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子どもたちの「やりたい!」を引き出し、主体性・自信を育む。「ローカルベンチャーの村」で立ち上がったNestの挑戦

2021.04.13 

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「ローカルベンチャーの村」とも呼ばれている岡山県西粟倉村(にしあわくらそん)。2008年に市町村合併を拒んでからの14年間での起業数は45を越え、村に生まれた事業の総売上は21億円以上。今や移住者数は約1400人の人口のうち1割を占め、地域資源を生かした事業が生まれ続ける地域です。

 

2019年には全国31の「SDGs未来都市」の1つに選出され、その中から特に先導的な10事業である「自治体SDGsモデル事業」にも選ばれています。西粟倉村がこれまで取り組んできた林業やエネルギー事業、そして今後の計画が評価された結果です。

 

SDGsにおける今後の具体的な取組の1つには「教育」も含まれており、今回お話を聞く「一般社団法人Nest(ネスト)(以下:Nest)」は大事な担い手です。Nestの設立は2020年。林業や観光業に関する事業が多く生まれてきた中ではめずらしい、「教育」分野での起業でした。

 

Nestでは現在、新たな仲間も募集中とのこと。

Nestが立ち上がった経緯、今現在の業務のこと、そして新たな仲間も迎えてどのような挑戦をしていくのかについて、Nestの今井晴菜さん、西粟倉村教育委員会の榎原まゆきさん、白岩将伍さんにお話を伺いました。

Nestが立ち上がった経緯

 

―――今日はどうぞよろしくお願いいたします。まず、Nestが立ち上がった経緯を伺わせてください。

 

榎原:2017年から西粟倉村役場では地方創生に力を入れていく取り組みの1つとして、「地方創生推進班」が立ち上がりました。そこでは私や白岩さんも含む12名の役場職員が所属課を超えて集まり、どんな村を目指すのかの議論と、目指す村を実現させるプロジェクト創出に取り組んでいました。結果、「生きるを楽しむ」というキャッチコピーと、7つのプロジェクトが生まれました。そのプロジェクトの1つは私が立案した「あわくら未来アカデミー(以下:AMA)」です。

 

西粟倉村には保育園、幼稚園、小学校、中学校がありますが高校は無く、ほとんどの子どもたちは15歳の春に村を出ていくことになります。「15の春」は旅立つ一つの区切りになるので、それまでに0から1を生み出す経験を積み、自分のやりたいことを選択できる子どもたちになっていく環境を作りたいと、AMAのプロジェクトを考えました。

 

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西粟倉教育委員会 榎原まゆきさん

 

はじめは、AMAの1つとして中学生と村内の大人たちが交流するイベントを中学生メンバーで構成する実行委員会形式で、取り組んでみました。とてもいい企画であった一方で、改善すべき点も見え、今後も回数を重ねて磨いていきたい、そしてノウハウが溜まり継続できる仕組みにしなければいけないと思いました。

役場や教育委員会はどうしても異動がつきもので、担当者が変わることで取り組みが変わったり、スピードが遅くなってしまったり、終わってしまうことがあります。AMAを継続していける仕組みを考えた時に、やはり役場ではない新たな組織が必要と確信しました。

 

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あわくら未来アカデミーのミーティングの様子

 

白岩:私もAMAの検討メンバーでしたが、この組織化を議論する中で、「教育コーディネーター」の存在の必要性も話されるようになっていきました。教育コーディネーターとは教育委員会とも、学校の先生とも違う立場で、学校に入り授業のサポート、学校間や学校と地域内の人や資源を繋ぐ存在です。

 

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西粟倉教育委員会 白岩将伍さん

 

――AMAをきっかけに教育コーディネーター機能も持たせる組織を立ち上げることになった、それがNestということですね。様々な人の願いが詰まって生まれた組織なのだと感じました。それでは今井さんから、Nestの紹介をお願いします。

 

今井:はい。西粟倉村で地域教育コーディネーターチームとして親御さんたち、学校の先生たち、地域の人たち、そして子どもたちと一緒に教育のあり方を考え、行動するパートナーとして活動しています。

 

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一般社団法人Nest 今井晴菜さん

 

学校教育の中でSDGs、ESD(持続可能な開発のための教育)の事業をやらせてもらうことで2022年度までの2年間は予算が見えています。しかしこれは言い換えれば2年後には組織として自立させていかなければいけないということでもあります。

 

これまでの1年間では、教育コーディネーターやAMAをはじめいくつかの事業に取り組みながら、この2年後に向けて新規事業の検討を重ねてきています。新規事業では、村に居る子どもたちと向き合うことに加えて、教育移住の実現に向けて様々な方と議論を続けています。今回、募集する具体的な業務はありますが、これからの2年間、一緒に組織を作っていく仲間、立ち上げメンバーとして迎えたいと思っています。

先生でも親でもない子どもたちの傍にいる大人の一人として

 

――今回募集されている方の具体的な業務について教えて下さい。

 

今井:新しい方には、先程榎原さんと白岩さんにお話しいただいたAMAの担当と教育コーディネーターを業務のメインとして行ってもらいます。どちらも私が今担当をしており、新しい方は私と一緒に動くことになります。

 

――AMAと教育コーディネーター、それぞれ具体的な業務を教えてください。

 

今井:AMAは子どもたちの「やりたい!」を引き出し、村の大人たちとも関わりながら一緒に実現することで子どもたちの主体性・自信を育む活動です。具体的には小中学生を対象とした、学校外での教育の場の企画運営を行っています。

 

西粟倉村は子どもの数が少ないため、幼小中ずっと一緒の顔ぶれで進級します。この中である程度関係性が固定化されてしまい、「自分はこういう人だ」「こんなこと言っちゃいけないんだ」という制限が無意識に形成されてしまう側面があると考えています。

 

この無意識に制限して閉じている扉をノックして、子どもたちが「やりたい」を見つけ、小さくとも行動に移していけるように下支えします。今の世の中、子どもたちは変化の激しい時代を生きていかなくてはなりません。だからこそ、中学卒業とともにほとんどの子どもが村から旅立つ15歳を、AMAで培った「自分の意思を持ってやりたいことを実現した」「みんなであの子のやりたいことを協力して実現できた」「ここでやれたから大丈夫」という実感を持ち、胸を張って迎えてほしいと考えています。

 

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AMAの様子。村で生産された苺を使ったいちご大福づくりや、バレンタインチョコ作りなどを行ってきた

 

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教育コーディネーターは幼稚園、小学校、中学校の先生方が授業の検討をされる中で出てくる、「子どもたちにこんな経験や学びをしてもらいたい」「こういうことがあれば授業はもっと面白くなる」ということを1つ1つ拾って地域の人や資源に繋げて実現していく仕事です。

 

具体的には小学校と中学校に半日ずつ3日間行かせていただき、授業の相談を受けたり、子どもたちについて話したり、授業のサポートにも入っていきます。また学校内で子どもたちに触れる大事な時間でもあります。子どもたちがどのように過ごしているのか、何に今取り組もうとしているのかをキャッチしていきます。これはAMAの活動にも接続させていくためにも大切にしています。

 

小中学校に行かない他の時間では幼稚園の活動にも参加していきます。幼稚園、小学校、中学校の先生方との連携を進めることで子どもたちの成長に合わせた一貫した教育が村全体でできるようお手伝いしていきたいと思います。

 

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――このお仕事をされていての喜びは何でしょうか?

 

今井:子どもたちとの関わりの変化です。最初は挨拶するかしないかというところから始まりますが、打ち解けて「こんなことあったよ!」と教えてくれたり、「こんなことしてみたいんだ」とこそっと話してくれるような関係性が築けたときは本当に嬉しいです。

 

私達は先生でも親でもない、子どものそばにいて味方である大人の一人として、子どもたちの居場所となっていきたいと考えています。そこに至るには、子どもたちとの地道なコミュニケーションの積み重ねが大切です。子どもたちは素直でしっかりとこっちを見てくれているので、どんなに小さな言動・行動でもコミュニケーションのキャッチボールができているかには意識していきます。小さな積み重ねでもそこのやりとり、過程はやりがいを感じる点です。

 

そして今の関わりが、その子自身の軸を磨き、今後の人生の選択に影響すると考えています。責任感を感じる一方で、それがやりがい、喜びだと思っています。

 

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――Nestが学校と学校、地域と学校、そして子どもと地域を繋ぐ貴重な存在であることがよくわかります。今後、Nestがあることで村の教育はどうなっていくのか、また、こうしていきたいということがあれば教えて下さい。

 

榎原:村では先生も地域の大人たちも、子どもたち一人一人としっかり向き合おうとしています。そして村には移住して起業、転職とやりたい事をやりにきている大人の方が多くおられます。そういった大人たちと子どもたちとをNestが繋いでいってほしいと思います。子どもたちが様々な人と出会い、関わることで、自らのやりたいことや出来ること、自らの喜びを知っていってほしいですね。

 

今井:私たちがいることによって学校と地域の壁は無くしていくことが出来るのではないかと思います。学校の先生たちは赴任したばかりだと、どうしても村のことをよく知らない状況です。村には人が集まり、面白い取り組みが起こり、資源が蓄積され続けているので、そこを使いきれないのはとても惜しいと思います。ここを私たちが入ることによって使っていけるようになり、より良い授業になり、子どもたちの学びが深まったなという状況を生み出していきたいと思います。

 

白岩:これからは学校教育と社会教育の垣根というのをなくしていくことが必要かなと思っています。この垣根をなくしていくのはNestなのではないでしょうか。学校教育でやっていることと、AMAをはじめとした社会教育があることで、学びがぶつ切れにならずに点と点が線となっていってほしいです。

 

――今回の採用募集では、どんな方に来ていただきたいでしょうか?

 

今井:子どもたちと目線を合わせて、一緒に作っていく意識を持ってもらえると嬉しいです。「こうしなさい」と教えるというより、その子自身から引き出すことを大切にしてくれる人がいいと思っています。

 

また、Nestは立ち上がったばかりで実績を積み上げ、事業を固めていこうとしている最中で、国や役場からの予算を確保いただいて活動している状況であり、3年後にも必ず存続していますとは言えないのは事実です。

 

もちろん続けていこうとしていますが、続けていくためにはNest一人ひとりの取り組みや、研鑽がとても重要です。一緒に対話、議論、学びを深めながら事業を作っていきたいと思っていただけると嬉しいです。今回の募集ではAMAと教育コーディネーターがメイン業務としていますが、携わる中でご自身が事業を立ち上げていくことも可能です。

 

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――それでは最後に、メッセージをいただいてもいいでしょうか。

 

白岩:教育委員会として関わりながら思うのは、この仕事は子どもたちの成長を支えると同時に、自己成長する場だということです。子どもたちや村、私たちと一緒に成長していくことを楽しんでもらえたら嬉しいです。

 

榎原:Nestは子どもたちの成長を間近で支え、また地域の教育の未来をつくっていく存在だと思います。挑戦がつきものですが、ぜひ楽しんでほしいと思います。

 

今井:教育って絶対の正解という答えがない分野だと思っています。1つの考え方や手法が一人の子には響いても、他の子に対したら効果がないことがありますし、絶対的な答えというものはありません。だからこそ、一人ひとりに対してどうしたらいいかを考えることと、様々な人の協力が必要です。

 

その子に合った答えを探すことにおいて、村は子どもが少ない地域であること、子どもは村の宝だと思っている大人の方が沢山いること、どんどん挑戦していいよと背中を押してくれる役場や教育委員会の方々がいていただける環境はすごく恵まれていると思います。その子一人ひとりに対して試行錯誤できる環境ではないかなと。

 

新しい方とは一緒に試行錯誤しながら自分たちなりの正解を見つけ、色んな人と協力しながら事業を進めていきたいと思っています。どんどん挑戦していきましょう!

 

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この記事を書いたユーザー
林春野

林春野

京都出身。日本大学芸術学部演劇学科装置コースへ進学。舞台、映画、映像美術の現場に入り地域での映像監督も行う。2012年からNPO法人ETIC.に勤務。地域への第一歩を後押しするプログラム・イベントの企画運営の事務局が主な担当。2016年4月からは岡山県西粟倉村に移住、エーゼロ株式会社に入社。ローカルベンチャー発掘、育成に係るプログラムや事業全般に従事。2020年4月からは独立し事務局や記事制作、写真撮影等を行う。

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