先日「ローカルベンチャー 地域にはビジネスの可能性があふれている」を木楽舎から上梓した、岡山県西粟倉村で2つの企業を経営する牧大介さん。その出版を記念して、牧さんがメンターを務めるローカルベンチャー・ラボ(詳細はこちら)主催のトークイベント「牧大介さんと考える地域の仕事のつくり方」が行われました。
当日は、人口わずか約1500人の岡山県・西粟倉村がローカルベンチャー発祥の地と呼ばれるまでになっていったその軌跡、そして経営する2社を合わせて5億8千万円の売り上げ(2017年現在)までに育て上げた牧さんご自身の哲学、地域経済への思いを存分にお聞かせいただけました。今回は特別に、そのエッセンスを記事としてお届けします!
一人ひとりが輝いていくことの積み重ねが、地域の風景を変えていく
冒頭から、「ローカルベンチャーというマニアックなテーマですが、初版5000部が売れて重版が決まりました。ありがとうございます」と喜びを伝えた牧さん。「調子にのって出版するのはどうかなと思ったのですが、普段伝えきれないことをまとめて伝えられてよかったなと思っています」と照れ笑いで語ってくれました。 「岡山県西粟倉村は、人口1500人の村ながら様々な取り組みを続けてきたのですが、私がどうこうというよりも村役場を中心に何とか地域を盛り上げていこうということでやってきたこと、そのメンバーの一人である私が紹介するという意識でお伝えさせてください」
西粟倉村がローカルベンチャー発祥の地としての歩みを始めたきっかけは、2004年のことでした。過疎化・高齢化に進むしかないと思う人が世の中の大半のなか、近隣の地域と合併しないことを決め「合併しないと決めた以上何とかこの村の未来を諦めない」と心を決めた村が西粟倉村なのだと牧さんは語ります。
現在では、ローカルベンチャー(個人事業)を含め30社ほどが村に生まれ、その売上合算は15億円ほど。雇用はパート含め180名、正規雇用で140名ほどですが、小規模の企業が多く、本社部門を持たず仕入れが売上に対して30%といった企業が多いと続けます。
その背景について、「“地域おこしをしたい”と思った人がいたかというとそれだけでもなく、そこで自分がいきいきと生きて“自分おこしを諦めない”……そんな想いを貫いていける人が増えていったんだと思っています」と牧さんは語ります。
2008年には「100年の森構想」を掲げ、森をテーマに様々な取り組みを進めている西粟倉村。2018年には、新たに「生きるを楽しむ」という村のキャッチコピーを発表しました。現在西粟倉村では、個人個人の自分おこしの集合体として地域があるという考え方がとても浸透していると牧さんは語ります。
「一人が地域を変えることや社会を変えることは難しいけれど、一人ひとりが輝いていくことの積み重ねが、地域の風景を変えていく。そう考えながら一歩ずつ進んでいる村です」
平たく言えば「いきあたりばっちり」。まずは行動、その後の丁寧な意味づけが最終的に戦略に繋がっていく
2017年には移住者が25名にのぼり、村の人口増はプラス2名、20年ぶりに人口が増えた年になりました。2018年には生まれる子どもの数が20名を越える予定で、1500名の人口の村では人口の1%以上、全国の平均より子どもが生まれていることになるのだそうです。
そして、そのお母さん方の半数ぐらいは移住者ということです。 色んな人が色んな事業を立ち上げ、民間移住者だけではなく行政の人たちも様々なチャレンジをしている現在の西粟倉村。しかしながら、考え方やプロセスには共通して西粟倉村らしいところがあるのだと牧さんは語ります。
「多くの大企業は、計画や予算ありきで誰が実行するのかという流れになりがちですが、西粟倉村では役場であれベンチャーであれ、基本何かをやりたいという想いのある人がやりたいことをやる以外はなかなか結果が出ないと考えています。
そして僕らは、結果が出ないのはその人がやりたいことをやり続けられない状態になっているからだと思っています。 西粟倉村では、特別にビジネスがうまいであるとか、マーケティングができているわけではないのですが、ただ作りたい世界があるからやり続けている人が売上や雇用をどんどん伸ばしています。役場には総合計画もありますが、それもあまり強くは意識しません。生まれてきたものの中で、おもしろいことがあったら伸ばしていくだけです」
このチャレンジは村にとってこういった未来をつくることに繋がっていくのではないかという意味づけは、あとから丁寧に行って最終的に戦略に結びつけていくと語る牧さん。
「創発的戦略と西粟倉村では言っていますが、もうちょっと平たく言えば“いきあたりばっちり”ですね。行動が先になっても、あとから丁寧に意味づけをしていくと、自然に戦略ができてくる」
また、「自分たちは焚火をしているんだ」と語る牧さん。西粟倉村では、新規事業は3人を基軸に 1)発火できる人、2)移って着火しやすい人 の2つのタイプで成り立っていると語ります。
「湿気ていて燃えにくそうな人は、乾いてきたら仲間に入れます。熱量をあげていくのが大事だと思えたのは、70過ぎの村のおじいさんと話しいて、『私らはもう乾いているから、ええたきつけにはなると思うんじゃ』と言われたことがきっかけでした。地域側からしたら、焚火をしているように見えるんだな、と」
やりたいことをやって、そのプロセスの中で助けてくれた人たちへの想いが地域への愛情に繋がるといい
「新しいことを生み出すチャレンジは、生み出して形にする前は誰も良いねと言わない。自分たち自身も理解されないということを前提に行っていて、そこで地域のためにということは考えない」と語る牧さん。
例えばここで生まれ育ってその結果地域のためにやりたいというのは本音だと感じるが、外部から村に来る人で愛情を持つまでの作業をしていない人には残念ながらその気持ちは本音ではないと感じると続けます。
「『地域のために』という言葉は、やりたいことを精一杯やって、色んな人に助けてもらって何かひとつ夢を実現できたであるとか、そういうプロセスを経て助けてくれた人たちのことを大事に思えてこの人たちに恩返しをしたいと思えたときに言ってもいい言葉だと思っているんです」
やりたいことをやって、そのプロセスの中で助けてくれた人たちへの想いが愛情になると良い――そうした発想に立てたのは、まったく地域のことを考えてないけれど成功している人が身近にいたからなのだそう。
「今でこそ地域おこし協力隊という制度を使って起業することが当たり前になってきましたが、昔は地域が主体となってそれに協力することが当たり前とされていたので、自分がやりたいことをやるというのは協力隊の業務ではないと言われていました。けれどその人は相当の酒好きで、人口の少ない西粟倉村でセレクトショップの酒屋を開きたいと言って成功させたんです」
牧さん自身、もともと生き物や自然が好きで、地域が好きだったと語ります。
「トビムシやカビなどの研究していたんですけれど、毎日5時間以上顕微鏡を見続けていると目がおかしくなってきて、指導教官と話している中で社会科学的な研究をしていきたいなと思うようになっていったんですね。そこで過疎地に入り込んで話を聞く中で、『林業はなかなかうまくいかない、木が安い、世の中が悪い』という声をたくさん耳にして、経済的にも精神的にもなんとか自立できる山村をつくれないかと思うようになっていったんです」
その後、総合シンクタンクに就職してコンサルタントとして事業に関わり始め、その過程でETIC.が主催していた日本初の社会起業向けビジネスプランコンテストに出会い、東京で社会課題解決をビジネスにしていくんだと頑張っている若者がたくさんいること、自分が山村でやろうとしていることを担う人たちがこういう人たちなのだというイメージが湧いてきたのだと語ります。
「今では、西粟倉村には起業している方の、輝いている人たちの集団ができたと思っています。それは14年前にイメージしていた風景でした」
お世話になった人に恩返しをしたい人が増えることで、100年の森構想が続いていく
「地域でベンチャーなんて結局は潰れるし、あいつらも逃げていくだけじゃないか」と言われる中で、粘り強く続けていたら地域からの信頼は得られ、その結果として挑戦していく人たちを育てていくこともできるようになったと牧さんは語ります。
「西粟倉村で最初のローカルベンチャーとして株式会社木の里工房 木薫を立ち上げた國里哲也さんは、100年の森構想の最終地点で86歳になります。100年の森構想を掲げた方は100歳になる。こういった方々の想いを受け継いでいく中で、地域への想いは段々と深まっていくんです。
お世話になった人に恩返しをしたい人が増えることで、100年の森構想が続いていくのだと感じています。過疎化・高齢化が進むことが前提ではなく、今は1500人の人口ですが2000人くらいまでは回復させようとしているし、できるのではないかと皆思っています」
起点となった人がいて、意味づけをする人がいて、旗を揚げる人がいて、一緒に頑張っていく人がいて。獣の解体が好きだからジビエをやっている人がいたり、薪割りおじさんがいたり、古民家が好きで宿をやっている人がいたり……。そうした様々な人々で成り立っている地域こそが、西粟倉村なのです。
人や自然の価値がいかにして生み出されるのかという宝探しの感覚で、事業や地域づくりを行っている
来年は、認知症の方のグループホームが作れないかと計画していると牧さんは語ります。
「地方では認知症になるとすぐ特別養護老人ホームに入居を勧めてしまいますが、医療保険費も増加してしまいますしあまり良い循環になっていません。たとえ認知症になっていても働けるのに、もったいないと思っています。 もともと、人や自然の価値がいかにして生み出されるのかという宝探しの感覚で事業や地域づくりを行っているんです。
株式会社西粟倉・森の学校の原点も、地域の木材にどんな可能性があるのだろうと考えていくのが楽しかったことにある。 何をどうつなげれば価値が生まれるのかと眠っている可能性を探っていって、価値を生むことができたと思うのが嬉しくて続けているんです」
そうした想いは、これからも西粟倉村にたくさんの宝物を生み出し続けていくのでしょう。
* 最後に、会場での質疑応答をいくつかシェアします。
――小さな村でどのくらいの会社が上手くいっていて、潰れてしまった会社はいくつあるのか知りたいです。
潰れた会社はありません。なぜかというと、本社部門が小さな企業がほとんどなので固定費が個人に限定されています。つまり、その一人が耐えられれば続きます。
1億以上の会社もじわじわ増えてきているので、倒産するかもという状況はこれからでしょうか。本当に真剣にチャレンジしようとすると、リスクを負って倒産する会社も出てきます。そういった意味では、無難なところにとどまっている状況の会社の割合が多いということかもしれません。
――「地域おこしをしたい」という外部から来る血気盛んな若者に対して、村のスタンスをもう少し詳しく教えてください。
素直にお伝えすると、僕が血気盛んだったんです。それですごく嫌われたんですよ。今は考え直せたので地域に残っていますが。やはり、そうした傾向がある人はその人自身も後々苦しくなります。
地域の方向に沿っているかとか役に立つかよりも、その人が本当にやりたいことをやっていると応援したくなりますよね。周りの人たちがファンになるくらいにやっている人は素直に応援してもらえるし、何かを形にしていくと思っているので、ただ純粋にその人を応援したいと思えるかという目線で見極めています。
――東京のように色んな人にすぐに会える環境はすごく貴重だなと思っています。地域にいると、地域の人や地方創生系の方には知り合えるが、それ以外の方にあまり出会えないなと思っています。
クリエイティブで面白い人の密度は東京が高いですよね。僕自身、今月4回目の出張です。ただ、都市部からお客さんに来てもらうという部分も多いです。面白い人が一定密度以上になると都市部から来てくれる人も多くなるので、東京でも普通会えない人たちに来てもらって会えるような場を西粟倉でつくっています。東京にいても簡単に会えない人と、じっくり会えることになりますよ。
――外部からの人のチャレンジについて、既存のビジネスとのぶつかりみたいなものはありますか。
幸い人口1500名の村で既存のビジネスとぶつかることはありません。何をやってもだいたい新しいということがあります。小さすぎるから、少し個性的な部分があるとだいたい被りません。
ただ、サービスの質が低いものも温存されているのは良くないと思っています。地域全体を弱くしてしまう。一定の競争を起こさない地域は、過疎化・高齢化の悪循環を加速化させていくと思っています。
――ローカルベンチャーが集積化されるための1番の必要条件は何だと思っていますか? 特定の小さい地域での、ローカルベンチャー同士の相乗効果はあるのか、または仕組みなどはあるのでしょうか。
ローカルベンチャーが集積していく条件は、ローカルベンチャーがまずあるということだと思います。挑戦しても意味がないと思っている中で挑戦するのもありなんだと思ってもらうことです。
身近にやっている人がいると、「アリなんだ!」と思う人間心理ですね。 ベンチャー間のシナジーは、身近なものをいかにリソースとして活用するかの部分で生まれやすいです。こことここがつながったら補完性あるねとかが見える、一種の編集作業をずっとやり続ける人はいた方が良いと思っています。
――自分はまだ高校生です。何か始めたわけではないけれど、将来の生業を考えたときのメンタリティをお聞きしたいです。 純度の高いモチベーションは誰にでもあるものなのでしょうか。そういう人を見るたびに、自分にはないなという不安が出てきます。
本質的な問いをありがとう。僕は高校生のときに何にも考えていなかったです。純度の高いモチベーションは、その人がどこでワクワクするのかで生まれてくるもので、自分が自分とどう向き合うかだと思っています。妄想を展開していくと、もう動き出したくなっちゃうものです。
一方で、誰かのワクワクが自分に乗り移ってくる2次的ワクワクもありますね。 2次的ワクワクが強い人、1次的ワクワクが強い人がいると思っています。僕は1次的ワクワク傾向が強い。自分の中で育てていくものなので、どう育てていくかというところが大事だと思います。
どう育てていけるかどうかは人によるんじゃないかなと思います。やらされる仕事だとしても、それにどう意味を見出すかが大事です。 最初はやりたいことはやれません。なぜなら、それには力がいる。でも、やらされることを意味がないと思うと腐っていくんです。
どうそこに意味を見出して、どう面白がるか。意味を見出す努力をすると、どんなものにも愛情がわきやすいですよ。どんなものでも面白がるという考えを持っていると、色んなものに愛情を持てるようになります。あと2年したら、一緒に吞みましょう!(笑)。
現在、自分のテーマを軸に地域資源を活かしたビジネスを構想する半年間のプログラム「ローカルベンチャーラボ」2022年6月スタートの第6期生を募集中です!申し込み締切は、4/24(日) 23:59まで。説明会も開催中ですので、こちらから詳細ご確認ください。
Facebookページ「ローカルベンチャーラボ」、Twitter「ローカルベンチャーサミット」では、ここでご紹介したような地方でのチャレンジに関する情報を日々お届けしています。ぜひチェックしてみてください。
株式会社西粟倉・森の学校 代表取締役/エーゼロ株式会社 代表取締役/牧大介
京都府出身。京都大学大学院(森林生態学研究室)修了後、民間シンクタンクを経て2005年アミタ持続能経済研究所設立に参画し、所長に就任。FSC認証制度を活用した林業経営改善をはじめ、農山漁村での新規事業を多数プロデュース。2009年 株式会社西粟倉・森の学校設立。木材・加工流通事業を立ち上げる。2015年 エーゼロ株式会社を設立し、農林水産業の総合的な6次産業化に向けて研究開発を開始。
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