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島の人事部として、企業と若手をつなげる淡路ラボ・山中昌幸さんがつくる「裏万博」と「Beyondカンファレンス 2025」

2025.04.07 

多様なセクターと協働し、本気で社会にインパクトを起こしたい人、社会をより良くする活動を追求する新規事業開発や人材育成・CSRに企業から携わる人──。

 

NPO法人ETIC.(以下、エティック)では、2025年4月25日・26日の2日間、社会課題解決に関わる人たちに向けてイノベーティブな協業先を見つけ合う「Beyondカンファレンス 2025 in淡路島 - 研ぎ澄ます -」を開催します(主催 : and Beyond カンパニー、共催 : 淡路ラボ)。

 

このカンファレンスは、立場や組織の垣根を越えて企業や個人が集まり、一歩先の未来を共につくる仲間としてつながる場を目指して行われます。舞台は、淡路島全土、島まるごとという、これまであまりない形での開催となる今回、実際にどんな場がつくられるのか、淡路島で運営の舵を取る淡路ラボ代表・株式会社次世代共創企画 代表取締役 山中昌幸さんに、電通PRコンサルティングエグゼクティブフェローの井口理さんがインタビューしました。

 

<話し手>

山中 昌幸(やまなか まさゆき)さん

淡路ラボ代表 / 大正大学地域構想研究所淡路支局長 / 株式会社次世代共創企画代表取締役

2001年にキャリア教育専門のNPO法人JAE(大阪市)を創業。経済産業省のモデル事業に選ばれ、NHKなど多くのメディアにも取り上げられ、文部科学大臣表彰を受賞。2017年からは大正大学の教員として地域創生学部の立ち上げに携わる。2020年には専任教員を辞め、淡路島で「淡路ラボ」を設立。約100人の若者を地域につなぎ、多くのプロジェクトを支援、地方創生担当大臣の視察を受ける。現在は、多様な人材をつなぐ「島の人事部」を立ち上げ、大阪・関西万博に向けて全国の地方と連携したインバウンド向けの「Authentic Japan」も展開中。

 

<聞き手>

井口 理(いのくち ただし)さん

電通PRコンサルティングエグゼクティブフェロー

データドリブンな企業PR戦略立案から、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体PRまで幅広く手掛ける。ニュースメディアやソーシャルメディアで話題になりやすいコンテンツを生み出す「PR IMPAKT」や、メディア間の情報の流れをひもとく「情報流通構造」などを提唱。PR会社で30年超勤務。「世界のPRプロジェクト50選」「Cannes Lions グランプリ」「Asia Pacific Innovator 25」「Gunn Report Top Campaigns 100」など受賞多数。「Cannes Lions」「Spikes Asia」「SABRE Awards Asia-Pacific」「PR Awards Asia」「日本PR協会PRアワードグランプリ」「日経SDGsアイデアコンペティション」など内外アワードの審査員を歴任。著書に『戦略PRの本質―実践のための5つの視点』、共著に『成功17事例で学ぶ 自治体PR戦略』、『世界を変えたクリエイティブ 51のアイデアと戦略』、『新しい「企業価値」を創出する PR4.0への提言』。

 

コロナ禍で課題を抱えた淡路島の事業者と大学生をつなげた

──淡路ラボでは、4月25日と26日に開催される「Beyondカンファレンス 2025」の運営を担うそうですが、普段はどんな事業をされているのでしょうか。

 

淡路ラボは、淡路島と若者など多様な人をつなぐ事業を行っている共創プラットフォームとして、2020年に設立しました。創業当初は若者を中心に、全国の学生インターンと淡路島をつなぐプロジェクトを多数展開してきました。現在は社会人やインバウンド訪問客、島外企業などと地域をつなぐ事業も行っています。

 

淡路ラボ代表の山中昌幸さん

 

──山中さんは、なぜ淡路ラボを設立されたのですか?

 

僕自身、もともと高校教員志望だったこともあって教育を仕事にしたくて、2002年、アントレプレナーシップ育成型キャリア教育専門のNPO法人JAEを東大阪で創業しました。その後は、長期実践型インターンシップ事業やキャリア教育の事業などを推進してきました。

 

5年前、母校でもある大正大学の専任教員を退職して関西に戻る際に、大学のトップから、大学と包括連携協定を結んでいる淡路島で、大学の支局と大学発ベンチャーの立場で新しい挑戦をしてみないかと声をかけられたんです。そんな経緯で、2020年、大正大学地域構想研究所淡路支局を設立し、淡路ラボを立ち上げました。でも当時、ちょうどコロナ禍だったんです。大変でした。

 

──コロナ禍ではどうされていたのですか?

 

私が淡路島に来た1週間後にコロナ禍の報道が始まって、間もなくして緊急事態宣言が出ました。私自身も急に身動きが取れなくなってしまって、仕事ができる状況ではありませんでした。どうしようもないので割り切って、暮らしを楽しむことを大切にしていたんです。そうしたら、そのうち地元の事業者の間でDX化をやらざるを得ない状況や動きが加速していきました。

 

淡路島の美しい海

 

ただ、淡路島は、単科大学の看護大学と農学部の大学しかなかったんですね。高校を卒業すると、東京をはじめ島外に進学する若者がほとんどだったんです。そうすると、事業者のDX化が進んでも、SNSマーケティングなどデジタル系の仕事の担い手となれる若手がいない。そういった課題を抱える事業者が増えました。

 

一方で、コロナ禍の状況で、大学に入学した学生たちは大学に行けないままオンライン授業を余儀なくされていました。そこで気づいたんです。「だったら、島内の事業者と学生たちをつなげよう」と。

 

 

その後、全国の学生たちを淡路島に呼びました。オンライン授業であれば、どの地域からでも参加可能だと思ったのです。さらに、若手社員も含めて、長期実践型インターンシップの制度を活用して、2年間で北海道から沖縄まで約60人が集まってくれました。半年間滞在して活動した若手が多かったのですが、彼らはすごく頑張ってくれました。

 

 

──このプロジェクトで、2020年から約5年の間に、全国の学生インターンや若手社員のボランティアなど100人以上が淡路島に集まる結果につながったのですね。

 

そうなんです。中には、マーケティング担当の予定だった大学生が日本酒作りに熱中して、1年間ずっと日本酒を作り続けた結果、インターン後は日本酒職人として就職した子もいました。

高校を卒業すると島を出ていく若手を、地元の事業者のもとへ

──淡路島の「島の人事部」について教えてください。島内の企業や行政含めてどんな仕組みを作られているのでしょうか。

 

背景として、淡路島は、兵庫県で最も人手不足の課題が深刻な状況にあります。特に高校卒業後に島を離れていく若者が多く、一度島を出たらもう二度と帰って来ない可能性も高い。戻ってきても50代以降で、20代から30代までの若手があまり島に残っていないのが現状です。コロナ禍でリモートワークが社会に広がって以来、より人手不足が深刻化しています。

 

また、都会から淡路島への移住を希望する人は、どちらかというと週5日バリバリ働くのではなく、週2日くらい農業に携わったり、週末だけカフェを開いたりと、週2、3日くらいは生活費のために働きたいという人が意外と多いんです。

 

逆に明るい話題としては、最近は、「鉄工女子」と呼ばれる、鉄工所で働く30代から40代の女性たちが島で活躍しています。こんなふうに、一次産業や製造業などの現場で、多様な人材が働けるようになれば、人材不足の解消にもなりそうだと期待しています。

 

ただ、まだフルタイムで働くのが当たり前など、昔からの固定観念が島には残っているので、淡路ラボでは、事業者側が多様な働き方をつくれるように島の人事部を立ち上げ、企業や働き手をつなぐサポートをしてきました。

 

淡路ラボの役割としては、これまでの経験を活かした事業者と若手がつながるきっかけ作りです。ワークショップを通して皆で盛り上がりながら、事業者と若手がお互いを知り、共感し合い、共に働く仲間として同じ目標を見つめる、そんな場になるように心がけています。その中で、中小企業の意識改革も重視しています。その働きかけで、2024年、淡路市内の事業者10社ほどとの副業マッチングの会を初めて開催しました。その結果、60人以上の希望者が集まるなど予想以上の規模となりました。

 

淡路ラボ・島の人事部資料より

 

──副業で自分が可能な範囲で貢献できて、やりがいも感じられるのだったら、いい形で淡路島で広がっていきそうですね。行政連携などはあるのでしょうか。

 

経済産業省の地域の人事部という仕組みがあるので、その関係で各企業や団体、自治体と連携していて、淡路市から地域おこし協力隊を派遣してもらっています。その他、地元の信用金庫の財団が助成を受けたり、地元の商工会から事業者を紹介してもらうこともあります。

「裏万博」のキーワードは「コーディネーター」

──2025年に開催される「裏万博」を淡路ラボが主催するそうですが、その内容について教えてください。

 

「裏万博」は、2025年、大阪・関西万博の開催時期にあわせて開催するものです。様々な面白い取り組みをパビリオン(展示館)に見立てて、新しい働き方、生き方、価値観を持ったゲストが登壇するなど、参加者たちが自分の未来について考える場をつくるため準備を進めているところです。外国人の方も対象に、グローバルなイベントになることを目指しています。

 

なぜ淡路島で「裏万博」なのか。淡路島がちょうど万博の会場から近い位置にあるので、島全体を会場に見立ててまるでテレビの裏番組のように開催しようと思ったんです。人生観が大きく変化するようなトランスフォーマティブ・トラベル(自己変革の旅)という体験が、最近、欧米を中心に注目を集めていて、淡路島であれば地方ならではの体験が提供できそうだと考えました。

 

他の地域とも相談して、淡路島だけでなく、各地域をつなぎながら、地域間協働プロモ―ションの形で動き出しています。日本の各地方で、より本質的な日本を体験してもらおうと、純粋な観光ではなく、地元の人とも対話できる場をつくる予定です。

 

キーワードは、「コーディネーター」です。観光や地元の人との関係性で強みを持つコーディネーターが淡路島を訪れた人を案内したり、人と人とをつなげたりします。

 

 

──コーディネーターの育成にもつながるわけですね。面白い。

 

現在、3月には淡路島で5人、その他の地域で5人から8人、5月にプラス10人、7月にプラス10人と、万博期間に向けて発掘を進めています。最初は、日本の昔ながらの思想や文化に深い興味を持つフランス人を対象に企画を進め、現在はいろいろと広がりを見せていて面白いです。

 

──各地域でコーディネーターの需要が高まっていると聞きます。

 

そうなんです。今回、主要な観光地巡りをメインにした旅行をする方にも参加してもらって、コーディネーターが一緒にいることの意味を実感してほしいですね。コーディネーターは地元の良さと同時に、地元の人たちが大切にしていること、例えば、観光マナーを守ってほしい場所や時間帯、写真撮影をしてほしくない場所なども、しっかりと参加者に説明できることは大きな役割だと思っています。

立場や常識を取っ払いながら新しい共創が生まれるきっかけを

──4月開催の「Beyondカンファレンス 2025」では、淡路島をまるごと舞台にされるそうですね。まず、淡路ラボでは当日までどんな役割を担っていくのでしょうか。

 

「Beyondカンファレンス 2025」では、淡路島全土を舞台に、地域のパートナー企業や団体、また淡路島に来てくださる参加者の皆さんと新しい出会いを通して、共創が生まれる機会をつくります。淡路ラボでは、そのためのサポートをしていけるように体制を整えているところです。

 

 

──1日目に15箇所と、淡路島内のいろんな場所を巡る予定となっていますが、参加者は、様々な事業者が実際に島で営む事業に取り組む現場に触れられるのですね。

 

はい。初日は、自然豊かな淡路島全島を会場にして、皆さん、五感を働かせながら、また自身の原点に戻りながら、お互いに持っている力を活かし合って、新しい価値を生み出すことができたらと思っています。一度、お互いの立場や常識を取っ払って、本音の部分でつながりながら、お互いの信頼関係を深めて、新しい共創のかたちが生まれるとうれしいですね。

 

 

──参加者の方にとっては、淡路島の地元の人たちとの出会いは新しい共創の大きなきっかけになる可能性も高いのですね。

 

そうなんです。まずは淡路島に足を運んでほしいですね。自然に囲まれた中で島の人たちと出会い、それぞれの現場で言葉を交わして、新しい価値観が自分の中に生まれる実感を持てる2日間をつくりたいと思っています。

 

 

写真提供 : 山中昌幸

 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。