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マーケティングの視点を行政に。コロナ禍の中でこそ民間目線を忘れない―宮崎県日南市役所のケース

2020.08.18 

あらゆる局面に深刻な影響を及ぼす一方で、新しい働き方や価値観をもたらすきっかけともなっている新型コロナウイルス。刻一刻と状況が変化する中で、先進的な自治体はどのようにコロナ禍と向き合い、アクションを起こしていたのでしょうか。本連載では、意外と知ることの少ない、最前線で働く自治体職員の方々の「あたまのなか」に迫ります。

 

第6弾でご紹介するのは、宮崎県日南市(にちなんし) の「あたまのなか」です。日南市は2013年に﨑田恭平氏が過去最年少となる33歳で市長に就任して以来、民間のマーケティング専門官登用やIT企業の誘致、油津商店街の再生等で全国的に注目を集めている自治体です。ユニークな施策に次々と取り組む日南市の中枢で奮闘する、田中靖彦さんにお話を伺いました。

 

田中さんプロフィール写真

田中靖彦(たなか・やすひこ)

日南市役所 産業経済部 商工・マーケティング課 課長補佐 兼 マーケティング推進係長

1973年生まれ。日南市出身。1996年日南市役所に入庁。税務、管財、高齢者福祉、観光関係を経て、2015年4月から現職場に配属。企業誘致担当として、油津商店街を中心にIT関連企業を誘致。2016年度からローカルベンチャー支援担当。現在は、マーケティング推進担当として、行政のマーケティング戦略を担っている。

マーケティングの観点を取り入れた施策で活路を拓く

 

――行政組織の中にマーケティング課があるというのは、全国的にも珍しいように思います。

 

田中さん(以下、田中):﨑田市長の選挙公約の1つに「マーケティング畑の民間人登用」が掲げられていたので、﨑田市長が就任した2013年に今の部署ができました。行政はマーケティングから一番遠いところにあるので、最初は職員も何をしたらいいのかわからなかった。マーケティング専門官として民間から登用された、「タジー」こと田鹿倫基(たじか ともき)さんの指揮の下スタートした部署です。外貨獲得と内需拡大を2本柱に、「日本一、企業と組みやすい自治体」というブランディングを展開してきました。

 

その中で、事務職を希望している方の流出阻止のため、現代の事務職であるIT企業誘致活動を始めました。当初はノウハウもないので、田鹿さんのツテを通じて地方進出を検討している東京の企業を探して、移転候補地に日南を入れてもらえるよう、いきなりアポを取って交渉しに行くという感じでした。最初に成果が出たのが、「ポート株式会社」という、キャリアや金融に関するWEBメディアを運営するIT企業の誘致です。

 

このときは1回目の交渉から市長も同席して日南と組むメリットをアピールしたんですが、先方の要求に対して市長自ら返答する様子を見て、話が早いと思ってもらえたようです。日南に視察に来てもらった段階では、胃袋をつかめばいいかということでおいしいものをたくさん食べてもらって、油津商店街の大きな空き店舗に入っていただけることになりました。ちょうど商店街再生の方も、全国公募で333人の中から選ばれた木藤亮太さんを中心に盛り上がっている時期だったので、うまく重なっていい事例を作ることができました。

 

木藤亮太さんの取り組みに関してはこちら

>> 「まちに住んで、動くことで成果を出す」宮崎県日南市油津商店街と共に走るプロフェッショナル

>> まちづくりは「ドラクエ」だ。「月額90万円の人」の挑戦は続く 株式会社ホーホゥ 木藤亮太さん-ローカルキャリアの始め方(第10回)-

 

「巣ごもり」で消費活動自体に変化が

 

――田中さんは「行政にマーケティング視点を取り入れる」という観点でお仕事をされていますが、コロナ対策の担当を兼ねることになったのはどういった経緯なのでしょうか?

 

田中:コロナは幅広い事業に影響しているため、縦割りではない総合的な経済対策室を立ち上げようということで、コロナ禍の影響が最も深刻な商工・観光部署を中心に合計7名がメンバーに選ばれ、4月15日に「新型コロナウイルス感染症市民生活・経済対策室」が発足しました。4月8日に日南市内でも初の感染者が確認され、そこから市民の意識や仕事の仕方もがらっと変わった印象です。なにしろ初めての事態なので、何がよくて何がだめなのか判断しづらく、様々な活動が一旦ストップしてしまうような状況でした。

 

外食を控える人が急増し、多くの飲食店では休業状態が続きました。テイクアウトとスーパー等での買い物が中心の生活が1ヶ月以上続いたので、消費活動自体が変わったように感じます。最近は少し落ち着いて店も開き始めていますが、「巣ごもり」が定着してしまい、まちになかなか人が出て来ない。特にスナックの客足は戻っていません。日南は人口に対してスナックの数が多いので、影響は大きいです。

 

市内には150軒ほどのスナックがありますが、同じ業態だからといって考え方も同じではありません。特に自粛要請の解除後は判断が分かれ、個別で相談に来られた方に対して、行政としての見解を示すのが難しい面もありました。それに本来は市役所の人間が率先して消費活動をしないといけないんですが、我々も支援対策をやりながらなので、忙しくてなかなか飲みに行けない。行政から感染者を出さないよう気も遣わないといけないので、5~6月は板挟みの日々でした。

メディアの注目も集まる、キャッチーなコロナ対策

 

――そのような中、日南市ではどのような対策をされているのでしょうか?

 

田中:各種補助金や特別定額給付金関係の業務といった基本的な対策の他にピックアップするとしたら、「グリーンフラッグモデル」や「キャンセルマンゴー」でしょうか。

 

大阪では、コロナの感染状況によって色を変えてランドマークをライトアップする取組がありますよね。それにヒントを得たのがグリーンフラッグモデルです。感染対策に取り組んでいる店舗が旗を掲げて、「安心して外食や買い物ができる期間ですよ」とお客さんにPRしています。

 

日南駅にひるがえるグリーンフラッグ

 

キャンセルマンゴーは、ゴールデンウイーク中の帰省自粛を促す施策として実施しました。すでに日南行きの公共交通機関を予約していた人が対象で、キャンセルしたことを証明する画像データを送ってもらえれば、先着50人に日南産の完熟マンゴーを進呈するという企画です。コロナ禍の影響でマンゴーの価格や出荷量も下がってしまったので、少しでも生産者の助けになればということで、この企画が出てきました。発案はタジー(田鹿さん)です(笑)。メディアでも取り上げていただいて、マンゴーのPRにつながったと思います。こういった企画があると帰れない寂しさがやわらぐし、角を立てずに「今は来ないで」と伝えやすい、といった声もいただきました。

 

今度はお盆期間中の帰省自粛者向けに、「みやざき地頭鶏(じとっこ)」を通常価格の約3分の1で販売する「キャンセル地鶏」を実施しました。初日すぐに300セット完売でした。

 

日南産のマンゴー

 

喫緊の課題は雇用対策

 

――大変な状況の中でも、どこか日南市らしさを感じるユニークな取組ですね。今後はどのような対策に力を入れていく予定ですか?

 

田中:日南は製造業が多いのですが、コロナ禍で工場の事業所が深刻な打撃を受けています。市内でも数百人規模の大きな工場が閉鎖し、社員が大量に解雇される事案が発生するなど、求職者が増加中です。その方々が仕事を求めて市外へ流出する可能性もあります。人口5万人の日南市では相当深刻な問題です。そのため、日南市では雇用対策支援室を設置して、関係者へのヒアリングや採用を考えている市内事業者とのマッチングなど、解雇された方の就職支援に当たっています。

 

有効求人倍率も、これまでは1.0前後で推移していたのですが、コロナ禍を受けて0.7以下まで下がっている。これが続くようだと、採用が増えるのはまだ先になりそうです。コロナ前は人手不足が叫ばれていたのが、働き口が見つからないという反対の状況になりました。今後どう変わっていくか、早めに見極めて判断する必要があると思っています。

 

田中さん2

 

コロナ対策の中で見えた、新たな方向性

 

――コロナ対策に取り組む中で、田中さん自身はどのような気付きがありましたか?

 

日南市がローカルベンチャー協議会に参画してからの5年間は、がんばろうとしている人を引っ張り上げて応援しようという作戦でやってきました。今回の支援対策をきっかけに、市内の多様な事業者の方々と話をしているのですが、その中で気付いたのは、がんばり方っていろいろあるんだなということ。地道に販路を広げたり、目立たなくても、困難に耐えて徐々に事業を安定させられる人達が、思ったよりたくさんいたんです。こういう人達が今まで地域を支えてきたと思うんですが、それは変化を嫌う層であったりもする。こういうタイプへの支援の方法も考えていかないといけないなと感じました。がんばりの拾い方が足りなかったなと反省しています。

 

それから、2019年の5月にオープンした「日南しごと図鑑」という市内の求人情報サイトにも、市内製造業などのの解雇者から相談がきています。すでに10人程内定が出たようです。これは10人分の流出を防げたとも言えるので、これまでローカルベンチャー事務局でやってきたことがコロナ禍でも活きたと感じています。

 

雇用対策支援を通じて、20年間工場勤めをしてきた人達がどんなメンタリティなのか見えてきたというのも大きいですね。これまでは、誘致したIT企業の事務職を希望するような20~30代がメインターゲットでした。彼らはまだ若くチャレンジ精神があるので、適応しやすいという側面があったのですが、「今さら引っ越せない」「新しいチャレンジはしづらい」という人達のセカンドキャリア支援は全く違ったアプローチが必要でしょう。

 

外から来る人材に対しては日南なりのノウハウがたまってきましたが、「外に流出させない」という観点ではまだまだなんだなと気付きました。withコロナ社会で、外から人を呼び込みづらくなっている今、「流出させない」という取り組みは重要になってくるように思います。

 

それとも関連しますが、これまで社会減の一途だった人口動態が、この5月に初めてプラスに転じたんです。コロナ禍で都市部に出る人が減った影響でしょうが、コロナが怖いから日南にいるという後ろ向きな結果として捉えるのではなく、とどまっている時期だからこそ日南のよさを感じてもらえるチャンスだと思って、情報発信に力を入れていきたいと思っています。

 

これまでと同じ速度で走ろうとすると体力はいると思いますが、今まで気にしていなかったことにも気をつけて、走りながら新たなノウハウを身につけていきたいですね。

 

――田中さん、ありがとうございました!

 

 

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この記事を書いたユーザー
茨木いずみ

茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2015年4月より、東京大学大学院総合文化研究科修士課程に在籍。

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