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都市と地方がつながれば、日本はもっとおもしろくなる。JAL社内ベンチャーが仕掛ける関係人口創出。能登半島地震支援で意義が深まる企業の枠を超えた挑戦

2024.05.08 

コロナ禍をきっかけにリモートワークが浸透し、複数の拠点を行き来しながら生活する二地域居住や移住への関心も高まっています。2023年には、東京圏在住の20代のうち、約45%が地方移住に関心を持っているという内閣府の調査結果もあるほどです(※1)。

 

そんな多様な暮らし方や働き方を加速するべく活動しているのが、「都市と地方をつなぎ、新たな人流を生み出し、日本に生気を吹き込む」をミッションとするコンソーシアム、「Japan Vitalization Platform(以下JVP)」です。JVPは、全国の生産者からオンラインで直接食材を購入できる「ポケットマルシェ」を運営する株式会社雨風太陽(あめかぜたいよう)代表の高橋博之さんと、日本航空株式会社(以下、JAL)に勤める松崎志朗さんが発起人となり、2021年2月に発足しました。

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JVPは2050年までに2,000万人の関係人口創出を目指し、その際に発生する様々な課題を解決するためのナレッジの共有や、納税・住民票などの制度改革に向けた政策提言を目指しています。当初は数人で始めた活動でしたが、多くの共感を集め、現在は企業で働くビジネスパーソンだけでなく、起業家、NPO職員、若手官僚や学生など、200人を越える多様なメンバーが参画し、毎週オンラインで定例会を開催しています。

 

設立4年目を迎え、JVPは今後どのような構想を描いているのでしょうか。NPO法人ETIC.(エティック)が事務局を担うandBeyondカンパニーが主催するイベント「Beyondカンファレンス2024」の広報チームのメンバーである、株式会社電通PRコンサルティング執行役員の井口理さんが、JVPの事務局を務めるJALの上入佐慶太さんにお話を伺いました。

上入佐 慶太(かみいりさ・けいた)さん

日本航空 ソリューション営業推進部 主任 兼 社内ベンチャーチーム W-PIT

2019年に新卒で日本航空株式会社に入社。入社後、株式会社JALエンジニアリングへ出向し、ボーイング777・787型機の整備基準制定業務を担当。その傍ら社内ベンチャーチームW-PITにて関係人口創出を目指し、企業×生産者×大学生をコンセプトとした国内地方留学プログラム「青空留学」を実施。その経験を基に事務局としてJVPを推進。 W-PITでの取り組みをきっかけに異動し、現職のソリューション営業推進部 地域活性化推進グループにて地域事業を担当。

井口 理(いのくち・ただし)さん

株式会社 電通PRコンサルティング 執行役員/チーフPRプランナー

企業PR戦略立案から、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体PRまで幅広く手掛ける。ニュースメディアやソーシャルメディアで話題になりやすいコンテンツを生み出す「PR IMPAKT」や、メディア間の情報の流れをひもとく「情報流通構造」などを提唱。PR会社で30年超勤務。数々のアワードの審査員を歴任。著書に「戦略PRの本質―実践のための5つの視点」、共著に「成功17事例で学ぶ 自治体PR戦略」「PR4.0への提言 ~いま知っておきたい6つの潮流、実践すべき7つの視点~」。

JALが事務局となり、全国各地の関係人口増加を目指す。航空会社が地域と関わる意味とは?

 

井口:昨年は90人程度だったJVPのメンバーも200人に増え、フェーズが変わってきたのではないでしょうか。

 

上入佐:そうですね。既存の枠組みを超えて協働するというコンセプトは変わらないのですが、規模が大きくなってきたことで、事務局機能の強化が必要となりました。そこでこれからは、JALの正式な事業として、しっかりとした会議体(コンソーシアム)にしていくという段階に入っています。これまでは「関係人口を生み出す」という言い方でしたが、組織を超えて様々なアプローチができることが強みなので、「関係人口の桁を変えていく」コンソーシアムを目指していきたいです。

 

井口:そもそもですが、なぜJALとして関係人口の創出に取り組まれているのでしょう?

 

上入佐:背景には、コロナ禍による航空需要の変化があります。また、JALではコロナ禍を契機として公募により選ばれた客室乗務員を出身地などゆかりのある地方に派遣し、地域資源を活用したコンテンツの創出や商品開発などに取り組んでもらう「JALふるさとアンバサダー」や、日々の乗務をしながら地域イベントや地場産品のPRなどに参加する「JALふるさと応援隊」など、地域活性化に力を入れるようになりました。

 

地域が衰退すれば人の行き来も少なくなり、航空事業も先細りしてしまいます。交通網を大きくとらえると、地域と地域をつなぐというのは、JALにとっても「使命」と言える大切なことなんです。

 

「JALふるさとプロジェクト」で地域活性化に注力

 

井口:なるほど。必ずしも会社の収益に直結しない活動が、業務として公認されているのは先進的です。

 

上入佐:JALがJVPの事務局を務めるにあたって、JVP単体での直接的な収益は見込んでいません。JVPの活動がJALの利用者や収入の増加につながることはあると思いますが、損益計算書に見える形では上がってこないでしょう。

 

JVPは、W-PIT(ダブル・ピーアイティー)というJALの社内ベンチャーが受け持っている事業です。W-PITは事業ユニットに属しており、扱う事業はしっかりとマネタイズしていく必要があります。そこで今年度は、2021年に始まった「青空留学」という教育事業をJVPとセットにすることで収益化を目指しています。

 

「青空留学」は、1週間程漁業など一次産業の現場に都市部の大学生を連れて行き、リアルな課題を発掘して解決プランまで提示してもらうというものです。「青空留学」は大学生向けですが、JVPのアセットは他にも様々なビジネスチャンスを含んでいます。特に社会人向けはマネタイズできるポイントがたくさんあると思うので、JALの本業とうまく融合させながら、プラスになるように運営していきたいです。

企業や国の制度改革にまで踏み込む。企業の枠にとらわれない活動で、面的なイノベーションを

 

井口:上入佐さんはどういった経緯でJVPと関わることになったんですか?

 

上入佐:元々「雨風太陽」の高橋さんと、僕の先輩である松崎さんで1年程ミーティングを重ねてJVPの構想を練っていたところに共鳴して、徐々に参加させてもらったのが始まりです。松崎さんがアメリカに赴任されたので、後を託された形ですね。「都市と地方をつなげる」という概念を最初に具体化したのが、先ほどお話しした「青空留学」でした。これも東日本大震災から10年の節目を迎えるにあたって、宮城から福島まで約500㎞の海岸線を歩き、復興の取り組みを振り返る中で生まれてきたアイデアです。個人の思いがベースになければ、イノベーションは生まれないと感じています。

 

高橋さん(左から2番目)や松崎さん(左)と宮城から福島まで約500㎞の海岸線を踏破した上入佐さん(中央奥)

 

井口:まさに現場を歩く中で感じた個人の思いが出発点なんですね。先に体制だけ整えてしまうとそこまで強い結びつきは生まれないので、200名もの人が共感して集まるような「思い」が根っこにあるというのは納得です。

 

上入佐:JVPでは毎週水曜日のお昼の時間帯にオンラインで定例会を開催していて、毎回平均して15~30人程度が参加しています。先日は全日空(ANA)の方にも登壇してもらいました。ライバル企業に当たるため、会社の一部門としてお声かけするにはハードルがありますが、国内移動全体のボリュームを増やすことは業界全体で目指さなければならない至上命題なので実現できたと思っています。会社という枠にとらわれず、思いをもったメンバーで運営していきたいですね。

 

井口:一企業の枠を超えた活動ができるのは、コンソーシアムという形を取っているからこそですね。ライバル企業をも巻き込むという姿勢には、関係人口を増やす流れを作っていくことへの並々ならぬ思いを感じました。

とはいえ今後関係人口の桁を変えていくためには、企業や行政の制度まで踏み込む必要がありそうです。

 

上入佐:その通りです。JVPでは制度改革までもっていくことを目指しています。企業でプロボノを募って地域のニーズや課題とマッチングさせ、なんらかの成果を出すといったことが、多くの企業で実現するようになれば、関係人口がもっと当たり前の世界になっていくのではと構想しています。

 

また先日、二地域居住を促進し、地方への人の流れを創ろうという「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定されました。個々の企業の制度改革だけではなく、国政レベルでもこういった提言ができる存在にしていきたいです。

 

今は定例会で様々な方と事例や情報を共有しながら、参画してくれるメンバーの「思い」に火をつけていくことに注力しています。集まった情報はしっかりと集約してWebサイトなどで発信し、国会で「こんな取り組みをしているからこういう制度を作ってほしい」といった提案ができるよう準備していきたいです。

 

そうやって新しく生まれた制度に沿ったサービスを、JVPのメンバーが所属するそれぞれの組織で提供することで、関係人口の大幅な増加を目指せるのではないかと思っています。

能登半島地震から見えた、関係人口のもう1つの意義

 

井口:JVPの活動も4年目を迎えますが、活動当初から変化はありましたか?

 

上入佐:年始に起きた能登半島地震は大きなできごとでした。僕も1月からボランティアで能登に行ってきたんですが、今後はW-PITの事業として枠組みを作って支援していきたいと考えています。JAL本体でも北陸支援に取り組んでいるので、担当部署と連携しつつ、炊き出しの支援など現地のニーズを踏まえて、できるところから着手しています。能登の復興にはしっかりとコミットしていきたいですね。

 

能登でボランティア活動をする上入佐さん

 

井口:実際に能登に足を運ばれたことで、何か気付きはありましたか?

 

上入佐:能登半島地震では、防災という観点からも平時から関係人口をつくっていくことが必要だと感じました。特に震災直後は、能登とつながりのある方々が積極的に支援に入っている印象が強かったですね。行政がパンク状態でも、自分が知っていれば入っていけますし、実際にそのような人達が多くの命を救ったのではないでしょうか。

 

一方で僕自身は、地域と関わることでふるさとだと思える場所が増え、心や生活がより豊かになると思っています。平時からつながりを育むことで、行く側はウェルビーイングが向上しますし、受け入れる側はいざというときに助けてもらえるような関係性が築けます。

 

また、土地の人達だけではどうしていいかわからないような課題も、関係人口が携わることで解決の糸口が見つかるということもあると思います。能登ではそんな風に復興に関わっていきたいです。能登が抱えている課題は他の地域にも共通しているので、ヒントになる事例が作れたらと考えています。

 

井口:これまで関係人口というと、首都圏の本拠地における自身の日常的生活とは別に、地方で部分的な関わりを持ち、田舎の雰囲気をも楽しもうとするようなイメージでしたが、防災の役割も果たすというのは新鮮な切り口でした。帰属場所があることでウェルビーイングが高まる、心の救いになるというのも、関係人口として地域に関わるメリットを理解する上でわかりやすかったです。

意思ある挑戦があふれる社会へ。Beyondカンファレンスで始めの一歩を踏み出そう

 

井口:5月末には、第3回Beyondカンファレンス2024(※2)に登壇予定と伺っています。

 

上入佐:Beyondカンファレンスでは、能登の復興当事者の方と、東日本大震災の復興を推進してきたリーダーをお呼びして、お互い何を感じているか、今能登で何が必要か、東日本大震災からこれまでの歩みなどについて発信してもらう予定です。それを踏まえて参加者のみなさんと作戦会議をして、どんなテーマで能登と関わっていくか一緒に考えていけたらと思います。

 

Beyondカンファレンス2023 JVPトークセッションの様子(左端が上入佐さん)

 

井口:Beyondカンファレンスは、JVPに参画する人がさらに増えるきっかけとなりそうですね。上入佐さんとしては、こんな方に入ってきてほしいというのはありますか?

 

上入佐:現在の多様な人が所属する環境は維持したいですね。また、今は関係人口の定義をすらすらと言えるような、ある意味でマニアックな人達が集まっているとも言えるので、桁を上げていくためには「関係人口ってなに?」という方にもどんどん入ってきてほしいと思います。

 

井口:規模を拡大すると薄まってしまうものもあるように思いますが、その点はいかがでしょう?

 

上入佐:「関係人口になる」というのは、自分らしく生きる世界を作ることでもあると思うんです。その世界に共感する人が集まって来てくれるのではないでしょうか。まずは思いをもった一個人としてJVPに参画してもらい、適切なタイミングで人事部などを巻き込みながら、企業の制度を変えていくといった動きにつながるといいですね。

 

JVPの定例会でも、登壇してくれた企業の方と個人がつながってコラボレーションが始まったり、能登を支援する分科会が立ち上がったりしています。例えば先日は、「おてつたび」という知らない地域を旅してみたい旅行者と、短期的・季節的な人手不足に悩む事業者のマッチングサービスを運営している永岡里菜さんを定例会にお呼びしたのですが、永岡さんに共感した人が分科会を立ち上げて、新たなプロジェクトが動き出したようです。

 

井口:定例会からスピンアウトして、関係人口を増やしていくプロジェクトがアメーバ的に生まれる母体になっているのはすごいですね。

 

上入佐:こんな風に能動的に動いてくれるコアメンバーの熱量を上げ、JVPから生まれた活動が見えるようになることで、コミュニティ全体の熱量も上げていきたいです。

 


 

上入佐さんも登壇予定の第3回Beyondカンファレンス2024は、参加申込を受付中です。

関心のある方はWEBサイトをご覧ください。

また、JVPは、現在、3ヶ月間限定でプロジェクトに関わってくれる仲間を「Beyonders」で募集中です。

JVPの定例会に参加してみたいという方は、こちらからご連絡ください。

 

※1……内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2023年4月)より

 

※2……「意志ある挑戦が溢れる社会を創る」をミッションに活動する企業とNPOによるコンソーシアム「andBeyondカンパニー」が年に1回開催しているイベント。多くの企業人にandBeyondカンパニーへ参画してもらうことや、活動を知ってもらうことで、自身の職場でのイノベーション創発や新規事業開発のヒントを見出してもらうことを目指している。

 

関連記事:なんでもない地域にスポットライトを。地域の関係人口を増やす、新しい旅のかたち―おてつたび 永岡里菜さん

 

この記事を書いたユーザー
茨木いずみ

茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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