東京駅から新幹線で約1時間半。長野県上田市には地域産品が選べるカタログギフト「地元のギフト」を展開している株式会社地元カンパニーがあります。
「地元のギフト」は、地域ならではの産品や旬の生鮮品を作り手のストーリーと共に贈るカタログギフトで、掲載商品は600商品以上にのぼります。贈る側は自分の地元の産品を相手に贈ることができ、贈られた側はギフトをきっかけに贈り主の地元のよさに触れられるという、温かくも新しいギフトの形を広く発信しています。
地元カンパニーHP「地元のギフト」より https://gift.jimo.co.jp/
会社設立から今年で9年目。この7月から、株式投資型のクラウドファンディングを活用し、新たに株主を迎えながら更なる事業拡大に取り組みます。多くの地方企業が事業維持に悪戦苦闘する中で、なぜあえて大きく拡大する道を選んだのか、代表取締役の児玉光史(こだま・みつし)さんに、その先に目指すもの、地元を起点とした事業への想いについてお聞きしました。
児玉光史/株式会社地元カンパニー代表取締役
長野県上田市(旧武石村)のアスパラ農家に生まれる。東京大学農学部を卒業後、大手IT企業に就職。その後、2012年4月6日に東京・渋谷で株式会社地元カンパニーを設立。2016年にUターンする形で長野県上田市の実家隣にオフィスを移転する。自然に恵まれた環境の中、ITのメリットを活かしたアイデアで地域産品のギフト事業を展開、新しい地元の盛り上げ方を開拓している。
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事業をさらに拡大させる理由
――地元カンパニーでは、今年度の売上高は年商1億円を超える見込みで、2025年度には年商48億円を、さらに将来的には株式上場を目指すとしています。あえて売上目標の伸び率を高く設定しているように感じるのですが、その背景にある想いや考えを教えてください。
流通量を大きくしていくためです。流通量を大きくして、地域のつくり手がつくり続けられるようにしたいです。地域のつくり手とは、農業や漁業など一次産業の方、また酒類や醤油といった加工品を製造する方などのことを指します。
そして、ギフトを受け取った人に、地域やつくり手との新しい出会いを楽しんでもらいたいです。48億円という数字は、日本人の1%にうちのギフトが届く想定です。全然足りていませんが、まずはそこを目標にしています。
ギフトの市場は10兆円程度と言われています。その中で当社がフォーカスしている法人需要のギフトは2.8兆円です。法人ギフトではまだまだ地方の食は流通していません。伸ばせる余地が十分あります。
流通量を大きくしたいのは、多くの地元を次の世代に引き継ぎたいからです。地元と思えるところがあるっていいと思うんですよね。都内で暮らしていた時は、辛くなったら地元に戻って英気を養っていました。あと、地元を嫌っている人もいると思いますが、嫌いって思えるのもエネルギーになっていいかなと思います。
とはいえ、人口が減っていく中で地元を残していくのは、かなり大変な気がします。条件の一つとして、そこに産業があり続ける必要があると思っています。その土地の資源をいかした食品を販売したり、湧き出る温泉をつかって旅館を営んだり、地形を活かして山登りや川下りを提供したり。
そこの製品が売れ続けたり、遊びに来る人を増やしたりするためには、関心を持ってもらうことが必要だと思うんですが、ギフトって、受け取った人にとってより強い関心になるんじゃないかなと思っています。単なる情報ではなくて、実際口に入れたりするので。そのつくり手や地域に対して強い関心を想起できるんじゃないかと。
あと、地元を残すのに、地元にいる人だけじゃなくて、地元を離れている人にも協力してもらえないかなと思っています。みんなが贈り物として地元のものを贈るようになれば、経済的な効果はもちろんのこと、情報も流通することになるので、みんなで地元を残していく取り組みになればと。
――なるほど。自分の地元のものを誰かに贈るというのは遠くにいても気軽に始めやすいし、贈り先とのコミュニケーションも深まりますね。それが地元を残していくことにつながるのもうれしく感じます。
あと、何よりも、地元に残って、もしくは地元に戻って、地域の産業を担っていくぞという人が増えてほしいなと。これは、自社のサービスでどうこうできるもんじゃないですが、地元に戻ってガシガシ挑戦している様子を発信していくことで、少しでも刺激を提供できればとも思っています。
SNSやスマホで見るニュースって自分の関心に最適化されていて、自分の関心の外側の情報に触れにくいんじゃないかと思っています。ギフトって、受け取る人にとっては飛び地の情報だと思いますし、同じくつくり手にとっても、全く新しい人との接点になっています。
流通量を増やせば、この出会いをより多く作れますし、結果的に、地元の産業が継続して、地元を次の世代に引き継げると思っています。
復興支援のカタログギフトで被災地支援にも取り組んでいる(2019年台風19号長野県)
いつでも安心して帰ってこられる場所を子どもに残したい
――児玉さんがいう「地元」とはどんなところでしょうか。
地元とはなにかって以前からよく考えているんですが、生きる安心をもらってた場所かなぁと最近では思っています。交換ではなく”もらっていた”。大人になると、自宅も食事も交換で手に入れますが、子どもの頃は親から与えてもらっていて、他にも、近所のおじさんやおばさんとの付き合いも新たに構築することもなく、相手のことを疑ったり探ったりすることなく受け取っていて、なんか気にかけてくれるし、地元って生きる上での安心がある場所なんじゃないかと。
今では地元で会社やっていますけど、東京で働いていた頃は、地元に戻るとまったく仕事をする気が起きなかったのは、交換の必要がないからなんじゃないかと。今地元で仕事する気になっているのは、従業員がいたり、子どもがいるからなのかと思ったりします。自分が生きるために交換するということではなくて、従業員や子どもに生きる安心を提供している感覚です。
――地元の産業の発展に貢献して、良さを次の世代に渡したいという思いの中には、何か地元に対する危機感や課題のようなものがあるのでしょうか。
自分の子どもに、いつでも帰ってこられる場所を残しておきたい思いがあります。あとは実家が農家でもあるので、子どもにはお米とか野菜とか送ってあげたいですね。地元で会社をやっているのは、地代が安いなどのビジネス的なメリットもありますし、意地みたいなものもあります。地元でも楽しめるっていうのを、過去の自分や自分の子どもに見せている面もあります。コロナもあって、地元(地方)で事業を推進するデメリットも小さくなってきていますし。
地域産業の発展の視点もないわけじゃないですが、マクロな視点でできることは私の立場だと限られますし、自社の事業を強く大きくすることが大切だと思っています。
「地元のギフト」制作の様子。生産者を訪ねていたが、コロナ禍で取材のあり方も再検討
周囲の力を借りながら事業を大きく。そして、一人ひとりが人生を楽しめる社会へとつなげたい
――上場も目指されるそうですね。
“思い”だけに頼らず、株主のみなさんの応援やファイナンスのパワーもうまく活用して、地域産品の流通量を増やしていきたいです。9年事業をやってきましたが、自分の思いや哲学もだいぶ力強く、かつ具体的になってきて、ファイナンスに飲まれないようになってきたと実感しています。
在庫は持たないとは言え流通業であり、実際に商品も動く事業なので、財務基盤も必要ですし、新しいサービスや、新しい事業も積極的に展開していくなど事業上の理由も大きいです。
――今後は生産者のさらなる開拓と営業体制の強化で、法人からの引き合いを10倍に増やされたいとのことですが、何か具体的な方法はお考えですか?
現在の引き合いもほぼ100%がWEB経由です。まだまだWEB経由の引き合いを伸ばせる余地はありますので、WEBマーケティングを強化します。当社は法人顧客がメインなのでBtoBのWEBマーケティングとなりますね。問い合わせをしてくれた企業の担当者に聞くと、サービスのページだけではなく、採用ページや私のnoteも見てくれていたようです。単にSEOやWEB広告運用を強化するのではなく、多面的に情報発信することが必要です。
リピートしてくださる企業さんも多いですが、法人顧客はほぼ県外ですし、コロナもあって気軽に訪問できないので、訪問せずとも関係を維持する策を見出します。それには、現在連載しているマンガを活用したいと思います。そうです、マンガマーケティングです。これについては、参考となる事例もないので、いろいろ試して効果的な手法を開発していきたいです。
連載中のマンガをまとめた冊子
――事業の流通量が増えて、地元が次の世代へと受け継がれていったその先の未来を、児玉さんはどんなふうに描かれているのでしょうか。
月並みですけど、みんながそれぞれの人生を謳歌してくれたらと思います。
課題は解決しようとはしますが、いつの時代になっても課題がなくなることはないのではないでしょうか。ただ、その中でも自分ができることは、今の取り組みを続けるのはもちろんですが、自分たちに起因する未来の課題を少しでも減らしていくことかなと思います。
自宅のゴミは全部破棄する、そもそも増やさないようにする、地域にある空き家を更地にする、地域の農地や山林は集約しておく、借金を清算するなど、若い人が過去の尻拭いに使う時間を増やさないようにしたいです。もし、私自身が他界するその時には負債を道連れにしたいです。
空き家を改装したオフィス
――児玉さん、ありがとうございました!
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