限られているのに、そうした合わないことに時間を割くのは違うんじゃないかなと思っています。

 

――「キャラ」ですか。

 

例えば僕らは環境負荷の少ない農業を広げることを目的としていて、そのためにやるべきことはたくさんあるのですが、既存の農家さんへの啓蒙はしていなくて、新規就農者を増やし彼らが営農していくハードルを下げることが僕らの仕事だと限定しています。

 

新規就農者を増やしたいなら、なぜ農業学校をやらないのか? と思われるのでしょうが、それをしていないのはひとえに僕が教育というものに希望を持てていないからなんです。僕は学校教育と折り合いの悪い人生を送ってきて、人が人を育てるということが未だに信じられていないので、そんな人間がやるのは違うだろうと線を引いています。将来、教育に希望を持てている僕以外の誰かがやりたいと手を挙げた場合は、違う展開があり得るかもしれませんが。

 

特にソーシャルビジネスにおいては、担い手である自分を真っ白な存在だとして論理的に必要なことをやるべきだという考え方も存在しますが、論理的に正しいことをやることは別に、必ずしも正しくはないんだろうと思うんですよね。社員に対してもそうで、キャラに合っていない仕事をお願いしても、実現が難しかったり質が悪かったりするものです。

 

――なるほど。それでは社員の方々に仕事をお願いするとき、小野さんは普段どうやって皆さんのキャラを見極められていますか?

 

人に仕事を頼むのは難しいなと、これまで本当に学ばされる機会が多かったです。その中で感じてきたのは、キャラって自己認識と他者認識がずれていることが多々あるということです。例えば客観的に見たら能力的に手が届くはずでキャラに合っていると感じることでも、本人が考えてもいなかったことを言われると反射的に「無理だ」と反応する人はいて、そこの理由を読み解いて自己認識と他者認識のずれをなくしていくことがマネジメント側の仕事だと思っています。

違和感を無視せずに、自分の頭で考え続けることが事業を研ぎ澄ませる最短ルート

――最後に、ソーシャルビジネスにこれから挑戦しようとしている方へ向けてメッセージをお願いします。

 

「わかりやすさ」に逃げないことが大事なのだと思います。皆が言っていることが本当はしっくりきていないのに、どこかのメディアでそう表現しているからそう語ること、例えば「農業を何とかしたい」というとき、農業はとても多面的ですが、自分は山間地で細々と夫婦で営んでいる生き方がかっこいいと思っているのに、社会課題として世間で語られている食料自給率問題を使って自分の事業を語ろうとしても意味がないということです。きれいな箱を作っても、事業は進まないです。

 

もし、自分が大事にしている「何か」のイメージと社会的なそれのイメージが合わないのであれば、その違和感を大事にした方がいいんですよ。その違和感を言語化するためには大変な苦労をすると思うのですが、その苦労のプロセスにはとても大きな気づきが潜んでいて、それは事業を作る上で必要不可欠なものです。

 

いまはピッチイベントが都会に溢れていて、特に東京はすごい速度で物事が進んでいるから、人に事業の説明をしている時間の方が自分のために考えている時間より圧倒的に長くなってしまいます。そうすると、分かりやすい言葉を使って多くの人に疑問を持たれないようにすることにパワーを割くようになってしまいがちですが、そうではなく「上手く言語化できないけれど、私はこういうところに違和感がある」と語ることが重要なのだと思っています。

 

これまでの思考回路で社会課題が生まれている以上、ソーシャルビジネスを志向するなら自分で考える力があるのが課題突破の最低条件になります。また、社会課題解決を志向するとき、打ち手を一つに絞りすぎると不測の事態に対応できませんが、課題は絞らないと解決しようがないですから。自分の思考回路でもって考え語ることが、大切なのだと思います。

 

――ありがとうございました!

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小野さんが2009年に参加され、現在メンターを務める「社会起業塾」が2020年も7月より開催されます(選考期間である予科プログラム含む)。ご関心を持たれた方は、ぜひこちらから詳細ご確認ください。以下、小野さんからいただいたメッセージです。

 

「初めて会う人に『あなたは本当にそう思っているの?』と、普通は面と向かって言ったらケンカになるようなことを平気で言われる場所です(笑)。その向き合い方は、自分の事業の方向性を真っ当に研ぎ澄ませていくための最短ルートなのだと思います。

事業を研ぎ澄ませていくためには、真っ向からぶつかって捨象いくことがどうしたって必要で、自分ができるだけ深く混乱するために、話を混ぜ返したりあーだこーだ言ってくれる他者の存在は本当にありがたいものです。特に借りてきた言葉にとても敏感な人たちがいる『社会起業塾』は、ちょっと特別な場所だなと思っています」

 


 

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。