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コロナ禍だからこそ、じっとなんてしてられない。AsMama甲田さんに聞く、ピンチを乗り切る「共助」の力

2020.08.28 

あまりのアグレッシブさから「いつ寝てるんですか?」と質問したところ、「40歳を過ぎてからは布団で寝るようになりました!それまでは布団で寝ていたのは年に3回くらいかな?」という驚愕の答えが返ってきました。

 

今回取り上げる株式会社 AsMama(アズママ)の甲田恵子さんは、そんな常人では考えられない生活スタイルでさえ「さもありなん」と思わせる程のバイタリティーの持ち主。「シェアリングエコノミー」の概念もなく、企業と行政の連携という発想自体が理解されなかった10年以上前から、行政にも働きかけながら地域に「共助」のコミュニティをつくることに取り組んできました。

 

コロナ禍において組織のトップが何を考え、どう行動したかに迫る「経営者のあたまのなか」シリーズ、第7弾をお届けします。

 

甲田さんプロフィール写真

甲田恵子(こうだ・けいこ)/株式会社 AsMama代表取締役社長

大阪生まれ。米国留学を経て関西外大卒業後、環境事業団にて役員秘書と国際協力室を併任。2000年ニフティ株式会社に転職し海外渉外担当に就任。在職時にビジネスモデル特許を多数発案。2005年4月に長女出産。復職後は上場・IR主担当を拝命。2007年にベンチャー投資会社ngi group株式会社に転職し、広報・IR室長に就任。会社都合で2009年に同社を退社し、同年11月株式会社AsMamaを創業し代表取締役社長に就任(現任)。2016年より(社)シェアリングエコノミー協会理事に就任し、2020年よりシェアリングシティ協議会ボードメンバー、2018年より総務省地域情報化アドバイザリーに就任(現任)。メディア掲載・受賞歴多数。

子育て世代からは一切お金をとらない。現場の声から組み立てた事業モデル

 

――AsMamaではどのような事業を展開されているのでしょうか?

 

AsMamaは、出産後も女性が活躍できる環境づくりをしたいという思いから立ち上げた会社です。子どもを安心して預けられずに離職してしまうと、世帯収入が下がって2人目以降の出産をためらいがちにもなりますし、人口減の時代に貴重な戦力である女性が働けないということは、日本全体の経済的損失を考えても非常にもったいないという思いからスタートしました。

 

子育て支援の会社と言われることも多いんですが、ITとリアルな場の両方を駆使して、地域の中に「共助」のコミュニティを創ることが事業の核となっています。ITの方は、登録者数が7万5千人程(2020年7月現在)の「子育てシェア」というアプリを運営しています。ご近所同士で送迎や託児を頼り合えたり、お下がりを譲ったり、お出かけや買い物に誘い合ったりできる、モノ・コト・託児のシェアサービスです。新規登録は誰でもできます。近所に知り合いがいない場合でも、全国各地にいる公認サポーターの「ママサポ」とつながれますし、万一の事故には保険も適用される仕組みです。

 

子育てシェア使い方

 

それから場作りの方は、無料で研修を実施して共助サポーターを育成し、彼らが主体となって地域交流会やAsMama主催のイベントを年間で1,500~2,000回実施しています。子育て世代の方は、意外と子育てに役立つ公共サービスや企業の情報に触れることが少ないので、こういった場で子育て世代を応援したい行政や企業とつないでいます。

 

私は元々企業のマーケティングや広報をやっていたんですが、ダイレクトメール等の反応率が5%程度(MarkeZine調べ)といった世界なので、届けたい情報を必要としている1,000人に確実に届けられるというのは企業にとってはすごく価値があることなんです。AsMamaではこういった場を活用しながらコミュニティ形成をすることで、行政や企業の課題解決支援をすることで収益を得て、子育て世帯からは一切お金をいただかずに運営しています。

 

とはいえ収益モデルを見つけるまでには、創業から1年半の迷走の時期がありました。顧客もニーズもよくわからなくなってしまって、『これでうまくいかなかったらもうやめよう』と決心して、1人で街頭アンケートをやったこともあります。朝から夜9時まで街頭に立って、たぶん2万人くらいに声をかけたんじゃないかな。2週間の予定が4ヶ月かかりました。時には警察に職質を受けたり、スーパーの店員さんからお店の裏に連れて行かれて注意されたりしながら1,000人の声を拾う中でたどり着いたモデルですね。

 

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行政や企業を顧客に多様な事業を展開している

 

――まさに足で稼ぐというか、現場の声を形にしていった事業なのですね。確かに「ご近所」だからと言って、ただ住んでいるだけだとなかなか「頼り合う」までの関係にはなりにくい。知人をベースとした共助のコミュニティづくりというコンセプトが秀逸だと感じました。普通はマッチングというと知らない人同士をつなげる形を発想しがちですが、なぜ「顔見知り」にこだわったのでしょうか?

 

元々マッチングビジネスをやりたかったのではなく、社会的な課題から出発しているからだと思います。例えばワンオペで疲労もピーク、今日の夜に子どもを見てくれる人がいてくれたら……と思うようなとき、助けてくれそうな人に片っ端から電話できる人ってあまりいないですよね。SNSで発信するのもおこがましい気がしてしまう。「子育てシェア」は、そんなとき電話でもSNSでもなくつながれる方法がないかと考えて生まれたサービスなんです。だからこそ、知らない人とつなげるという発想はありえない。自分の子どもを預けられるのは、どこのコミュニティに所属しているのかがはっきりしている人や、同じ保育園に通っているといった共通点がある人、つまりは顔が見えて信頼できる人でしょうから。課題解決のツールをつくろうとしていたら、後になってそれがマッチングサービスと呼ばれるようになったという感じですね。

 

臨時休校要請のわずか2日後に記者会見を開催。スピード重視のコロナ対策

 

――「子育てシェア」は、コロナ禍の中でまさに必要とされるサービスだと思いますが、事業にはどういった影響があったのでしょうか?

 

2月27日に安倍首相から3月2日より全国の小・中学校、高校等を臨時休校とするよう要請されたことを受けて、「来週からどうすればいいの!?」とすぐに日本中からパニックの声が寄せられました。そこで「まずはパニックになるのをやめよう」、「行政や会社がなんとかしてくれるのを待つのではなくて自分達でできることをやろう」、ということを伝えたくて、2月29日にオンライン記者会見を開催しました。

 

「子育てシェア」という選択肢があることを知ってもらえれば、安心して仕事に行ける人が少しでも増えるかもしれないと思ったので、なんとか月曜日に間に合わせたくて土曜日にやったんです。株式会社ガイアックス代表の上田祐司さんがFacebookに「オンラインイベント用の環境を整えました」と書いていたのを見て、「明日、どの時間帯でもいいので空いている枠はありませんか?」とすぐに問い合わせて……「とにかくなんとかします!」とだけ返答し続けてもらって、突貫でなんとか開催できました(笑)。

 

臨時休校要請から2日後に開催したオンライン記者会見の様子

臨時休校要請から2日後に開催したオンライン記者会見の様子

 

――多くの企業や行政は、コロナ禍が深刻化する中でどう対応していけばいいのか混乱していた時期だと思います。臨時休校要請から2日後というのはすごいスピード感ですね。

 

コロナ禍とか緊急事態が起きたらじっとしてられないんです(笑)。思い立ったら即行動しすぎて、周囲からは「はあ?」と言われることも多いんですが、最近はそのスピード感が周囲に伝播している気もします。例えば共助サポーターの感染リスクを考えたガイドライン作成をしたのですが、それは国より早かったかもしれません。元々は私達が作ろうとしていたわけじゃなくて、「こういう場合にはイベントをやってもいいの?」、「万が一お子さんをお預かりして感染したらどうすればいい?」といった質問が全国の共助サポーターからたくさん集まっていたんです。それに答えるような形でガイドラインができていきました。1つの質問者の後ろには、同じことを不安に思っている100人がいるはずなので、こちらもスピード重視。結論が出ていないところは「ここはファジーです」という状態で赤裸々に共有して、とにかくできたところから出していく。改訂のお知らせを繰り返しながら、全国の共助サポーターと一緒に作っていった形です。

 

AsMamaが作成した「新型コロナウイルス感染拡大防止ガイドライン」は、緊急事態宣言が全面解除された6月19日に弊社Webサイトでも公開しています。同じようにイベントを実施したり、お子さんをお預かりをしたりする団体の参考にしていただければ。この2~3ヶ月間試行錯誤しながらできたものなので、そんなに間違ってはいないはずです。

 

経営者として大事なのは「ぶれないこと」じゃない

 

――新型コロナウイルスの感染拡大による休校・休園等の影響で、「子育てシェア」の登録者数も急増したと伺いました。それによる混乱等はなかったのでしょうか?

 

私達だけではなく、託児サービスの利用者は業界全体として増えたと思います。サービス提供者としてはこの機会に登録者を増やしたいという気持ちもわかるんですが、やはりコアバリューを理解している人に使ってほしいというのがAsMamaとしての判断です。

 

実は「知らない人とでも預け合えるように情報公開レベルを下げたらどうか」という意見も出たのですが、こんな時だからこそ、お互いをあまり知り得ない関係でやることの危険度は高まると思いました。なので、ここだけは崩してはいけないなと。

 

私達だけが唯一の託児サービスを提供しているわけではありません。多様なニーズに応える多様なサービスがあるので、場合によっては他の託児サービス情報を伝えることもあります。自分達ができるキャパシティの限界をきちんと見極めて、それ以上のところに慌てふためいてチャレンジしないことも大事だよ、ということを社内でも共有しながらやっています。

 

「子育てシェア」を使うと知人同士で預かりあいができる

「子育てシェア」を使うと安心して知人同士で預かり合いができる

 

――実際に他社ではベビーシッターがわいせつ容疑で逮捕されるなど、その予感が的中するような事件も起きてしまっています。つい目先の登録者増を追いかけてしまいそうですが、何が正解かわからない中で、きっぱりとコアバリューをぶらさないという判断ができるのは、素直にすごいと感じました。

 

いやぶれるぶれるぶれる(笑)!しょっちゅうぶれる(笑)!もう一晩中考えてます。即断即決したくせに、夜中に考えて「撤回します!」とか何回やったかわからない。でもそこから逃げないというか、ロールプレイ的なシミュレーションはめちゃくちゃしますね。

 

よくぶれないことが大事だとか言われますけど、経営者の考えに固執してぶれないことの方が怖いと思ってます。私の考える「こうであるべき」は、1人の子どもしか育てていない、1人の意見でしかない。全国の情報の集合知とは言えないですよね。声の大きな人の意見だけ聞くべきではないし、小さな声を無視するべきでもない。その問題の重要度や最悪のケースを考えたときに判断する役割なだけで、ぶれないことが私の役割ではないということは強く意識しています。

 

――ガイドライン作りもそうですが、全国からたくさんの情報を集めて判断するというスタイルは、ビッグデータとAIの活用を彷彿とさせます。

 

そうですね。ただAIだとこっちの意見が多いというような数量や、過去の事例に基づいた判断になると思うんですけど、ソーシャルビジネス分野での判断は、過去のデータと未来に対する予測値が半分半分の世界。未来に対する創造力と段取り力をいかに働かせて次の一手を考えられるかというところがあるので、私はやっぱり人を介して集めた情報で人が判断するというスタンスを崩さないと思います。電話で来た情報が、メールのトーンと全然違ったりということもあるので、「ん?」と思ったところをスルーしないことが大事ですね。

 

全国で開催されている交流イベントの様子

全国で開催されている交流イベントの様子

 

近所に頼れる人がいない66%をゼロにしたい。ニーズの見える化で課題解決を加速する

 

――お話を聞いて、コロナ禍の中スピード感をもって現場の人達と一緒にアクションし続けてきた様子が伝わってきました。今後仕掛けていきたいことはありますか?

 

 

厚生労働白書によると、ご近所に頼れる人が「1人もいない」という人は66%、「5人以下」の人が97%もいるんです。これまで「子育てシェア」を使っていた層は、なんだかんだで頼れる人がいる34%側で、なおかつそこそこITリテラシーのある人なんですよ。頼れる人がいない66%のために、今まではリアルな場でつなげていましたが、コロナ禍ではそもそも今までのスピードだと間に合いません。頼れない66%を対象とした取り組みを今すぐに始めないと、何のためにAsMamaをやり始めたかわからなくなってしまう。だからこそ、その66%をゼロにするという覚悟をもって事業に取り組んでいきたいと思っています。

 

そういった思いで現在新サービスを開発したいと思っています。他にも新しく作りたいサービスがあと2つくらいあります(笑)。ちゃんと一人一人が孤立しないサービスを作っていきたいですね。

 

今このコロナ禍で私が切実に感じているのは、新しい出会いがなくなったということ。これは1つ非常に大きい。それから頼り先のない人達が、困窮状態から抜けられる道さえ狭くなってしまったことです。行政の窓口もいつになく混んでいるし、ソーシャルワーカーの人達も今までよりずっと忙しくなっている。本来優先して助けてもらえるはずの人達に割かれるリソースが、相対的に小さくなってしまいました。

 

そうなると、行政や大企業がなんとかしてくれるのを待つのでなくて、私達みたいな小さなベンチャー企業であっても、できることを考えてチャレンジしていかないといけない。ひょっとしたら大企業がそれを見て、より大きなインパクトがある新サービスを考えてくれるかもしれないですよね。

 

よく「そういうこと発信して、まねされたら怖くないんですか?」と言われるけど、コレクティブインパクトはまねされてこそ生まれるんです。自分達が見えているニーズを、世の中の課題意識に変えていくってすごく大事だと思います。

 

――甲田さん、ありがとうございました!

 

 

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茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。